お騒がせ男、「フィリピンのトランプ」とも呼ばれるドゥテルテ大統領が25日に来日し、昨夜、安倍首相と会談した。
 かねてから「日本大好き」と公言しているドゥテルテ大統領だけに、会談は日本と協調する形で進んだ(写真)。ドゥテルテ大統領は、南シナ海の問題に関連し「法の支配をもとに平和に問題を解決したいと思っている。我々は常に日本の側に立つ」と語ったのだ。

 

 

大統領就任で最初に中国訪問
 ドゥテルテ氏、この6月に大統領に就任して以来、実は外国訪問は今月18日から4日間、スターリニスト中国を訪問したのが最初で、日本は2番目。通例は、まずアメリカ訪問となるはずなのに日程にすらのぼっていない。
 北京でも、習近平と友好的に会談し(写真=人民大会堂でのドゥテルテ大統領歓迎式典で儀仗兵の前を習近平と共に歩むドゥテルテ大統領)、南シナ海のスプラトリー諸島の領有権などをめぐってフィリピンが提訴していた国際仲裁裁判所のフィリピン全面勝訴の判決に触れなかった。明らかに前アキノ政権に比べてスターリニスト中国に融和的であり、訪中中も「アメリカと決別する」と反米的姿勢を示した。

 


 もともとドゥテルテ氏は、血統に華僑の祖先がいることから親中的ではあるが、ここまで親習近平になったのは、アメリカの、特にオバマの責任が大きい。

 

オバマがドゥテルテ氏を批判し、ドゥテルテ氏もオバマを侮蔑
 オバマは、ドゥテルテ氏がダバオ市長時代から麻薬犯の超法規的な取り締まりをしていることに、人権上問題がある、と批判してきた。
 これに対し、ドゥテルテ氏は、オバマを、タガログ語で「売春婦の息子」を意味する「プータン・イナ」という表現で侮蔑するなど、反発した。ことあるごとに、「アメリカはフィリピンから軍を引かねばならない」とも発言している。
 その度ごとに、外相などが火消しに追われている。

 

パワー・ポリティックスを知らない書生論のオバマ
 実際にミンダナオの基地やスービック海軍基地からアメリカ軍が撤退すれば、かつてスービック海軍基地とクラーク空軍基地からアメリカ軍が撤退した後、スカボロー礁のある中沙諸島(ゾングシャ諸島)や東沙諸島(プラタス諸島)をスターリニスト中国に奪われたように、仲裁裁判所の判決が空文に帰し、南シナ海のほぼ全域がスターリニスト中国の手に落ちかねないのだ。
 したがってたとえ親米的ではないとしても、オバマは、ドゥテルテ氏を必要以上に刺激せず、自陣営に取り込む努力をすべきだったのだ。ところがやったことは、その逆で、最もあり得ないスターリニスト中国の側に追いやった。国際関係のパワー・ポリティックスの何たるかも知らない書生のような態度だ。

 

ダバオ市長時代から麻薬犯を私刑
 オバマは、ドゥテルテ氏の唯一の功績とも言える、言わずもがなの麻薬犯の超法規的な(非人権的な)取り締まりを非難した。
 麻薬犯を民主的裁きに待つのは、生ぬるいだろう。特に途上国にありがちな司法と結託して、せっかく逮捕してもうやむやのうちに釈放されたり、減刑されたりする事例は後をたたない。敵は、法の盲点をつき、法の網をくぐり抜ける。
 だからドゥテルテ氏は、ダバオ市長時代から自警団を使い、麻薬犯を私刑として殺害してきた。大統領当選後も、麻薬撲滅のために厳しい態度で臨むことを表明しており、就任後の施政方針演説では「麻薬王や資金源、密売人の最後の1人が自首するか、あるいは投獄されるまでやめない。彼らが望むならあの世に葬り去ってもよい」と公言している。
 実際に、就任わずか1カ月余りで、麻薬犯罪に関わる容疑者を裁判にかけることなく逮捕現場で射殺する事件が1800件も発生したという。

 

麻薬王のパナマの独裁者ノリエガを軍事侵攻して逮捕の過去
 どこの国でもそうだが、麻薬犯はマフィアのように結束し、シンジケートを組む。「民主的」取り締まりをやっていたのでは、「百年河清を俟つ」ようなものだ。
 この間、多くの貧しいフィリピン国民は、彼ら吸血鬼に生き血をすすられ、多くは家族崩壊、一家離散の憂き目を見る。
 オバマのアメリカでも、コカイン撲滅にいまだに手を焼いている。かつてアメリカは、コロンビアのコカイン密売組織(メデジン・カルテル)と結び、パナマからアメリカ合衆国へコカインなどを密輸するルートを私物化して「麻薬王」の異名をとったパナマの独裁者の大統領ノリエガ(写真)を、超法規的にパナマ軍事侵攻して逮捕し、アメリカに連行したこともある。これは、無法者ではあっても、ノリエガに対する明白な人権侵害であった。

 


 また街頭の取り締まりでも少しでも反抗的態度を示せば(特に黒人は)、問答無用で射殺する。民主的裁判など受けさせはしない。

 

優先されるべきは市民の人権であり麻薬犯ではない
 だからドゥテルテ氏の行為を、自分の基準に合わなくとも、もう少し忍耐して我慢するべきだったのではないか。その強権が一般市民の人権を抑圧するようになった時に、非難をしても遅くはなかったのだ。
 僕は、人を死に至らせる麻薬犯の人権を、被害を受ける市民の人権と同レベルで見るべきだとは考えない。優先されるべきは市民の人権であり、麻薬犯ではないのだ。
 その一方、オバマは、憲法35条で、言論、出版、集会、結社などの自由を保障するとうたっているスターリニスト中国の習近平らが言論・集会の最低限の自由も踏みにじって、市民を投獄していることに抗議しない。
 なぜスターリニスト中国の人権抑圧を黙認し、ドゥテルテ氏だけ非難するのか。その結果、習近平のスターリニスト中国とはまずまずの関係を保ち、同盟国フィリピンとの関係に深く傷を付けた。
 オバマは、国際関係を理解しない、ただの口舌の徒、甘ちゃんなのである。

 

昨年の今日の日記:「日々、傷つけられDNAの修復の絶妙の仕組みを解明したのが今年度のノーベル化学賞の3氏、そしてその3氏を評価した選考委の甚大な努力と見識」