アメリカ大統領選のヒラリー・クリントン(民主)、トランプ(共和)両候補の3回に及ぶテレビ討論は、最終回が19日(日本時間20日午前)に終わった。
NBC関係者からワシントン・ポスト紙に差し出されたテープ
3回とも、討論後の世論調査でクリントン氏に軍配を上げる人が圧倒した。特に2回目の討論の2日前に「ワシントン・ポスト」紙がスクープした11年前のトランプの卑猥な言葉を伴った女性蔑視発言は、暴言が毎度のこととはいえ度を超しており、クリントン氏との差を広げるきっかけとなった。
ワシントン・ポストが特報したのは、「たれ込み」があったからだ。
2回目討論会の2日前、卑猥な暴言を意図せざる形で録画したテープを保管していたNBCテレビの関係者と思われる匿名の人物から同紙編集部に電話があり、発言を録画したテープが寄せられたという。NBCは、このテープの存在をすでに3日の段階で把握しながら、公にしていなかった。だから握りつぶしを恐れたNBCの関係者からのリークとされているのだ。
トランプの本音、露わ
問題の発言は2005年に収録されたもので、トランプ氏がテレビ番組「アクセス・ハリウッド」の当時の司会者ビリー・ブッシュ氏(ブッシュ前大統領の従兄弟)との間のやりとりだ。
この時の発言は、トランプもブッシュ氏も、音声がマイクに拾われるとは夢にも思っていなかったところでなされた。盗聴ではないが、限りなくそれに近いもので、トランプの本音が思い切り表れされたものだ。
したがってこれが公になることは、トランプが「決定的に大統領の資質に欠ける」ことを示すことになり、トランプにとって大打撃となる。
現職大統領であれば弾劾裁判の対象になるほど不適格
この発言が公になったことにより、それでなくとも女性層から嫌悪されていることも決定的になった。
ワシントン・ポスト紙のスクープが呼び水になり、各紙は相次いで、トランプのセクハラに遭ったという女性たちを登場させ、証言させたことも、さらに拍車をかけた。
トランプは、女性、黒人、ムスリム、ヒスパニックから嫌われているが、共和党の大多数からも忌避され、これは最終的打撃となった。
実際、トランプほど醜聞まみれの大統領候補は、いまだかつてない。現職であれば、大統領弾劾裁判が始まるだろう。
かくてクリントン氏との差は、もはや回復不能なほどに開いている。
白昼の移動するバスの中の卑猥な発言
では、その卑猥な発言とは、どんなものだったのか。
放言された状況は、NBCの昼ドラマ「デイズ・オブ・アウワ・ライブズ」の撮影現場で収録を行うためブッシュ氏と一緒にバスで移動する途中だった。
まずトランプは「結婚している女性とセックスしようとした」と言い出し、さらには「俺は金持ちで有名人だから、pussy (注 あえて和訳はしないでおく)を触わることなんて簡単にできる」と自慢する。
「俺はその女と本当にやっちゃおうと思ったんだよ」と、自分が迫った女性について語る。
トランプはさらに「雄犬のように彼女に迫ったが、ダメだった。彼女は結婚していたんだ」と続け、「それでふと彼女を見たら、胸は豊胸してて、全身を整形してるのに気づいた」。
エスコート役の女優も性の対象視
その後に撮影に入り、トランプは、自分とブッシュ氏を撮影現場にエスコートした女優のアリアン・ザッカーについて話題を変えた。
「彼女にキスしちゃった時のために、チック・タック(アメリカのミント)を食べておかないとな」と言い、「美しい女には自動的に惹かれてしまう。キスをし始めちゃうんだ。磁石みたいなもんだな。ただのキスだし。我慢なんてしないよ」。
そしてまた「スターならやらせてくれる。何でもできるんだ」、「女たちのpussyをつかむんだ」と繰り返す。そしてトランプは付け加えた。「何でもできる」と。
まさにホモ・セクサス(性欲だけで生きるヒト)そのものである。
挽回不可能だが、最低の選挙戦にした男の責任は重大
この発言を見ると、下半身だけで生きているような街の荒くれの放言だ。少しでも教養のある者なら、恥ずかしくて決して口にできないだろう。
こんな男が、世界の指導者であるアメリカ大統領に就任するなど、良識あるアメリカ人は拒否するだろう。共和党は、つくづくとんでもないモンスターを大統領候補として選んだものだ。
それにロシアの手先の犯罪者ジュリアン・アサンジが、ウイキリークスでクリントン氏の私用メールを暴露し続けているように(これには明らかにロシアの政府系ハッカーの関与がある)、トランプにはロシアのプーチンの支援がある。それを公然と認める男が、対ロ交渉でプーチンを抑え込めるわけはない。
直近の世論調査によると、クリントン氏は当選に必要な大統領選挙人の獲得にあと1歩まで来ている。もはやトランプの逆転は不可能だが、史上最低との嘆きの声が高い大統領選をここまで堕落させた責任の大半はトランプが追うべきだろう(写真は2回目のテレビ討論でののしり合う両候補)。
昨年の今日の日記:「懐かしいリトアニア大平原は野鳥の楽園だった」