初めて生命体の存在する可能性のある太陽系外惑星がとらえられた。ヨーロッパ南天天文台により、去る8月24日、発表されたプロキシマbである(写真=近い空間から見たケンタウリbと主星の想像図)。

 

 

地球からの距離、わずか4.2光年
 この報を受けて科学者は色めき立った。プロキシマbが周回する恒星は、太陽に最も近い恒星として知られる赤色矮星プロキシマ・ケンタウリで、その距離はわずか(!)4.2光年だからである。
 ハビタブル・ゾーンに存在すると考えられている太陽系外惑星については、2年ほど前の日記で述べた(14年4月20日付日記:「生命存在の可能性を持つ地球に似た太陽系外惑星見つかる:ケプラー186f、ハビタブル・ゾーン」)。
 地球のような惑星で生命誕生と進化に不可欠な条件は多数にのぼるが、最低限、以下の3つは必須である。

 

既発見の系外惑星は3000個以上だが、3条件に合うのは20数個
 ①大きさは地球サイズであること。これよりかなり大きいと質量が重くなりすぎ、したがって重力が強すぎる。単細胞ならいざしらず、ある程度の動植物にまで進化するには、立体的な体制まで進化できない。大気圧も過大になりすぎる。
 ②表面が岩石であること。木星や土星のようなガス惑星や天王星、海王星などの氷の惑星では、生命が誕生できない。
 ③表面に液体の水が存在すること。水は、生命の構成材料として不可欠な上、進化は最初の段階ではすべて水中で進行する。丸裸の岩の上では、生命は合成されない。
 ところでこれまでに発見された系外惑星は3000個以上にのぼるが、上記3条件に合いそうなのは、20数個しかない。前記日記の系外惑星ケプラー186fも、その1つだ。

 

探査計画当事者が生きているうちに調査結果を知ることのできる唯一の系外惑星
 しかしそのすべてが、地球から遠い。中には3000光年余も離れているものもある。このような系外惑星は、探査がしようがないから研究対象外である。ちなみにケプラー186fも、地球から490光年も離れている。光速に近い探査機でも片道500年、観測結果を送信してくるのに490年、計1000年かかっては、探査責任者がいたことすら忘れられているだろう。
 しかしプロキシマbは、既発見の3000個余の系外惑星の中で、最も太陽系に近い。しかも、ほぼ間違いなく岩石の惑星である。
 ただ近いと言っても、光でも片道4.2年かかる。しかし我々、地球の探査計画の当事者が生きているうちに探査結果を知ることができる系外惑星としては、これしかない。後述の方法を使えば、科学者が一生涯のうちに探査可能となるかもしれないのだ。

 

プロキシマbは馴染み深い恒星の連星の1つの惑星
 さてプロキシマbだが、その主星であるプロキシマ・ケンタウリは、三重連星のケンタウルス座α星の1つである。プロキシマ・ケンタウリは、互いに近接したA星とB星のペアから0.2光年も離れていて、100万年もの周期でペアの周りを周回している。くだんのプロキシマbは、このプロキシマ・ケンタウリの惑星なのだ。
 ケンタウルス座α星は、我々にもなじみが深い。3D映画の始まりと評判になった『アバター』は、そこの架空の惑星を舞台にしている。つまり地球に近いことから、舞台に選ばれたのだ。

 

主星プロキシマ・ケンタウリは半径が太陽の7分の1しかない赤色矮星
 プロキシマbの主星のプロキシマ・ケンタウリの質量は、太陽質量の0.12倍、半径は太陽半径の0.14倍しかない。したがって表面温度は、太陽の半分の3042K(絶対温度)で、地球から見れば赤色である。いわゆる赤色矮星である。
 地球が主星の太陽から1.5億キロメートルも離れているように、惑星プロキシマbが主星プロキシマ・ケンタウリとこの程度も離れていれば、岩石惑星であるプロキシマbは極寒の氷結地獄で生命など発生しようもない。しかし幸いにも、主星-惑星間の距離は、約750万キロほどしかない(公転周期は、地球のような1年ではなく、11.2日;写真=プロキシマbと赤色矮星プロキシマ・ケンタウリ)。

 


 そのため表面温度が太陽の半分で、太陽よりずっとミニサイズであっても(ミニサイズであればそれだけ放射熱も小さくなる)、ハビタブル・ゾーンに収まるのである(写真)。

 

 

常に主星に顔を向けている? ケンタウリb
 前述のように公転周期は、11.2日だが、それが分かったのは、南半球の4つの大型望遠鏡で、惑星プロキシマbの重力で主星のプロキシマ・ケンタウリが揺さぶられる揺れを観測し、その揺れの周期がそれだったからだ。
 これだけ主星と近いと、金星のようにプロキシマbも自転周期は同じだと考えられている。主星と惑星、惑星と衛星の関係で互いに距離が近いと、中心の星の重力の影響で、自転周期は公転周期と一致するようになるのだ。
 つまりプロキシマbは、主星のプロキシマ・ケンタウリに常に同じ面を向けているわけだ。プロキシマbの重力から考え、表面に十分な大気があると考えられるので、大気の対流で、表側の面と裏側の面の大気がかき混ぜられ、大気のない月のような極端な寒暖の差にならない。推定では表側の面で30℃、裏側の面でもマイナス90℃程度だろうとされている。
 生命体の存在の期待が膨らむ。
(この項、続く)

 

この他の過去の関連日記
12年2月27日付日記:「太陽系外惑星の探索と生物存在の条件(第4回=最終回);「水の惑星」の奇跡の淡水;ジャンル=天文学、生物学」
12年2月25日付日記:「太陽系外惑星の探索と生物存在の条件(第3回);低い確率の無限に近い累乗;ジャンル=天文学、生物学」
12年2月23日付日記:「太陽系外惑星の探索と生物存在の条件(第2回);「ケプラー」が開いた窓;ジャンル=天文学、生物学」
12年2月20日付日記:「太陽系外惑星の探索と生物存在の条件(第1回);ジャンル=天文学、生物学」

 

昨年の今日の日記:「忍び寄る自然界の『バイオテロ』の脅威;永久凍土のウイルス発見と耐性病原体の極地などへの拡散」