すべての国民の意思を問う直接民主主義の精華である国民投票とは、実は権力者には危険な賭けであることは、先のイギリスのEU離脱を問うた国民投票でも明らかになった。

 

ハンガリー、コロンビアの国民投票の先駆けブレグジット投票
 当日、中部と南部のイングランドの悪天候もあって、「柔らかい」離脱反対派は投票に行かず、離脱否決が確実と見た一部反対派も棄権した。一方、賛成派が比較的投票に出かけたことで、直前の世論調査を逆転する微差での離脱賛成、となった。
 自身の政治基盤を固めるために、離脱否決を見込んで国民投票を実施したキャメロン首相(当時)は辞任にした。
 そして有識者の多数が無謀と信じるイギリスのEU離脱(ブレグジット)が、来年3月までに後任のメイ首相の手で通告されようとしている。
 2日の日曜日に、ヨーロッパのハンガリーと南米のコロンビアで実施された国民投票も、仕掛けた権力者の思惑どおりには運ばなかった。

 

98%の圧倒的多数で「難民」受け入れ拒否、だが投票率50%に達せず不成立
 EUの命じるシリアなどの経済「難民」割り当てに反発するオルバン首相は、圧倒的多数での割り当て「受け入れ」拒否を見込んで、国民投票を実施した。しかし蓋を開ける前に、早くもオルバン首相の思惑外れが明らかになった。開票前に、国民投票の要件の50%超の割り込む低投票率であることが明らかになり、国民投票は不成立、となったのだ。確かに開票結果は、98%の圧倒的多数で受け入れ拒否と出たが、不成立では国民の意思を尊重する、とEUに強腰に出られない。
 この国民投票では、EUとの連帯を重視する受け入れ賛成派が危険を呼びかけ、賛成派の大半は投票に行かず、反対派だけが投票をしたことによる結果であった。

 

コロンビアは微差で極左ゲリラとの和平合意否決
 一方、南米のコロンビアは、1964年に結成されて以来、半世紀以上にわたって続いた極左武装ゲリラの「コロンビア革命軍(FARC)=写真」との内戦を終結する和平合意の賛否を問うものだった。

 


 現サントス大統領は、22万人もの犠牲者を出し、経済成長に重荷となっているFARCとの内戦の終結を重視し、誘拐や麻薬密売、殺人などを行ってきたFARCとの融和的和平合意を結んだ。その合意への賛否を問うものだった。
 サントス大統領の誤算だったのは、対FARCに強硬だった前ウリベ大統領が強い反対姿勢を示し、和平合意の拒否の運動の全面に立ったことだった。特にウリベ氏は、父親をFARCに殺されていた。
 結果は、和平合意に反対が50.21%、賛成は49.78%で、得票数ではわずか6万票ほどの差で否決、となった。国民の間に、犯罪者集団への憎しみが強かったと思われる。

 

我が国の近い将来の改憲国民投票に注意を
 イギリスの国民投票を含め、この3つの投票で明らかになったのは、国民投票は必ずしも実施する政権の思惑どおりにならない、ということだ。
 国民すべてが、合理的判断を下させるわけでもないし、理性的でもないのだから、時にはブレグジット投票のように思わぬ結果にも転ぶ。
 まだ日程にものぼらないが、憲法改正の国民投票となれば、実施するであろう安倍政権は、この教訓を心にし、慎重に実施しなければならない。もし改憲否決となれば、さらに向こう半世紀は改憲を政治日程にのぼせられなくなるだろう。
 なお前3つの国民投票、もし僕が選挙権があれば、EU離脱はノー、ハンガリーの経済「難民」割り当て受け入れもノー、さらにコロンビアの対FARC和平合意もノー、と投票した。

 

衰退するだけの犯罪者集団に対し大甘の和平合意だった
 最後のコロンビアの件に付言すれば、放っておいてもキューバの後ろ盾を欠くFARCの弱体化は進むはずだった。実際、最盛期には2万人で南米最強と言われたFARCは、今では推計8000人に減っている。しかも彼らは、結成当初の大義を忘れてただの麻薬売人・殺人者に成り下がっている。
 サントス大統領は、残酷なテロを行ったそのFARCの戦闘員でも、特別法廷で罪を認めれば、収監を猶予し、最長8年の労働奉仕で放免、という大甘の和平合意だった。
 殺人者も罪を清算しないという合意案は、国際人権団体の「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」すら批判するほどの甘い、FARCテロリストに心地よい合意だった。否決されて、当然であった。

 

昨年の今日の日記:「ノーベル医学・生理学賞の大村智氏らの授賞理由が示すフィランソロピー精神;医学、現代史」