21日午後、注目の日銀の金融政策決定会合で、長短金利を誘導目標とする新しい金融緩和の枠組みを導入することが決まった(写真=記者会見で新たな金融政策を説明する黒田総裁)。

 

 

 現状のマイナス金利政策を維持するとともに、10年物国債利回りを0%程度に誘導する。2%の物価安定目標が実現するまで金融緩和を続けるという時間軸の方針を示し、今後必要な場合には、マイナス金利の深掘りなどを軸にする考えを示した。

 

物価の下がるデフレが良いのか?
 この決定が伝わると、市場は好感をもって受け止めた。為替市場は大幅なドル高・円安に転じ、また債券相場の10年物国債の金利はマイナスから0%にまで急騰(価格は下落)、さらに株式市場は前日比315円47銭高の1万6807円62銭で終えた。
 少しでもマーケットに関心のある向きに、金融緩和で2%程度のインフレを目指すとした黒田日銀の方針は歓迎されている。しかしマーケットに無知・無頓着の人たちの間では、物価が上がるより下がる方、すなわちデフレの方がいいじゃないの、という見方がある。先日も、そういう見方をした若者に、いや、あなた方のためにも適度なインフレが望ましく、デフレは破局につながるのですよ、と説明したばかりだ。
 なぜデフレは悪いか。

 

デフレ化を促した民主党政権の最悪の失敗
 かつてクロ鳩と汚沢のバラマキスト民主党政権が発足した時、財務相の藤井は円高容認発言を繰り返し、デフレ傾向を強めていた経済をさらに促した。彼らポピュリストにすれば、物価下落は人気取りに直結すると考えたのだ。
 しかしその後、さらにデフレが深刻化すると、バラマキスト民主党政権も円高阻止、物価下落阻止に狂奔したが、1度、火が噴いたデフレ化は防げなかった。
 やっとデフレを反転させ、円安・株高・景気回復に向かったのは、安倍政権の誕生と日銀総裁に黒田氏が就任してからだ。
 しかし、それでも今、景気はもたつき、デフレ傾向再燃の兆しも見える。

 

需要が消える恐怖
 デフレは、物価のとめどもない下落、と定義される。一見すると、物価の下がることは良いことのように思える。多くの人たちは、そう考える。物が前より安く買えるのは、誰にも心地よいからだ。
 しかし、それが物価全般に及び、しかも継続的に続く、としたら、どうだろうか。誰もが、今日より明日の方が物は安くなる、と考える。したがって財布の紐を締め、消費は抑制される。誰も買わなくなるから、店頭に物が溢れ、値崩れさえする。
 それは、生産者と販売者にとっては、収入の減少となる。また需給バランスを回復させるために、生産を抑制する。すると、さらに原材料価格が下がる。

 

不況、失業、犯罪増、そして政府債務の膨張で破綻国家へ
 企業にすれば、売り上げ減だから、利益を出すために、変動費ばかりか、固定費の削減にまで手を付ける。設備投資は抑制し、雇用を削減、ないしは現行労働者の賃金を切り下げようとする。
 購買力平価の中で動く為替市場も、物価下落で円の価値が上がるから円高に拍車がかかる。安い輸入品が雪崩れ込み、さらに物価が下落し、国内産業が疲弊する。
 こうなれば、必然的に失業率は上がるから、ますます人は物を買わなくなる。物価は、さらに押し下げられる。職のない若者が巷に溢れ、犯罪が増える。
 まさに、これがデフレスパイラルなのである。
 デフレは、産業と庶民生活を破壊するばかりか、政府債務まで膨らませる。税収が減るのに、景気対策で赤字国債を発行するから、財政赤字もとめどなく進む。物価下落しているから、債務の実質負担は増加する。
 こうなれば、財政破綻で、IMF管理国家にならざるを得ない。

 

需要先取りから需要増→生産増で失業減・賃金上昇などで好景気
 これと反対に、2%程度の適度のインフレが持続したとすれば、どうだろうか。人々は、明日、物の値段が上がるかもしれないと思うから、物をどんどん買う。生産者も、原材料の手当を急ぎ、需要の伸びを取り逃がさないために設備投資に力を入れる。
 人手不足で、失業率は下がり、賃金は上昇する。
 株式市場も不動産市場も活況となり、可処分所得が大きく伸びた富裕層はもとより、一般の人々の懐も暖まり、さらに物を買う。
 まさに好景気の到来である。

 

2%の物価上昇なら33年で国債の実質価値は半減
 同時に政府財政にとって、願ったりの状況になる。税収は、企業と国民の所得以上に伸びるから、財政赤字が縮小し、国債を減らせる。やがて財政のプライマリーバランスも黒字化する。
 それだけではない。もし2%の物価上昇率が持続すれば、国債の実質価値は下がるから、計算上では33年で半減する。これは、借金1000兆円にもなる日本財政にとって、まさに干天の慈雨だ。
 つまり極大に膨れあがった日本の財政赤字をなくすには、これしかないのだ。

 

経済強化にはこの道しか無い
 以上を見れば、デフレが悪であることは明らかで、ベネズエラのような年間800%にもなるハイパーインフレは論外として、2%程度の軽微なインフレが日本にとってベストシナリオであることも明らかだろう。
 日本が破綻せず、スターリニスト中国の植民地化を免れるためにも、経済は強くなければならず、それはまさに黒田日銀の目指す2%程度の物価上昇率の下でしかないのである。

 

昨年の今日の日記:「60年前にソ連の迫害を逃れて25万人の政治難民を出したハンガリーは、今、ヨーロッパに流れ込む『難民』をなぜ追い返すのか」