1974年に古人類学史上の最大の発見、とされたアウストラロピテクス・アファレンシス「ルーシー」の出土以来、謎であった死因がイギリス科学週刊誌『ネイチャー』の最近号でアメリカの研究グルーブから発表され、波紋を生んでいる。

 

ルーシー化石で3.5万枚ものCT画像撮影
 エチオピア、ハダールで骨格の40%が発見されたルーシーは、318万年前の雌の人類で、化石発見が続いた今でこそ完全さでは、1歩も2歩も譲るが、やはり古人類界の最大のスターであることは間違いない。この2月、アジスアベバの国立博物館を訪れたが、ガラスケースに展示されていた模型にも、欧米からの観光客が群れていた(写真)。

 


 2008年、ルーシーがアメリカ各地の博物館をめぐるツアーでやって来た時、テキサス大学オースティン校の人類学のジョン・カッぺルマン教授らは、初めて骨を直接調べる機会に恵まれた。そこで全ての骨をCTスキャンにかけ、3万5000枚のデジタル断面画像を作成し、8年間かけて1枚ずつ丁寧に分析した(写真)。

 

 

右上腕骨端の「骨折」痕
 その結果、研究グループはルーシーの右上腕骨端に鋭いはっきりとした損傷の跡があり、これは樹上にいたルーシーが、地面に向かって垂直に落下した時に腕を骨折した痕で、死因は墜落死であると断定した。骨折は、その特徴から、死後の化石になった後に偶蹄目に踏みつけられたりして割れたものではなく、また生前に折れた痕でもないという。
 その他、右肩に圧迫骨折の痕があり、これは地上に叩きつけられた際にルーシーが腕を伸ばして自らの身体をかばおうとしたことを示すという。
 さらに足首、膝、手首にも亀裂が見られ、これらはいずれも骨折するほど高い位置から落下したことを示しているという()。

 

 

樹高約12メートルから転落か
 ルーシーらアウストラロピテクス類は、骨格の構成や身を守る手段を持たなかったことなどから基本的に樹上生活者だったと見られる。ルーシーは、何かの拍子にその木から落ち、したたかに地面に強打されてそのまま息を引き取ったらしい。
 骨の打撃の程度から、想定される樹高も、ビルの4階程度に相当する約12メートルの樹上落下し、地面に落ちた時の速さは時速約11メートルだった、と推定した。
 そしてルーシーはまず、脚先から落ち、自分をかばうために腕を使ったが、推定27キロのルーシーの体重による衝撃の強さが大きすぎ、致死的だったという。

 

ジョハンソンは否定的
 ただルーシーの発見者であるアリゾナ州立大のドナルド・ジョハンソンとルーシーの共同研究者だったカリフォルニア大バークリー校のティム・ホワイトは、研究チームの発表に懐疑的だ。
 ジョハンソンの見方は「地中に埋まった骨が化石になる途中で、地質的な力が加わって出来たもので疑いようがない」。 74年の発見当時、骨は激しく傷んだ状態で見つかり、風化や化石化過程での損傷、と判断された。死因が分かりそうな証拠はほとんど見つからなかった。
 ただ「骨盤に、最初から見てすぐに分かる小さな歯型が付いていた」ことから、死後に肉食獣に囓られたようだ。ただそれ以外、他の部分にそれらしき跡は見つからなかったという。

 

ホワイトも疑問視
 ホワイトも、「論文の著者は他の仮説を全く考えていないようだ。骨に残る亀裂が化石化の過程や侵食によって出来た可能性もある」と語る。「ところが研究チームは、落下して出来たのではないかと想像できる亀裂だけに注目していて、ルーシーや他の化石に、それ以外にも多くの亀裂が見つかっているのに、こちらは全て無視しているようだ」、と手厳しい。
 ジョハンソンは、「この手の研究は正解か不正解かを確かめることができず、立証のしようがない」と冷静だ。

 

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