心配されたテロも無く、日本人競技者が大活躍したリオ五輪が終わった。

 

感慨深い金のウィナー
 今大会で多数のゴールドメデリストが誕生したが、「水の超人」マイケル・フェルプスや男子陸上で3冠を達成したウサイン・ボルトなど人間離れした大活躍という話題の他に、初参加のかつての内戦のコソボに初の金メダルをもたらした女子柔道のマイリンダ・ケルメンディ選手の栄光もあった。コソボには、競技用の50メートルプールすらないそうで、そのようなスポーツ後進国でも畳さえあれば、競技ができ、世界一になれることを示した意義は大きい。
 その中で、もう1人、感慨深い金のウィナーがいた。陸上女子800メートルで優勝した南アフリカのキャスター・セメンヤ選手である(写真)。

 

 

両性具有の疑い
 この名前に、鮮明な記憶があった。7年前に「彼女」のことを日記に書いたからだ(09年11月14日付日記:「東ドイツが国家的に行ったドーピング犯罪と南アフリカの陸上女子金メダリスト:セメンヤ」参照)。
 2009年の世界陸上選手権で、ぶっちぎりの勝利で金を獲得したセメンヤ選手は、筋肉質の体つきなどから女性であることが強く疑われ、その後、両性具有であることが分かった、と報道され、選手生命が絶たれる寸前だった。
 国際陸連の検査を受け、その間、11カ月間、競技会への出場も認められなかった。ただセメンヤ選手の人権への配慮からか、検査結果は公表されなかった。

 

南アの2個の金のうち貴重な1個を手にした栄光
 国際陸連は、人為的ではない、としてセメンヤ選手の世界選手権の金の剥奪はしなかった。ただ前述のように、セメンヤ選手への競技会への出場は認められず、出場辞退への圧力もかかった。むろんセメンヤ選手は不服で、訴訟が提起されるなどの多くの曲折をへた末、母国の南ア陸連や国際陸連と和解し、2010年に7月に競技に復帰した。
 そして12年のロンドン五輪では銀メダルに輝いた。ただぶっちぎりのゴールというかつての輝きは、失われていた。けがもした。
 そして、今回のリオ五輪での初の栄冠であった。南アの今回のリオ五輪の金メダルは2個だったので、セメンヤ選手は貴重なその1個に手にしたことになる。
 先進国でもそうだが、南アやそれ以外の途上国では、オリンピックでメダル(特に金)を取れるかどうかは、本人はもとより一族郎党の生活に関わる一大関心事だ。だからセメンヤ選手が、国際陸連に一歩も引かなかったことは当然である(写真=車窓から見たケープタウン郊外のスラム。南アの黒人の多くは、今もこうしたスラムのバラックに暮らす)。

 

 

本当の女性選手には不公平だが
 セメンヤ選手への国際陸連の処置が妥当だったかどうか分からない。(両性具有が確かであれば)本当の性的な女性選手に対して、明らかに有利だからだ。ちなみに800メートルでは銀メダルはブルンジの、銅はケニアの同じアフリカ人である。しかし国際的に進む性的少数者、LGBTの復権が、陸連の判断に影響を与えたことは確かだろう。
 その意味からすれば、セメンヤ選手の金メダルは、公正であるかどうかはともかく性的少数者に勇気を与えたことは間違いない。

 

昨年の今日の日記:「スターリニスト中国の繁栄の終わり、世界の金融市場の動揺と資源価格安、そして体制の構造的欠陥の化学物質倉庫の大爆発」