現代日本人は、3人に1人は癌で亡くなっている。それは、世界でもダントツに近い平均寿命の長さのもたらした輝かしい帰結の1つでもある。かつて「人生50年」と言われた時代、癌で亡くなるまで生きた人は少なかったからだ。


足指に骨肉腫の痕
 まして「人生30~40年」と考えられた旧石器時代では、癌死のヒトはほとんどいなかっただろう。
 ところがこのほど南アフリカのスワルトクランス洞窟発見の160~180万年前のヒトの左足の足指の骨に骨肉腫の痕跡が確認されたのだ。最古の癌患者である。
 足指だけなので、人類種は分からない。年代からすると、パラントロプスかホモ・エレクトスのどちらかだろうと思われる。ナショナルジオグラフィックニュースが伝えた。


170万年前の患者は子ども?
 研究チームは、小さな足指のカリフラワー状の特徴的な外観を目に留め、3次元画像を基に骨組織の異常な成長パターンから、骨肉腫という診断を下した(写真は断面。骨に「す」が入り、周辺に異常な骨の肥厚が見られる)。


170万年前の骨肉腫

170万年前の骨肉腫断面

 骨肉腫は、今日では小児と若年成人に多い疾患だ。患者の発症年齢の約半数は10代で、さらに5〜24歳までが患者の3分の2を占める。白血病とともに、未来ある子どもたちを蝕む残酷な癌である。
 するとスワルトクランス洞窟の骨肉腫「患者」も若齢個体だった可能性がある。


激痛で歩けず、肉食獣に捕食された犠牲者か
 骨肉腫の進行の度合いから、この個体は足に激しい痛みがあり、歩いたり走ったりすることが困難だったろうという。となれば、この時代、癌で死ぬ以前に、様々な感染症などによる死、ないしは餓死した可能性もある。
 またスワルトクランス洞窟の人類遺体は、ヒョウなどの肉食獣の餌食になった亡骸が主である。骨肉腫で動けなくなり、ヒョウに捕まり、捕食された可能性が高い。


かつて骨肉腫で夭折した女子大生の往復書簡・日記がベストセラーに
 骨肉腫と言えば、顔面という極めて珍しい部位の軟骨肉腫で21歳の若さで生涯を閉じた『愛と死をみつめて』の同志社大生・大島みち子さんを思い出す(1963年8月7日死去)。彼女と恋人の河野實との往復書簡と日記は、公刊された1960年代に100万部を超えるベストセラーとなったし、映画化された後も、何度もテレビでリメークされた。
 名も無き南アフリカの骨肉腫の患者は、「恋人」と暮らせたことはあったろうか。


昨年の今日の日記:「バルト3国紀行37:ロシア反革命軍と独立戦争を戦った記念日の通りを通る;現代史、紀行」