夏休み中で混雑していると思うので9月になったら出かけようかと考えている上野の国立科学博物館で公開中の特別展『海のハンター』展の目玉は、全長3.2メートルのオスの「ホホジロザメ」成魚の全身液浸標本だ。ホホジロザメ(写真)は、映画『ジョーズ』のどう猛なサメだ。


ホホジロザメ


水族館で飼育できない
 生きているのが展示されているのか、と期待すると、がっかりする。常に高速で泳ぎ続けて海水をエラに通さないと、呼吸困難で死んでしまう。世界の水族館が飼育にチャレンジしてきたが、アメリカで数カ月生き続けた例を除くと、だいたい数日内に死んでしまった。
 沖縄美(ちゅ)ら海水族館で、この1月にホホジロザメの飼育を開始したが、5日から展示していたサメがわずか3日後の8日午前9時半頃に死んでしまった。前日の4日に読谷村漁協の定置網にかかり、運ばれてきたばかりなのに、飼育し続けられなかった。
 今回、「海のハンター」展で公開されているホホジロザメは、これとは別個体で、沖縄美(ちゅ)ら海水族館に冷凍保存されていたものだ。


魚なのに子宮で仔を育てる
 軟骨魚類のホホジロザメは、ヒレが中華料理用に乱獲され、絶滅危惧種に指定されているが、生殖は極めてユニークだ。
 大型のサメに共通しているけれども、ホホジロザメも魚なのに子を産むのだか(卵胎生という)。
 まず、メスのサメは、複数のオスと交尾し、複数の卵が体内受精する。ふ化してしばらくすると、ホホジロザメの母親は仔魚のいる子宮の壁から油を含んだ「ミルク」を分泌し、仔魚はそこに満たされたミルクを飲んで育つ。胎内の仔魚の数は、5~10匹程度という。
 一般に魚類は、卵を産みっぱなしにするので、産卵数は多い。タラコ一腹では、100万個に近い。


母魚の胎内で約1年、最初は「ミルク」、後に無精卵を食べて育って「出産」
 となるとホホジロザメは、産卵数は少ないのか。いや、そうでもない。
 母親の胎内で「ミルク」を飲んだ仔魚が、ある程度、育つと、母親は卵巣から無精卵を大量に子宮内に排出する。今度は仔魚は、卵黄という栄養分をたっぷり含んだ無精卵を食べて育つ。約1年、体長が1.2~1.3メートル、体重が30キロまで成長すると、出産となる。
 進化的に言えば、軟骨魚類は硬骨魚類よりも、早くに海中に出現した。こと生殖に関しては、硬骨魚類より軟骨魚類のサメの方がよほど合理的である。
 最初に体内受精される卵は、あらかじめ決まっているのか、それとも単なる偶然なのか。しかしひとたび受精卵となると、後は子宮内で保護されて、最初は「ミルク」、その後は無精卵の同胞を栄養源にして育つ。


共産党一党独裁国家がホホジロザメを危機に追いやる
 生まれた時に、体長1.2~1.3メートルになっていると、他の肉食魚に捕食される恐れもほとんどない。
 それでも絶滅危惧種になっているのは、それほどスターリニスト中国の乱獲が激しかったということか。ちなみにホホジロザメの漁は、ヒレ目当てで、ヒレだけ切り取られて後は海中に投棄される。それを、世界中からスターリニスト中国が買い漁る。
 伝統的に中華料理にフカヒレを使う台湾は利用禁止、香港は高級レストランでメニューから消えている。民主主義体制は環境保護・種の保存という世論に敏感だが、共産党一党独裁の国には馬耳東風なのである。


昨年の今日の日記:「日本、そして本家アメリカでも不振のマクドナルド、されど自由のないイランやキューバでは渇望の的;現代史」