ドナルド・トランプ――この男は、途方もないidiot(愚か者)ではないのか。先月末、イラク戦争で死亡した遺族を中傷した発言で、身内の共和党からも批判の嵐を浴びた、共和党の大統領候補のトランプである(8月4日付日記:「「今度こそレッドカードか、イラク戦争戦死者遺族を中傷した共和党大統領候補トランプ氏に批判の嵐」を参照)。真に軽蔑すべき人物なので、今後は敬称をつけないことをお断りしておく。


銃規制反対派に、暗殺唆す
 今度の問題発言は、とりようによってはトランプの命取りになりかねないものだ。
 9日、トランプは南部ノースカロライナでの共和党の集会で、銃規制を主張するヒラリー・クリントン氏を攻撃し、ヒラリー氏が当選したら市民の銃所有の自由を定めた憲法修正第2条が廃止される、と発言。それだけに留まらず、修正第2条廃止の前に銃の保持者は「何か手段があるだろう」と言及し、「それは恐ろしい日になると言っておく」と断定した。
 これは、誰が聞いても、ヒラリー暗殺を唆した発言である。世界一の超大国の指導者候補が、政敵に暗殺をしかけると威嚇する発言は、もはや一線を越えただろう。


トランプ


共和党はトランプ擁立を撤回せよという意見も
 果たせるかな、この発言を、アメリカのメディアは「暗殺を示唆した」と一斉報道した。「ニューヨーク・タイムズ」紙は(暗殺という)暴力を扇動している、と批判し、テレビの著名ニュースキャスターは、共和党はトランプ擁立を撤回すべきだ、と指摘した。
 銃規制については、銃愛好家の全国的圧力団体の全米ライフル協会を支持基盤とし、合衆国の建国の伝統を尊重する共和党は、伝統的に銃規制反対、でまとまっている。したがってトランプの発言も前半だけなら、共和党支持者の胸に響いただろうが、さすがに銃の保持者にヒラリー暗殺を指嗾した後半は、共和党内からも批判のオンパレードとなった。


広がる本選でトランプの「投票しない」声
 スーザン・コリンズ共和党上院議員は、トランプが大統領候補にふさわしくない発言を繰り返してきた、と述べた上、堪忍袋の緒が切れたとばかりに11月の本選ではトランプに投票しない、と明言した。
 トランプに投票しないと言明しているのは、彼女ばかりではなく、すでに予備選で大統領候補に有力になった段階で2012年の共和党大統領候補だったミット・ロムニー氏も早くから本選でトランプに投票しないと言っている。
 それがさらに広がりを見せている。


50人もの元政府高官もトランプ非難の上、「投票しない」宣言
 暗殺指嗾発言の衝撃を予知したかのように、前日の8日、共和党の歴代政権を支えた外交・安全保障の元高官50人が、本選ではトランプに投票しないとする共同宣言を発表している。
 50人の共和党元高官は、「トランプ大統領」となれば、アメリカの国家安全保障や幸福を危険にさらされるし、それは世界の破滅でもある、としたうえで、トランプは、アメリカの憲法や法律などの基本的な知識も欠いており、さらに「アメリカにとって死活的に重要な国益や複雑な外交的課題、不可欠な同盟などを全く理解していないし、学ぼうともしていない」と酷評している。
 さらにトランプは当選すれば、「アメリカ史上、最も危険な大統領になる」と断定、さらに「対外政策の観点からも大統領、米軍最高司令官にふさわしくない」と非難した。


知識人から背を向けられて
 声明に名を連ねた共和党50人には、日本の安保関係者には著名な元国土安全保障長官のリッジ、チャートフ両氏や、ネグロポンテ元国家情報長官、ヘイデン元中央情報局(CIA)長官、またワシントン切っての知日派のグリーン元国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長さらにはTPP粉砕を掲げるトランプを意識して、元通商代表部(USTR)代表のゼーリック氏らがいる。
 共和党の有力者(その背後には多数の学識ある知識人共和党支持者がいる)からも背を向けられ、さらに暗殺指嗾発言なども繰り出すトランプは、一部の低学歴のプアーホワイトに支持されるだけのidiotとしてヒラリー・クリントン氏に大敗するだろう。
 だがもし本当にヒラリー氏を暗殺するアホが出てきたら、トランプはどう責任をとるつもりなのだろうか?


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