共和党全国大会で、予定どおりトランプ氏が党の大統領候補に指名された。最初は泡沫として、誰も歯牙にもかけていなかったのに、予備選に入ると並み居る有力候補を蹴落として連戦連勝し、ついに大会代議員の過半数を獲得し、ここに至った。

元大統領など党重鎮がすべてボイコット
 全国大会には、元大統領のブッシュ父子も、元党大統領候補だったマケイン、ロムニー両氏も、さらに党大会の開かれた地元オハイオ州のケーシーク知事も、大会ボイコットした。予備選2位のテッド・クルーズ氏は出席し、演説をしたけれど、トランプ氏支持を明言しなかった。共和党内の深い亀裂をさらけ出しただけの党大会だった

共和党全国大会

 これを見れば、曲がりなりにもライバルで左派のサンダース氏の支持を取り付けた民主党のヒラリー・クリントン氏に勝てそうもないように思えるが、ことは単純ではない。

NATOなど同盟国の防衛義務を否定
 21日の70数分という長い受諾演説でも、アメリカ第1主義を前面に出した。グローバル主義よりアメリカの国益を最優先にするという相変わらずの姿勢である。
 したがって共和党の伝統である自由貿易を否定し、TPPにも「議会が批准しても、大統領として署名しない」と不参加を表明した。
 驚いたのは、同盟国、特にNATOへの対応である。「時代遅れ」と切って捨て、NATOの多くの加盟国は国防費を目標額まで出しておらず、アメリカが負担している、と言い、国防義務を果たさない国は、侵略されても助けない、という姿勢だ。

メキシコ国境に壁を築くプランを維持
 2年前、クリミアがプーチン・ロシアに強奪され、今もウクライナ東部がロシアの侵略の部隊になり、さらに旧ソ連のバルト3国にも侵略の危機が潜在化しているのに、何という時代認識なのだろう。
 日韓など、アメリカ軍の駐留する国々を念頭に、「相応の負担を求める」と宣言する。在日アメリカ軍の駐留経費の日本側の全額負担を求めた。さぞかし沖縄の知事や左翼は、喜んでいることだろう。
 夢物語と思えるメキシコ国境に壁を築く、という構想もあらためて公約した。対メキシコ関係は、大きく悪化するだろう。

民主党の親サンダース派を取り込めば接戦か、しかし大敗の可能性も
 ただトランプ氏の過激で孤立主義的な訴えは、閉塞感からの革新を求めたサンダース氏の支持層と重なる。大統領選挙では、ヒラリー氏に飽き足りないサンダース支持層の3割はトランプ氏に流れるという見方すらある。したがって一部には、ヒラリー氏との闘いは、接戦になるという見方がある。
 一方で、トランプ氏の女性蔑視発言が災いし、女性の7割はトランプ嫌いだという調査がある。またクリントン対トランプなら、黒人票の7~8割はクリントン氏に流れるというデータもある。
 こちらがクローズアップされれば、半世紀近く前の1964年の大統領選挙で極右派ゴールドウォーター氏が民主党の現職ジョンソン大統領に歴史的大敗を喫して以来の共和党の大敗北になる可能性もある。

当選ならばイギリスのブレグジット以上の大波乱
 はっきりしていることは、「トランプ大統領」となれば、イギリスのEU離脱以上の世界的な衝撃と経済混乱が起こるだろう、ということだ。排外的な経済・軍事ドクトリンが実行されれば、世界の秩序は、落ちつくまでひどく乱れるだろう。
 その混乱の間に、強権のプーチン・ロシア、赤色帝国主義中国、北朝鮮ならず者集団が侵略を起こさないか、懸念は大きい。
 したがって民主党嫌いではあるけれども、今回の大統領選挙に限って、僕はヒラリー・クリントン氏を支持したい。

昨年の今日の日記:「中国バブルは、『破裂するか否か』でなく、『いつ破裂する』か、それは時間の問題」