10日に投開票された参議院議員選挙は、波乱のない、その意味で面白みのない結果となった。
自民、1人区で取りこぼしも比例区と複数区で善戦
ただ、いつもの新聞の事前調査で、「安定」予測の自民は、やや伸び悩んだ感じだ。特に1人区では、もっと取れたはずで、民進党などの巻き返しにあい、11敗を喫した(21勝)。
それでも比例の躍進(19議席)と都市部の定数複数区の善戦で、非改選を含めて121議席となる56議席を獲得した。非改選議員の中に、自民入党の意向を持つ議員もいるから、事実上、単独過半数を制した、とも言える。
安倍首相は、自身が党総裁になってから4連勝である。
東北の敗退は民進の反TPP攻撃の宣伝で
沖縄で島尻安伊子沖縄・北方相、福島で岩城光英法相の2人の現職閣僚が落選した。ただ、こちらは投票前から苦戦が伝えられていたが、一部には岩城氏は巻き返して民進に逆転したのでは、と観測されていただけに「取りこぼし感」が強い。
また1人区の大分は、社民の強い地盤の所で健闘したが、民進現職に1100票弱の僅差で競り負けている。
秋田以外、東北で全滅したのは、民進党がTPP反対の笛を吹き、農協票をさらったからだ。そもそもTPPは、バラマキスト民主党の菅直人政権の時に参加を決断したのに、政権から追い払われると、旧社会党ばりの「何でも反対」に戻り、TPPも反対で組織した。まことに姑息で卑劣な手口と言わざるを得ない。
自公、北海道を除くと複数区で全員当選
都市部の多い改選定数2~6の複数区は、自民党は堅調だった。公認を1人に絞った複数区はすべて勝利した。2人擁立した複数区でも、東京と千葉に加え、9日付で2人目を追加公認した神奈川で2人が当選した。2人区以上では、北海道を除くと全員当選である。公明党も同様だから、与党全体では1敗しただけだ。
唯一の取りこぼしが、惜敗の北海道で、トップ当選の長谷川岳氏が票を取り過ぎ、3人目に民進の鉢呂吉雄の出戻りを許し、民進は北海道で2議席を獲得した。次点の柿木克弘氏は、その鉢呂に約8500票差で振り払われた。長谷川氏の票を1万票回せれば、北海道も2議席獲得できた。
麻薬におぼれるか民進党、共産依存は衰退の道
民進党は、事前予測よりは善戦した方なのだろう。何と言っても、共産党と組んだ1人区で、汚沢生活の党系の2人を含め、11勝した。この半分は共産党票の下駄を履いた勝利である。
これに味をしめ、早くも民進党内では、次の衆院選でも共産党と共闘しようという声が出ているという。まさに麻薬におぼれる寸前の半中毒患者である。
しかし昨日も書いたが、近畿で惨敗したように、都市部では共産の下駄がないだけ、実力が如実に出て、自民の躍進に押された。
世界史的に言えば、足腰の弱い社民系政党は、共産党と共闘するうちに彼らに依存し、やがて衰退する。どこの国でも、である。
今、彼らは共産党に依存して衰退していくか、それとも健全な保守野党として苦しい中で自立していくかの岐路に立っている。
民進指定席の2人区に自民は2人の候補を
なお複数区のうち、民進党が惰眠をむさぼれる聖域天国が4つある。茨城、静岡、京都、広島の2人区である。ここでは公明党も候補を立てず、京都を除くと共産党には割り込む力が無い。したがって2番目の議席は、民進の指定席になっている。
京都だけは、かつて蜷川共産府政が続いた歴史が物語るように、歴史的に共産党が強いから、今回も民進の福山哲郎は大差をつけてとはいえ、楽勝ではなかった。
それ以外の3県のうち、茨城と広島は、トップの自民にダブルスコアの大差をつけられたのに悠々、当選している。事実上、無風選挙区である。
競争のない環境は、政治家も劣化させるから、ぜひ自民は次回から2議席独占を目指して2人の候補を出して欲しい。このことは複数区のある都議選でも述べた。現職の安全志向に配慮しすぎである。
共産、峠を下りつつある議席6
さて、1人区ですっかり民進に頼られた共産党は、実は内心は敗北感をかみしめているだろう。
表面上は改選前議席より増やし、今回は比例区5、選挙区1の6議席を得た。しかし比例区の目標は9だった。前回と同じ5議席では、勝利とは言えまい。
より打撃だったのは、選挙区当選が定数6の東京しかなかったことだ。前回2013年は選挙区で3議席を得ていて、合計8議席だった。
選挙戦の最中、NHKで政審委員長だった藤野某が防衛費を「人を殺すための予算」とうっかり失言して批判を浴びたマイナス要因もあったかもしれないが、しかしこれが共産党の本当の実力というものだろう。
伸びのピークは打ち、峠を下りつつある。
そんな時に、民進だけ得をした4党共闘に、党内で批判的空気が醸成されるかもしれない。
近畿で抜群の強さ示したおおさか維新
比例区第4党の地位を占めたおおさか維新は、誕生地の大阪で定数4の半分の2議席、隣の兵庫でも第3位に食い込む健闘を見せたが、東日本ではさっぱりだった。例えば、東京で「おおさか維新」はないだろう。徹底的な行政改革、道州制導入、教育費無償化を実現する全国政党を目指すなら、党名変更も必要だ(松井一郎代表は、選挙後、その意向を示した)。
ローカル政党に留まるのは、惜しいし、できれば民進党に取って代わる存在にまで育って欲しい。
あまり意味の無い数字とは思うが、メディアによると、参院でも改憲勢力3分の2(厳密に言うと、公明党を改憲勢力と数えるのは違和感があるが)以上を制したという。ちなみに衆参両院で3分の2を確保したのは、戦後初めての快挙なのだそうだ。
こうなると、改憲のためのスケジュールは、具体化してくることになるだろう。いきなり9条は無理にしても。
汚沢の「生活」意外と健闘
最後は、弱小左翼2政党の消長について。
汚沢の生活の党は、なんと意外にも、比例で青木愛が11日早朝に最後に滑り込みで1議席を得た。議席獲得は難しい、と言われながらの番狂わせだ。
これで生活は、岩手の木戸口英司、新潟の森裕子と選挙区での2議席を加え、3議席を確保した。木戸口、森とも4党統一候補のため無所属と称しているが、生活の党籍を持っているから、国会が始まれば生活に所属となろう。
社民4議席転落で山本太郎に色目か
すると、とかく汚沢にも従わない山本太郎が邪魔になる。山本太郎は、政党助成金欲しさに汚沢が頭を下げて加わってもらった男だ。そのために党名に、党首の汚沢を差し置いて「山本太郎」という名前まで入れさせられた。
3人の当選で、山本太郎は居てもらう必要がなくなった。
ところが、そこはうまくしたもので、社民党が党首の吉田忠智を落とし、非改選と衆院を含めて4議席となり、政党要件の1つの5議席を割った。
そこに、山本太郎の価値が出てくる。極左の山本にすれば、生活よりも社民の方が居心地がいいはずだ。山本が社民に移籍すれば、万事丸く収まる。
政党ご都合主義は、かくてめでたし、めでたし。
昨年の今日の日記:「進化を進めた自然界で行われてきた「ゲノム編集」;追悼 『ドクトル・ジバゴ』のオマー・シャリフ死去」