まさか、という目と耳を疑う結果だった。EU離脱(ブレグジット)の是非を問うイギリスの国民投票は、投票締め切り直後の残留という楽観的な見通しは、開票が進むにつれて、離脱という悲観論に包まれた(写真=ロンドンの開票風景)。


ロンドンの開票風景


離脱派は残留派に約4ポイントの差
 最終的には離脱支持が51.9%、残留支持は48.1%と僅差ではあるが、予測をくつがえす結果となった。
 この国民投票の結果を世界の市場の中で初めて受け止めた東京市場は、ショック安に陥った。
 為替市場と株式市場も、前日のニューヨーク市場の大幅円安と株価大幅高を受け、高く始まったが、時と共に円高・株安に向かい、昼休みを終えて後場が開くと、株式市場は売り一色となった。


荒波を最初に受けた東京市場、株式市場は約1300円安
 昼休みのない外国為替市場では、午前11時44分に1ドル=100円を突破、99円台に突入し、つれて株価は後場に入るとあっさりと日経平均で1000円以上の下げとなり、終値で2008年のリーマン・ショックを上回る大幅下げの1万4952.02円、前日比1286.33円(7.92%)安と、大激震に見舞われた。
 アジア市場も総崩れとなったし、その後に開いたヨーロッパのマーケットも、株式市場では大幅下げに襲われている。世界のマーケットであるニューヨークが踏みとどまってくれるかを願うのみだ(本日記の執筆の24日午後7時半現在)。


二転三転の末に
 あらためて世界のマーケットが振り回されたブレグジットを問う国民投票を振り返ってみよう。
 当初は残留が圧倒的だった。離脱が決まった国民投票開票後に辞任を表明したキャメロン首相は、イギリスに有利になる形での対EUとの交渉で、「ブラフ」のつもりで国民投票を決めたのは、どうせ残留だろう、と楽観していた。今となれば、とんでもない先の見通せないボンクラ、であったことになる。
 ところが国民投票の途中から離脱派が伸びてきて、一時は残留支持は逆転され、この時点で離脱は決定的からと、世界のマーケットが悲観した。
 流れを変えたのは、16日の下院議員ジョー・コックス氏の暗殺だ。残留支持を呼びかけていたコックス氏の暗殺で、イギリスは服喪に入り、過熱した賛否両論が沈静化し、あらためて離脱の大きなリスクが意識された――と思われた。
 実際、ブックメーカーの投票直前の賭け率は、残留支持が8割だった。
 しかし、それはすべて「希望的観測」にすぎなかった。


シルバー民主主義への懸念が現実化
 注目すべきは、今回、若者と高齢層の意見がきれいに分かれた。18歳以上20歳代は4分の3が残留支持、一方、60歳代以上の高齢層の3分の2は離脱支持だった。
 生まれた時からEUが身近にあった若者には、ブレグジットは将来の可能性を大きく狭める。一方の高齢層は、ブリュッセルのEU官僚からの数多くの規制が煩わしく、また大英帝国の権限がEU官僚によって狭められている不満が大きい。過去へのノスタルジーもある。
 世界どこでも同じだが、問題は投票率の差である。残留支持の圧倒的な若者と都市部は投票率は低く、離脱派が圧倒的な高齢層と地方は投票率が高い。
 シルバー民主主義への懸念が現実化したとも言える。
 これが、世界のマーケットを不安に曝し続けたのだ。世論調査で残留支持が多数、と出ても、実際の投票結果がどうなるか分からない。まさに今回は、それが的中してしまったわけだ。


スコットランドは独立へ、北アイルランドの政情不安再燃か
 今後、イギリスは関税ゼロにしていたEUに、関税など多岐にわたる面でヨーロッパへの新たなアクセスに向けて交渉しなければならない。
 さらにいったんは沈静化したスコットランドの独立運動の再燃は、避けられない。スコットランドはEU残留派が62%を占めた親EU地域であり、同地域のスタージョン行政府首相は、さっそく独立の意思を示している。
 イギリスから独立し、新たに独自にEUに加盟しようという動きは、これで抑えられないだろう。スコットランドにすれば、アホなイギリスに付き合っていられない、という思いだろう。
 一時はカトリック教徒過激派がイギリスからの分離を求め、激しい内戦が展開された北アイルランドでも、不安定化が起こるだろう。


世界はアホなイギリスから離脱せよ
 これからイギリスの国内は、経済沈下ばかりか、政治的にも大動揺が始まる。
 愚かな選択をしたイギリスは、これによって分解と衰退の道を歩むしかない。日本、アメリカ、EU各国は、イギリスに巻き込まれない経済運営が重要となる。
 ヨーロッパへの輸出基地として累計10兆円以上の投資をした日系企業も、静かにイギリスから離脱していくだろう。


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