矮小型人類ホモ・フロレシエンシスの小型化は、100万年近くもの長期にわたるフローレス島の島嶼化=孤立的進化の結果ではなく、同島に到着した少なくとも30万年のうちに比較的急速に起こったことが判明した。


「ネイチャー」最新号に発表
 約70万年前の新発見の化石を基に、国立科学博物館の海部陽介氏ら国際研究チームが、その成果をイギリスの科学誌「ネイチャー」6月9日号で発表した。
 同島のリャン・ブア洞窟(リアンブア洞窟)では、すでに2003年に10万~6万年前(注 最近、年代が改定された。本年4月30日付日記:「ホモ・フロレシエンシス(フローレス原人)の年代が改訂;『最後のフロレシエンシス』は5万年前か」を参照)の身長約105センチ、脳容量426ミリリットルのLB1号骨格などが見つかっていて、新しい年代に矮小な人類の生存という古人類学の常識を破る知見が学界に衝撃を与えた。
 もはやまともな人類学者は誰も信じていないが、一時は小頭症などの病的現代人説が提起されたのも、このためだ。


マタ・メンゲで70万年前の下顎骨と歯を発見
 新たに発見されたのは、小型の成人右下顎骨片1点、永久歯4点、乳歯2点。少なくとも3個体に属する。
 発見地は、リャン・ブア洞窟から75キロほど離れたソア盆地で、ここからはリャン・ブア洞窟のLB1号骨格より早くに、100万~70万年前の石器が見つかっていた。しかし化石人骨は未発見だったので、人骨発見が待たれていた。そのマタ・メンゲ遺跡で、2014年、ついに前記の化石人骨が見つかった。年代は、80万~65万年前(約70万年前)と分かった。
 新発見の歯と下顎骨は、どれもリャン・ブア洞窟のLB1号と同程度かやや小さかった(下の写真上=発見された下顎骨片;下の写真下=新発見の下顎骨片(水色)をLB1号(左)に重ねて、縄文人頭蓋と比較したもの。新発見の下顎骨はLB1号よりさらに少し小さい)。


マタ・メンゲ顎骨片

マタ・メンゲ顎骨の比較


渡島早期に矮小化したこと明らかに
 研究チームは、新発見化石を、アウストラロピテクス、ホモ・ハビリス(約200万年前)、初期ジャワ原人(ホモ・エレクトス、約100万年前)、北京原人(約75万年前)、リャン・ブア人骨、現代人と比較した。
 下顎大臼歯はLB1号ほど特殊化しておらず、全体的に初期ジャワ原人のものと似ており、下顎骨は猿人やハビリスほど原始的でなく、やはり初期ジャワ原人とLB1号と似ていた。
 つまり初期ジャワ原人、マタ・メンゲ人類、ホモ・フロレシエンシスとの遺伝的連続性のあることが分かった。


遺伝的浮動で小型化形態が定着
 こうしたことから、おそらく100万年前前後にフローレス島に漂着したジャワ原人は、元の身長170センチ前後、脳容量900ミリリットル前後から、30万年足らずで一気に身長で3分の2、脳容量で半分に矮小化し、その形態はその後も60万年以上もフローレス島で維持されたことになる。
 その矮小化は、食資源が少なく、捕食者のいない狭い島という環境での適応であり、外部からの遺伝子流入のない島で少数者のグループを創始者とした遺伝的浮動の結果である。遺伝的浮動による特殊な形態の固定化は、さほど長期間を要しないから、マタ・メンゲ人類の矮小化も、十分に納得できる。
 それにしても狭いフローレス島で、よくも100万年も絶滅を免れて生存できたものだ。だがそのホモ・フロレシエンシスも、6万年前前後までには滅びた。まだ現生人類はフローレス島には到着していない。彼らに、いったい何が起こったのだろうか。


☆この他のこれまでのホモ・フロレシエンシス関連の日記
・15年12月18日付日記:「ホモ・フロレシエンシス(フローレス人)、やはりジャワ原人の末裔;追記 アメリカ、0.25%の利上げ」
・10年5月3日付日記「国立科学博物館地球館の地下2階に展示された超小型人類『ホビット』:ホモ・フロレシエンシス、フローレス島」
・09年5月9日付日記:「おなじみABO式血液型は進化の中立説の証拠の1つ、だが厳密には中立的ではない:瓶くび効果、遺伝的浮動」
・07年9月1日付日記「ゾウも島で縮小した:ステゴドン、島嶼化、ランチョ・ラ・ブレア、マンモス」
・07年8月26日付日記「消えた人類ホモ・フロレシエンシス、発見の驚き:スンダランド、ウォーレス線」
・07年8月25日付日記「島という環境で縮小化する:島嶼化、ホモ・フロレシエンシス、遺伝的浮動」


昨年の今日の日記:「リスクフリーの個人向け国債の変動10年債は狙い目;経済」