マーケットの先見性からすれば、イギリスのEU離脱(Brexit)は、もはやなくなったのかもしれない。

EU離脱の是非を問う国民投票まであと1カ月弱
 来月23日にイギリス全国で実施されるEU離脱の是非を問う国民投票まで1カ月を切ったが、今月上旬を底に長期下落基調にあったポンド相場が回復に転じた(写真=金融機関の集中するロンドンのシティ)。


シティ、ロンドン

 ポンドは、対円でも対ドルでも緩やかな上昇に転じているのだ。これは、外国為替市場が、EU離脱はない、と読んでいることを示す()。


対円のポンド相場

 本年4月27日付日記:「『Brexit』の表すイギリスEU離脱論をめぐる大いなるリスク;離脱となれば日本は円高の再燃か」でも述べたが、一時は拮抗していたBrexit(イギリスのEU離脱)をめぐる世論調査で、残留支持が離脱支持を7~8ポイント近く上回って推移するようになっている。

為替市場はポンド高へ一転
 政府も財務省も、さらにはあらゆる民間調査機関も、EU離脱となれば、その年のうちにイギリスのGDPは3~4%も縮小し、中期的には10%前後もの経済低下を招く、という予測が浸透している。本来なら、それを不安視してポンド安が加速してもおかしくはない。
 しかしこうした予測調査でイギリス国民も、EUのブリュッセル官僚の言いなりになって主権が制限されるのは苦々しいが、イギリスはEUと共に生きていくしかない、という良識に立ち戻ったようだ。為替市場は、この空気を敏感に察知し、経済縮小懸念からのポンド売りをやめ、ポンド買い戻しに動いているのだ。

すべて正しかった市場の先見性
 マーケットの先見性は、決してバカにしてはいけない。これまで常に市場は、近い未来の政治・経済環境を的確に見通していた。
 例えば本年3月16日付日記:「通貨高・株高が予見するブラジル左翼ポピュリスト政権の終焉」で述べたように、ブラジルレアル相場と同株式市場のボベスパ株価指数は、ブラジルを10数年も蝕んできた左翼ポピュリスト政権が退陣することを、昨年夏辺りから先見した値上がりをしてきた。
 実際、ブラジル政局は市場の予見どおりに推移し、大統領のルセフは今月12日のブラジル上院での票決で、180日間の停職と弾劾裁判開始に決まった。その後は、弾劾で最終的に追放される見込みだ(5月16日付日記:「ブラジル大統領のルセフ、上院の票決で停職。弾劾裁判で追放へ秒読み」を参照)。

お先真っ暗でも未来を確信して「買い」
 レアルとボベスパ株価指数が値上がりを始めた時、ブラジル経済は2年連続のマイナス成長確実の見通しからお先真っ暗の状況だった。それでもマーケットは、優れた先見性を発揮したのである。
 日本も、終戦間近、敗戦と政治・経済崩壊が確実の中で、復興に向けて海運株などが上昇を始めていた。この時も、お先真っ暗の状況の中で、冷静に戦後復興を確信していた市場の目があったのだ(09年8月12日付日記:「株価の語る先見性とは――敗戦直前の株式市場でも:日本郵船、海運、日経平均株価」を参照)。

EU離脱支持の高齢層の投票率は高く、残留支持の若年層のそれは低い
 イギリスのEU残留については、政治家などはまだ分からない、と慎重姿勢を崩していない。それには、次の事情がある。
 大英帝国の古き良き時代に郷愁を抱く、概ね60代以上の高齢層は、EUからの主権奪還を望んでEU離脱に多数が支持を寄せているが、40代以下の生まれた時or物心ついた時からEUが身近にあった若年層は、逆に残留支持が圧倒的だ。
 これほど世代間の差が大きいテーマも珍しいが、問題は日本と同様の「シルバー民主主義」傾向である。高齢層の投票率は圧倒的に高く、若年層のそれは圧倒的に低いのだ。
 すると世論調査では、残留支持が高い、と出ても、実際の国民投票では逆転される可能性もあるのだ。イギリス政界では、したがってまだ残留への懐疑・警戒感が強い
 だがマーケットの先見性を信じるなら、イギリスはEUに残る。僕は、どのような識者のご託宣よりもマーケットの先見性を信じているので、イギリスはEUに残留する、と確信している。

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