シリアとイラクで、それぞれ反ISIL(自称「イスラム国」)の連合勢力が、ISILの主要占領地の奪還作戦に乗り出した。

クルド人部隊ら、「首都」ラッカの奪還作戦始まる
 ISILにとってただの残酷なテロリストに転落するか、それとも自称「国家」を維持できるかの瀬戸際なのが、自称「首都」ラッカの攻防である。
 24日、勇猛さでなるクルド人部隊ら「シリア民主軍」が、長くISILが占領・支配していたラッカの奪還作戦を開始した(写真)。攻撃には、自由シリア軍などの反体制派勢力も加わる。


シリア民主軍

 ラッカは、市民を「人間の盾」とするISILのためにアメリカなど手出しができなかった。そこに、ついに王手がかかった。
 ラッカが落ちれば、ISILにとって安全な「聖地」はなくなる。砂漠を点々とするか、元のように都市の奥底に潜んでテロを繰り返すテロリストに戻るかしかない。アラブ人なら、都市部にも紛れ込めるだろうが、欧米系のテロリストは、もはや絶体絶命、である。

有志連合軍は空から猛空爆で支援
 さらにラッカは、トルコを通じて欧米からのホーム・グロウンテロリストの受け入れ口になっていた。ここも失う、とすれば、シリアの戦局とヨーロッパのテロリストのテロ作戦に決定的打撃となる。
 攻撃には、従来どおり、アメリカ軍などの有志連合軍が空爆で支援する。中東を管轄するアメリカ中央軍のボテル司令官が地上部隊の攻撃に先立つ21日、シリア北部を訪れている。綿密な打ち合わせなどが行われたと見られる。
 ISILが反撃すれば、有志連合軍による空からの猛爆で殲滅される。

精強なクルド人部隊
 これまで空爆のみのアメリカなどは、イラクでは地上部隊としてイラク政府軍を当てにできたが、シリアにはいなかった。それが、長らくラッカに手を出せない理由だった。
 しかしシリアでも、クルド人部隊プラス反体制派の地上部隊がISIL攻略に当てにできるまでになった。
 クルド人部隊の精強さは、15年1月のトルコとの国境に近いコバニ(アインアルアラブ)で激戦の末、ISILから奪い返したことで立証済みだ。この闘いは、膨張一途だったISILを初めて打ち破って占領都市から駆逐した記念すべきターニングポイントでもあった(15年2月2日付日記:「『イスラム国』人質事件始末記、敗色漂い出したテロリストの焦りが事件を引き起こした」を参照)。
 今年3月、世界遺産の街のパルミラをアサド政権軍とロシア空軍によって攻略されているISILは、もはや風前の灯火である。

イラクでは政府軍らがファルージャへの攻撃を開始
 ISILの敗勢著しいイラクでも、23日からイラク政府軍にシーア派民兵も加勢して、バグダッド西方のファルージャでの奪還作戦が始まった(写真)。すでにイラク政府軍は、昨年12月、要衝ラマディをISILから奪い返している。


ファルージャ奪還作戦

 2014年にISILに奪われたイラク第2の都市の北部のモスルが残るが、ファルージャを落とせば、イラクの首都バグダッドは、ISILからの脅威から免れるうえ、次には全力をモスル奪還に注げる。
 弱っちいイラク政府軍だが、ここにスンニ派主体のISIL憎しのシーア派民兵が加わるから、政府軍もメンツの上で精強に徹しないといけない。
 アメリカなど、有志連合軍は空から政府軍・シーア派民兵連合軍を支援する。
 ISILは最盛期からイラクで45%、シリアで20%の支配領域を失っている。
 イラクでも、行き詰まっている。後は、滅びるだけだ。

昨年の今日の日記:「バルト3国紀行18:十字架の丘を訪れ、鎮魂の思いを述べたローマ教皇、ヨハネ=パウロ2世」