訪英していたオバマは、ロンドンでのキャメロン首相と共に行った22日の記者会見で、異例にもイギリス国民に、EU残留を呼びかけた。


EU離脱はあり得るかも、の現状
 6月23日に行われるイギリスのEU離脱か残留かを問う国民投票は、どう転ぶか分からない接戦となっている。
 「Brexit」(ブレグジット)――イギリスのBritishと「出て行くこと」のexitを合わせた造語が、今、イギリス政情を象徴する用語となっている。つまりイギリスがEUから離脱するか否か、である。
 そしてBrexitはあり得ない選択ではない(写真=ロンドンでユニオンジャックの傘で示威行動)。


ユニオンジャックの傘をさす人


与党の保守党が真っ二つ
 与党の保守党内が真っ二つに割れ、党首のキャメロン首相は残留賛成だが、政治的ライバルのロンドン市長のボリス・ジョンソン氏は離脱賛成である。
 野党の労働党は、おおむねEU残留でまとまっているが、民族派野党のイギリス独立党が声高にEU離脱を主張し、フランスとベルギーのISILによるテロ、ヨーロッパに押し寄せている経済「難民」の波を恐れるイギリス国民の民意が急速に離脱に傾いているからだ。
 一方で、中小企業の一部などを除くと、経済界・産業界は、EU残留でまとまっている。


経済界が恐れるBrexit
 現時点では、残留と離脱の意見は、ほぼ互角だ。あと2カ月で、どちらに転ぶか分からない。
 経済界などが離脱を恐れるのは、世界的金融市場のシティーを抱えるイギリスから、金融を含む多くの企業が脱出し、さらにEU加盟で経済・財政面で受けている利便さの多くを失うことだ。
 離脱した場合、イギリスは再びEU加盟国との多岐にわたる、多方面の協定を結び直す必要がある。それは、とてつもない労力を伴い、失うものがあまりにも多すぎるということだ。


いずれの途でもBrexitのもたらす損失は大きい
 イギリス財務省が18日に発表した離脱したイギリスの進むべき3つの選択肢は、どれを選んでもイギリス国民の大きな負担になることを示した。
 最も負担の少ないのは、非EU国ノルウェーのようにヨーロッパ経済領域(EEA)への加盟だが、これとてEU加盟継続と比べても2030年までの損失はGDP比で3.4~4.3%に達するという。
 2国間の貿易協定を多数の国家と結んでいく第2の道では、途方もない労力に比べ、損失は4.6~7.8%に達する。第3の道であるWTO加盟に基づく共通ルール構築だが、これはさらに損失が大きくなる。


危惧は、予想できない大波乱
 問題は、経済学者から上記3つのシナリオで予測される損失すら楽観的と批判されていることだ。貿易と外国直接投資に対する開放度が下がり、それは経済規模を縮小させ、多くの雇用喪失を伴う。
 半面でBrexitしても、イギリスがEUから取り戻せる主権は小さい。
 おそらく最大の問題は、Brexitした場合、あらゆる想定を超えた不都合さが現れてくるかもしれない不確実性である。一部の離脱派が描くようなバラ色の未来は、ほとんど空想である。


超円高の再燃が日本では最大の懸念材料
 そしてひとたび、イギリスの経済が混乱すると、それはギリシャ危機を上回る金融危機が世界を襲うかもしれないことも、不安要因である。
 例えばイギリスの通貨ポンドは、昨年夏に1ポンド=190円を超えていたのに、今は150円台に下がっている。すでにマーケットは、少しずつBrexitの懸念を織り込みだしているのだ。
 緩やかな下落がポンド安の痛みを和らげているが、もし急激なポンド安となれば、為替市場は予測不能の大混乱に陥る。
 経済波乱となると常に日本の円が買われるが、この場合も円高が再燃するのはほとんど確実だ。
 Brexit問題の行方は、日本にとって遠い国の問題では決してないのである。


離脱となればスコットランドは独立へ
 Brexitとなれば、イギリスの政治も動揺する。
 例えば、今やイギリス議会第3党になったスコットランド民族党は、EU残留支持派だが、同党が支配するスコットランド自治政府のスタージョン首相は、イギリスが国民投票でスコットランドの意に反してBrexitを決めた場合、スコットランド独立の是非を問う住民投票を再度行う方針だ。
 スコットランドの次は、ウエールズ、そしてさらに北アイルランドの独立の動きは波及する。EUから離脱したイギリスは、四分五裂する懸念が出てくるのだ。
 2年前、世界注視の中、スコットランドで行われた独立の可否を問うスコットランドの住民投票でスコットランド住民は賢明にもイギリス残留の意思を示した(14年9月20日付日記:「ポーランド紀行:バルバカンを観て、トラムの走る道の歩道を徒歩でホテルに戻る;紀行 追記 スコットランド住民投票、予想外の大差で独立を否決」を参照)。
 その蒸し返しとなりかねないBrexit問題を、今後も注視していかねばならない。


・昨年の今日の日記:「バルト3国紀行4:本国の訓令に反して『命のビザ』約6000通を発給した杉原千畝を訪ねて①;現代史、紀行」
・昨年の明日の日記:「バルト3国紀行5:本国の訓令に反して「命のビザ」約6000通を発給した杉原千畝を訪ねて②;現代史、紀行」
・昨年の明後日の日記:「バルト3国紀行6:本国の訓令に反して「命のビザ」約6000通を発給した杉原千畝を訪ねて③;現代史、紀行」


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