さてエチオピアを含む熱帯アフリカの恐ろしい風土病、オンコセルカ症、と言うと、思い出すのは、2015年にこの病気の予防治療薬イベルメクチンの開発の功績でノーベル生理学・医学章を授賞した大村智さんである。


まるで目に鱗を貼ったよう
 大村さんが開発したこの薬が、ほとんど無料でアフリカの人たちに配布されたおかげで、回旋糸状虫という細長い糸状の線虫であるオンコセルカによって引き起こされるこの病気は、ほぼ根絶された。大村さんのノーベル賞授賞は、それが理由だった。
 その授賞理由になったオンコセルカ症の失明した患者を、僕はエチオピアの旅で2度、目にしたのだ。
 初めて目にした時、これがオンコセルカ症なのか、得心した。
 高齢の患者の開いたままの両眼に納まった眼球レンズは、まるで鱗を貼り付けたように白濁していて、この人が盲人であることをはっきりと示した(写真=注:僕が撮影したものではありません)。1人は、若者に木の棒を引いてもらい、もう1人は路上で座っていた。


河川盲目症


特効薬イベルメクチンの配布される前の罹患か
 いずれも40歳を越した中高年であり、幸いに子供や若者のオンコセルカ症患者は見かけなかった。僕の目にした不幸な患者は、WHOからイベルメクチンが配布される前に罹患した人なのだろう。
 エチオピアに行くまでは、乾燥したアビシニア高原では見かけないだろう、と思っていたが、タナ湖とブルーナイル(青ナイル川)河畔には蚊がいた。だから河川で繁殖するブユもいて当然で、このブユに媒介される回旋糸状虫の幼虫が血管を通じて目に入って起こすのがオンコセルカ症である。


木の棒に引かれて
 アフリカ全体でこの失明者は、1000万人は越すという。患者は、目が見えないから、ふだんはおそらくひっそりと小屋にこもっているのだろうが、エチオピアの成人男性が必ず携行する木の棒に引かれて外出したのだろう。


棒を持つ男、ホテルの警備員

棒を持つ男、ティムカット祭で

棒を持つ男、岩塩を運ぶ男

 なお木の棒は、護身用というわけではない。あらゆる場面で、木の棒を携行する成人男性を見た(上の写真)。イギリス紳士の携行するスティッキのような役割らしい。


昨年の今日の日記:「激増する爆買い中国人観光客は日本にとって良いことなのか?」