ブラジル大統領ルセフは、8月のリオ五輪に大統領として出席できない(写真上=リオデジャネイロの象徴の「コルコバードのキリスト像」。写真下=五輪のメインスタディアム)。


コルコバードのキリスト像

五輪のメインスタディアム

 南米1の大国でBRICSの一員として一時は世界の耳目を集めていたブラジルの大統領ルセフは、17日、ブラジル下院で圧倒的多数をもって弾劾が承認されたのだ。


3分の2を大きく超える票差で圧倒的に弾劾承認
 同日午後6時から始まった下院採決で、出席議員のそれぞれ短い演説の末、6時間かけた後の票決の末、弾劾承認された。下院513議席のうち、弾劾賛成票は367、反対はわずか137、棄権など9で、承認に必要な3分の2の342票を大きく上回った。
 承認された瞬間、サンパウロなどの主要都市の街頭に設置された大画面の前に集まった市民から喜びが爆発し、紙吹雪が舞い、花火があげられた。
 今後、弾劾案件は81議席の上院に移る。5月上旬にも採決されると見られる上院では、早くも弾劾賛成派が過半数を超えている。上院で過半数の賛成があれば、ルセフはそれから180日間(約6カ月)職務停止となり、テメル副大統領が大統領職務を代行する。
 最終的に上院でも3分の2で弾劾決議がされれば(有力メディアの票読みでは、3分の2での弾劾決議が濃厚)、ルセフは大統領職を追われる。


かつての筋金入り左翼ゲリラ女闘士が
 最低限、ルセフの6カ月の大統領職務停止がほぼ決まった。つまり自国はもちろん南米で初のロス五輪に、彼女は大統領として臨席できない。
 ルセフの弾劾は、直接には再選をかけた2014年の大統領選で、自身に有利になるように予算の不正執行したことだが、前大統領のルラらの国営石油会社ペトロブラスなどの汚職への連座や経済失政など無能の責任を問われた。
 かつて軍事政権に対し、不屈の女ゲリラ闘士として立ち向かった筋金入り左翼も、政治家としては統治能力を欠いた無能女に過ぎなかった。


国富をバラマキし、マイナス成長、インフレなどになす術もなし
 ルラ以来、貧困救済の名目で、国富を貧困層のバラマキに浪費し、インフレと2年連続の大幅マイナス成長、さらに高い失業率などには、なす術もなかった。
 しかもルラに捜査の手が迫るや、自分を後継大統領に指名してくれたルラの恩義に報いるためか、3月16日、以前の上司を自分の部下である官房長官にまさかの登用で、捜査妨害を図った。ブラジルでは、閣僚の捜査や逮捕は検察に権限がないからだ(3月20日付日記:「アッと驚く奇策、ブラジル前大統領のルラを官房長官に就任させて捜査妨害を図ったルセフに怒りのデモと連邦最高裁の差し止め決定」を参照)。


ルラ登用が命取りに
 これが、連立政権で最大勢力のブラジル民主運動党(PMDB)の連立離脱を呼んで、ルセフはいよいよ進退窮まった。ルセフは、連立を組む各与党の議員を個別に1人ひとり説得しまくったが、4月12日には進歩党も連立離脱を決め、さらに社会民主党も続いて、万事窮した。
 PMDBの連立離脱は、自党のテメル副大統領を次期大統領に押し上げる深謀遠慮があったが、ルセフのなりふりかまわぬ汚職疑惑隠しが連立崩壊を生んだのは明らかだ。


マーケットの読みどおりに進んだ
 それにしても事態は、3月16日付日記:「通貨高・株高が予見するブラジル左翼ポピュリスト政権の終焉」で説いたように、ブラジル株高・通貨高のマーケットの見通しどおりに正確に突き進んでいる。
 マーケットには、逆らえないのである。
 昨年末から続く南米左派政権の凋落で、次はどこか、が焦点になってくる。
 なおブラジルと南米左翼政権の凋落については、15年12月6日付日記:「大国ブラジル、マイナス成長・物価高・高金利・高失業率の深刻化と汚職疑惑で左派ルセフ政権の危機」も参照されたい


昨年の今日の日記:「まだ任期折り返し手前なのに、朴槿恵・韓国大統領、早くも黄昏;現代史」