東日本大地震から5年余、発生メカニズムは全く異なるが、またも熊本に大地震が襲い、19日朝現在で44人もの生命が奪われた。さらに、多数の避難者を出し、今も不自由な生活を強いられている。遭難者の方々に深く同情し、速やかな復興を願う。それと共に、東京を直下型が襲ったらと、改めて背筋の凍る思いに襲われた。


過去に何度も大爆発した阿蘇山の噴出物で出来た土地
 NHKで報道される映像を観て、人類学、地質学、生態学に関心を抱く者として、いくつかの感想を抱いた。
 まず南阿蘇村などの大規模地滑り、である。その村名の示すとおり、村域は世界一のカルデラを誇る阿蘇山の南麓にある。
 阿蘇山は、更新世に何度も大規模噴火を繰り返した。特に8.5~9万年前の大噴火では、「Aso-4」と呼ばれる広域火山灰を日本列島全体に降灰させた。この広域火山灰は、遠く北海道にまで達しており、いわば日本列島全体にこの時代のものであることを示す火山灰シートを広げた。地質学者にとって、日本列島の地層の年代特定にまことに都合の良い広域火山灰である。


不安定な地質構造の上に針葉樹の植生
 この大噴火で、基本的に現在の巨大カルデラが形成された。
 給源火山の近くでは、火砕流や軽石などテフラが分厚く積もり、これが不安定な地質構造を形成している。
 この他、南九州には、霧島テフラや桜島テフラも厚く積もっている。
 このテフラの多い土地に、戦後、ヒノキかスギの針葉樹が植林された。
 スギ、ヒノキは、ブナ、コナラなどの落葉樹と異なり、根が表層しか張っていない。地震で地表が揺られ、テフラ層が揺さぶられて崩壊を始めると、つなぎ止められずアッサリと崩れ落ちる。


南阿蘇町地滑り2

南阿蘇町地滑り


せめて落葉樹の森であったら
 基本的に南九州では、大雨や大規模地震に弱い地質構造だと思えばいい。今回の熊本地震で、その弱さを露呈した。
 余談だが、木の実を実らせる落葉樹と異なり、スギ、ヒノキは、実をならせない。野生動物にとって歓迎できない樹種で、日本中がこれらの植樹で覆われたために、里にシカ、イノシシ、ツキノワグマ、ニホンザルが出てきて人家に被害を与える。根本的に日本の山岳地帯の植生を、昔のように落葉樹の茂る雑木林に更新すべきではないか、と思う。


エコノミークラス症候群を引き起こすネアンデルタール人との交雑
 また避難所に収容しきれない避難者が、マイカーに寝泊まりすると、脚の静脈に出来た血栓が肺などに詰まり、呼吸困難を引き起こすエコノミークラス症候群が心配される。すでに20人近い発症が報告されている。
 血栓は、過去に交雑したネアンデルタール人から受け継いだ遺伝子が作用することが分かっている(16年3月14日付日記:「現生人類がネアンデルタール人と混血してもたらされた『負の遺産』;古人類学」を参照)。


ネアンデルタール人との現生人類との出逢い

 極寒の氷河期ヨーロッパでネアンデルタール人は4000~5000キロカロリーも摂取していたとされるが、そのエネルギーをまかなうために、大量の大型獣の接近戦で食を確保していた。実際、ネアンデルタール人化石の5割前後に骨折の痕がある。


原始生活では血の固まりやすさは大きなメリット
 このような生活環境では、血液が固まりやすいような遺伝子を持つ個体が選択され、そうでない個体は子孫を残せない。
 その遺伝子を受け継いだ現生人類の子孫の我々が血栓が出来やすいのは、その副作用だとも言える。ちなみにネアンデルタール人は、40歳まで生き残る個体は少なかった。つまり血栓の出来やすい50~60歳まで生き残る個体はほとんどいなかったので、血の固まりやすさのメリットの方が、血栓の出来やすいデメリットより、はるかに、はるかに上回っていたのである。


長寿と便利さの引き替えとして現代人が背負い込んでいる負の遺産
 ところが90歳まで生きるのが普通になったうえ、交通事故以外、大けがをする確率が極端に少なくなった現代の我々には、その遺伝的素因が牙をむくようになったのだ。
 糖尿病や高血圧など、現代の中高年を悩ませる成人病も、進化の副産物である。
 長寿と便利さの引き替えとして背負い込んでいる負の遺産は、こうした災害時に表れてくるのである。
 写真は、熊本県南阿蘇町の大規模地滑りの現場と益城町の畑で見られた活断層と見られる亀裂。そしてその下は、ネアンデルタール人と現生人類との出逢いの想像図


活断層が動いた跡


昨年の今日の日記:「仕組債は投資家に一方的に不利なのか? 評論家への体験的批判と反論」