「パナマ文書」が、世界を揺るがしている。タックスヘイブン(租税回避地)として著名なパナマにあるペーパーカンパニー設立登記に特化した法律事務所「モサック・フォンセカ」(Mossack Fonseca=写真) から流出した1150万件もの文書が、それだ。


モサック・フォンセカのビル


まさにIT社会、2.6テラバイトもの情報が簡単に漏れた
 電子メール、銀行口座情報、会社設立などの情報を含む世界の21万4000社の企業、各国の現職ないし歴代の政治家や官僚140人、さらに元スポーツ選手や芸能人など有名人などの機密情報が入っていた。
 これほどの文書が流出したのは、まさにIT社会ならでは、である。昔だったら持ち出しやたれ込みにトラック何台も必要としたろうが、2015年、合計2.6テラバイトもの情報が匿名の人物から、オンラインでドイツの新聞社『南ドイツ新聞』に送信されてきたのだ。
 80カ国、107社の報道機関が参加する国際調査報道ジャーナリスト連合 (ICIJ)に所属する約400人のジャーナリストが分析に加わり、その一部が4日、公表され、激震が起こった。


アイスランド首相辞任、イギリスのキャメロン首相は政治的立場を毀損
 まずリーマンショック後の金融危機を招いたアイスランドの現職首相グンロイグソン氏が、辞任に追い込まれた。妻との共同名義で、自国大手銀行3社の債権に巨額投資していたことが発覚し、パナマ文書の一部公表後、たった3日での辞任である。
 次いで、イギリスのキャメロン首相が窮地に立たされた。亡父が設けたファンドに投資し、利益をあげていた。
 タックスヘイブンを経由する投資そのものは悪ではないが、「租税回避地」の名のとおり、そこでの資産逃避や運用は、高度な匿名性もあって、当たり前の納税を回避したり、不正蓄財が強く疑われるのだ。
 キャメロン首相自身、違法性はないと釈明しているが、これまで法人や個人の国際的な課税逃れを厳しく追及する急先鋒だっただけに、政治的立場は大きく揺らいでいる。6月に予定されているイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票にも影響が懸念される事態となっている。


プーチン、習近平も
 しかし西側政治家が動揺しているのに、どこ吹く風と静観を決め込んでいるのが、強権・独裁国の腐敗政治家である。
 シリアのアサドの名が出ても、「さもありなん」とさほどの驚きはないが、パナマ文書には強権ロシアのプーチンやスターリニスト中国の独裁者、習近平の関係者の名も挙がっている。
 プーチンの親友3人が、同じタックスヘイブンのバージン諸島の企業などを通じて20億ドルの金融取引を行っていた。習近平の姉の夫、つまり義兄は、モサック・フォンセカは通じて バージン諸島の企業3社を保有していた。姉の名も、挙がっているという。


政治局常務委7人のうち習近平ら3人の名が
 反腐敗を掲げて政敵を次々に失脚に追い込んできた習近平は、これまで親族を通じての不正蓄財を強く疑われていたが、その一端が露呈した。
 スターリニスト中国の不正蓄財疑惑は、習だけではない。7人しかいない中国共産党最高幹部である政治局常務委のナンバー5の劉雲山(下の写真上=北朝鮮の金正恩と)、同ナンバー7の張高麗(下の写真下)の親族も、タックスヘイブンに設立した会社の株主となっていたことが、パナマ文書に記載されていた。モサック・フォンセカを通じて、不正蓄財をしていたことは間違いないだろう。実にスターリニスト中国トップ7人のうち、半数に近い3人が不正蓄財に手を染めていた。


劉雲山、金正恩とのツーショット


張高麗

 自由なメディアと健全な野党のある西側諸国では、パナマ文書に名が挙がることは、前述のように政治的に大きな痛手を被る。ところがロシアやスターリニスト中国では、全く安泰な状況なのだ。


報道・ネット規制で情報を抑え込むスターリニスト中国
 スターリニスト中国では、問題発覚後、直ちにパナマ文書へのアクセスが禁止された。むろん国内メディアは一切、報道しない。
 ネットでも、習近平の義兄の投稿は、即座に削除される。規制は徹底していて、NHKの国際放送のニュースでも、パナマ文書の報道に入ると真っ暗になる。
 反腐敗を掲げて政治的立場を固め、今や毛沢東以来という絶対権力を掌中にした習近平だが、それだけに道義的な責任はひときわ強い。これが、政敵であったら、たちどころに逮捕であろう。
 にもかかわらず、習は今日もスターリニスト中国のトップとして振る舞っている。
 なんという不条理であろうか。


昨年の今日の日記:「バルト3国紀行:四半世紀前、残酷なスターリン主義体制から脱した国々へ」