森の賢者と呼ばれるゴリラ。普段は温和しい草食動物だが、雌をめぐって時には激しく争い、はぐれ雄が群れを乗っ取った場合は、ハーレムの雌に早く発情させるために子殺しさえ厭わない面も持つ。
 そんなゴリラは、いつ頃から現れたのか。かつては1000万年前をはるかに遡る年代が想定され、その場所もアフリカではなく、ユーラシアだったのかもしれない、という説もあった。
 しかしこの度の発表で、ゴリラ出現は意外と新しかったことが分かった。
 我々ヒトとアフリカ産類人猿(チンパンジー、ゴリラ)との分岐をうかがう重要な鍵となるゴリラの祖先の年代が改定されたのである。


2006年に発見していたアビシニクス化石の年代を絞り込む
 エチオピア・アファール地溝帯南縁部のチョローラ(写真)で調査活動を続けている諏訪元・東大教授らの日本・エチオピアの合同調査隊が、従来は約1000万年前のものとされた原始的なゴリラのチョローラピテクス・アビシニクス化石の年代を、各種の年代測定値から約800万年前と推定し直し、ゴリラの祖先からチンパンジー・ヒトの共通祖先との分岐がより新しいことを示した。英科学誌『ネイチャー』2月11日号に発表した。


チョローラピテクス出土地のアファール低地

 1200万年前から最古のヒト族と見られるサヘラントロプス・チャデンシスの700万年前との間は、アフリカアフリカ産類人猿とヒトの起源の解明にとって重要な時代だが、この間の化石は極端に少なかった。同チームらが2006年にチョローラで発見し、07年に『ネイチャー』誌に発表したアビシニクスの歯の化石(写真)は、この空白を埋める重要な化石の1つだった。


チョローラピテクスの歯

1000万~700万年前に東アフリカで多数の哺乳類の進化
 今回、チョローラでの新たなフィールド調査の詳細な地層観察、地球化学分析、古地磁気分析、アルゴン・アルゴン年代測定結果などから、化石の包含されていたチョローラ累層は、1050万年前頃ではなく900万~700万年前であることが判明、アビシニクスの年代も約800万年前頃と改訂された。
 またチョローラ層群から見つかった大量の哺乳類化石群は850万~700万年前の間に納まることが分かり、これらの化石群から1000万~700万年前にサハラ以南のアフリカで多数の哺乳類の進化が起こっていたことが推定された。この進化の中には、ケニアで見つかっている980万年前の大型類人猿のナカリピテクス・ナカヤマイからアビシニクスへという進化も含まれるという。


ゴリラの分岐は900数十万前か
 チョローラの証拠は、ゴリラ-チンパンジー-ヒトの系統の進化がユーラシアではなくアフリカで起こったという仮説を支持するものである。
 またヒトとアフリカ産大型類人猿との分岐は、従来観よりももう少し遅く、ゴリラの祖先はアビシニクス出現の直前の900数十万年前に現れていたことも推定させる。
 ここから考えると、最古のヒト族サヘラントロプスの年代は、700万年前よりももう少し新しいのかもしれない。


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