奪還間近しと見られていたシリア中部の世界遺産都市パルミラを、アサド政権軍が27日、完全制圧し、ISIL(自称「イスラム国」)を駆逐した(写真=ISILを駆逐したパルミラの神殿)。アサド政権軍は、ロシア空軍の空からの情け容赦ない空爆支援で、10カ月ぶりのパルミラ奪還を成し遂げた。


パルミラの神殿


自由シリア軍などとの停戦で余力のできたアサド政権軍
 アサド政権軍の勝利は、先月27日にアメリカとロシアの主導する停戦発効で、対ISIL戦に軍事的余裕を得たことで、パルミラ奪還作戦に注力できたことが大きかった。停戦は、アサド政権軍と自由シリア軍やクルド民兵などとの停戦で、イスラム原理主義テロリスト集団であるISILとヌスラ戦線は対象外となっているからだ。
 ISILのパルミラの失陥で、貴重な世界文化遺産の遺跡や文物がこれ以上破壊される危機は脱したとともに、ISILの黄昏が色濃くなったいることを示した。
 ISILは、イラクでも北部の要衝モスルで、有志連合の空爆支援を受けるイラク政府軍とクルド自治政府軍の攻撃で支配が危うくなっている。すでにイラク政府軍と側面支援するアメリカ軍は、モスル近郊の3つの村落を奪還している。


野蛮なロシア軍の空爆の援護のもとアサド政権軍が進撃
 ミスルまで失うと、ISILは、「首都」と称するシリア北部のラッカを支配するだけになる。すでにアメリカの空爆と特殊部隊により、ISILナンバー2や支配者バクダディの側近を殺害されており、バクダディの身辺にも有志連合の手が迫っている。
 ところでパルミラをアサド政権軍がいとも簡単に奪還できたのは、ロシアの無慈悲の空爆が大きな援護になったことを見逃せない。
 ロシア軍は、民主主義国である有志連合軍と異なり、民間人への誤爆などの懸念を厭わない。


民間人への誤爆も厭わないプーチン・ロシアの空軍の無慈悲さ
 実際、3月18、19日の両日には、ラッカでロシア軍のISILへの空爆で、少なくとも民間人55人が殺されたし、1月にはラッカ郊外の3日間の空爆で、子ども16人を含む民間人46人が殺害されている。この他、シリア東部デリゾール郊外でも子ども27人を含む民間人118人が殺されている。
 皮肉で遺憾なことに、人権を考慮しない強権プーチンのロシア空軍とやはり独裁アサド政権軍は、有志連合軍の空爆と自由シリア軍よりも対ISIL戦闘では効果的だということが立証された。ラッカを解放するのは、アサド政権軍による可能性が高まっている。


シリアの「アラブの春」は何だったのか
 ISILを追放し、解放されたシリアには、独裁者のアサドの元の政権が復活するという笑えぬ状況が生まれるかもしれない。アメリカなどの有志連合軍は、指をくわえて見ているしかないのは、何とも割り切れない。
 シリアを訪れたかつての「アラブの春」は何だったのだろうか。


昨年の今日の日記:「ドイツ、ジャーマンウィングス機墜落事件とJR西日本、宝塚線脱線事故の控訴審判決に思う」