アメリカ大統領選挙予備選も峠を越しつつあるが、共和党の候補指名獲得に向けてトランプ氏の勢いが止まらない。獲得代議員は、まだ過半数に達していないが、2位のテッド・クルーズ上院議員に約300人引離している(写真=ハイディ夫人と共に)。


クルーズ氏とハイディ夫人


トランプを止めるための苦境
 今、アメリカの共和党支持者は、深刻な苦衷の中にある。誰であれ、まじめな支持者なら、野放図な方言と差別意識をふりまくトランプ氏を支持できない。
 そこで途中から指名候補争いから降りた各候補は、やむをえない消極策として2位のクルーズ候補に乗らざるを得ない状況に陥っている。
 そうした苦衷の表れが、22日のユタ州党員集会であった。ここではクルーズ氏が3分の2超の支持を得て、トランプ氏を圧倒した。ここでクルーズ氏が勝ったことで、とりあえずトランプ氏の独走の勢いにブレーキをかけている。


前共和党大統領候補ロムニー氏は、クルーズ氏支持にやむなく乗り換え
 ユタ州でクルーズ氏が勝った事情は、共和党主流派の前共和党大統領候補だったミット・ロムニー氏が、本当はジョン・ケーシック・オハイオ州知事を支持しているのに、ユタ州党員集会でクルーズ氏に投票することを公言し、実際に投票したことに端的に表れている。
 今やトランプ氏を止めるには、2位のクルーズ氏に乗るしかないほど、共和党主流派は追い詰められているのだ。実際、ロムニー氏の他、敗退したマルコ・ルビオ氏やジェブ・ブッシュ氏らが、クルーズ氏支持に結集しつつある。


救世主(?)のクルーズ氏も問題児
 だがそのクルーズ氏も、トランプ氏に負けず劣らずの破天荒ぶりである。
 クルーズ氏は、福音派キリスト教徒で、したがって宗教右派の立場からティーパーティー(茶会派)の支持で当選した政治家だ。
 政治的には、妊娠中絶反対、銃規制反対、国民皆保険制度に反対、不法移民の合法化に反対など、まさに筋金入りの右派的主張の持ち主である。経済的には、金本位制の復活など実現可能性のない突拍子もない主張を述べ、FRBの独立性も否定する。
 とりわけ僕を含め、ほぼ全員の自然科学者から忌避されるだろう主張は、福音派らしく「進化論の否定」や「地球温暖化の否定」などだ。彼が大統領になったら、公立学校の理科で進化論は教えられなくなり、地球温暖化防止のためのパリ協定からも離脱するだろう。


オバマケア反対で上院で21時間以上も長時間演説した過去
 特にクルーズ氏の名声(悪名だと思うが)を響き渡らせたのは、2013年10月にオバマケア(医療保険改革法)に反対する立場から、予算の成立を阻むため上院で21時間以上にわたる議事妨害演説(フィリバスター)を行ったことだ。これは、1900年以降では最長の演説の1つになっている。このおかげで、予算成立が遅れ、政府機関の一部が閉鎖に追い込まれた。
 これは、オバマ政権と収拾案を合意していたジョン・ベイナー下院議長ら共和党主流派の面子をひどく傷つけ、昨年の政界引退を表明する布石ともなっている。
 クルーズ氏の主張と強硬な姿勢から、大統領当選のあかつきには不法移民対策でトランプ氏とさほど変わらぬ強硬策をとるだろう。


クルーズ大統領候補でもヒラリー氏には勝てない――そこが問題だ
 したがって共和党主流派から、クルーズ氏は極めて受けが悪い。
 それでもこの段に至ってクルーズ氏に頼らざるを得ないのが、今の共和党の窮状なのだ。
 仮に指名獲得争いがもつれこんだ党大会で、クルーズ氏が大統領候補に指名されたら、それでも民主党がヒラリー・クリントン氏である限り、大敗するだろう。
 むろん共和党にとって最善のシナリオは、第3位のケーシック氏の指名である。ジェブ・ブッシュ氏の失速後、党主流派が推したマルコ・ルビオ氏の代わりになるのは彼しかいないのだが、その指名獲得は極めて困難と言わざるをえない(23日現在の共和党の獲得代議員数は、トランプ=741、クルーズ=461、ケーシック=145)。


昨年の今日の日記:「ポーランド紀行:再びワルシャワに」