アメリカ大統領として社会主義国化したキューバを初訪問したオバマは、朝日新聞やNHKからはあたかも偉業であるかのように大きく報じられた。


独裁者の膝に拝跪したオバマ
 昨年から始まった対キューバ雪解け路線は、任期7年でレガシー作りに大わらわのオバマの足元を見た共産党一党独裁体制のキューバに招き寄せられ、去る20日~22日までキューバを訪れた。訪問中、国家評議会議長のラウル・カストロとも会談した。
 1961年以来、国交断絶中のキューバと、正常化を見据えたオバマの訪問は、上っ面だけ見れば、まことに平和的で喜ばしい光景だろう。
 しかしそのキューバは、共産党一党独裁体制のもと、甚だしい物不足で経済は停滞し、党・政府の特権層による汚職がはびこり、秘密警察の監視と密告がにより少しでも体制に不満・批判的な言葉をつぶやけば投獄される牢獄国家なのである。
 自由のない体制で、後述するように毎年、多数の政治犯が逮捕されている。


オバマの私益だけのために
 かつての人権派弁護士のオバマが、少しでも抑圧されるキューバ人民の未来を考えるなら、最低限、人権状況の改善や民主化への譲歩を求めるべきだった。しかし、ラウル・カストロとの会談でも、人権を口にしただけで、軽くラウルにいなされた(写真=大リーグ球団とキューバ選抜チームとの野球親善試合を観戦するオバマとラウル・カストロ)。


ラウル・カストロと野球親善試合を観るオバマ

 代わって、対キューバへの渡航制限大幅緩和、投資制限緩和など、昨年中に実施し、独裁者に大きなプレゼントを行っていた。オバマのキューバ訪問で、アメリカ人の対キューバ観光など大きく増える。それは、厳しい外貨繰りを強いられている独裁国家に「輸血」を施すようなものだ。
 アメリカがキューバとの関係改善で得るものは、何かあるのか? 実は、何もない。オバマのレガシー作りという個人的願望がまた1つ満たされたこと以外は。


オバマの訪問の前日にベネズエラのマドゥラがフィデル・カストロと会談
 対してラウル・カストロのキューバは、盟友ベネズエラの反米左翼政権が崩壊の瀬戸際という危機に、そのアメリカからの「輸血」を得られる。この秤は、どう見てもキューバに大きく傾いた不公正なものである。
 そう言えば、ベネズエラの独裁者マドゥラは、オバマ訪問の前日にキューバを訪問し、ラウルの実兄で、実質上の独裁権を持つフィデルと会談している。対して、オバマとは顔を合わせることはなかった。足元を見られているからだ。


かつての支援者ベネズエラはデフォルト寸前の苦境
 ベネズエラは、前大統領のチャバスの時代から、ソ連崩壊で援助を受けられなくなった対キューバ経済支援を続けてきた。原油高でベネズエラに外貨が溢れていた数年前まで、例えば年間50万トンもの原油をほとんどタダでキューバに提供していた。キューバは、この一部を輸出して外貨まで得ていた。
 それが昨年来の原油大幅安で、ベネズエラも対外債務のデフォルト寸前に窮している。支援の肩代わりをアメリカにさせよう、とマドゥラとフィデルは話し合ったに違いない。


年間8600件以上の政治犯の逮捕
 キューバの人権状況を調べている「キューバ人権和解委員会」の調べによると、アメリカとの和解が両国で合意された昨年でもキューバの政治犯の逮捕件数は8616件にものぼっている。その前年の8899件から全く改善されていない。
 オバマがキューバを訪問する直前にも、オバマが会見を予定していた政治犯が「予防逮捕」されている。
 そして政治犯の釈放を、とオバマが会談でラウルに求めても、「政治犯って誰だ?」と軽くいなされている。


ただ待っていれば、ベネズエラとキューバは共倒れしたのに
 前述したように、キューバの経済的後ろ盾だったベネズエラの反米左翼政権は、崩壊の瀬戸際だ(15年12月11日付日記:「中国初のノーベル賞理系3賞受賞の屠呦呦氏、今年の院士発表からも外れる;追記 ベネズエラ総選挙結果確定」、及び15年12月8日付日記:「ベネズエラ総選挙でもマドゥラ与党の左派大敗、中南米左翼の退潮にさらに拍車」を参照)。
 アメリカは、ただ待っているだけでベネズエラとキューバの共倒れを期待できた。いずれの独裁政権の崩壊も、人民にとって抑圧からの真の解放となったのだ。
 それなのにオバマは、自らの個人的願望を優先し、独裁政権に「輸血」した。独裁者に抑圧される民衆の救いを求める希望を裏切るオバマを、厳しく非難する。


昨年の今日の日記:「多くの私大、現状のままでいいの? 守旧の殻にこもる高額授業料に見合わない漫然たる大学教育から脱皮を(後編)」