富山の名物の寒ブリが今シーズンは不漁で、北陸新幹線開業初の旬を空振りで終えたという話題は切ない。地元は、漁業者も料亭も期待していただろうに。


天然物は大外れなら食べられない
 日本海を回遊するブリは、夏は北海道西岸まで北上し、そこでたっぷり脂肪をつけ、冬に南下してくるが、この時、海流の影響で富山湾に追い込まれて漁獲されたのが「ひみ寒ぶり」である。追い込み役の海流の流れが変わったことが、寒ブリ漁が空振りに終わった理由らしい。
 養殖物と違い、天然物の水産物はこのように当たり外れが大きい。
 ブリは、こだわりさえしなければ蓄養物であるハマチが食べられるが、深海底で育つカニは、養殖は不可能だ。


養殖不可能な深海底に棲むズワイガニ
 その天然物の雄と言えば、やはり冬の日本海で獲れるズワイガニだろう。産地によって名前が変わるが、福井の三国港から水揚げされる越前ガニは、中でも高級品として知られる。毎年、上物は皇室に献上されることでも知られる。
 1年ぶりに去る2月、越前ガニを食べに福井の三国に1泊して来た。
 深さ500メートルほどの深海底に棲む越前ガニは、年々、資源が減っている。養殖不可能なので、年々、価格も高くなっている。いずれ食べられなくなると思うと、年に1度は贅沢したい。
 天然の越前ガニは、東京などのカニを売り物にしているレストランでは絶対に食べられない。あれは、ロシア産の冷凍物で、食べても水っぽくて全く美味くない。あれを、ズワイガニの味、と思ったら、大誤解もいいところである。


最高級カニ「極(きわみ)」
 本物の越前ガニは、東京なら限られた料亭で食べられるだけだ。しかし、それでも地元の三国で食べられる物とは違う。
 今シーズンから福井県が認定した最上級越前ガニ「極(きわみ)」を食べたかったのだ。
 「極」ガニの基準は、重さが1.3キロ以上、甲羅幅が14.5センチ以上、爪の幅が3センチ以上。「極」の基準に達する越前ガニは、1シーズンに500匹前後しか獲れない。水揚げ個体数の、たった0.5%以下という希少な超高級カニだ。
 水揚げされたら、生きたままいけすに入れて泥をはかせ、客の要望に応じて茹でて出す。この生の茹でガニは、絶品の味である。僕は、世界でこれが一番美味い、と思っている。


1.7キロ物の贅沢
 昨年も食べに行ったが(この時は「極」のブランドはなかったが、大物だった)、海沿いの個室露天風呂も楽しめる旅館に予約した。冬の越前ガニが売り物のこの旅館は、数カ月前に予約しないと泊まれない。しかも「極」は、水物だけに、数日前にならないと食べられるかどうかも分からない。
 そして出発数日前、「極」3ばいが入った、と連絡が入った。最も大きな1.7キロ物を注文した。これくらいになると、1泊だけで冬のヨーロッパツアー旅行料金に匹敵する。
 午後3時頃、旅館に入る。ほどなく板さんが、今晩提供される、生きたままの「極」1.7キロ物を持って見せにきた。大皿にはみ出していた(写真)。


大皿からはみ出す「極」


前脚に「極」のタグ
 この「極」は、水揚げされてから、数日間、旅館のいけすで泥をはかされていた物だ。直後に、哀れなこの個体は大釜で茹でられることになる。
 見ると、従来の黄色いタグに加えて、「極」の文字が入った黄色タグも付いている(写真)。真正の越前ガニである証拠に、ちゃんとしたカニには水揚げ直後に黄色いタグが付けられるが、さらに、「極」タグも左前脚に付けられていた。


「極」のタグ


これだけで満腹
 夕食に出てきた「極」が、極上の味だったのは言うまでもない。それだけで腹がいっぱいになった(写真=甲羅に黒く付いているのは「カニビル」の卵。カニビルは、ズワイガニの甲羅に産卵するだけで、寄生したり、体液を吸ったりしない。かえってカニビルの卵が付いているのは、脱皮して時間がたっているのでカニの実入りがよい証拠、とされる)。


左脚にタグ

茹でた「極」

 部屋には、目の前に海とその先に東尋坊の見える個室温泉も付いている(写真は露天風呂、はそこから見た東尋坊)。この温泉には、何度も入った。


個室温泉


個室温泉から観た東尋坊

 1年に1度の最高の贅沢であった。


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