年初から始まった厳しい株安・円高は、底値を付けて、どうやら落ち着く様子である。
 上海株式市場が6.41%安と急落した25日も、日経平均株価は224.55円高と踏ん張った(写真=株値下がりに絶望の表情の株民)。2、3週間前だったら、上海に足を引っ張られる形で、きつい下げを演じていただろう。


株暴落で呆然とする株民


10年物長期国債もマイナス利回り
 しかし僕がエチオピア旅行に行っている間になされた日銀のマイナス金利導入の市場への波及は、まだまだ進行中である(写真=日銀本店)。


日銀

 短期国債ばかりか、10年物長期国債もマイナス利回りが常態となり、それが各方面に波及しているからだ。
 まず今後、住宅購入、あるいは既存ローンからの借り換えを検討している層には、空前絶後の好環境を迎えている。貸し出しの主力と位置づける各銀行は、住宅ローンの金利下げ競争が展開し、例えば三井住友信託銀行は、主力の10年固定型の金利を3月から0.2%下げて過去最低の年0.5%にする。他のメガ3行も0.8%前後だ。
 10年固定で年利0.5%など、1月29日の日銀の一部マイナス金利を導入するまで考えられもしなかった。


銀行は今やただの貸金庫
 半面、預貯金金利は、メガ3行やゆうちょ銀行、さらに地銀など、もともとゼロに近かった低金利が、例えば普通預貯金でついに極限とも言える年0.001%となった。
 定期預金金利も、1桁良いだけの年0.01%に横並びしつつある。100万円を1年預けても、税込みで100円しか利子がつかない。
 究極の低金利は、家に置いておくよりは安全なだけマシ、という程度で、もはや金利で銀行を選ぶ時代ではなくなった。銀行は、今や「貸金庫業者」となったと言える。


生保はもはや国債運用は不可能に
 10年物長期国債でもマイナス金利となると、悩ましいのは、長期運用する生損保、預かった貯金の45%を国債投資で運用しているゆうちょ銀行、そして証券会社での短期運用の主力の投資信託MMF、MRFである。
 生保が投資する超長期国債の利回りは、急低下している。これまで辛うじて1%台半ばので利子を得られた30年物国債まで、マイナス金利に引きずられて利回り1%割れ、となった。
 19日、生保協会の会長が「もはや国債での運用は困難だ」と述べたのは、本音だろう。
 こうした状況で、生保各社は、高利回りの「長期預金」の性格の強かった一時払い終身保険に逆ザヤの懸念が強まり、相次いで販売停止や払込金の値上げを打ち出している。


どうする? ゆうちょ銀行・かんぽ生命
 生保は、企業貸し出しなども行っているからまだよいが、貸し出しを規制されているゆうちょ銀行・かんぽ生命は、大ピンチである。賃貸用不動産からの収益も、生保の比ではない。
 特にゆうちょ銀行の定額貯金は、比較的利率の高かった時代の「お宝貯金」を抱えていて、逆ザヤ必至である。これから株式や外債などの投資にシフトしていかないと、大変な事態になる。
 日銀の一部マイナス金利導入で、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株価が厳しい下げに見舞われたのも、やむをえない。


MMFは「自然死」寸前
 証券各社が販売している投資信託で、1日前に通告すれば解約できるMMF、即日解約できるMRFも、とっくにマイナス金利となっている短期国債・公社債で運用しているから、いずれマイナス利回りとなるのは避けられない。今のところ、過去の短期国債・公社債が手元にあるので、まだマイナス利回り=元本割れは避けられているが、これも時間の問題である。
 MMFは、野村以外はほとんど買い付け停止となり、合わせた残高も過去最低の1.5兆円と細っており、「自然死」寸前だが、問題はMRFである。


MRFはプラス利回りを維持か
 MRFは、即日解約できるので、個人の株式購入のための待機資金の性格がある。これをマイナス利回りとすれば、個人はいっせいに証券会社から資金を逃避させ、株式購入も見合わせかねない。
 まだ避けられている元本割れも不可避の状況になって、運用会社・販売証券会社・信託銀行が共同して損失補てんし、マイナス利回り=元本割れを防ぐのに全力を注ぐ構えだ。
 ただ額が巨額(直近残高で10兆円超)なだけに、滞留すると運用する投信会社などの損失が膨らむ。ちなみに利回りは、貯金で雀の涙でしかないが、それでも銀行の定期預金に匹敵する年0.01%もある。
 では、この金融異常事態にも個人はどう対処すべきなのか。何もしなければ、老後の備えもできない。
 それは、明日へ。