先月下旬、太陽系の果てに「見えない第9番惑星」が存在するかもしれない、というニュースがかけめぐった。学術誌『アストロノミカル・ジャーナル』1月20日号に発表された論文で、エチオピア旅行の寸前のタイミングであったため紹介が遅れてしまった。


冥王星の準惑星への転落から10年の惑星の可能性
 冥王星が惑星でなくも「準惑星」として第9番惑星の地位を負われたのは、2006年のことだった。
 第9番惑星は、それ以来の登場だが、実体が捕捉されたわけではない。あくまで仮定上の存在だが、それでも新たな惑星の可能性は、僕の胸を躍らせた。
 第9番惑星の存在の可能性を指摘したのは、アメリカ、カリフォルニア大のマイク・ブラウン教授とコンスタンチン・バチギン助教だ。
 面白いのは、2人が新惑星を探そうとして研究を始めたわけではなかったことだ。


エッジワース・カイパーベルトに似た軌道を持つ小天体
 きっかけは、別の研究チームが2014年、冥王星より遠いところに「2012VP113」という準惑星級の大きな天体を発見したことだった。非公式に「バイデン」と呼ばれるこの天体は、同じく冥王星より遠いところで見つかった準惑星「セドナ」によく似た奇妙な公転軌道を持っていた。
 これらは、海王星のはるか外側の「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれる領域にある。バイデンとセドナ、それにこの2者と類似した天体を合わせた13天体は、みな良く似た軌道を持っていた。それは、未知の惑星の重力によるものではないか?


未知の第9番惑星の可能性、その半径は地球の約3倍
 両氏は、最初は半信半疑で分析を進めたが、次第に確信を強める。
 例えば13天体のうち6つは、特に軌道の向きが近い。しかも太陽と既存の8惑星が作る軌道面に対して、揃って約20度、傾いていた。
 計算すると、こうした軌道配置が偶然起こる確率は、たった0.007%だった。
 2人は、このような軌道パターンが出来た過程を解明しようと、太陽系外縁部のシミュレーションを繰り返し、太陽系外縁部の暗黒の極寒領域に、地球より大きな未知の惑星が潜んでいる可能性を得たという。
 計算で見積もると、未知の第9番惑星は、海王星よりやや小さく、質量は地球の約10倍、半径は3倍程度となる(想像図)。


第9惑星の想像図


太陽-海王星間の20倍も遠い太陽系の最果てに
 それでも地球からはそう簡単には確認できないほど、はるかに遠い。太陽から海王星までの距離より20倍も遠く(太陽からの距離は推定約900億キロ)、楕円軌道を描き、太陽の周りを1万~2万年かけて公転しているという(=Planet Nineが想定される第9番惑星)。


第9惑星の想定軌道

 太陽に最も近づく近日点は、太陽と地球の距離の200~300倍で、遠日点になると600~1200倍になる。
 なぜこんな超遠方に、未知の惑星があるのか?
 ブラウン教授らによると、この惑星は、形成時には太陽にもっと近い所にあったが、太陽系が出来たばかりの頃に外縁部に弾き出された、と推測する。この頃、太陽の近くに他の恒星があり、その重力の影響で太陽の重力がかろうじて及ぶ範囲に留まることになったのではないかという。
 かつて天王星が発見された後、その軌道の微妙なズレから、未知の惑星による重力を想定し、1846年の海王星の発見につながった。第9番惑星は、その再現となるかどうか。


発見のためにすでに「すばる」で観測開始
 第9番惑星が存在したとしても、非常に遠くて暗い(計算によると、冥王星の方が1万倍は明るい)ため、これまで発見されていなかったとしても不思議ではない。
 それだけに、「発見」も容易でないことが想像される。
 ハワイにある国立天文台の世界最高性能の「すばる」望遠鏡を駆使しても数年はかかるかもしれないという。
 ブラウン教授は、すでに「すばる」を使って観測を始めているが、ただ独占的に利用できないのが悩みどころだそうだ。
 新たな第9番惑星の発見の報を、期待している。


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