エチオピアという国は、かつては軍事政権だった。今の現政権は、軍事政権を力で倒した「準軍政」である。
空港では入口手前の歩哨所でパスポートチェック
これは、アフリカ諸国に共通する政治・軍事状況であり、軍は外敵に対して国家・国民を守るというより、国内の権力を追求する一大政治勢力の側面が強い。場合によっては、いつでも武力で政権を倒す。
そうした風土のせいなのか、エチオピアでやたら軍人が幅をきかせている。
例えば国内地方空港である。フェンスで囲まれた空港敷地内に入る際は、空港ビルのアプローチのはるか手前の門前で、バスはいったん停止し、門の歩哨所で待機していた兵士がバスの中に乗り込んできて、僕たちのパスポートと貼られたビザを1人1人、点検する。
テロの横行する国ではないので、さすがに首都アジスアベバではほとんど見かけなかったが、空港はほとんど軍事施設である。
ダナキル砂漠への観光は軍の監視・護衛付き
また破綻国家ソマリアの国境に近いダナキル砂漠は、「観光警察」という名の事実上の軍兵士の護衛無しでは立ち入れない。21日付日記:「エチオピア紀行(15):海面下の塩砂漠に吹いたマグマの生み出した多彩な温泉プール;ダナキル砂漠のダロール火山」で述べたダロール火山のツアーには、僕らの一行14人に、自動小銃カラシニコフを肩にかけた兵士(警官?)が3人も付いた(写真)。
さらに近くの塩の奇岩を訪れた時は、岩塩の奇岩に、やはりカラシニコフを構えた軍兵士が警備していた(写真)。
テロリストから国土と外国人観光客保護にしては緊張感を欠く姿
これはエチオピアが、破綻国家ソマリアの、首都モガジシオの一部しか支配していない正当政権に、アフリカ連合の一員として軍を派遣しているからでもある。戦っているのは、アルカイダ系とも言われるイスラム原理主義テロリスト「アル・シャバブ」などである。
つまり軍は、ソマリアのイスラム原理主義テロリストから僕ら外国人観光客を守っていてくれる、ことになる。ただ彼らを観察すると、緊張感はまるでない。
ダロール火山の警護兵3人は、僕らから遠くで談笑しているし(写真)、塩の奇岩に配備されていた兵士は、僕らにひどく愛想よく(上の写真のにこやかな表情を見よ)、1人1人と一緒にカメラに納まってツーショット写真撮影に応じた。
これを見ると、テロリストへの警護というより、軍人の失業対策のような気がする。
かつてエチオピアはマルクス主義党の独裁支配国家だった
冒頭で、かつて軍事政権だったと言った。
1974年、「皇統3000年」の伝統を誇るハイレセラシエ帝政をクーデターで打倒した軍は、マルクス主義者メンギスツ・ハイレ・マリアムのもと、ソ連の支援を受けたエチオピア労働者党による1党独裁制を敷いた。
エリトリア内戦などの国内諸部族との内戦もあり、統治は乱れ、折からの厳しい干ばつへの対策も行き届かず、1932年のソ連時代のウクライナを襲ったような大飢饉で100万人を超える餓死者を出した。
国家・国民の発展に無関心でイデオロギー重視の北朝鮮的支配
旧ソ連や北朝鮮ならず者集団、スターリニスト中国のように、エチオピア労働者党のスターリニスト指導者は人民の苦難は蚊に刺されたほども気にしない。エチオピアの共産主義者メンギスツら指導部も同じであった。大規模餓死者の発生は、その端的な側面と言える。
国家・国民の発展のための施策には無関心で、ただひたすらマルクス主義イデオロギーに基づいた鉄の支配と外交を展開した。
メレス・ゼナウィ率いる反政府武装勢力がメンギスツ政権を打倒
ちなみにエチオピアは、国内に80ほどの部族を抱える。部族が異なれば、言葉も通じない。この共産主義体制に反旗を翻して、エリトリア、ティグレ、オガデンの各地方で反中央政府勢力が台頭、これらの勢力との戦闘(エリトリア独立戦争、オガデン戦争、ティグレ族との内戦など)の結果、1991年に疲弊した共産体制は打倒され、武力で勝ったメレス・ゼナウィの指導するゲリラ組織が政権を掌握した。
メレス・ゼナウィも首相として独裁的権力をふるったが、対外的にはメンギスツ政権と180度異なる親欧米外交をとり、外資も積極導入し、国内はやっと安定期に入った。
ちなみに反欧米のメンギスツ政権が続いていた場合、僕たち外国人観光客もエチオピアを訪れられなかっただろう。
メンギスツ支配の「失われた17年」を取り戻す現在
しかしこれまで紹介してきたように、エチオピアの民生は遅れ、産業もインフラも貧弱極まりない。メンギスツ共産政権の地獄のような「失われた17年」の傷跡は、深い。
エチオピアに平和を取り戻したメレス・ゼナウィは2012年に病没する。今は、ゲリラ上がりの後継者が政権を運営している。
その意味でメンギスツ共産政権を倒したメレス・ゼナウィは解放者で、今でもエチオピア国内の幾つかの場所で肖像画が見られた(写真=タナ湖畔のランチを食べたレストランに架かっていた肖像画の左。ただ奇妙にも、その隣、すなわち中央にメレス・ゼナウィが倒したマルクス主義者のメンギスツが並んで描かれている。全く「?」、「意味不明」の肖像画だ。右端は、イタリアのエチオピア侵略を打ち破った救国の名君とされたメネリク2世。左右の人物選択には異論はないけれど、この絵は何?)。
昨年の今日の日記:「日本を買い占めるスターリニストの成金ども」