再びスターリニスト中国のエゴ丸出しの経済政策が先週の世界のマーケットを揺るがせた。
 11日朝、中国の中央銀行である中国人民銀行は、突然、人民元の対ドルレートの基準値を前日比1.85%元安・ドル高に引き下げると発表したのだ。たった1.85%と言ってはいけない。これだけで、実に2年4カ月ぶりの元安となったのだ(写真=人民銀行と人民元)。


中国人民銀行と人民元


2日連続で大幅切り下げ
 この発表で、翌12日のニューヨーク株式市場は、前日比212ドルも下げたし、それ以前に市場が開いてい欧州各市場も軒並み大幅安となった。中国人民銀行が、強引に人民元安に乗り出したことで、中国の経済実態はかなり悪い、と世界中が大きく身構えたのだ。
 この不安をさらに煽るかのように、中国人民銀行は翌12日も前日の基準値(1ドル=6.2298元)に比べ、1.61%元安・ドル高の基準値を発表した。
 ニューヨークの大幅下げと市場が開いたすぐ後に元安誘導の伝わった東京市場も、327円98銭安の2万0392円77銭と、大幅下げに見舞われた。
 これにより、ギリシャとユーロ圏の動揺がひとまず終息した世界の金融市場に「中国危機」という激震が走り、各国金融当局はスターリニスト中国へ日に陰に圧力をかけだした。


3日目の午後に突然に元安誘導を中止
 自国の都合による我が物顔の為替操作には、特に対中大幅貿易赤字を抱えるアメリカが、財務省と議会を中心にブーイングを浴びせた。
 3日目に当たる13日朝も、基準値を1.11%元安・ドル高に設定した(この3日間で基準値ベースで4.65%の元安・ドル高へ誘導し、実に6年ぶりの元安・ドル高を演出した)が、の1ドル=6.4010元とした。さすがに厚顔無恥のスターリニスト中国の我が物顔の為替操作も、ここまで、だった。
 世界金融市場の動揺が自国に跳ね返るリスクを認識し、あるいはまたアメリカからの抗議が伝わったのか、午後に逆にドル売り・元買いの介入を余儀なくされ、元・ドル相場は急速に値を戻した。それとともに、各国の為替市場と株式市場も、やっと小康状態に入った。


習近平の苦境を浮き彫りに
 3日目に見せた人民銀の分かりにくい対応こそ、人民銀を動かした党中央の浅薄さを示したものはない。
 自分勝手な為替操作で世界市場が動揺し、逆に自分たちが返り血を浴びて経済に悪影響を及ぼしそうになったから、慌てて取り止めたのだ。それが3日目の朝に切り下げ・午後に為替介入で人民元安阻止、という対応になった。彼らも、これほど世界のマーケットが動揺するとは思っていなかったのではないか。
 そして今回のエゴ丸出し人民銀による突然の元安誘導は、逆に今のスターリニスト中国、中でも唯一独裁権力を固めつつある習近平の苦境を明確化させた、とも言える。


経済不振打開の窮余の一策だったが
 元安誘導の狙いが、自国の輸出支援と、GDP成長率の低下食い止めの窮余の一策であるのは、誰の目にも明らかだった。それ以外、突然の元安誘導に説明がつかないからだ。
 7月のスターリニスト中国の主要経済統計は、輸出、生産、投資、消費が軒並み悪化した。
 例えば8日に発表された貿易統計である。それによると輸出は、前年同月比で8.9%も減ったのだ。減り幅は、前月よりもさらに大きくなっている。さらに1月からの累計では、前半の伸びの「貯金」を食いつぶして前年同期を0.8%も下回った。
 ただし、「なるほど元安誘導も仕方ないか」と同情するに値しないのは、同時に輸入額も落ち込み、その落ち込みが大きかったために逆に貿易黒字がむしろ膨らんだからだ。


成金がなりふり構わずさらに蓄財に励む図
 輸入は、昨年11月以来、9カ月連続の前年同月比割れで、そのため貿易黒字累計は今年1月~7月で、前年同期よりほぼ倍増し、1兆8700億元の巨額に達している。肥った成金がさらにカネをなりふり構わぬ蓄財に励む、という図式である。
 世界各国が圧力をかけだしたのは、これで見れば明らかだ。だからエゴ丸出しと言ったのだ。
 しかし輸入が輸出以上に減っているのは、中国の消費が落ち込んでいることを物語る。6月の株バブルの崩壊の影響がまだ現れないうちちから、軒並み不振に陥っている。


7月の新車販売台数7.1%減、生産台数は11.2%減
 例えば中国国内の7月の新車販売台数は、前年同月比で7.1%減と、大幅な落ち込みとなった。マイナスは4カ月連続だが、株バブル崩壊の余波と思われるのは、落ち込み幅がリーマンショックで新車販売が急減した08年12月の11.6%減以来の大きさだからだ。
 大波にさらわれているのは、フォルクスワーゲンやGM、そして中国ユーザーから評判の悪い国産車で、これらは販売店店頭で2万元も割り引いても買い手がいないという。逆に日本車は、トヨタとホンダが絶好調だそうだ。
 販売在庫が積み上がっているから、生産も振るわず、こちらは11.2%減である。乗用車に限ると、26.3%減と、減少幅は前月の倍以上に達している。


経済実態を表す総発電量は2%減
 自動車が売れないのだから、在庫の山となっている鋼材も減る。7月の鋼材生産量は、前月比1.9%減で、それまで底ばいながらわずかに増えていたのがマイナスになった。
 数字の偽造が明らかなGDP成長率を信用しない首相・李克強が最も重視するのは、企業活動と消費を強く反映する総発電量であるが、こちらも2%減、と4カ月ぶりに減少した。
 こんな状態だから、7月の卸売物価指数が7月は前年同月比で5.4%も下落したのも当然だ。6年ぶりの大きな下落であり、企業活動が縮んでいることを如実に物語る。


数字を偽造しても成長率は5%がせいぜいか
 スターリニスト中国の党・政府官僚の打ち出の小づちだった不動産開発投資も、さらに落ち込んでいる。重慶市などでは、過去の過剰投資のツケで、高級オフィスビルの空室率が50%を越えているという。
 1~6月期は、何とか数字を偽造して7%成長を発表したが、この時も多くの西側エコノミストは、実態は4%成長程度、と推計していた。7月の落ち込みで、どんなに数字を操作しても、5%に乗せるのがやっとだろう。
 河北省の保養地で共産党首脳部や長老らを集めて開催中の北戴河会議で、習近平ら指導部は長老たちから経済の減速をめぐって厳しい批判にさらされているに違いない。おそらく唐突な人民元切り下げは、習近平の長老ら批判派の懐柔策だったのではないか。


経済減速に追い打ちかける大爆発による天津港の操業不能
 この苦境に追い打ちをかけるように、世界貿易港第4位だった天津港が、12日に起きた化学物質倉庫の大爆発事故で操業不能に陥っている(写真)。


天津大爆発

 この爆発事故では、またしても大規模なメディア規制が敷かれ、原因も実態も明らかにされないままだ。しかし輸出入の大動脈が壊死状態とあっては、減速する経済にさらに足枷をかけることになる。
 この大爆発事故ですら、一切の危険性も公開されず、保安体制は事実上の業者任せ、というスターリニスト中国の病弊によるものだ。定められたユルフンとも言える保安規則の違反すら、市党委と市政府が、情実とカネでお目こぼししている末期的スターリン主義体制のもたらした悲劇と言える。
 いずれこの体制破綻は、中国沿海部に林立する原発の事故となって表れるかもしれない。


昨年の今日の日記:「ポーランド紀行:キュリー夫人の生家と博物館、そしてポロニウム;紀行、物理化学」