長年、友好関係を結んでいた軍政ミャンマーとスターリニスト中国の関係がにわかに緊張してきた。


ミャンマー軍が中国系武装組織と戦闘
 中国メディアが伝えるところによると、去る13日、ミャンマー・コーカン地区と国境を接する中国・雲南省にミャンマー軍機が飛来し、爆弾を投下し、農作業中の農民4人が死亡、9人が負傷したという。ただミャンマー政府は、この事件を認めていない。
 爆弾が投下されたと伝えられる場所と目と鼻の先のミャンマー・コーカン地区では、2月9日以来、中国系コーカン族で組織されるミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA=写真)とミャンマー国軍との戦闘が続き、これまでに150人以上の死者が出ているとされる。




 もし中国メディアが伝えるのが事実とすれば、MNDAAは戦闘機を持っていないので、ミャンマー軍機がMNDAAを狙った誤爆の可能性が高い。MNDAAとこれを掃討するミャンマー軍との戦闘が開始されて以来、中国人に死者が出たのは初めてだ。


タン・シュエ軍政と中国との友好関係は今は昔
 さっそくスターリニスト中国外務省は、在北京のミャンマー大使を呼びつけて厳重に抗議するとともに、駐ミャンマーのスターリニスト中国大使も首都ネピドーでサイ・マウ・カン副大統領やミン・アウン・フライン軍総司令官と会談して空爆を抗議した。
 さらに翌14日には「人民解放」軍制服組トップである中央軍事委副主席の范長竜も、ミャンマー軍のミン・アウン・フライン総司令官に電話し、「同様な事態が続けばわが軍は果断な措置を取る」と警告した。
 2011年3月にテイン・セイン現大統領が就任して以来、ミャンマーは軍政色を薄め、国内民主化を進め、それまで経済制裁を受けていた欧米と関係改善を進めてきた。それと反比例するように、前任大統領のタン・シュエ時代までは親密な友好関係を続けてきたスターリニスト中国とは徐々に距離が開いてきた。
 今回のようにスターリニスト中国の軍制服組トップが直接、ミャンマー軍総司令官に警告するほど関係が緊張したのは初めてだ。


武装組織にスターリニスト中国が組織的支援か
 さて、それではミャンマー軍と衝突するMNDAAとコーカン族とはいかなる存在か。
 MNDAAを構成するコーカン族は、清朝に追われて中国から移住して来た漢族の子孫だ。したがってスターリニスト中国に民族的に一体感を持つ一方、ミャンマー中央政府への帰属意識は薄い。
 このコーカン族が1989年に独自の創設した武装組織が、MNDAAだ。これによりミャンマー中央政府の支配から離脱した。規模は数千人程度だが、指導部はスターリニスト中国はもちろん世界の華僑に支援を呼び掛けている。
 それもあってか、武力衝突の後の2月下旬、ミャンマー軍指揮官が異例の記者会見を開き、MNDAAに中国人元兵士が参加していると非難した。これをミャンマーのメディアがいっせいに取り上げ、MNDAAを中国が組織的に支援しているとの疑念が深まった。


今秋の総選挙を控え与党支持取り付けに追い風
 さらに元陸軍中将で華人出身でもあるテイン・セイン大統領も、「領土を1インチたりとも失ってはならない」と国軍を激励、徹底抗戦を指示している。
 こうしてミャンマー国内では、国軍支持と中国への警戒感が一気に高まっていた。爆撃騒動は、その中で起きた。
 テイン・セイン政権にすれば、スターリニスト中国と大規模な軍事衝突に至らなければ、現状は好都合とも言える。
 なぜならミャンマーは今秋に総選挙を控え、勝利が確実視されるアウン・サン・チー氏率いる国民民主連盟に対し、現状の愛国心の高まりで政権与党への支持取り付けが期待できるからだ。
 アウン・サン・チー氏は、昨年12月に独自に訪中するなど、親中色を強めている。野党への牽制にもうってつけだ。


スターリニスト中国の狙いはロシアに倣った他国領土切り取りか
 一方で、スターリニスト中国は何の目的でMNDAAを支援するのか。
 うがった見方をすれば、昨年にウクライナ憲法違反の「住民投票」で強引にクリミアを併合し、その後もウクライナ東部に軍事干渉し、「親ロシア独立国」を作ったロシアに倣って、ミャンマーの漢族支配地に親中「自治共和国」を作りたいのかもしれない。
 スターリニスト中国の膨張主義は、東シナ海の尖閣諸島領海侵犯と南シナ海でのスプラトリー諸島の強奪など、際限がないが、ミャンマー国境地帯でもMNDAAを使っての新領土獲得の好機、ととらえているのかもしれない。
 であるならば我々は、テイン・セイン現政権を断固支持すべきだろう。


昨年の今日の日記:「モロッコ紀行:日本人のバイイングパワーでアルガンオイルが空に;追記 クリミアを仕切るプーチンの傀儡のアクショーノフとは」