これが、イスラム国の真の目的だったのだ。後藤健二氏と湯川某の2人の日本人を人質に2億ドルという法外な身代金は、やはりただのプロパガンダに過ぎなかった。


ヨルダンで拘置中の死刑判決を受けた女テロリストの解放を求める
 日本時間の24夜11時過ぎ、動画投稿サイトYouTubeに、イスラム国に人質となっている後藤健二氏が湯川某の写真を手にした画像が投稿された(写真)。


声明を読まされる後藤氏

 後藤氏はイスラム国から言わされた声明を伝えているが、それによると湯川某は殺されたとし、イスラム国はもはや身代金を求めておらず、私(後藤氏)の解放の条件としてヨルダンで投獄されている元アルカイダの女テロリストのサジダ・リシャウィ(写真=ヨルダンの拘置所内のサジダ)の解放を求めている、と述べている。


拘置中の女テロリスト

 この女性は、2005年11月にヨルダンの首都アンマンの3つの高級ホテルで自爆テロを図ったイラク人テロリスト。この無差別テロでサジダの夫は自爆し、60人ほどを殺害した。サジダは、腹に巻いた爆弾が見つかり逮捕され、裁判で死刑判決を受けている。


「2億ドル」要求で存在感誇示に成功
 イスラム原理主義テロリストからすれば、サジダは「殉教者」の妻で、当局に「捕虜」になった英雄である。奪還は、彼らにとって大きな意味がある。
 イスラム国は、当初、2億ドルという日本人人質に巨額身代金を突きつけることで、日本ばかりか世界に存在感を誇示できた。そのうえで巨額さもあって、日本政府が要求に応じないことを最初から織り込んでいた。
 そして期限の72時間が過ぎて、湯川某の殺害を告知する後藤健二氏の画像を流して、後藤氏に言わせる形でヨルダンで投獄されているサジダの解放を日本政府に求めた、というわけだ。


後藤氏を生かして声明を読ませることにイスラム国の底意
 湯川某が殺されて後藤氏が生かされていることにも、彼らの意図がうかがえる。まだほとんど実態はないとはいえ、民間軍事会社の経営者である湯川某に対しては、イスラム国も敵視している。肉親にも見放されたうえ、日本国内にも同情はない。
 しかし紛争地の子供たちを支援するボランティアであり、国際ジャーナリストでもある後藤氏は、「戦争」をしているアメリカやイギリスの国民ではなく、平和国家の日本人である。彼を、アメリカ人、イギリス人ジャーナリストのように殺害すれば、イスラム国は世界中から最大限の非難を受ける。


ヨルダン側にテロリスト解放をお願いしなければならない困難
 したがって後藤氏は、ヨルダンで投獄されている女テロリストの交換とする最も価値ある人質であった。しかもほとんど価値のない人質の湯川某を殺害したとすることで、日本政府に最大級の圧力をかけることができる。
 日本政府は、ヨルダン政府にサジダ・リシャウィの解放をお願いしなければならないという困難な局面に立たされた。
 ヨルダン側も、大量殺人の共謀共同正犯であるテロリストの解放は、テロリストの次への要求を招くから受け入れにくい。
 ただ幸いにも、ヨルダンは親日国でもある。おそらくアブドラ国王は、「捕虜交換」に理解を示すだろう。


撃墜パイロットとセットで交換か
 さらにヨルダンもまた昨年12月24日に、イスラム国支配地域であるシリア北部のラッカ付近で撃墜されてイスラム国に捕虜になったヨルダン軍戦闘機のパイロット、モアズ・カサスベ中尉(写真)との交換交渉を続けていた経緯もある。


捕虜になったヨルダンのパイロット

 パイロットとセットでの後藤氏の女テロリストの解放は、ヨルダンにとって困難ではないだろう。アメリカに対しても、日本政府から強く要請されたと説明すれば、面目が立つ。


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