銀行などの為替・債券・株式トレーダーは、一体いつ休んでいるのだろうか、と気の毒に思う。特に為替は、世界のどこかで不意に起こった出来事が円やドルを瞬時に動かすので、持ち高をもったまま週末を迎えられないのではないか、と深く同情する。いくら仕事とはいえ、である。


スイス中銀の突然の発表が「乱」の引き金
 例えば先週末16日の東京株式市場は、一時は前日比500円以上も下げる「暴落」となった(終値は244.54円安)。
 一時500円以上の大幅下げを演出したのは、前日のニューヨーク外為市場の円高ドル安、そして16日当日の東京市場の円高ユーロ安である。前日のニューヨークでは一時1ドル=115円台まで上げたし、当日の東京市場の円相場は対ユーロで前日比4円近く上昇し、1ユーロ=135円を上回った。
 その不意の円高の原因は、と言えば、遠いヨーロッパの小国(しかし金融大国でもある)スイスの中央銀行による15日の突然の発表であった。


スイスフランが対ユーロで一時30%も暴騰
 スイス中銀は、一方的なスイスフラン高を抑えるために、1ユーロ=1.20スイスフランに固定するスイスフラン売り・ユーロ買いの無制限介入を行っていたが、この日、1ユーロ=1.20スイスフランという対ユーロの上限を撤廃する、と突然に発表したのである(写真はスイスフラン紙幣)。


スイスフラン

 誰もが予想していなかったこの発表を受けて、ヨーロッパの外為トレーダーはパニックに陥り、一斉にスイスフラン買いに走った。そのため短時間に前日比約30%もの急騰の1ユーロ=0.85スイスフランとなった。
 これがいかに驚天動地の大変動だったかは、例えば円が対ドルで1日に35円も動く事態を想像してみればよい。いまだかつて1日で円がこれだけ動いたことは、ない!


「風が吹けば桶屋が儲かる」
 スイスフランの買い持ちをしていたトレーダーは大儲けし、逆に売り持ちしていたトレーダーは回復不能の大打撃を受けたに違いない。
 このスイスフランの激動が、ニューヨークに波及し、次いでそれが東京にも伝播し、強い通貨とされる円が買われて円高となり、それが16日の東京市場での株の大幅下げとなったという次第。
 まさに「風が吹けば桶屋が儲かる」である。いや、正確には「損する」か。


スイスフラン売りのFX投資家も大打撃
 ちなみにこの「スイスフランの乱」は、外為トレーダーだけでなく、外国為替証拠金取引(FX)を行っている国内の個人投資家をも巻き込んだ。スイスフランは、普通には滅多になじみのない通貨だが、FX取引ではけっこう活発な取引が行われていて、通貨別には5位くらいの取引高という。
 この日、スイスフラン売り・円買いのポジションを組んでいた投資家も、瞬時に莫大な損失を被った。スイス中銀の1ユーロ=1.20スイスフランでの固定は、半ば一国の中銀の国際公約である。そのためスイスフランの上昇は限られる、と安心してスイスフラン売り、に賭けていたのである。
 その梯子が外された。


為替相場に手を出すものではないという教訓
 16日の東京市場では、ヨーロッパ市場に連動し、スイスフランは1日で対円で20円も円高となったのだからたまらない。ロスカットも間に合わず、1日で数千万円もの損失を出した、という投資家もいるらしい。よほどの富裕層でない限り、回復不能な損失だろう。
 ヨーロッパでは大手のFX取引業者でも、倒産・事業継続不能に陥った所もあるらしい。
 トレーダー、スイスフラン取引の個人投資家にとって、命の縮まる1日だったに違いない。長生きできないね、これでは。
 為替相場などに手を出すものではない、という教訓である。ただ、仕事で外為トレードをしている銀行マンなどには、本当に気の毒だ。


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