ヨーロッパのイスラム原理主義テロリストがまだ集団サイズの攻撃ができない中で、さながら「軍」のように、国内政府軍に対しゲリラ戦と無差別テロを展開しているホット・エリアが、世界に7カ所ある。


ナイジェリア北東部で傍若無人に振る舞うボコ・ハラム
 アフガニスタン、パキスタン、シリア・イラク、イエメン、リビア、ソマリア、そして西アフリカのナイジェリアである。数え上げてみれば、2000年代に彼らテロリストの活動していたのがアフガニスタンに局在されていたことからして、驚くべき「成長」ぶりだ。
 いずれも共通するのは、現地の政権が弱いことだ。イスラム原理主義テロリストは、その真空の中で成長する。
 中でも、アフリカきっての産油国でアフリカ1の大国なのに、統治能力を欠く西アフリカのナイジェリアの「ボコ・ハラム」は、同国北東部の一部をほとんど「解放区」のようにして傍若無人に振る舞っている。


先週1週間でパリのテロの100倍もの犠牲者
 ボコ・ハラムのテロリスト集団は、政府軍をあざ笑うかのように、統治下以外の村落を襲う。先週だけでも、数百人から数千人の住民が虐殺されたと見られる。
 これは、パリの2件の連続テロの犠牲者数が13人だったことと対比すれば、驚くべき死亡者数である。パリのテロの100倍に近い死者が出ているのに、国際社会はほとんど無関心である。
 ボコ・ハラムについては、本日記14年5月8日付「アフリカ1の大国ナイジェリアで、イスラム原理主義テロリストが女子校を襲撃、大量の女生徒を拉致」でも述べた。
 さらに戦慄すべき出来事が、最近、2件相次いだ。北東部ボルノ州の州都マイドゥグリの市場で、10日に自爆テロがあり、少なくとも19人以上が死亡した。「戦慄すべき」と言ったのは、自爆犯が若い男性ではなく、10歳前後の少女だったことだ。


何も知らない少女を「自爆犯」にすることに吐き気
 イスラム原理主義テロリストは、天国での安逸を「約束」されて「殉教」のための自爆を行う。そこには肌も露わな美女が集まっていて、たくさんのご馳走で毎日、歓待してくれる、と吹き込まれる。だから、自爆犯は若い男性なのである。
 しかしボコ・ハラムの使ったのは、分別もつかない少女だった。少女は、体に爆弾を巻き付けられ、人ごみに放たれ、遠隔操作で爆弾を爆発されたのだ。
 翌11日には、マイドゥグリの西約200キロのヨベ州ポティスクムの市場でも、少女2人による「自爆」テロが起こり、少なくとも3人が死亡した。少女2人の年齢ははっきりしないが、10歳前後とも、15歳と23歳とも報道されている。


村や学校を襲撃して拉致した少女を「人間爆弾」に
 前掲日記でも述べたが、ボコ・ハラムは昨年4月にボルノ州チボックの女子学校を襲い、200人以上の女生徒を誘拐し、その後、「奴隷として売り払った」、「ムスリムに改宗させて戦士と結婚させた」などと宣伝している(写真=ボコ・ハラムが公表した誘拐された女生徒たち。ほとんどキリスト教徒だったのに、イスラム風のチャドルを着せられている)。


ボコ・ハラムに拉致された女生徒たち

 この他、昨年12月には同州の村を襲撃し、180人もの子どもと女性を誘拐している。
 2つの市場で「自爆犯」に仕立てられた少女は、誘拐された少女の可能性が高い。
 イスラム原理主義テロリストがどんな崇高な理念を語ろうとも、こうした吐き気を催させるような少女を使った「人間爆弾」攻撃を仕掛けている以上、殲滅させなければ正義は通らない。


国境の軍基地を占領
 ところが肝心なナイジェリア政府軍が脆弱と来ている。新年3日には、ボコ・ハラムのテロ集団に同州バガの軍基地が襲われ、基地を制圧されるという失態ぶりだ。
 同基地は、チャドとニジェールに隣接する国境近くにあり、各国合同部隊の司令部としても使われていた重要な軍事拠点だった。
 ボコ・ハラムは、政府軍から奪ったその基地を拠点に、周辺の町や村を襲い、無差別テロを行っているのだ。
 さらに12日には、ボコ・ハラムは東南の隣国カメルーンに数百人規模の部隊で越境し、カメルーン軍と交戦している。出撃拠点になったのは、奪われた基地だ。


ナイジェリア政府内の分裂は深刻
 ナイジェリア政府のボコ・ハラムに対して一貫しない姿勢が、そうした弱さを招いていることは明らかだ。昨年10月、同国政府はボコ・ハラムと停戦したと発表し、外国政府を呆れさせた。誘拐や無差別テロを繰り返すテロリストとの停戦などありえるのか、というわけだ。
 果たしてボコ・ハラムは、政府の停戦発表直後に、「我々は誰とも交渉していない」と全面否定する声明を出した。
 すなわちナイジェリア政府は、ボコ・ハラムとの対決に自信を失い、融和姿勢に陥った弱腰派と、あくまでもテロリスト根絶を訴える正当派に分裂しているのだ。


装甲車まで持ち重武装のボコ・ハラムはアフリカで最も危険
 政府がこれだから、軍も腰が定まらない。兵士の士気も低く、ボコ・ハラムに攻撃されると抵抗もせずに、武器を捨て去って逃亡する。また戦線を離脱して逃亡する兵も続出しているという。
 バガの基地でも、軍はほとんど抵抗らしい抵抗もせずに、基地を放棄したらしい。後に遺棄された大量の武器・弾薬がボコ・ハラムの手に落ちた。
 プロパガンダにしろ装甲車を背に声明を発表するボコ・ハラム幹部の写真を見ると、彼らの装備は侮れない。すべてナイジェリア政府軍から分捕ったものである。


ボコ・ハラム

 これらを見ると、もはや一人前の軍である。しかも一般民衆を虐殺し、女・子供を誘拐するテロリスト集団でもある。現在のアフリカで最も危険な集団だと言える。


欧米諸国はなぜボコ・ハラムに関心を寄せないのか
 人口1億8000万人のアフリカ1の大国のナイジェリアで、北部はムスリムが多数を占めるが、南部はイギリス植民地時代以来の伝統でほとんどがキリスト教徒だ。
 したがってナイジェリア全土がボコ・ハラムの支配下に落ちることはないと思われるものの、北部をボコ・ハラムに支配されるようになると、巨大な人口のゆえに国際社会にとって憂慮すべき事態となる。
 何しろ何も知らない少女をも「人間爆弾」に仕立てる連中である。北部を支配されてしまえば、西アフリカ全域の国々がボコ・ハラムの軍門に下る。そこからリクルートされた自爆犯は、欧米各国に散り、各国で自爆テロを仕掛けてくるだろう。
 「イスラム国」の脅威が叫ばれる一方、国際社会の関心が乏しいナイジェリアのボコ・ハラムの脅威に、欧米各国はどうして無関心なのか。
 地理的遠近の差が原因だとすれば、あまりにも甘すぎるのではないか。


首魁は既に死亡したが
 写真はボコ・ハラムの首魁「アブバカル・シェカウ」。ただし本物のアブバカル・シェカウは既に戦死し、今はアブバカル・シェカウの威光を利用し、多数がその名を自称しているという。


首魁アブバカル・シェカウ

  あらためて中央の写真のインターネットで声明を発表するボコ・ハラムの幹部を見て見よう。装甲車を背景にしていることから、小国の軍並みの装備を持つ。


昨年の今日の日記:「スターリニスト中国で覚醒剤村摘発、押収量は3トンも;追記 過去最高の経常収支赤字に危惧」
・「追悼の譜:1年後の悲報の衝撃」