今回もまた、都知事選は「後出しじゃんけん」が演じられた。
 都内に1基も原発がないのに、原発即時停止を事実上ワンイッシューで訴える「細川の殿」である。5000万円もらって辞めた知事の後任を選ぶ選挙で、佐川急便から1億円もらった人物が出るのもどうかと思うが、「後出しじゃんけん」はやはりアンフェアな印象が強い。


「後出しじゃんけん」は自信のなさ?
 昨日23日の告示の前日に、細川の殿は都庁で正式に立候補表明した(写真)。当初、15日に記者会見して立候補表明をするとしていたのに、再三、延期して、それまで政策討論を回避し続けた。脱原発のメディアへの露出を妨げないのに、政策論争に応じなかったのは、政策の付け焼き刃と佐川急便問題に自信がなかったのだろう。


記者会見する細川

 例えば細川の殿は、首相に就いた1993年、原発政策を引継ぎ、原発推進を進めた。それが、今は「不明を恥じる」と翻している。
 細川の殿は、自作の陶芸品を「元首相」の肩書きをバックに何十万もの値段を付けて売っている人物だが、その作陶に使う釜は電気炉ではないのだろうか。つまりこれまで作られた飯のタネの陶芸品の3割は、原発で作られたことにならないのか。
 そして、細川の殿にはボケ菅も応援しているという。悪評の方が高いボケ菅の勝手連的応援はさぞかし迷惑なことに違いない。


「五輪辞退」を語っていた人物の無定見
 細川の殿のご乱心は、これだけではない。一番の問題と思うのは、昨年12月27日に緊急出版された、一時は都知事候補にも擬せられた池上彰氏の著書『池上明が読む小泉元首相の「原発ゼロ」宣言』で、「五輪辞退」を主張していたことが明らかにされたことだ。
 これが、どんなにトンデモ発言であるかは、子どもでも分かる。仮に五輪を辞退すれば、日本は国際的な信用を失う。さらに世界中に、日本は原発の放射能で危険だ、と発信するようなものだから、観光客も来なくなる。スターリニスト中国や韓国は、「それ見たことか」と囃し立てるだろう。
 そうしたことすら思い及ばず、JOC関係者はもちろん政財界がオール・ジャパンで推し進め、やっと招致に成功した五輪返上とは――。
 この発言が公になると、都知事選に不利とばかりに、これまた豹変し、22日の立候補表明では、五輪オーケーという。ただ東北復興の一助として、「東京・東北五輪」だという。招致のために提出した基本計画を変更するには、IOCの許可がいるが、そんなのおりるはずはない。それすら分からないのだろうか。
 佐川マネー以前に、思いつきで語るだけのこの人には、やはりメガロポリス東京都の首長の資格はない、と断じざるを得ない。


変節の徒に共感できないけれども
 現在、最有力とされるのは、元自民党参院議員で厚労相を務めた舛添要一氏だが、小泉ジュニアがいみじくも指摘したように「自民党が一番苦しい時に、砂をかけて出て行った」人物だ。リブパブリは変節漢は嫌いなので、もし都民だったら、自民が支援しているので悩むところだ。
 政策的に一番明快で、筋が通っているのは、田母神俊雄氏だろうが、ネット上では一番人気ではあっても、いかんせん組織もなく、当選は難しいだろう。


舌鋒鋭く細川批判を加えた宇都宮健児
 さて前記したように、細川の殿のご乱心出馬で、一番、迷惑を被ったのは、共産・社民推薦の反原発派の宇都宮健児だ。だからなのだろう。22日の記者会見「今回の都知事選は異常だ。いまだに政策討論が行われていない。政策討論のない人気投票なら、AKBの選挙と同じだ」と、細川の殿に的を絞った批判を加えた。
 宇都宮は、よほど腹に据えかねたに違いない。細川の殿の出馬が持ち上がった後、社民党を含めた反原発の諸団体・個人から、同じ反原発の宇都宮健児との一本化の要望が湧き上がった。それは当然、「宇都宮降りろ」ということだ。
 日弁連会長選に2度までも出た出たがり、目立ちたがりの宇都宮が降りるわけもないが、先に手を上げた者が後出しじゃんけんのズルに譲るのは、筋が通らない。


党勢拡大に絶好の場、ゆえに細川との一本化は絶対拒否
 ただその背景には、強硬に突っぱねた共産党がいる。
 なぜ共産党が細川の殿への一本化に乗らなかったのかと言えば、都知事選が党勢拡大の宣伝の場として絶好だからだ。細川の殿がもともと保守だから、ではない。各地の自治体選で元自民党の保守候補に相乗りしたことは、いっぱいある。
 そもそも東京の共産党の基礎票は50~60万票で、5人を選ぶ参院東京選挙区と違って、1人だけを選ぶ都知事選に、どんなに頑張っても宇都宮が当選しそうもないことは、志位和夫だって承知の上だろう。
 もともと共産党は、当時のソ連でチェルノブイリ型原発を盛んに増設していたことから、原発には否定的ではなかった。昔、社会党系の原水禁が、部分核実験停止後、核実験禁止運動に行き詰まった後、反原発に転じた折、その点を批判していたくらいだ。


「社民主要打撃論」戦術の標的は細川の殿
 その共産党だが、宇都宮健児を押し立てて党勢拡大に望む。
 スターリニストの戦術の常として、昔から行われていた「社民主要打撃論」がある。つまり政治的に最も近いがか弱い社民派を叩いて、敵より先に潰す、という戦術だ。今度の場合、「社民」は細川の殿である。共産党と宇都宮による細川の殿攻撃は、これから勢いを増すだろう。細川の殿の票を減らすことは、とりもなおさず自党の党勢拡大に寄与するからだ。
 さて、その共産党。
 先の15日から18日まで、静岡県熱海市の伊豆学習会館で第26回大会を開いていたが、そこで書記局長が交代した。


65歳以上の層が全党員の半数を占める超高齢化政党
 テレビでもおなじみのスポークスマンの役割を果たしていた市田忠義(71歳)が副委員長に退き、53歳と若い書記局長代行の山下芳生が新書記局長になった。
 昨夏の参院選で初当選し、今や共産党のプリンセス、プリンスとなった吉良佳子(31歳=東京選挙区)と辰巳孝太郎(37歳=大阪選挙区)は、准中央委員に選出された。
 年功序列の共産党で、こうした若返りや若手を抜擢するのは、日本全体の平均を上回る共産党の超高齢化がある。
 党員に占める団塊の世代=65歳以上の割合は、今年1月現在で5割になっているという。97年には、この割合は2割だったから、恐るべき超高齢化の進行だ。


20年後に共産党はなくなる?
 一時は「蟹工船」ブーム、年越し派遣村などで、ニートの若者を掴もうとしたが、せっかく党員に獲得しても、どんどん落ちこぼれていってしまい、残っていないことを物語る。
 党員数も漸減傾向だ。97年には37万人いたが、今年1月現在では30万5000人へと減っている。最盛期は、50万人と言われた。
 このまま行けば、20年後には党はなくなる見当だ。党職員は、失業である。
 中国や北朝鮮のように、政権を握っていれば、放っておいても出世主義者が雪崩れ込んでくるが、政権を取れない日本では、展望はゼロだ。
 だから落選不可避ではあっても都知事選に全力投球し、細川の殿の足を引っ張らねばならないのだ。


中核派も候補擁立
 最後に泡沫候補扱いで、主要紙もNHKも紹介しないが、珍しい名前を立候補者たちのリストに見つけた。
 弁護士の鈴木達夫(73歳)である。鈴木は、かつてNHKディレクターだったが、中核派系の反戦青年委員会で活動し、NHKから懲戒解雇され、後に48歳で司法試験に合格、中核派の顧問弁護士的役割を果たしている。
 昨夏の参院選東京選挙区で山本太郎をかついで当選させた中核派だが、今回の都知事選は「身内」を出したわけだ。もちろん主張は、反原発、反五輪である。(http://www.zenshin-s.org/zenshin-s/sokuhou/2014/01/post-2148.html )。
 細川の殿、宇都宮に続く第3の反原発候補だが、鈴木がどれくらい得票できるかで、東京での中核派の集票力が測れるだろう。
 別の意味で、要注目、である。


昨年の今日の日記:「早くも黄昏? 電気自動車(EV)の憂鬱」