ヨハネスブルク北郊のライオン・パークで、2班に分かれて、交代で仔ライオンを撫でて(というかこわごわ触れて)、その間、園内の動物を観察した。


バルセロナ動物園以来の再見
 生後3カ月までの仔ライオンだけが触れられる対象で、見た目は大きなネコと大差ないが、それでも家畜と違い、野生である。時々、牙を剥いて攻撃の姿勢を見せる(写真)。


仔ライオンを触る

 それでも、仔ライオンは、ツアー同行者の大人気であった。
 仔ライオンの収容されたケージと離れた所に、ミーアキャットがいた(写真)。ミーアキャットは、以前にスペインのバルセロナの動物園で観たことがある。


ミーアキャット2

ミーアキャット

 家族単位の群居性で、外で採食中は1頭が必ず後ろ脚で立って見張りをし、捕食者を警戒する。上空にワシやタカの猛禽類が見えたりすると、見張り役は、鋭く甲高い音を退避の合図として発する。警戒が発せられると、採食に夢中だった群れは一斉に巣穴に待避する。
 まさに「サバンナの賢者」である。


利他行動の進化
 単純に考えれば、歩哨に立つ1頭は偉い奴だ、と関心するだけだが、警戒に立つ1頭にすれば、自分だけが猛禽類に捕食されるリスクがある。捕食されてしまえば、次の個体が歩哨に立つことになるわけだが、ではどうしてこんな危険のある個体がいなくならないのだろうか。
 それは、群れが血縁関係にあることと無関係ではないだろう。つまり血縁にある他個体を救えれば、たとえ自分が捕食されても遺伝子全体ではプラス言える。
 ついでながらミーアキャットの群れには1組みの優位オスと優位メスがいて、このペアのみが繁殖活動を行う。群れの他のメンバーは基本的に繁殖をせず、ヘルパーとして優位オスと優位メスの仔どもの子守や授乳を行う。ヘルパーは、仔どもの教育係も務める。
 30頭前後の群れの仔どものうち、約80%はこの優位オスと優位メスの子と言われる。
 こうした群れの社会性に利他行動が進化した理由がある。


社会性昆虫は利他行動が徹底
 例えば自分だけ安全な場にいて、餌をたっぷり食べ、それで生き延びられて子もたっぷり作る――という個体だけが群れに残れば、歩哨に立つ個体がいない群れとなり、結局は捕食者に片っ端から食べられて群れは死に絶えてしまうからだ。
 見張りに立つ個体のいる群れは、長い目で見ればそれだけ繁栄するのである。
 ハチやシロアリなどの真社会性昆虫は、こうした行動を進化させた。例えば働きバチ(ワーカー)は、女王バチと全く同じ遺伝的構成を持つ。しかし彼らは自らは卵を産まず(仔を作らず)、集団のために働く。女王バチの産んだ「きょうだい」に蜜や花粉を与えるのも彼らの役目だ。
 女王バチの産んだ「きょうだい」を支え、集団が繁栄すれば、自分の遺伝子を残すことになる。それは、自ら繁殖するよりも、ずっと自分の遺伝子を残す確率を高めるのである。


ハミルトンの提起した「包括適応度」
 このことに最初に気がつき、「包括適応度」という概念で数学的に説明した集団遺伝学者が、イギリスの故ドナルド・ハミルトンである。
 ちなみに社会性の動物は昆虫に限らない。ミーアキャットよりもっと徹底し、ハチやシロアリ並みの真社会性を発展させた哺乳類に、東アフリカで地下に巣を作って集団で暮らすハダカデバネズミがいる。
 ミーアキャットは、普通ヘルパーは生殖をしないが、完全にというわけではない。真社会性の哺乳類とまではいかないが、やはり遺伝子の命じる利他行動をとっている。
 それが、鋭い牙も大きな身体もすばしこい早足も持たないミーアキャットをサバンナで繁栄させたのである。


昨年の今日の日記:「暖かいはずの南半球でなぜ巨大氷河?、そして地球温暖化」