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 原油価格が小幅に上がっている。OPECが15日の総会で生産枠の追加削減を見送り、既存の減産目標の順守徹底にとどめたことと最近のドル安が関係している。19日にはWTI期近が1バレル50ドルを突破し、3カ月半ぶりの高値になった。

原油価格の再騰はあるか
 OPECは、昨年12月までにトータルで日量420万バレルの減産を決めているが、これが守られていない。そのために追加削減を見送った直後は大きく反落したが、また切り返し、今、少しずつ盛り返している。
 例えば、OPEC穏健派に属し、追加減産に反対したサウジの減産合意の順守率は100%なのに、減産強硬派のイラン、ベネズエラなどは50%そこそこだ。囚人のジレンマではないが、強硬派が抜け駆けをして原油価格の高値持ち直しの恩恵を享受しているという戯画である。
 この高値は、どこまで持続するのか、そしてOPECとロシアの望むような再び1バレル75~100ドル時代はやってくるのか。
 私見を述べれば、昨年7月に示現した1バレル147ドルは、近い将来、おそらくはもう来ない。
 確かにOPECのバドリ事務局長は、昨年来の原油価格低迷で少なくとも35の石油開発プロジェクトが中止、または延期に追い込まれたことを明らかにし、供給がこの先、細る可能性を示唆した。

エネルギー安保と地球環境保護から先進国は脱石油へ
 だが、原油価格の異常高値は、エネルギー源を原油に頼る脆弱性と大きなリスクを欧米先進国に気づかせた。そしてその異常高値が、ロシア、イラン、ベネズエラなどの強権的独裁国に、大きな政治パワーを持たせる危険性も露呈した。特にイランについては、これ以上の高値を享受させると、核開発に拍車をかけ、イスラエルに対する冒険主義的行動を助長させることになる。
 エネルギー安全保障と地球環境保護の両面から、先進国の原油需要は昨年でピークを打った可能性が高い。この先、中国、インドなどの原油需要が伸びたとしても、先進国の需要減で相殺されると推定される。
 アメリカのオバマ政権の登場と符節を合わせたように、今、先進各国の間で原子力発電と再生可能エネルギー開発に拍車がかかっている。脱原発をしたスウェーデン、イタリア、イギリスは、原発新設再開に舵を切っているし、アメリカの原発新設がこれからラッシュを迎える。
 そして先進国、途上国にかかわらず、原発を上回る新設ラッシュとなっているのが、太陽光発電と風力発電の自然エネルギー発電施設である。太陽電池パネルなど、モデュール製造設備を購入しさえすれば、ノウハウを全く持たない他業態からも新規参入できる時代なのだ。参入障壁は、もはやゼロに近い。

日本の5倍以上の広大な未利用地
 化学原料として石油の価値は変わらないが、エネルギー源としてなら、原発と自然エネルギーの2つで十分に代替できる。電気で電気自動車を直接動かせるし、水を電気分解して水素を作れば、燃料電池車も動かせる。
 特に自然エネルギーは、エコロジカルな面でも、原発を上回るメリットがある。20世紀的な石油の時代は昨年7月までの原油バブルをもって終わりを告げ、おそらく我々は未体験のグリーン(あるいはクリーン)・エネルギーの時代に入ったのだと思う。
 特にアメリカは、巨大な潜在力を持つ。今回、ネバダとアリゾナ、カリフォルニア南部の上空を飛行機で飛んだが、広大な砂漠の平原は手つかずで放置されているのを見て(写真)、その巨大な潜在力を痛感した。アメリカ中西部の未利用荒原の総面積は、トータルすれば日本の5倍以上はあるだろう。
 ここは、放牧地にも畑にもなっていない。せいぜい利用価値のないジョシアツリーとブッシュ、サボテンがまばらに生えているだけだ。もしここに、環境破壊を起こさない程度に太陽電池パネルと風力発電風車を並べれば、アメリカは無尽蔵の電力を得られるだろう。

ネバダ1州で原発300基程度の太陽光発電は可能
 その潜在力を示すために、甚だ大雑把ながら太陽光発電所のみの試算をしてみよう
 砂漠という環境を損なわないために、効率は低くても安価な太陽光発電所をまばらにとびとびに設置するとしても、1平方キロに1000kWの発電能力は完全に達成可能だ。すると1000平方キロで原発1基分100万kWの太陽光発電所が造れる。ネバダ州1州だけで原発300基分が可能なのだ。
 ちなみに原発1基の建設費は、約4000億円である。1000平方キロに太陽電池パネルを設置する方が、はるかに安あがりだ。夜間に発電できない制約は、高性能の蓄電池の設置で対応可能である。
 また、最近欧米で注目されている「スマートグリッド」というIT技術を使った電力融通・多方向性の新送電網を使えば、さらに効率化も図れる。あらゆる発電施設と消費者とをネットでつないで電力調整するので、需要をならし、夜間でも風力発電や揚水発電などを総動員し供給を平準化できる。

カリフォルニアは1000万kW規模の太陽光発電導入
 砂漠に太陽電池パネルを設置するかどうかは、為政者の決断次第と言える。
 実際、グランド・キャニオン・ウエストリムからの帰り道、道路からはるか離れた緩やかな丘のふもとに小規模の太陽光発電所を見つけた。パネルが夕陽に輝いて、きれいだった。
 すでに州独自の施策で10年前ほどから太陽光発電に力を入れているカリフォルニア州は、今後数年内に1000万kW規模の太陽光発電「大国」になるという。オバマ大統領のグリーン・ニューデール政策は、全米に太陽光発電所、風力発電所設置の後押しとなるに違いない。
 OPEC強硬派が減産強化の合意をして、人為的に原油価格をつり上げようとすれば、エネルギー安保の観点からも、アメリカはこの無尽蔵の潜在エネルギー資源の開発に国家をあげて拍車をかけるだろう。原油価格が1バレル100ドル台に乗せれたりすれば、確実にペイするからだ。それどころか、サウジも北アフリカ諸国も、自国の砂漠に太陽電池パネルを敷き詰めることを検討するだろう。電力という新たな輸出手段が得られるからだ。
 この潜在供給圧力がある限り、原油価格の異常高値の時代はもう来ない、と確信する。
 かつて1989年のバブル景気末に、日経平均株価は3万9000円近くまでかけ登った。この時、日本は遅くとも2010年には人口減少社会に陥ることが予見されていた。外需を膨らませない限り、需要は確実に減っていくことが見通せたのに、みんなが株高のユーフォリアに酔い、株価は暴騰し、そして急落して今日まで長く続く低迷期に陥った。バブルとは、真の需要低迷前にあだ花のように咲くものなのである

 アメリカ国立公園日記は休みました。