語られない本当の銅メダル戦 女子カーリング3位決定戦 | 観客席から見たカーリング 2nd Season

2018年、2月24日。
 
日本のカーリングが新しい章に入った記念日です。
 
 
ロコ・ソラーレが戦った、3位決定戦。
そして獲得した、オリンピックの銅メダル。
 
素晴らしいです。
 
「日本が初めてオリンピックで獲得したメダル」。
 
そうです。
そして、その素晴らしさをさらに高める、
ロコ・ソラーレが見せたもうひとつの価値。
 
解説の敦賀さんが、石崎さんが、それを語ってくれないのなら、私がみなさんにお伝えしたいです。
 
それは、
 
「逃げずに、挑んで、掴んだ勝利」。
 
 
 
8エンドが終了し、得点は 3 - 3 。
 
ブランクエンドを重ねた日本ですが、複数得点はならず、
残り2エンドの時点で同点。
 
9エンド、後攻はイギリス。
ここで後攻のイギリスが考える戦術パターンは3つ。
1. ブランクエンドにして、同点で10エンド。10エンドを後攻で1点取って楽に勝つ。
2. 2点以上取って、得点で先行して10エンドに進む。先攻だが、日本を1点に抑え込んで勝つ。
3. 最悪、ここで1点でも、10エンドで日本を1点に抑えれば、再び同点で延長戦。延長は同点で後攻だから圧倒的有利。
 
イージーに勝てるのは1番。
でも、できれば2番のパターンで勝ちたい。
最悪、3番でも勝てる。
 
イギリスはこう考えたはず。
 

第9エンドが開始。
 
先攻日本、リードの1投目は、順当にセンターガード。
 
続くイギリスのリード1投目。
ストーンをリリースした直後のスイーパーのコールは「Seven !」。
ガードではない。ハウス内へのドロー。
 
ブランクエンドにするなら、ひたすらクリーンな展開に持ち込めばいい。石はいらない。
スルーでもいいし、ウィックでセンターガードをズラして、シューターはアウトさせて取り除けばいい。
 
しかし、イヴ・ミュアヘッドの選択は、ハウス内へのドロー。
 
日本はヒットし、センターへのロールを狙ってくるだろう。
ロールした石が完璧に隠されなければ、打ち合いに持ち込んで、得点かブランクか?は流れで決められる。
 
しかし、日本はまだ石を入れない。
リードの2投目は再びセンターガードとし、ダブルセンターガードで中央をふさいでいく。
 
藤澤も当然分かっている。
ブランクは一番いけない展開だ。イギリスにクリーンな展開には持ち込ませない。
ガードを外される前に、もうひとつ置く。ハウス内に、絶対に石を溜めていくんだ。
 
それを見たミュアヘッドはブランクの選択肢を捨てた。
日本がダブルセンターガードで次に中央を狙ってくるなら、先に中央を押さえてワン・ツー、として2点パターンに持ち込む。

ミュアヘッド、リードに2投目はセンターガードの裏へカムアラウンド、を指示。
 

この9エンド、イギリスは、ブランクエンドのオプションを持ったままスタートしましたが、日本の強い「中央を取る」という意思表示に呼応。
2点以上を取るために、石をハウスに入れていきました。
 
しかし、日本の方がカムアラウンドを正確に決め、ハウス中央を確保。
逆に、絶対に日本にスチールを許すわけにいかないイギリスはセンターガードを外しにいきます。
ダブルテイクを多用して、センター前を、ハウス内を、クリーンに。
 
ブランクを阻止したい日本は、最後、イギリスがダブルテイクを狙ってセンターに残してしまった赤の石をガードとし、ハウス内、ティーライン前に完璧なカムアラウンド。
 
そこまでダブルテイクでクリーンにしていたイギリスは、最後の1投も、前の赤を打ってハウス内の黄色をテイクし、赤もそのままロールアウトさせてブランクを狙います。
それまでずっとテイクウェイトで投げ、テイクのラインも何度も使っていますから、いきなりスローなウェイトで曲げて打つよりは慣れているショットを選択するのは冷静で当然の判断です。
 
9エンド、イギリス、ミュアヘッドのラストストーン。
ミュアヘッドの手から放たれたシューターは力強く前の赤にヒット。
その勢いを託された赤いストーンは、中の黄色をテイクするべく黄色へと向かいます。
 
しかし、当たらず。
 
黄色が残って、日本1点スチール。
 

9エンドが終了。
 
日本、4 - 3 とリードして、最終10エンドを先攻で迎えます。
 
ここで先攻の日本が考える戦術パターンは2つ。
1. イギリスに1点取らせて同点とさせて、同点のエクストラエンドを後攻で圧倒的に有利に戦う。
2. スチールして、このエンドで終わらせる。
 
この2つのみ。
ブランクエンドでは何も変わらない。ブランクの選択肢はない。
 
イージーに勝てるのは1番。
でも、できれば2番のパターンで勝ちたい。
 
藤澤の頭の中には、そんな考えがあったはず。
 

最終10エンド。
 
スチールした日本が先攻。
イギリスを1点に抑えるなら、石はいらない。クリーンな展開で攻める。
もう、相手が石を置かない限り、自分の石も置かずにスルーしたい。
だけど、スルーしてまで露骨に石をなくすのはみっともないから、とりあえずハウス内のいいところに入れて、相手が打ってくるのを待つ。
 
それが当たり前の戦術。
 
しかし、藤澤はその戦術を拒否します。
 

リードの1投目。
吉田夕梨花に指示したショットは、センターガード。
センターガードは、先攻がハウス内に石を置くためのショット。
藤澤は、石を入れていく展開を選択。
クリーンにはしない。逃げて勝つことはしない。
エクストラには行かず、このエンドで決着を付ける。
 
イギリスの1投目は、コーナーガード。
2点取らなくてはならないイギリスは、複数得点のために石を貯めるためのコーナーガード。
 
日本、リード2投目。
クリーンな展開を拒否し、得点してこのエンドで勝負することを決めた藤澤は、迷わずセンターへカムアラウンドを指示。
 

そして、両チーム、ハウス内のセンターを取るべく、ヒットロールを打ち合います。
 
日本、鈴木夕湖の2投目のヒットロールが完全に決まり、石はガードに隠れて見えません。

それでもイギリスはヒットロールを強行。
セカンドの2投目は中央の黄色をヒットしますが、飛んだ黄色はハウス後方に残っていた石に当たり、ハウス内に留まります。シューターの赤はハウスに残らず外へ。
 
そして再び、日本は残った赤のセンターガードにカムアラウンド。キッチリと石をガードの裏へ。

先攻の日本が石を2つ入れ、ミュアヘッドにスチールのプレッシャーをかけていきます。
 

そして、
後攻イギリスのラストストーン。
 
ワンはイギリスの赤、ツー・スリーが黄色。
 
このままでも、同点としてエクストラエンドに進めます。
しかし、エクストラではイギリスは先攻。
後攻の日本は、1点取れば勝ち、という圧倒的に有利な状況に。
 
ミュアヘッドは2点を取りに行きます。
不利な状況でエクストラに進むくらいなら、ここで2点取って試合を決める。
 
ミュアヘッドが選択したウイニングショットは、ハウス内の石を2つ動かして、赤がワン・ツーを取るという高難度のショット。
 
 
はっきり言って、難しい。
ここで無理なショットを選択しなければならないのであれば、不利でももう1エンド戦う、という選択肢もあるはずです。
 
しかし、イヴ・ミュアヘッドは勝負に行く。
 
イージーな先延ばしの選択肢は選ばない。
目の前の困難な状況を自らのショットで打開し、チームを勝利に導く。
 
自らのスーパーショットでの逆転勝利に挑む。
 
 
結果は、黄色に厚く当たってしまい、黄色が赤のワンを外に押して、黄色はそのまま中央にロール。

アナウンサーは叫んだ。
「ナンバーワンは、 ・・・日本だ!!」
 
日本、スチール。
 
 
 
藤澤が、
イージーな展開を拒否し、石を置くんだ、点を取って勝負するんだ、と挑む。
 
ミュアヘッドが、
イージーな選択肢を拒否し、自らの力で困難を打開しての勝利に挑む。
 

2人のスキップが、逃げずに自ら勝利を掴みに行く。
 
 
 
オリンピックのメダルをかけた戦いとは、こういうことだ。
 

逃げない。
 
困難に立ち向かう。
 
その結果、勝利を掴む。
 
 
カーリングは、これだから面白い。
カーリングは、これだから熱くなる。
 
日本代表、ロコ・ソラーレ。 銅メダル。
 

おめでとう!