Psychedelic Baby Magazine(スロベニアのオンライン音楽雑誌) (2024年5月2日公開)(拙訳)

 

 

二年前に亡くなったドイツの音楽家、ぺーター・フロマーダー(Peter Frohmader)への追悼曲を、Hereticの河原博文が作成しました。ここだけで聴ける特別なリミックス曲で、フロマーダーの特徴的な音楽を抜き出し、リマスター処理しています。ラストでは河原のユニークなギターとシンセサイザーも聴けて、先駆的だった音楽家の素晴しい遺産を説得力のあるアレンジで、楽しめるようになっています。


フロマーダーの二周忌に当たり、注力を注いで作られた約60分のリミックス曲は、聴く人に、サウンド・トリップが体感出来るユニークな体験を提供しています。
河原が選定、リマスターした過去の曲に独特の音響処理が施されていて、過去と現在を行き来するようなフロマーダーの革新的だった音楽性に敬意を表した音楽に仕上げています


リミックス使用曲
01. Medusa 1 – Through Time and Mystery (1988)
02. Minolith – Ritual (1985)
03. Vorstadt Im Fohn – Nekropolis Live (1983)
04. Homunculus 1 – Homunculus 1 (1985)
05. Magic – Ritual (1985)
06. Bizarro – Kanaan Live (1975)
07. Mitternachtsmesse I – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
08. Holle Im Angesicht – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
09. Homunculus 1 – Homunculus 1 (1985)
10. Arrival – Ritual (1985)
11. Ghul – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
12. Holle Im Angesicht – Nekropolis Live (1983)
13. Homunculus 1 – Homunculus 1 (1985)
14. Ecstacy – Ritual (1985)
15. Pagan – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
16. Bizarro – Kanaan Live (1975)
17. Departure – Ritual (1985)
18. Mitternachtsmesse II – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
19. Homunculus 3 – Homunculus 2 (1987)
20. Homunculus 2 – Homunculus 1 (1985)
21. Fegefeuer – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
22. Unendliche Qual – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
23. Mitternachtsmesse II – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
24. Hollenfahrt – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
25. Medusa 1 – Through Time and Mystery (1988)
26. Neutronen-Symphonie – Nekropolis Live (1983)
27. Mitternachtsmesse I – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
28. Homunculus 2 – Homunculus 1 (1985)
29. Psychofarm – Nekropolis Live (1983)
30. Homunculus 2 – Homunculus 1 (1985)
31. Mitternachtsmesse II – Musik Aus Dem Schattenreich (1979)
32. Sphinx Touch – Hiro Kawahara & Peter Frohmader (1998/2022)


私はぺーター・フロマーダーとは直接会ったことはありませんでしたが、当時手紙やFAXを通じて友情を育みました。 1998年からCD-Rを交換して一緒に音楽を作り始めました。 その後、私は家族共々仕事の関係で京都から東京に引越し、2022年に彼が急逝するまでメインの仕事に忙殺されていました。
この為、我々のコラボレーション(作品)は世間には知られていないままでしたが、彼の死後に、私はやっと作品を完成させることが出来て、2023年にアメリカのCuneiform Recordsからデジタルリリースしてもらいました。当時の経緯とコラボレーションの詳細については、後述します。
彼の二周忌にあたり、追悼の意味でこのリミックス曲を作りました。 このリミックスには、彼の過去作から私が気に入っているパートを抜き出し、全てリマスター処理し、特定のパートには立体音響処理しています。

最後のパートで、彼との競演曲の一部を使っています。そこでは私がギターとシンセサイザー、様々な効果音を演奏しました。
尚、立体音響を体感するには、このリミックス曲をヘッドフォンで聴くことをお薦めします。
河原博文 / Heretic

 

 


亡きぺーター・フロマーダーを偲んで。

河原博文のぺーター・フロマーダーへの関心は、ペーターのソロ作品『Musik Aus Dem Schattenreich』(1979年)から始まりました。 ペーターのユニークなスタイルに関心を示していた河原は、機会があればペーターと競演したいと思っていました。
1997年当時、インターネットは一般的にはまだ普及していませんでした。その為、河原がペーターと初めてコンタクトを取ったのは、1997年11月に手紙を送った時でした。 彼らはその後はFAXで連絡を取り合いました。河原が最初に連絡した時、HereticのCDも何枚か送っていて、彼が気に入ったので、競演が決まったのです。 当時ペーターはRichard Pinhas (Heldon)との「Fossil Culture」の録音を終えた時期でした。

 

 

他の多くのアーティストはAppleコンピューターを愛用していましたが、当時のペーターは Atariコンピューターと ADAT マルチトラック・レコーダーを使用して音楽を作っていました。
コラボレーションに際し、河原はペーターから送られてきたCD-Rのベーシック・トラックの各トラックをアナログ・マルチの16トラックのテープ・レコーダーにコピーし、河原の個人スタジオで河原がギターとシンセサイザーを別のトラックに録音、ミックスしていました。競演曲の一つである「Sphinx Touch」は、ペーター側で別途録音していて、そちらのバージョンが後にDVD のリリースとなっています。 河原が使ったベーシック・トラックはそれとは異なる別バージョンでした。ペーターのオリジナル・バージョンは「Compilation I 1988-2007 (DVD)」と「Music From The Edge Vol. 04 (2001)」に収録されています。(オリジナル・バージョンではドイツの人がギターを弾いています。)

河原はペーターと直接会ってはいません。従って演奏も、それぞれドイツと日本で別々に録音しました。しかし1998年当時のラフ・ミックス・テイクに対して、ペーターの感想としては大変良い反応でした。「このコラボレーション結果を非常に気に入った。強力なCDになるだろう。」
しかし、河原が1999 年に京都から東京に引っ越した後、河原がメインの半導体の仕事に忙殺され、このコラボレーション作品が、そのまま宙に浮いてしまったのです。
河原がこの作品を見直すのは、24年後の2022年になってからでした。 河原が改めてリマスター処理した音楽について話し合おうとペーターに連絡を取ろうとしたのですが、残念なことに、ペーターは2022年5月2日に急死していました。その為、ペーターはリマスター・バージョンを聴くことが出来なかったので、河原としては、非常に残念に思っています。
河原が彼に送った1998年当時のオリジナル・バージョンはリマスター(EQ&コンプレッサー)処理が施されていなかった為、ダイナミック・レンジが大きくなりすぎて音量バランスが的確ではなかったのです。 当時の河原の個人的な所有機材では、時に費用の問題から、河原の方で適切なマスタリングを行うことは不可能でした。

 

今回のリミックス曲を、河原はペーター・フローマーダーへの追悼曲として作り、ペーターの過去作から色々選びリミックス曲として仕上げています。ここで聴ける音は3D(立体音響)処理を特徴としているので、ヘッドフォンで聴けばその音場を適切に体験出来ます。 つまりヘッドフォンで聴くと、頭の回りを周回するシンセサイザー・サウンドと、中央に配置されたアナログ・シンセサイザーの音が体感出来るはずです。
このリミックス曲は、ペーター・フローマーダーの多くの作品に対して河原の賞賛が色濃く感じられ、今は亡き音楽家へのオマージュに仕上がっているように聴こえます。

音響処理とギター・テクニック

河原は音響処理と、特にオーバー・ダビングしたギター・エフェクト音に誇りを持っていました。 真空管搭載のZOOM 9150アンプ・シミュレーターを使い、様々なスタイルで演奏していますし、Vintage Keys PlusやKorg M3RといったMIDI音源モジュールを使ってメロトロンの音や特殊なSE音を披露しています。音響処理としては3D(立体音響)処理を施し、リバーブの残響音が左右のスピーカーの外側に定位する広大な音場を作り出しています。このリミックスには収録されていませんが、Terje Rypdal(ECMレーベルのギタリスト)を想起させるギター・サウンドを、SansAmp PSA-1とZOOM 9150の二台のアンプ・シミュレーター、エフェクト音としてLexiconリバーブ+Berringer EX-1との組み合わせで作り上げていました。
その音は、このリミックスには含まれていませんが、彼らのコラボレーション作品「Hiro Kawahara & Peter Frohmader」で聴く事が出来ます。

 

重低音と立体音響を楽しんでもらう為に、河原は高品質のスピーカーまたはヘッドフォンで聴くことを強く薦めています。現在の音響処理に関わる技術は大きく進歩していますが、立体音響の音の位置として、前後左右は感知出来できますが、垂直方向(高度)の音の変移は、汎用のヘッドフォンでは違いが余り判らないのが残念なところです。
今回のリミックス曲は、ぺーター・フロマーダーの音楽が遺産として永く続くであろうという事を認識させてくれます。尚且つ、二人の革新的なアーティストの興味深い演奏も楽しめます。更に様々な音楽スタイルが展開されていて、そこに音響処理技術を組み合わているので、ユニークな音楽体験を楽しめます。

 

 

 

 

 

 

 

 

Artist profile page in Progarchives;

Heretic :

https://www.progarchives.com/artist.asp?id=12718

Peter Frohmader :

https://www.progarchives.com/artist.asp?id=2703

 

見出しの写真: 河原博文 (1987)

 

追記:

https://www.dimensions-in-sound-and-space.com/post/hiro-kawahara-in-memory-of-peter-frohmader-2024
HIRO KAWAHARA – IN MEMORY OF PETER FROHMADER (2024)
 

Philip Jacksonによるレビューです。(2024-05-28公開)

河原がこれまで直接会う事がなかった競演者で、革新的なエレクトロニック・ミュージシャン、Peter Frohmaderの過去作を60分にしたリミックス曲を聴いてみました。
その印象を私(Philip Jackson)が出来る限り説明したいと思います。さまざまな過去作から抽出したリミックスで、主に「Musik Aus Dem Schattenreich」(1979 年)、「Homunculus 1」(1985 年)、「Ritual」(1985 年)、「Homunculus 2」(1987 年)からの 32 トラックをリミックスしています。
河原は立体音響処理を施しているのでヘッドフォンで聴くことを強く推奨しています。
電子音楽が好きな人なら、この無料の60分の曲は必聴です。

魅力的で難解な音楽スタイルですが、バリエーションに富んでいます。
まるで大聖堂のような環境で高らかな声で録音されたかのようなモダンクラシックの雰囲気から始まります。
次にへビィなエレキギターが突然響きますが不快な印象ではありません。 2 分以内にフェードアウトします。
次に私が覚えているのは、ピアノの音が繰り返される中でエフェクト処理されたバイオリン (?!) のようなサウンドが聴こえて、その後、所謂「インダストリアル・ミュージック」に雰囲気が再び変わります。
これまでのところ、似ている音楽は思いつきませんでしたが、オフビートのドラミングの上に神秘的なシンセサイザー/キーボードが被さるパートは、私の耳には少なくともTangerine Dreamを想起させ、その後にエイリアンが徘徊する風景をイメージしました。

サイケデリックなコード展開を伴う畳み掛けるドラムの音が初期のPink Floydを思い出させ、その後に続くパートはホラー映画のサントラになりそうな印象でした。
さらにバリエーション豊かなSEが次々と飛び出してきて、オルガンとベース、最後にはパーカッションが激しくぶつかり合うサイケデリックなハードロックスタイルも突然現れます。
更にテーマとなるキーボードのコードが繰り返され、バンド形式の音に変わります。
突然ゴングが鳴ると、その後にはNick Masonタイプのドラム演奏があり、その後ゴリゴリ音のベースが唸りを上げます(想像出来ますか?)
続いて幽霊のような声が聴こえるかと思うと、King Crimson的なギターリフと重いドラム演奏、さらに幽霊を感じさせるノイズ、ゴリゴリのベース・サウンド、メロトロンやシンセのSE音等、目まぐるしく音楽が次々と変化します。

河原にこのリミックスを作ったコンセプトは何か質問しました。Peterは何処かのインタビューでドラキュラのようなゴシックホラー映画が好きだと言っていた事と(エイリアンのデザイナー)H・R・ギーガーからも影響を受けた音楽だったとコメントしています。
今回のリミックスはピーターの作品の中で特に、河原が好きな部分のみから抽出・編集したそうです。このリミックスは無料で、Psychedelic Babymag.comの独占公開となっています。

https://powerofprog.com/heretic-hiro-kawahara-complete-works-cuneiform/
COMPLETE WORKS – CUNEIFORM by Kev Rowland (Power Of Prog)| Jan 14, 2024
 

河原博文は日本の実験的な音楽家で、30年以上に渡って個人名または「Heretic」名義で作品をリリースし続けています。 Hereticとしてのバンド構成の時もあれば、河原とゲストだったり、彼一人の作品だったりしますが、(特に)HeldonやTangerine Dreamなどから常に影響を受け、日本の「和」も感じさせる作風でした。和洋の対比を上手く消化させる努力が感じられます。
この全集はアルバム順にまとめられていますが、その多くにはボーナス・トラックが追加されて、全62曲あり、トータルの時間は13 時間 36 分もあります。私はレビューの為に、この全集とは何かを理解する為、2 回通して聴きました。

この全集の音楽は、集中せずに聴いたり、BGMとして聴くと、理解出来る音楽ではありません。集中して聴かない人には、理解出来ず、敬遠してしまう音楽となるでしょう。
しかし、彼の音楽を真剣に聴く為に、その為だけに時間をかける人のみが気付きますが、その人のみ、色んな事を発見し、楽しむことができるでしょう。 
つまり、河原の音楽は、リラックスさせる為の所謂「ニューエージ・ミュージック」ではなく、聴く人に、真剣に努力して働く事を要求しています。
全ての芸術が簡単に理解出来るわけではなく、時にはその人の理解しようとする努力により、最大の感動体験を得られる事もあるという事です。
彼の音楽は、良質のスピーカーかヘッドフォンで、(極力大きな音で)再生し、注意深く聴く必要がある音楽です。

サウンドは、総じてシャープなのと、不安感を感じさせる音なので、微妙な表現ニュアンスを聴き逃す可能性があります。
聴き所は沢山あるのですが、トータル時間が長いで、特定の曲だけをかいつまんで聴いていたなら、私は決して河原の作り出す世界に入り込むことは出来ず、彼の作品をこれほど高く評価することは出来なかったと確信しています。
リリース元のCuneiform Recordsから「全集」として購入することは可能ですが、個別のアルバムも同様に入手出来るようにしてくれたので、個別の作品から、河原の音楽を理解しやすくしてくれています。
しかし、全集がわずか$75であることを考えると、このスタイルの音楽に興味がある人なら、全集を入手すべきです。コストパフォーマンスが最高であるだけでなく、間違いなく河原博文の音楽を理解する最良の方法となるからです。

聴く人を選びますが、Cuneiform Recordsのブランド・カラーが好きな人には必聴の作品の一つです。

(訳注)Kev RowlandはThe Progressive Undergroundシリーズの単行本を執筆したイギリスの音楽評論家で、progarchives.com の特別協力者です。私の意図した事を正しく理解してくれています!

 


http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-hiro-kawahara-complete-works-3.html

Heretic / Hiro Kawahara - Complete Works
(Cuneiform Rune 3382, 2023, DL) by Peter Thelen (アメリカのExpose誌)

日本のプログレッシブ・ロック・シーンの中で、明らかになっていないグループ中に、オシリス、アストラル テンペル、ヘレティックといった河原博文のバンドやプロジェクトが含まれています。
タイミングの問題もあり、シンフォニック・プログレッシブ・ロックやアヴァン・プログレッシヴ・ロックなどといった特定のジャンルが定義される以前の活動であった事も災いしています。
河原のグループはどれも日本国内外で有名になったわけではありませんが、アーチー・パターソン(ユーロック・マガジン)が、彼の音楽を全世界に広めるべく尽力を尽くしました。しかしその努力にも関わらず、河原のプロジェクトの知名度が認知されるのは、更に後になってからです。

今回、44年間の音楽活動を経て、河原博文のこれまでの全作品が『Heretic / Hiro Kawahara - Complete Works』として全9作品を纏め、アメリカのレーベル、Cuneiform Recordsよりデジタル・リリースされました。
これをCDの9作品を纏めたデジタル版のボックス・セットと単純に考えないで下さい。数作品は過去に日本やアメリカからリリースされたLPやCDですが、今回のボリュームは、ボーナス・トラックも含めて、CDの物理メディアの容量制限をはるかに超える(13 時間半以上)音楽が用意されました。9つの作品はそれぞれ個別に購入することもできます。

このセットの最初のコンポーネントとして、ヘレティックの1stアルバム「インターフェイス」が収録されています。当初は数百枚の自主制作LPとしてリリースされました。メインのInterfaceは35分近くあり、LPではA面全てとB面の前半に跨っていましたが、ここでは2つのパートが一つに纏められています。
タイトルからHeldonを連想させるとしたら、それはおそらく意図的なものでしょう。エレクトロニクス、シンセサイザー、ギター、打楽器の音が全て溶け込んでいます。すべての演奏は太田亨と河原博文によって演奏され、チェロの森山卓郎とオルガンとシンセサイザーのゲスト奏者が要所要所で参加しています。
時折フランスのHeldonを想起させますが、時にはシンフォニックな雰囲気に景色が変わります。
大胆なメロディック表現と強い実験的傾向が組み合わさってアクセントとなっています。
この作品では、非常に異なるパートを適宜挿入して、それぞれが独自の雰囲気と音楽性をミックスさせています。
一部ではサンプリングされた珍しいサウンドが使用されており、荒々しい部分、美しい部分、完全に混沌とした部分、それらの情景が行き交う音楽性を有しています。
オリジナルLPでは、B面最後にあった約12分間の「月影」で締め括られており、メロディックなチェロと女性のささやき声(ゲストの幸亜希子)の音が漂うような音としてミックスされ、様々な点でより暗くダークな雰囲気を醸し出しています。
ボーナス・トラックには、「Interface」の 2 つのバージョンが含まれています。「シンフォニック・バージョン」(13分)と、1984年8月24日の「リハーサル・バージョン」(12分)です。
オリジナルのセピア調のジャケット・カバーは、今回、同じ画像で色味がピンクに変更されています。

1988年にリリースされた2nd LPは、元々は日本のBelle Antiqueレーベルからリリースされた「Escape Sequence」です。 ここにはメンバーが増えました。1stの太田、河原、森山に加えて、ロビン・ロイドがいくつかの曲でドラムとシンセ・ベースを演奏しており、浦沢美奈子(ヴォイス)が3つのトラックで参加しています。
さらに、数多くのゲストも参加していて、Ain SophからはYozoxが1曲でギター、富家大器が他の2曲でドラムとエレクトリック・パーカッションを担当しています。その他、名古屋のバンド、Anonymousから2人のメンバーが、「Anonymous」というタイトル曲で参加しており、他にも数名がゲスト参加しています。
「Escape Sequence」 の目玉は、何と言ってもLPのA面全体を占めていた、(22分近い)3部構成の大作「Do Heretick」です。 冒頭の「Create」パートでは、ギター、シンセサイザー、打楽器がメインですが、曲が進行するにつれて聴こえてくる様々な効果音をミックスした、相当実験的な要素が加味されています。 パート2の「Modify Structure」では、急速にテンポ・アップしていくシーケンス・サウンドが荒れ狂うパートで、最終的にはワイルドなギター・ソロによって彩られた別の実験的ファンタジーへと展開、ホルストの「火星」のようなスタイルの最後のパート「Quit」に繋がります。 Robert Frippのようなギターを中心に、ヴォイスや様々な電子音が入り混じり合った混沌とした状態の行進がイメージされます。
次の曲「Fail Safe Error」はリミックス・バージョンとなっていて、オリジナルよりも数分短い(1964年の冷戦スリラー映画『未知への飛行』、ヘンリー・フォンダ主演)の会話は含まれていませんが、迫力は損なわれておらず、激しく叫ぶようなギター・プレイにすべての要素が盛り込まれています。
わずか 4 分で切り替わる前述の「Anonymous」は、ダークでムーディーなKing Crimsonのような曲です。バックグラウンドで、神秘的な呟くような歌と、パンチの効いたギター・ソロを伴って次のジャンキーなエレクトロニック・リズム曲である「Tripping on Waves」に続きます。(Ain SophのYozoxがギター担当)。そして、美しく優しい「m-a-f-o-r-o-b-a」へと繋がります。
今回のリリースでは「Do Heretick」の 3 つの別バージョンがボーナス・トラックとして収録されています。1987年10月の「サウンド・アイデア」(5分)、その1週間後の富家大器との「Do Heretick Session」、そして1985年の約39分続く「Do Heretic」オリジナル・バージョンです。

次はライヴ・アルバムについて。この「Heretic - Live」は、これまで未発表だった(形式を問わず)ライブ録音が2時間以上収録されています! '85年・京都と'88年東京のライヴで、他のアルバム同様に2022年にリマスターされています。 
1曲目は1985年11月4日、京都の立命館大学でのライヴ。曲名は明記されていませんが、エレキ・ギター、エレクトリック・ヴァイオリン、ギター・シンセサイザー、シンセサイザーを使った発展途上の「Do Heretick」が即興演奏も交えて展開する66分間の演奏です。
エレキ・ギター、エレクトロニック・パーカッションを太田亨が、アコースティック・パーカッションをロビン・ロイドが担当。 この曲の元々の録音は、ビデオに記録されたモノラル音声だったそうですが、河原が最新のツールを使用してステレオ化およびリマスタリングしました。
'88東京ライヴでの2曲は、3月13日の42分間のリハーサルと、3月19日、目黒ライブステーションで収録された28分間のライヴの模様を記録しています。メンバーは河原、太田、ロビン・ロイド、ベースはChihiro S (Lacrymosa)です。 竹内一弥(Anonymous)がサンプラーとエレキギターで参加しています。
こちらもゆっくりと発展していく即興演奏であり、進行するにつれてさまざまな様相を呈し、次第に音楽の形が作られていく手法を取っています。

次に、最初のCDとなったのは、初期の二作品のLPからのコンピレーションCD「Heretic - 1984-88」です。 「Escape Sequence」の「Do Heretick」は別のリマスター・バージョン (サウンドはかなり異なります)となっています。「Fail Safe Error」も2ndとは違う音質になっていますが、緊張感が少し弱い印象を受けました。
その他の「Escape Sequence」の曲もリマスター・バージョンが異なるため、音質が異なります。 
「Interface」からは2 つの短い抜粋(パート1の6分半とパート2 からの8分)と、「月影」(7分)が収められています。これらも音質が全く異なるリマスター処理をしています。
「Resource」は、前述の1988年の東京公演の翌日の9分間のジャム・セッションです。トリオ編成が中心となり、ドラマーの竹迫一郎とベースのChihiro S.をフィーチャーしています。ツイン・ドラムが強力なフリーフォームなグルーヴ感を生み出しています。
我々Expose誌は、このHereticのコンピレーションCDを最初に注目した経緯があり、この素晴らしいCDのレビュー用に沢山の紙面を費やしました。当時の3件のレビューは、現在オンラインで読むことができます。
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-1984-88-7.html
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-1984-88-6.html
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-1984-88-3.html
今回のリリースでは、2曲のボーナス・トラックが追加されています。1つは「Interface Part 2」からの抜粋ですが、2008年のコンピレーション・アルバム用にマスタリングされた別バージョンです。もう1曲は河原一人の演奏による「変奏曲パート1-3」(8分)という未発表曲です。
オリジナルのジャケット・カバーは、アメリカの著作権保護法に抵触する可能性から、急遽、当時愛用していた、赤い特注のストラトキャスターと、各種アナログ・シンセサイザーの写真に変更されています。

1996年、河原は次の2つのHereticリリースとなる予定の2曲のデモ作品を関係者のみに限定リリースしました。「Past in Future」です。披露された曲は全て河原一人の演奏であり、Hereticというグループとしてはまだ具体化されてない興味深いデモ作品です。
ここでは、次に正式リリースされる2 つの作品「弥生幻想」と「Drugging For M」がどのように発展していくのか明確な違いが発見出来て、興味深い作品となっています。
アンビエント路線、もう 1 つはHeldonのような本格的なエレクトロニック・ロック路線で、どちらの作品もそれぞれ約35分で構成されています。
本作について、過去にExpose誌の印刷版第10号でレビューしました。
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-past-in-future-3.html
今回、更にボーナス・トラックが1曲追加され、16分に及ぶ「In The Mist of Time (For Peter Frohmader)」が追加されています。河原はフローマダーのベースとシンセサイザーの演奏をバックにオーバーダビングとリミックス加工をしています。

Hereticのメンバーが参加した完全版『弥生幻想』は 1996 年後半に、Bell Antiqueレーベルより発表されました。この一連の美しいアンビエントで実験的な音楽は、ある時には日本の伝統的な強い影響を特徴としていて、後半では尺八の音や不思議なコーラスの音が使われていたりと、変化に富んだ音のタペストリーとなっています。
1 つのテーマが提示されて展開していくと、すべてが突然変化して、まったく別のテーマが次に続きます。喩えるとドアを通過する度に唐草模様の装飾が異なっていて、以前の模様とは全く異なるデザインに気付かされるような展開でしょうか? 
各テーマはそれぞれ1~2分しか続きません。
この作品の最終段階で、Expose誌 は作業の進捗状況や、それ以前の他の作品や将来の予定について、当時アメリカ、西海岸のサンノゼでインタビューしました。
http://expose.org/index.php/articles/display/osiris-is-dead-long-live-heretic-the-heretic-interview-1997.html
CDにインデックス・データは打ち込まれていません。つまり一曲全て(36分半)を全体として聴くことを意図しています。おそらくこの全集コレクションの中で、Hereticの最も強力な楽曲だと思われます。
当時、CDがリリースされた直後に、弊社のヘンリー・シュナイダーがCDをレビューしました。
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-yayoi-dream-6.html
ここでのボーナス・トラックとしては、わずか1分ですが、河原のソロ演奏による「For Peter Frohmader」が収録されています。昨年突然死したドイツのPeter Frohmaderへの追悼と「弥生幻想」を引き立てるアンビエント作品として追加されています。

『弥生幻想』発表から1年も経たない内に『Drugging for M』が同じくBelle Antiqueレーベルよりリリースされました。前作同様、この作品も一曲で34分という長い作品ですが、脈動するエレクトロニクスとグルーヴを感じさせるドライブ感があり、前作とは、全く異なる音楽性を志向しています。
しかも、曲の進行に合わせて様々な変化を見せています。静謐な部分の多くはKing Crimson的な視点に非常に近いと思います。もう一つの違いはメンバーにあります。太田亨は参加していません。しかし、ロビン・ロイドがエレクトリック・パーカッションを担当し、河原がエレクトリック・ギター、シンセサイザー、テルミン、サンプラー、エレクトロニクスを担当しています。 更にチャップマン・スティックの石井氏とエレクトリック・ギターの野田氏がゲスト参加しています。
Expose誌14号の発売直後、本誌は、この作品に関して、三人でクロス・レビューを実施しました。この三つのレビューは、三者の異なる考えを知る事が出来るので、今でも読む価値があります。
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-drugging-for-m-1.html
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-drugging-for-m-2.html
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-drugging-for-m-3.html
尚、このリマスター・バージョンのボーナス・トラックとしては、「TD-7 with Robbin Lloyd」が含まれています。これは非常にビートの利いたHeldon風のエレクトロニックな作風です。わずか3分弱ですが、それでも聴く価値のある曲です。

1998年、河原はドイツの音楽家/画家であるPeter Frohmaderが用意した数曲を遠距離コラボレーションすることに着手しました。
当時河原は京都に住んでいて、Frohmaderから曲を受け取ると、京都の個人スタジオで自分のパートをオーバーダビングしていましたが、東京に引っ越した後、彼の仕事が忙しくなり、その後、結局実質的に引退することになりました。つまり1999年から2022年迄、河原は音業界から完全に離れていた事になります。
多重録音された録音データは長年、河原の手元に残されていましたが、昨年(2022年)Frohmaderの死を知り、これらの録音を公開すべく、彼はアメリカのCuneiform Recordsに連絡を取り、Frohmaderとの1998年のコラボレーション作品だけでなく、ヘレティック、オシリス、アストラル・テンペルの曲を網羅した河原博文のほぼ全ての楽曲公開に話が進みました。
Peterとのコラボレーション曲には、「The Earth」と「Sphinx Touch」という2つの長尺曲と、2つの短い曲「Virtual Nature」と「9-13」が含まれています。こちらはどちらも6~7分の曲です。
さらに、河原は自身のリミックス作品「In the Mist of Time」(Past in Futureにも収録されたリミックス曲で、Frohmaderのベース・パートが利用されています)を3D(立体音響)処理して収録しています。
全体を通して、Peter Frohmaderはベースとシンセサイザーを演奏し、河原はエレキ・ギター、シンセサイザー、サンプリングされた音(声など)、および3D処理を担当しました。 クレジットとしてはありませんが、メロトロン・サウンドが「Sphinx Touch」全体に聴けて、「Past In Future」、「Drugging For M」でも聞くことが出来ます。
サウンドは両アーティストを知っている人なら期待を裏切らない音楽となっていて、Frohmaderは暗く物思いに耽るイメージと躍動感のあるベース・サウンドを聴かせます。一方河原はエクスペリメンタルな雰囲気を醸し出すSEとギターを演奏しています。これらのサウンドが融合して、強力な化学反応を起こしています。
特に「The Earth」は広大なイメージを想起し、夢のような空間を創出しています。曲が進行するにつれて明確な区切りが存在します。 

「レクイエム」: 亡くなった人達を弔うミサです。
まず、死者とは誰かというと、Hereticの音楽そのものを意味しています。河原は2010年当時には、復帰する可能性があったとしても、すぐには復帰する事はないだろうと分っていました。
しかし、彼の音楽の遍歴の中で、これまで広く世間に公開されたことがありませんが、聴く価値が充分ある音楽がまだまだ沢山ありました。
このCDのプロデューサーであったArchie Patterson (Eurockレーベルの主催者であり、河原とは1980年から友人関係が今も続いています。)の提案で、基本コンセプトとしては、過去の多くの曲を集め、河原自身による選曲で「最後のCD」として発表することでした。
Eurockからリリースされた2010 年当時のCDでは、8曲しか収録されておらず、そのほとんどは以前にリリースされた曲の別バージョンまたは編集バージョンでした。
この中には、2000年にEurockからリリースされたCD-ROM、「The Golden Age」のオーディオ・パートに収録されていた曲も全曲再収録されています。
今回のリマスター・バージョンでは、曲数は22曲まで増え、追加トラックのほとんどが1980年代初頭のヘレティック以前の曲が追加されています。
オシリスは本質的には1980年からの河原のソロ、時にはゲストも参加しています。
アストラル・テンペルは、ドラム、ベース、河原(ギター)によるトリオ・プロジェクトであり、1980年末から82年まで存在しました。
オシリスのほとんどの曲は、オシリスのLP『In the Mist of Time』とカセット作品から採用され、アストラル・テンペルの曲は当時のカセット作品から収録されました。
2010年の『レクイエム』CDの曲順は、今回のデジタル・リリースとは大きく異なっており、1999年に河原がソロで録音した広大な20分間の「Spiral」で幕を開けます。Robert Fripp然とした飛翔するようなギター・サウンドと数多くの興味深い実験的なパートが聴ける強力なアンビエント・サウンドです。
続く「Drugging for M」と「弥生幻想」の各抜粋バージョンはそれぞれ5分と4分の短さで、おそらくラジオ局向けの編集にしたのだと思います。
「変奏曲パート3」は、1987 年の短くて明るくメロディックな河原のソロ演奏ですが、昨年亡くなったVangelisの作品を思い出させます。
さらにHereticの作品が2曲続きます。1984年の「Interface」編集バージョン(30分近い長さ)と 1984年の「月影」の別バージョンが続きます。
これに続くのはオシリスとアストラル・テンペルの16曲で、そのほとんどは1つのモチーフを提示した、時間的にかなり短い楽曲です。
曲によっては、美しくメロディアスで、時にはアンビエント、時にはより実験的で、どれもが河原の初期の作品の中で、今でも聴く価値のある抜粋として今回披露されています。
特筆すべきは、1980年12月の約20分展開したアストラル・テンペルのライブ「ゲート・トゥ・インフィニティ~ステッピン・ロール~シャドウ・イリュージョン」、それから22分に及ぶ河原一人での「月影」のオリジナル・バージョン、そして1982年に録音された9分間に及ぶインダストリアル・ミュージックのプロト・バージョンであろう「Echo Troublant(奇妙な音)」です。
これらは、追加された曲のハイライトとしては、ほんの一部に過ぎません。

更に「Complete Works」には個別の9作品を組み合わせただけではなく、2曲のボーナス・トラックが含まれています。
一つは1980年代初頭のプロジェクト、Astral Tempel の「Shadow Illusion」と 「Vista Under Light」(28分)のリミックス曲。
もう一曲が「Heretic - 1984-1988 Sequence」(22 分)というリミックス曲が追加されています。
「Complete Works」には、62曲収録されています。曲数としてはそれほど多くないように思えますが、その多くの音楽は、壮大な長さとなっています。
特に過去にリリースされた作品の多くを聴いていないリスナーにとっては、河原の音楽は発見の旅であり、最新のマスタリングによって、彼の作品はさらに強力に仕上がっています。




https://www.dimensions-in-sound-and-space.com/post/heretic-complete-works-1984-2023
Philip Jackson (フランスAcid Dragon誌)
HERETIC - COMPLETE WORKS (1984-2023)

『Complete Works』は全62曲、合計13時間36分27秒。 

Heretic(ヘレティック)は、京都で活動していたシンセサイザー/キーボード/ギター奏者、河原博文のグループです。1970年代にクラシック音楽の解釈で多くのレコードを売り上げた有名なシンセサイザー奏者の先駆者、富田勲(1932年~2016年)とは異なり、河原はより抽象的な手法を取り、独創的なエレクトリック・ギタリスト奏者の太田亨(彼はシンセサイザー、エレクトリック・パーカッションも担当)と森山卓郎(チェロ)の三人編成で活動を開始しました。

「Interface」1985年に、「テープエフェクト」と「サウンド・スケープ」を従来の作曲技法に組み合わせた34分以上の作品(「Interface Part1&2」)を収録したLPを自主リリースしました。
太田のギター・サウンドは非常にマイク・オールドフィールドに似ています。 河原のギターは1974年期のRobert Frippに似ています。
音楽は非常に独創的で、多くの点で魅力的ですが、唯一残念だったのは機械的なドラムマシンの音でした。
2番目の「月影」は、時間的にはかなり短く、チェロとギターがミニマルな雰囲気のシンセサイザーのバッキングでソロ・ラインを取っています。背景音には囁くような女性の声としずくの音が聴こえ、大変不気味に聴こえました。
ボーナス・トラックとしては、「Interface」のシンフォニック・バージョンとリハーサル・バージョンが含まれています。

「Escape Sequence」(1988) では、河原はエレクトリック・ギター、シンセサイザー、エレクトリック・ヴァイオリン、キーボードに加えて、「ノイズ」、「テープ」、「トリートメント」といったS.E.処理も担当しています。
メンバーは基本的には同じですが、他に数多くのゲストも参加しています。AIN SOPHとBELLAPHONのミュージシャンも参加しています。本物のドラムも曲によっては使われています。
「Do Heretick」では河原のコーラス+ディレイをかけたギター・サウンドのループ音をベースにした3部構成の作品で、外宇宙を非常に感じさせます。中盤は警戒感を感じさせ、最後にはオーケストラの華やかさが加わります。
「Fail Safe Error」は、核攻撃の脅威をテーマにした HOLST の「火星」を少し想起させました。この曲は、1964 年の映画「未知への飛行」の仮想サウンドトラックです。小刻みに唸るシンセサイザーのベース・ラインが使われています。ワイルドなチェロ/ヴァイオリンと、河原の荒れ狂うギター・ソロをフィチャーした、「スペース・インベーダー」タイプのシューティング・ゲームの音楽のようにエンディングは聞こえました。 河原は、一部の音楽は「キング・クリムゾンへの返答」であると述べています(フランスのプログレッシブ・エレクトロニクス・バンド、Heldonについても言及しています)。 
「Anonymous (吟遊詩人の歌)」は、名古屋のAnonymousメンバー参加し、Hereticが編曲したバージョンです。一息つける牧歌的な作品となっています。
「Tripping on Waves」はAin Sophのギタリスト、山本要三が作曲し、ギターでも参加した曲。
ボーナス・トラックとして「Do Heretick」のオリジナル・バージョンや、Ain Sophのドラマー、富家大器が参加したセッションも含まれています。

「1984-88」には1stLPからの抜粋と2nd LPの異なるリマスター・サウンドで収録されています。 

「Past In Future」(1996) はアルバムとしては2枚分の作品を収録した、当時限定リリースされたデモCD-Rです。
名曲「弥生幻想」のデモ演奏と「ドラッギング・フォー・M」のスタジオ・ライヴは大変興味深いです。
「弥生幻想」は、コンピューターから多数のMIDI音源、サンプラーを同期演奏させて、DATレコーダーに直接録音した注目すべき作品です。
(機械的ではなく有機的な音楽性に気をつかっています)、調律された打楽器、ゴング、ブズーキの音も聴けます。(特に「弥生幻想」終盤で聴けるシーケンス・サウンドは素晴らしい!)。
アメリカのExpose誌でPeter Thelenは、Richard Pinhas (Heldon)の音楽との比較について言及しています。(www.eurock.comでのインタビューで河原も同意しています)
「夢見るようなシーケンス(繰り返し)」、「潜在意識への領域」という表現をPeterは使っていましたが、この曲を聴いていると、数多くの扉を通過して旅をしているような気分になりました!
「ドラッギング・フォー・M」のスタジオ・ライヴも同様に、MIDI演奏をバックに、

当時ポピュラーだった数多くのシンセサイザー、ギター・エフェクトを使って、河原がエレキ・ギターを弾いています。
曲想としては統一した印象があり、中盤のシンセサイザーによる「風と波」をバックに、流れるようなギター・ソロが聴けます。終盤近くでシンセ・ベースが繰り返す「リフ」に移行しますが、このエンディングは少し曲想が異なっているように感じました! (完成版のDrugging For Mと比較して下さい。)
ボーナス・トラックとしては、故Peter Frohmaderがベースを弾いている16 分のリミックス曲が収録されています。(Hiro Kawahara and Peter Frohmaderに収録された同名曲と全く同じ曲です。)

Belle Antiqueよりリリースされた「弥生幻想」(1996)ではアルバム1枚分の長さの曲が一曲だけ収録されています。(CD-ROM付きでした)
ここではその「弥生幻想」の決定的なリマスター・サウンドが聴けます。河原はシンセサイザーを、太田亨はブズーキ、ロビン・ロイドはエレクトリック・パーカッションを担当したトリオ編成です。
音楽はとても美しく(一気に通して聴くと、ある意味、一連の変化に富んだインナー・トリップが出来る音楽です!)実験的であると同時に刺激的で、かつメロディックで、河原博文/Hereticの最高傑作の一つだと思います。

「Drugging For M」 (1997) では、Hereticとしてはロビン・ロイドとのデュオ録音で1曲分のみの収録でした。(当時はこちらもCD-ROM付き) 河原はテルミンを含めたトリッキーな楽器、デバイスをふんだんに使い、エレキ・ギターも弾いています。(メロトロンも!) 当時の流行合わせて、ゲストによるチャップマン・スティック演奏も取り入れています。
こちらは「弥生幻想」とは異なる音楽性を有しており、緊張感が維持された強力な楽曲です。

「Requiem」 (2022) は、ハイライトとして、Hereticとしては最後の録音になる20分の「Spiral 1999」、22分に及ぶOSIRIS期のオリジナル版「月影1-2」、「弥生幻想」と「Drugging for M」からの各抜粋バージョンを収録していますが、
Heretic以前の、河原の最初のワンマン・プロジェクトであったOSIRIS(1979年~1982年にカセット・テープで多数リリース)とAstral Tempelからの音楽(1981年~1982年)の曲も多数収録されています。
(ここには収録されていませんが、河原はプログレッシブ・ロック・バンドAin Sophの山本要三と結成した「Dr.Jekyll and Mr.Hyde」というバンドもありました)

OSIRIS:

Journey To New World(1979:Cassette)
A Midsummer Night's Dream(1979:Cassette)
Osiris Mythology(1979:Cassette)
Astral Temple(1980:Cassette)
Rhapsody For You(1980:Cassette)
The Restration Of Soul(1980:Cassette)
In and Out(1980:Cassette)
In The Mist Of Time(1980:LP)
El Rayo De Luna I(1981:Cassette)
El Rayo De Luna II(1981:Cassette)
A Failed Play(1982:Cassette)
Echo Troublant(1982:Cassette)

Astral Tempel:

Shadow Illusion(1981:Cassette)
Vista Under Arc Light(1982:Cassette)
100% Odd Lots Session(1982:Cassette)

Dr.Jekyll and Mr.Hyde (with Yozox Yamamoto from Ain Soph):

Dr.Jekyll and Mr.Hyde 1(1981:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 2(1982:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 3(1982:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 4(1982:Cassette)

2010年にアメリカ、EurockからリリースされたCD版とは曲順が異なり、14曲が追加されています。このアルバムは3.11で被災された「失われた魂」に捧げられており、www.eurock.comではArchie Pattersonが「レクイエム」を「暗闇」から「光」が現れるための「音楽の祈り」であると適切に説明していました。

「Heretic Live」 (2023)については、未発表だったので、聴くのを楽しみにしていました。 最初のライヴは1985年11月4日に京都・立命館大学で行われたライヴです。ロビン・ロイドのアコースティック・パーカッションと尺八が順番に披露され「Do Heretick」が展開する66分の作品でした(基本的には途切れない即興演奏ですが、途中様々なインプロビゼーションが展開されていました!)
演奏が30分を超えたあたりから、太田亨がエレキギターで本格的に演奏し出しています。その後、河原はギター・シンセ、ヴァイオリン、エレキ・ギター、サンプル/ループで重要な役割を果たしています。
1988年3月19日の東京でのライブ録音は28分以上もあり、そのリハーサルもここに収録されています。(東京公演ではChihiro S.がベースを担当)

最後に、河原の長年の友人で www.eurock.comのオーナー、Archie Pattersonが河原博文について語っていますが、河原は「神秘的でスピリチュアルな影響を実験的な電子音楽と組み合わせた、新しいタイプの「禅-エレクトロニクス音楽」の初期の先駆者」だったと紹介しています。
Eurockでのインタビューでは、Jeff Beckが河原の初期のギター演奏に影響を与え、Manuel Gottsching (Ashra)、特に「Sunrain」という曲が、河原の音楽として、プログレッシヴ/エレクトロニック・ミュージックへの方向性に大きな影響を与えたことを明らかにしています。
 

https://www.dprp.net/reviews/2023/076#complete-works-01-heretic-1985
https://www.dprp.net/reviews/2023/077

Complete Works  - Martin Burns (ヨーロッパのDPRP 2023-11)

河原博文がDPRP.netに連絡してきて、再リリースされた彼の作品のレビューを依頼しました。
私、Martin Burnsが電子音楽と日本に興味があるので今回担当致しました。オリジナルのリリース年代順にアルバムをレビューしていきたいと思います。
まず、彼の簡単な略歴ですが、河原博文は、シンセサイザーの工場出荷時のプリセット・サウンドを嫌い、音の時間的変化に非常に興味を持ったギタリストです。彼はサンプリング・キーボードを研究し、デジタル・シンセサイザーや特殊なMIDIソフトウェアを使用して新しいサウンドを作成することに時間を費やしました。
しかし、彼がギターを弾いてリスナーに本当に伝えたかったのは、精神的世界への誘いでした。
彼の長年の友人で、過去Eurockレーベルを主催し、現在はDJ兼作家となっているArchie Pattersonが、「禅エレクトロニクス・ミュージック」と表現し全世界に紹介していました。
1979年から1982年まで、彼はOSIRIS名義と、平行してAstral Tempelとしても活動し、ジャーマン・ロック、特にAsh Ra Tempelとそのギタリストである(1990年代以降友人関係が続いた)Manuel Gottschingの影響を受けた音楽を制作していました。彼はまた、Jean-Michele JarreよりもMagma寄りのフランスの実験的エレクトロニック・プログレシッヴ・ロック・グループであるHeldonにも影響を受けていました。
Hereticの活動は、レコーディング期間としては15年間続き、仕事の都合(1999年に京都の嵐山の自宅から東京へ引っ越し)により、彼の音楽活動は停止しました。
そして2022年、ようやく過去の音楽作品をすべて見直す時間ができ、過去作を全て時間をかけてリマスタリングを行いました。これらの過去の全作品は今年8月に、アメリカ、ワシントンのCuneiform Recordsレーベルからデジタル配信されました。
過去作が個別に販売されていますが、全てを纏めたComplete Worksも一デジタル作品として販売されています。以下のレビューは個々のアルバムについて順番に行い、アルバム毎に評価を付けました。

Heretic - Interface
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

1980年代初頭、河原は太田亨という才能のあるギタリストと出会い、一緒に新しいグループ「Heretic」を結成した。 その後すぐに森山卓郎(チェロ)、そして2作目以降に参加するRobbin Lloyd(パーカッション)が加わり、約15年間Hereticの活動を続きました。1984年に録音された『Interface』が彼らの最初の作品となります。このリマスター版にはボーナス・トラックが2曲収録されています。
本作は、多彩な音色のシンセ、エレクトロニクス、ギターなどを集めたアルバムです。 
タイトル曲では長い曲の中に、様々なメロディーを盛り込んで展開させています。予期せぬ展開を見せる構成にしていますが、少なくとも 4 つのセクションが一曲の中で構成されています。
電子的なパルス音やSE音が圧倒的なシンセ音へと変化していき、ストリングス、エレクトリック・パーカッション、ギターがゆっくりとリズムを構築していきます。

喩えると、Zeit時代のTangerine Dreamに似た感じでしょうか。本格的なギターソロに突入する前に、爪弾かれて処理されたチェロとダーク・ウェーブシンセのアバン・セクションがあります。
このセクションの終わりは少しランダムで支離滅裂な感じがします。
アンビエントの最後のセクションは、穏やかな水滴、穏やかな雰囲気で優雅に展開するキーボードのメロディーに変わっていきます。
(アルバム・タイトルにあたる)Interfaceは、この後も続きますが、河原にはビジョンがあり、それを旧B面で追求しています。

2 曲目の「月影」は、ベース・シンセ、エフェクト処理されたギター、ロングトーンのストリングスをバックに、静謐で美しいメロディーのエレクトロニカです。その上にチェロのソロがゆっくりと雰囲気を盛り上げます。
鬱蒼とした森の中を、流れるようなギターソロが聞こえて、最後には光と流水と鳥のさえずりが現れます。 まさに気分を高揚させる「禅エレクトロニクス」です。

2 つのボーナス・トラックは聴く価値があり、アーティストが自分の作品を発表する際のバリエーションを色々ある事をここに示しています。
私はオリジナルトラックからの抜粋の方が好きです。Interface (Symphonic Version) はシンセサイザーの使用方法がシンフォニックです。
演奏中のメロディーをより力強く浮かび上がらせる光沢があり、オリジナルの第 2 セクションを素晴らしい結果で再加工しています。
Interface (Symphonic Version) はシンセサイザーの使用方法がシンフォニックの側面を強調しています。
演奏中のメロディーをより力強く浮かび上がらせるようなサウンドに仕上げていて、オリジナルでのパート2が素晴らしい効果になるようにリマスター処理しています。
1984年7月24日での『インターフェイス』リハーサル音源は、単に音源を公開しただけではありません。 
シンセサイザーのメロディー・ラインが全面に出てきて、ギターがそのメロディーを引き立たせています。
素晴らしい2曲のボーナストラックでした。
この1stは、Hereticと河原博文の作る音楽を知るには、最初に聴くべき作品です。


Heretic - Escape Sequence
4/10 : 評価として平均以下です。ある程度の価値はありますが、それほど多くの価値はありません

2ndアルバムである「Escape Sequence」にはボーナス・トラックが盛り沢山追加されていて、オリジナルLPでは43 分でしたが、さらに 1時間の音楽が追加されました。 ラインナップは1stからの三人に、ここからRobin Lloydがアコースティック・パーカッションとシンセ・ベースで参加しています。
本作の目玉は、実験的エレクトロニカである3部構成の「Do Heretick」なんですが、どの部分を取り出して聴いても、私はこの曲が好きになれませんでした。
一般論として音楽は人の心を魅了することもあれば、退屈させることもあり、気分を変えることもできます。しかしこの曲に関して、私は本能的に嫌悪感を感じたのです。これほど猛烈に嫌いになった音楽はありませんでした。 この曲を再度聴くのは厳しいです。
この曲には、Hereticの中心メンバーに加え、Ain Sophから富家大器(パーカッション)、Rose Bandの金井宏(ギター)、浦沢美奈子(ヴォイス)が参加しています。 しかし残念ながら、私にはこの広大で猥雑な音楽を理解する助けにはなりませんでした。
アバンギャルドなギターノイズ、奇妙なグルーヴ感、飛び交うテープ・コラージュ、沈黙から終盤向けての悲鳴と叫びが混ざり合った音を、時間軸で纏めている点は評価しますが、それ以上の感想はありません。(この感想は私だけの印象かもしれません。)
ボーナス曲として、「Do Heretick」の 3 つのわずかに異なるバージョンと、20分長いオリジナル・バージョンが収録されていますが、私にとっては、どれも再度聴きたい曲ではありません。
むしろ、短いトラックのほうが全体的に優れています。 「Fail Safe Error」にはきちんとしたメロディーがあり、シンセの波の音、シーケンスされたシンセ、チェロ、エレクトリック・バイオリン、そして絶妙なミックスで聴こえる池内みずゑのヴォイスと激しいギターソロでこの曲は終わります。
「Anonymous」は、素晴らしいシンセ・ソロをフィーチャーしたアコースティックな楽曲で、Hereticがシンフォニックなメロディーを演奏できることを示しています。
オリジナルLPでは、心地よいアコースティック・ピアノとコーラスによる「m-a-f-o-r-o-b-a」で終わります。
このHereticの2ndは、私にとっては二つに分けられるアルバムだと思います。LPの旧B面の方は、充分に楽しめるミニ・アルバムになると思いますが、旧A面のメイン曲を、あなたはどう評価されますか?

Heretic - 1984-88
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

Hereticの3枚目となりますが、1stと2ndとその他のいくつかのアルバムからのベスト盤として編集されています。これがHereticとしては、当時初のCDでした。
こちらのリマスター版では、全てのトラックがリマスタリングされています。 1stと2ndからの曲については、オリジナルとは微妙に異なったマスタリングとなっています。音の違いを見つけるには、よく聴き比べる必要がありますが、ここでは詳しく比較していません。総じて言うとこちらの音の印象は、よりダイナミックなサウンドとなっています。しかし、それでも私にとっては『Do Heretick』だけは魅力的にはなりませんでした。
私は、ボーナストラックと、最初の2枚のアルバムには収録されなかった1曲「Resource」をレビューしたいと思います。
「Resource」は、ジャジーなエレキギターとドラマーの竹迫一郎によるシンバル・クラッシュから始まり、すぐにドラムがシンコペーションのリズムを提供してソロ・ギターに呼応していきます。すぐにバッキング・ギターとChihiro S のベースも加わります。この奇妙なジャズ・フュージョン風セッションは、興味深く聴ける演奏です。
たとえギターが暴れまわっていても、9分という長さでも飽きさせません。
ボーナストラックの最初のトラックは2008年に出た「No SHIBUYA-Electro Dub & Breaks」に収録されていたトラックで、 1stのInterfaceを編集したものでしたが、今回のリマスター版では、2008年のオムニバス盤収録の音とは大幅に異なるバージョンで進行しますが、オリジナルの音が忠実に再現されています。私はこのバージョンが好きです。 河原の23 年以上のレコーディングとミキシングの経験が反映していると思います。
もう一曲のボーナス・トラックは、河原博文名義での17 分間の「Variation Part 1-3」が収録されています。非常に素晴らしいシンセ主体のシンフォニック・プログレ作品となっています。この曲は、VangelisとKlaus Sculzeをこよなく愛するティーンエージャーが、ディレイ加工されたピアノ、女性コーラス、ホーンのようなシンセ音などをうまく使って作曲したように聴こえます。リズムの取り方もバリエーション豊かで、小さな宝石のように輝いています。
私が思うには、Hereticを未聴の人にとって、アルバム単体として聴くなら、このコンピレーション作品を一番最初にお薦めします。
但し、「Do Heretick」 の常軌を逸した音楽には、注意を喚起したいと思います。

Heretic - Past In Future 
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

もともと本作は少数限定でリリースされたデモCD-Rだった為、Hereticのファンにとっては、今回の一連のリマスター作品の中で最も興味をそそる作品の一つに違いありません。ここに収められている3曲のリマスター版には、後に正式リリースされる予定のデモおよびスタジオでのライブ・バージョンと、ボーナス・トラックの三曲で構成されています。 これらの曲は、1990年代初頭に河原一人が全ての楽器を演奏していますが、それまでのMIDIとソフトウェアに関する彼の研究の成果が表れています。最初の2曲については、全ての音が、ミキサーからDATレコーダーに直接録音されてるので、オーバー・ダビングはありません。
作品のコンセプトとして、「過去」、「未来」、「現在」を順番に表現した作品となっています。
『弥生幻想』のデモ (1991) でアルバムが始まります。この曲は、時に耳障りに聴こえるアバンエレクトロニカで8つのパートで構成されています。一部のパート(メロディーと構成)は正式リリース版とは異なっています。各パートは比較的短いので、飽きることはありません。
大抵のコンテンポラリー・ミュージック(現代音楽)と同様、メロディーのテーマは一度使用されると、再び使用されることはありません。繰り返しがない分、このデモ曲は、かえって心地よい展開となっています。いくつかのパートでは、日本の古典的な音楽を想起させられます。
変化するテンポや折り重なったシンセの音が素晴らしいです。 (そのうちの 1 つのパートでは、シーケンサーを多用する前のTangerine Dreamを思い出させます。)
アンビエントな雰囲気が濃厚ですが、ビデオゲームのサウンドを想起させるパートの後、ブズーキの音が、晴れやかで開放感を感じるエンディングとなっています。デモとはいえ一聴の価値は十分にあります。

「Drugging for M」(1995年8月12日スタジオ・ライブ)は、河原単独でのスタジオ・ライブです。
変化するシンセサイザーのスイープ音とギター・ループをバックに、彼はギター・ソロを様々なエフェクトを使い分けて演奏し、音を変化させていきます。メロディー・ラインはゆっくりとしたペースで変化していきます。
このライヴでは、最後のパートが正式版よりも長く、より即興要素が多い演奏です。システムミュージックに見られる反復的なリズミカルがベースとなっていて、正式版と異なっています。
現時点での Hereticの最高の曲の一つと評価します。

今回、ボーナス・トラック、「In The Mist Of Time (Peter Frohmader:2022 3D Remix)」が追加されています。この音楽は、河原と競演したドイツのベーシストでマルチ楽器奏者のPeter Frohmaderに捧げられています。 残念な事に、Peterは2022年5月に逝去しており、「現在」という位置づけで、この3Dリミックス楽曲がボーナストラックとして追加されています。ここでPeter Frohmaderがベースを弾いた事で、このトラックを際立たせ、結果的にHereticとしてのサウンドに厚みが出ました。ここではシンセがフィチャーされ、メロディー・ラインが複雑に交差し、中間点までその緊張感が続きます。その後、穏やかなシンセとスローでファンキーなベース・サウンドが、大音量で変化した後、緩やかに変化していきギターのサウンドスケープをサポートしていきます。ここには、ファンが期待するすべてが詰め込まれています。

総じて、「Past In Future」では、彼らの音楽の成長振りが、洗練さ、メロディー、全体的な完成度の高さにおいて証明されています。

Heretic - 弥生幻想 
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

デモ・バージョンであった「Past In Future」に続き、Hereticの次の作品リリースは、この「弥生幻想 2022 Remaster」となり、正式版としてグループによる演奏です。 太田亨(シンセサイザーとブズーキ)とRobbin Lloyd(エレクトリック・パーカッション)、河原博文(シンセ、サンプラー、エレクトロニクス、デバイス、コンピューター・プログラミング)の三人編成により、更に完成度が高まったサウンドとなっています。 全体的な印象としてはデモと大きな違いは少なく、微妙な作り直しという印象です。
但し、デモバージョンと同様に、正式版も素晴らしい音楽に仕上がっています。音色の変化が楽しめ、カラフルな背景音も聴けて、各パートの構成も練られています。 雰囲気という点でも、デモより完成度が上がっています。

本作にもボーナス・トラックは追加されていますが、51秒という短いメランコリックなシンセサイザーによる演奏です。 パッド系シンセの音色ですが、音色を変化させていてメロディーも素晴らしい曲ですが、余りにも短すぎるのが難点。 この曲でも河原は亡き友人Peter Frohmaderを偲んでいます。

この「弥生幻想」は、40分間、聴くだけの価値が充分にあります。 是非聴いて頂きたい作品です。

Heretic - Drugging For M 
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

この『Drugging For M』のスタジオ・ライブ・バージョンが「Past In Future」として、限定リリースしていましたが、その後の正式版をリマスターしたのがこちらの作品です。
Hereticのメンバーとしては、Robbin Lloyd(エレクトリック・パーカッション)と河原(エレキギター、テルミン、シンセサイザー、サンプラー、エレクトロニクス、エフェクト、コンピュータープログラミング)だけで、石井孝治(チャップマンスティック)と野田真弘(エレキギター)の二人がゲストとして参加しています。
この四人で、複数のパートに分かれた34分の曲を制作しました。河原一人のスタジオ・ライヴに比べて、ゲストが色彩感と躍動感を加え、バンドらしい音となりました。パート構成もより有機的に感じられます。

結果的には、作品全体がこれまでのHeretic作品の中で最も興味深い音楽となっています。
ガムランのようなパーカッション、音色変化するカラフルなシンセ音、素晴らしいギターが聴けて、アンビエント、インダストリアル・ロック、エレクトロニカといった傾向の音楽が途切れる事なく演奏されていきます。
各パートのテンポは遅くも早くもなく、絶妙のリズム感が作品全体として感じられます。超強力な音楽です。

ボーナス・トラックとして追加された「TD-7」は、リズミカルなシーケンス・サウンドとオフビート(ランダムビート)のパーカッションが徐々に同期していき、突然停止してしまう短い曲です。 しかし正直なところ、余りにも素晴らしいタイトル曲のせいで、影が薄くなってしまいました。

本作は、ジャーマン・ロック・エレクトロニカが好きな人、またHereticの過去作の取っ掛かりを探している人には、特に聴く価値があります。


Hiro Kawahara and Heretic - Requiem (2022 Extended Version) 
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

この『レクイエム 2022 Extended Version』は、Heretic作品というより河原博文一人の作品である(ように思えます)。 
彼のHeretic以前の2つのプロジェクト「OSIRIS」と「Astral Tempel」の再考という観点だけでなく、CDでリリースされた「レクイエム」が2011年3月11日の恐ろしい津波の少し前のリリースだった事から、今回のリリースでは津波の被害に合われた全ての方に捧げられています。 また、彼の友人で音楽家仲間のManuel Gottschingにも捧げられています。 2010年のオリジナルCD版から曲順を変更し、14曲が追加されています。
今回追加されたOSIRISとAstral Tempelの曲は、『In The Mist Of Time』(LP:1980) とAstral Tempelのライブ録音等から選ばれています。 つまり本作は河原の音楽スタイルがどのように変化していったのかを確認するタイムマシンとなっています。今回、時間を逆行する曲順となっていて、Hereticからそれ以前の1980年のOSIRISとライブ・バンド、Astral Tempelへと遡り、河原の音楽遍歴を追体験できます。

まず、河原博文名義の「Spiral 1999」は、キーボード主導のアンビエントとギターによるサウンドスケープおよびロングトーンのギター・ソロが聴けます。地響きのような低音のシンセ、飛び交うエレクトロニクスSE、ディストーション・ギターがうまく重なり合って、河原の演奏の中でも最高作の一つと評価出来ます。

2 番目の「Drugging For M: Edit Version 1997」は、34 分のオリジナル曲から巧みに編集されています。 本作の他の多くの曲についても同様に、巧みな編集が施されています。

それ以上に本作を聴くべき理由がHeretic以前の初期作品にあります。OSIRISからの曲はそれぞれ短いのですが、かなり優れた曲として編集されています。
唯一残念だったのは、実験的な『Echo Troublant』です。これだけがサウンド傾向が異なっています。シーケンス・パートは良いのですが、この曲全体としては今一つの印象です。
しかし1980年代のOSIRISの他の曲は聴く価値があります。ゲストの協力により雰囲気のあるメロディーがあちこちで聴かれます。特に注目すべきは幸亜紀子のヴォイスです。 どれも曲の展開はそれほどありませんが、非常に聴きやすいメロディーです。

Astral Tempelの曲としては二つの短い曲の後に、20分近くのジャーマン・ロックそのものといったライブが続きます。今回、河原はこのライヴ曲を、2022年12月に亡くなったドイツの友人Manuel Gottsching (Ash Ra Tempel)に捧げています。録音状態としては平均的な海賊盤の音質なのですが、バンド三人のパワーの凄さを証明しています。良い意味で、Ash Ra Templeの影響が色濃く出ています。

結論として本作は、ファンだけでなく好奇心旺盛な人にとっても魅力的な作品となっています。所謂編集された「ベスト物」と歴史を紐解くお宝音源がセットになった作品です。

Heretic - Live / Kyoto '85 And Tokyo '88 (2022 Remaster) 
(4/10 : 平均以下です。ある程度の価値しかありません)

Heretic は合計5回しかライブを行なっていなかったので、このリリースはファンにとっては一種の楽しみとなります。この二つのライヴは、河原の手元で眠っていた音源で、全て未公開の曲です。
立命館大学ライブ(1985年11月4日)でのラインナップは、太田亨(シンセ、エレキ・ギター、ギター・シンセサイザー、エレクトリック・パーカッション)、Robbin Lloyd(各種アコースティック・パーカッション、尺八)といういつもの顔ぶれと、河原博文(エレクトリック・ギター、エレクトリック・ヴァイオリン、ギター・シンセサイザー、シンセサイザー)です。
この 1時間強の音楽は「Do Heretick」のライブ・バージョンです。モノラルソースからステレオへの変換と音質修正を施しています。しかし少なくとも私にとっては残念ながら、長時間、ゆっくりと変化する即興演奏と、工業的なSE音、ギターのノイズとヴァイオリンの擦れる音の間で、私は次第に退屈になってしまいました。

次の2曲は東京ライヴのリハーサルと本番の模様です。これらのバージョンは両方とも、いくつかの魅力的なパートがあり、明確な展開とメロディーが聴けます。
リハーサル(1988年3月13日)と東京ライブ(1988年3月19日)両方には、Hereticのメンバー三人に竹内一弥(サンプラー、エレキ・ギター)が参加していて、更に東京ライブではChihiro S.がベースでボトムをしっかり支えています。
リハーサルでは、Robbin Lloydが日本の尺八を吹きます。 この音で冒頭部分に温かみのある有機的な感触が与えられ、より聴きやすくなるのではないかという期待が高まりました。しかしそのパートがその後、再度表れる事はありませんでした。
東京ライヴでは中東のハーモニーをうまく取り入れていますが、長すぎる感じで、よりメロディックなコーダが特徴となっていました。

総じて、この二つのライヴは、私にとっては二度と聴かない作品でした。熱心なファン向けだけの即興演奏の記録です。

Hiro Kawahara and Peter Frohmader (Remaster 2022) 
(8/10 : 素晴らしい、すべての人にお勧めする作品)

河原は1998年に、1970年代後半からドイツのエレクトロシーンで活動していた、ドイツのマルチ楽器奏者Peter Frohmaderとコラボレーションしました。Peterはダーク・エレクトロニック・ロック・グループ「Nekropolis」のリーダーとしても活躍していました。
ラインナップはPeter Frohmader(ベース、シンセサイザー)と河原博文(ギター、シンセサイザー、効果音、3D処理)、ドラムは不明です。
1998年当時はインターネットの黎明期であったので、このコラボレーションは航空便とファックスで行われ、Peterから河原に送られたCD-Rを元にしています。つまり、4 曲のうち3曲は、基本トラックに河原らしいギター・ソロとシンセ/キーボードの音をオーバーダビングしました。
河原が家族と京都から東京に引っ越し、仕事に時間を費やしていた為、事実上音楽活動から引退状態だったので、このプロジェクトは宙に浮いたままでした。しかし昨年Peterの訃報の知らせを知り、彼はこのコラボレーション作品を世に出したいと画策しました。

最初のトラック「In The Mist Of Time」は「Past In Future」にも収録されています。 Peterのベース・サウンドが、このトラックを際立たせ、サウンドに厚みが出ています。ここではシンセがフィチャーされ、メロディー・ラインが複雑に交差し、中間点までその緊張感が続きます。その後、穏やかなシンセとスローでファンキーなベース・サウンドが、大音量で変化した後、緩やかに変化していきギターのサウンドスケープをサポートしていきます。素晴らしい音楽となっています。
残りの4曲は全てPeterの作曲です。
「Sphinx Touch」では、ドイツのテレビ番組または映画から取られたサンプルで始まり、所々で聴こえます。この曲では重低音を利かせたベースとドラムがグルーヴ感を出し、その上で河原が素晴らしいギターソロを披露しています。その後メロトロンの音も追加され、特徴的な音色変化をするシンセの音(訳注:これはギターの特殊なエフェクト音です。)によって、ジャジーなグルーヴ感が生み出しています。こごては魅力的でスペーシーなジャーマン・ロック・サウンドを聴く事が出来ます。

プシュケー(訳注:息という意味ですが、鳥のさえずりを言い換えています。)が聴こえる「Virtual Nature」では、独特の仮想的空間を表現しています。こちらも静謐なジャーマン・ロックです。

『The Earth』は基本的には、Peterのソロ作品であり、ミドル・テンポのドラム、スペーシーなシンセ、ベースが素晴らしいメロディックな雰囲気を醸し出していて、この点を更に魅力的にする為、河原はリミックスとリマスターに注力しました。

最後のトラック「9-13」は、早いテンポでシーケンスされたシンセ音に、重ねられたキーボード群の音、Peter独特のベースをフィーチャーしていて、ラストに相応しい曲となっています。

このコラボレーション作品は、河原の一連の作品の中で最高のアルバムの一つです。大きな音で聴いて下さい!


Complete Works : Bonus Tracks : 
(8/10 : 素晴らしい、すべての人にお勧めする作品)

この「Complete Works」は、過去の全作品だけでなく、2曲のボーナス・トラックが追加されています。ゲスト・ミュージシャンのクレジットは名記されていません。

一つ目のボーナス・トラックは、1980年から82年にかけての「Astral Tempel」から編集されています。
ここで聴けるShadow Illusion ~ Vista Under Lightの編集テイクは、ジャーマン・ロックを感じさせる素晴らしい音楽です。
前半のShadow Illusionでは、ベースとドラムがベースの雰囲気を作り、シンセ(S.E.)が飛び交い、河原のギターがサックス風のサウンドで、スピーカーの左右を飛び交います。ギター・ソロが進むにつれてギター・サウンドが変化し、テンポが上がるにつれて、女性の声がフェードインしたりフェードアウトしたりします。 
入れ替わるように後半のVista Under Lightに切り替わっていき、ビートのテンポが上がるにつれて、メイン・メロディーはキーボードが聴かせます。 
繰り返しになりますが、Astral Tempel は素晴らしいジャーマン・ロック・サウンドでした。このバンドの音は河原の過去作の中でも私のお気に入りの作品の一部となりました。

二つ目のボーナス・トラックは、「Heretic 1984-1998 Sequence」です。
ここでは、シンセとギターの演奏に焦点を当て、Hereticの過去の各作品の一部をそれぞれ繋げた音楽となっています。(この時点で、私は少しHereticのファンになっていると思います。)
ジャーマン・ロックを感じさせるシンセ、各種ギター・ソロ、響きの良いアンビエント・サウンド、メロディー・ラインをうまく編集してまとめています。この編集トラックは聴く価値があります。

私にとっては、今迄聴いた事のないアーティストの過去作を全て聴くという、相当な冒険でした。
全62曲、総時間13時間36分の中には聴きごたえのある作品が数多くあり、気に入らない作品は数曲しかありませんでした。
読者の方にも、どういう感想を持たれるのか、是非聴いてもらいたいと思います。

 

Heretic / Hiro Kawahara COMPLETE WORKS (Cuneiform, via Bandcamp) DL 13:36:30

Schuyler Lewis (イギリスのAudion誌No76 2023-12-01) :

日本のバンド、Heretic とそのリーダー、河原博文の9枚の作品 (それぞれボーナス・トラックが多数収録)が纏まった作品です。
この作品がCuneiformからのダウンロード販売としてリリースされたことに非常に驚きました。
Hereticの音楽は、Anthony Phillips、Steve Hackett、Andy Latimerなどをどこか想起させるギターが入ったインストゥルメンタル・プログレ、更にメロディアスなものから実験的な側面を有し、時にはニューエイジ、またニューエイジ期のTangerine Dreamのようなシンセ・ミュージックのような幅広い音楽性を有しています。
しかも、時には、非常にクレイジー/ワイルドで、ラディカルな側面もあり、特に長尺の曲では、途中で、一本調子にならないように他の多くの音楽スタイルを取り込んでいます。
DLサイトの解説では「Heldonに対する日本からの回答」と書かれていますが、重厚なシンセとギターによる音の綴れ織りがサウンド・キャラクターですが、時折河原がRobert FrippやRichard Pinhasのようなギターソロを展開することを除けば、実際にはHeldonサウンドとはタイプが異なります。
とにかく、Hereticは河原一人から3人から5人(またはそれ以上)のフルバンドまでメンバーが柔軟に参加して活動できるという点で、少なくともHeldonと同じような柔軟性を持っていました。
今回、9作品全てを延々とレビューするのは紙面の都合上不可能なので、それぞれの作品で興味深い点をざっくりと紹介していきたいと思います。


1.「INTERFACE」は 1982年に遡り、当初、1985年に LPとしてリリースされました。
オリジナルでは34分に及び、LP の大部分を占めていたこの組曲は A面とB面2つのパートに分割されて、一部の重複部分が含まれていました。ここでは二つのパートを繋げて、元々の1つの作品となっています。
冒頭部分では、シンプルにプログラムされたリズムと牧歌的なメロディー、そしてAnthony Phillpsのようなギター・サウンドは驚くほどプロギーです。 
その後、途切れる事なく曲はいくつかのパートを経て進んでいきます。日本の伝統楽器を使用した静かなパート、クレイジーなリズムとワイルドなジャジーなギター・パート、エンディングでは1980年代のTangerine Dreamのようなサウンドを展開しています。
「月影」は、叙情的なロングトーンのギターをフィーチャーした、シンフォニックなニューエイジ・サウンドとして1曲目の後に続きます。
ボーナストラック: 
Interface (Symphonic Version) は、オリジナルのオープニング・パートを編集したよりストレートなバージョンです。
Interface (Rehearsal 1984-07-24) は、主に別のパートに焦点を当てており、やはり1980年代のTangerine Dreamサウンドです。


2.「ESCAPE SEQUENCE」は LPとして1988年に発売されていましたが、私はLPを見た記憶がありません。しかし「1984-88」のCD に全て収録されていました。
そのA面には「Do Heretick」というタイトルの22分近くの長い組曲が収録されており、非常に実験的なサウンドです。
前半は主にギターが主体となっていて、その後ガムラン風のシーケンサーの音に突入し、エンディングはLaibachのようなサウンドに変化してました。本当に異様な音楽です!
『Fail Safe Error』は、前半では変拍子を刻むリズム・マシンが特徴で、Peter Frohmaderの『RITUAL』に似たサウンドです。
後半、初期のNurse With Woundのインダストリアル・リズムのサウンドに狂気じみたギター・ソロがフィーチャーされたパートに突入しています。これは更に異様な音楽です!
雰囲気を完全に変えて、「Anonymous」では穏やかなシンフォニック・プログレが続きます。
「Tripping On Waves」はテクノ・ビートの上にDavid Torn のようなギターがミックスされています。
次に 「Maforaba」ではオルゴールのような音で、ホラー映画のテーマ曲を想起させます。
ボーナス・トラックだけでCD1枚分の未発表音源が追加されています。そのすべてが 「Do Heretick」に関わるアイデアとバリエーション・バージョンとなっています。


3.『1984-88』はアンソロジー(コンピレーション)作品で、過去二作とは異なるリマスター・サウンドで1stと2nd及び未発表作品が収録されています。CDとしては、1994年に発売されていました。
本作には、King Crimsonからの影響を裏付ける「Resource」というスタジオ・セッションも収録されています。
ボーナス・トラックとして、「INTERFACE」のアイデアに関する別の二曲が含まれています。


4.「PAST IN FUTURE」を私は今まで知りませんでした。1996年にCD-Rとして限定リリースした作品のようです。
これは基本的にこの後正式リリースされた二作品のデモ・バージョンです。


5.「弥生幻想」は1996年にCDで発売されました。一曲36分のみの音楽で、ほとんどがシンセとサンプリングによる音楽で、色んなタイプの音楽が次々と展開されています。東洋的な雰囲気が色濃いですが、10 年前のPeter Frohmaderと似ているように思えました。


6.「DRUGGING FOR M」は 1997年にCDで発売されていたものです。前作同様1曲のみの収録でしたが、よりシンフォニックで実験的な印象を受けました。素晴らしいギター・ワークも聴ける34分の作品です。
ちなみに、前作と今作の当時のCDには、別途Windows 95/Mac用のCD-ROMも収録されていて、当時はそれが楽しかったことを覚えていますが、25 年以上経った今、何が含まれていたのか正確には覚えていません。テクノロジーの進化により、当時のプログラムとデータは、今となっては意味を成さないので、今回のBandcampサイトではそのようなコンテンツは含まれていません。
(訳者注:映像データは、それぞれ以下の二つのYoutubeデータとして復活しています。
https://www.youtube.com/watch?v=daCbVLSxFCY
https://www.youtube.com/watch?v=N968LuL6uxE
DFMの映像には、見た人から「作曲家の視点から見ても非常に興味深い。Phillip Glassと映画が出会ったみたい。」とコメントを頂いています。)


7.「REQUIEM」はもともと新作と再録音の作品として存在していたようで、2010年にCDとして発売されていました。
(訳者注:レビュワーは誤解されていますが、当時のCDには、EurockからのGolden Ageからの再収録と、過去作の編集バージョン+未発表曲を80分に纏めたCDでした。)
ここでは、曲順がかなり変更されているようで、Manuel Gottschingへの追悼の意味から、「AstralTempel」による3曲と、Heretic以前のバンド、OSIRISによる多くの曲が追加されています。


8.「LIVE - KYOTO '85 AND TOKYO '88」は未発表のライブ録音を集めたものです。
最初は(訳注:これは二曲目です。)、「Rehearsal For Tokyo Live (1988年3月13日)」で、フル・メンバーによる演奏。シンセやギターなどに加えてパーカッションが数多く聴けます。「弥生幻想」と「DRUGGING FOR M」の10 年前の演奏ですが、しばしば「弥生幻想」と「DRUGGING FOR M」のおぼろげな姿と擬似シンフォニックなスタイルだったPeter Frohmader期のサウンド、更に東洋の音も入り混じった音楽に聴こえました。30分を過ぎた後半のセッションでは、ギターワークがかなりRichard Pinhasらしくなりますが、ここでは、近年のPinhasのギターワークに似ています。
「Tokyo Live (1988年3月19日)」は基本的には、先のリハーサルと同じテーマで演奏していて、ここでも「DRUGGING FOR M」で聴けるものと同様のボレロ・パートを演奏しています。(訳注:DFMにはボレロ・パートは無いのですが....????)


9.「HIRO KAWAHARA & PETER FROHMADER」
この2人のミュージシャンが1998年に一緒に作ったレコーディングで構成されています。私が調べた限り、これはファイル交換によって行われ、Peterが基本的な最初の曲を作成し、その後、河原が追加でギターとシンセサイザー、SE音を追加ダビングしました。
一曲目の『In The Mist Of Time』は、少なくとも最初は最もHereticぽいサウンドなのですが、後半からラスト・パートはよりFrohmader色が色濃くなってます。
「Sphinx Touch」はまさにNekropolisサウンドです、
一方、「Virtual Nature」は、ほとんどジャズ・ファンク・サウンドです。
「The Earth」は両者のサウンドがよりバランス良く混ざり合ったものであり、彼らの意識がいくつかのパートを通過しく中で、交じり合っていく様に聴こえます。
「9-13」は、一種の風変わりなエレクトロニック・ファンク・サウンドです。


最後に、「Complete Works」にはさらに2曲のボーナス トラックが追加されていて、それだけで50分程度追加されています。
しかし残念ながら、ここで紙面がなくなってしまいました!
「Complete Works」セットは、纏めての購入も可能ですし、9作品それぞれ個別も購入可能です。詳細については、https://cuneiformrecords.bandcamp.com/ をご確認ください。

 

(2023年12月4日公開)

日本のエクスペリメンタル・ギタリスト、河原博文による独占3Dリミックスの公開。Cuneiform Record (アメリカ)から最近発表されたComplete Worksからの抜粋を3D処理しています。

河原博文は、Heretic以前から、OSIRIS、Astral Tempel、Dr. Jekyll & Mr. Hydeのプロジェクトで活動していました。これらの作品は入手困難な状態です。
Hereticでの音楽はダークなアンビエント・サウンドに満ちた不思議な音楽です。Cuneiform Recordsのおかげで、過去の作品は全てデジタル・リリースされています。


今回、独自の3つのリミックス・トラックをPsychedelic Baby Magazine向けに特別に作成しました。
何故、ここに三つのリミックス・トラックを公開したのか、その経緯をまず簡単に説明します。

今年8月に、アメリカのCuneiform Recordsが私の過去の全作品をデジタル・リリースしてくれました。
そのプロモーションの一環で、Psychedelic Baby Magazineからインタビューの依頼があり、その会話は、以下のページで公開されています。
Psychedelic Baby Magazine(スロベニア) 2023年8月インタビュー Klemen Breznikar (Psychedelic Baby Magazine)

その時も、その後もKlemen Breznikarさんとのメールのやりとりで、丁寧な対応を毎回してくれていて、非常に好感を持っていました。

今年、私の作品が全てリリース出来た点は非常に満足しているのですが、昨年(2022年)私の音楽上のドイツの友人二人が亡くなっている事をずっと気にしていました。
一人は、今回、コラボレーション作品を初めて公開したPeter Frohmader、もう一人は、AshraのManuel Gottschingです。
特にManuelさんとは、2000年以降、彼が日本でライヴを行った後、プライベートで毎回東京都内で会っていました。この12月4日が彼の命日という事から、彼を追悼する曲をどこかのサイトで公開出来たら、と常々思っていました。
この私の思いに、Psychedelic Baby Magazineが同意してくれて、契約先のCuneiform Recordsも全面的にバックアップしてくれたので、今回無料公開する運びとなりました。
(3)に関しては、後述しますが、今迄の私のManuelさんとの関係から、MG.ART (特にManuelの奥さん)サイドから、私とPsychedelic Baby Magazineのみにリミックスとデータの無料公開を特別に許可してくれました。

(1) Heretic - Overview of 'Heretic - Complete Works', remix with 3D, 2023
(2) Heretic - Dedicated to the late Manuel Gottsching (Ashra), remix with 3D, 2023
(3) Manuel Gottsching, Ashra  - Sunrain 3D Remix by Hiro Kawahara


(c) Hiro Kawahara 2023
(p) It's Psychedelic Baby Magazine 2023, exclusive publication and use by special permission of Cuneiform Records and 
MG.ART.

 

 

 

 

各トラックの説明です。
両方のリミックス・トラックは、私の'Heretic - Complete Works'から複数のパートを抜粋して、一つの曲として繋げたものです。更に、オフィシャル・リリースと異なるのは、3D処理を施している点です。
つまり、両方のトラックは、ここでしか聴けない特別リミックス・バージョンです。
一曲目が49分、二曲目が36分と、合わせて85分、CD一枚を超える長さの音楽となります。それぞれの音楽にサイケデリックな映像を追加しました。
一曲目は全てCuneiform Records' Soundcloud サイトにサンプル・ミュージックとして公開されたテイクに3D処理したサウンドとなっています。
このトラックを聴く事で、私の音楽を聴いた事がない人が、Hereticの音楽についてある程度理解出来るようなサンプルとしてリミックスしました。

二曲目も、基本的には一曲目と同じく'Heretic - Complete Works'から、複数のパートを抜粋し、3D処理していますが、Manuel Gottsching、特にAsh Ra Tempelとか、サイケデリックの音楽を意識した、選曲/リックスになっています。
特に10:15からの1980年12月16日にライヴ録音したHereticの前のグループ、Astral Tempel(ドラム、ベース、ギターのトリオ)の即興演奏では、Ash Ra Tempelの1stをオマージュした演奏です。このライヴ・パートには、特殊なリミックスを施して、サイケデリック感を増幅させるエフェクトを処理しています。

それぞれ、私の過去の作品の中から複数のパートを抜粋しているので、もっと知りたいという人は、Cuneiformのデジタル・サイトをご参照下さい。

(3) 私の一番愛する曲で、私の音楽の方向性を決めたトラックの立体音響(3D)処理も施したリミックス曲です。
使ったトラックは、
New Age Of Earth (1976)
Live at Mt. Fuji (2007)
@shra Vol. 2 (1997)

です。
中盤でのLive at Mt. Fuji (2007)でのManuelさんが頭の中で考えていたメロディーの断片を取り出しています。
ラストのAshra四人でのライヴ・テイクは、基本的には大阪のライヴがベースになっていると思いますが、多分ですが、録音を取り直していると思います。この大阪公演は、私もステージの近くで経験しました。
Manuelさんとの交流も、ここから始まる事になります。ここでは、Haraldのドラムが前面に出ていて、ダンス寄りというより、よりロック的な側面を強調していたと思います。
尚、リマスター処理として、まず、低音域の強調をした上で、必要な部分のみ繋げ、最後に、要所要所で立体音響処理を施しました。この曲の私の解釈から、音をゆっくりと回転させているので、性能の良いヘッドフォンで聴けば、音が頭の周りをゆっくりと周回しているのを楽しめるはずです。
今回、悲しみに暮れているManuelの奥さんが、特別にこの無料公開を許可してくれた事に感謝します。

 

 



 

 


今回、特にManuel Gottschingへの追悼の意味合いが大変強いので、彼と私の交友関係を語りたいと思います。
私は、OSIRISというプロジェクトで、1980年に音楽デビューしました。
それ以前は、ハードロックが好きでしたが、FMでAshraのSunrainを聴いてから、ジャーマン・ロックが大好きになりました。特にAsh Ra Tempel、Ashra。
後にManuel GottschingがAshraとして最初に来日した際、そのライヴ・レポートを雑誌に書く関係から彼とコンタクトを取り、その後、次第に友人関係を築きあげていったのです。
彼の紹介で、Ashraのメンバー、Steve Baltesの2ndソロでギターも弾いています。
2000年以降は、彼が日本に来る度に、彼と彼の妻に会っていました。
中には、東京観光を案内した事もあります。親しくしていた事もあり、昨年12月に彼が亡くなったのは、大変ショックでした....

又、Heretic作品は、個別にも販売していますが、Astral TempelのライヴとOSIRISの作品も複数、Requiemにも収録されていて、この作品がManuel Gottschingへの追悼の意味が含まれています。

私は又、過去にAshraの日本向けのCDのライナーも複数書いていました。
その中で、特に皆さんに伝えておきたいエピソードをご紹介致します。

Blackouts / Manuel Gottsching (1977年9月録音、1977年発売)2008年9月末のCDライナー解説より。

BlackoutsについてManuel-sanが語ったエピソードをまず、ご紹介致します。

「1977年、Virginレーベルと契約をした直後に、私は、初めてアメリカ/ニューヨークにRosiと旅行に行きました。(彼女は現在、N.Y.に住んでいて、今でもいい友達です。)
N.Y.に着いて、びっくりしたのが、市内が真っ暗/停電状態(Blackout)でした。皆、騒いでいて、「この世の終わり」を絵に描いた有様でした。ほどなく、群集が静かになった時、理由が分かりました。この騒ぎは、有名なNewport Jazz Festivalのお祭りの一環だったのです。
N.Y.の街並みではサルサの音楽が演奏され、私には斬新/魅力的に感じました。:-)それから、当時のマービン・ゲイの新曲、"Got to give it up"を聞き、とても気に入りました。(今でも、好きなんですよ。)
N.Y.からベルリンに帰国してもこの旅行気分が抜けず、音楽もマービン・ゲイ、ラテン音楽、ソウル・ミュージック、ファンク・ミュージックを聴きまくっていました。
そんな中で、この作品を作りました。これらの音楽の要素が本作の中に入っていると私は信じています。作品タイトルは、私の人生で初めての停電という経験から、Blackoutsと付けたんです。:-)
それからこのN.Y.旅行中のハプニングとして、Houston StreetをRosiと歩いていたら、たまたまBernard Xolotlに声をかけられた思い出もあります。彼は、フランス生まれで、当時サンフランシスコに住んでいましたが、N.Y.を旅行中にたまたま私を見かけたので、声をかけたとの事です。(それまで面識がありませんでしたが、New Ageの写真で私だと判ったそうです。)」

別のCDのライナー解説には、2006年8月の東京観光のエピソードを書いていました。

都内案内の一日目、2006年8月29日(火) :
ホテル近くの地下鉄の駅から秋葉原まで、地下鉄に、彼と彼の奥さんを乗せました。満員の車内に乗せてから、これはまずい事をしたかな、と思ったのですが、Manuelは電車が好きなので全然OKでした。奥さんがスープが飲みたい、という事だったので、駅に着いた後、レストランにて軽食を取りました。スープと味噌汁が気に入ったようです。Maneulは、その時三度目の来日という事で、ネギトロ丼に醤油とワサビを上手くかけて、食べていました。箸の使い方も、二人とも上手でした。彼はコーヒーが好きみたいで、喫茶の時は、いつもコーヒーでした。


軽食後、秋葉原の中の複数の店を案内しました。彼らにとっては初めての秋葉原だったので、Duty Freeの店とか楽器店で、それぞれ長い時間をかけて、見て廻りました。
楽器屋のギター売り場では、ギブソンのアーム付きSGとフェンダー・テレキャスターを長い間手にとって見ていました。コンソールは、自身が持っているせいかマッキーのミキサーを長い時間、見ていました。

電車のミニチュア・ショップを発見すると入りたそうに、足が止まりましたが、時間の関係でパスしてもらいました。彼は、ミニチュアの電車が好きで、ジオラマとか一式のセットを自宅に持っているマニアでした。
CDショップでちょっとしたハプニング。ディナーをその上の階で取る為、たまたまCDショップのフロアーを横切っていると、急に、自分のコーナーを見たいと言い出したので、そこへ連れいくと、たまたま一人のファンがE2-E4のCDを手に取って、レジに行こうとしたところでした。で、その人が、私の隣のManuelに気づいて、私に「本人ですか?」の尋ねたので、「はい」と答えると、おもむろにサインペンを取り出して、サインの依頼を私にしました。Manuelは、嫌な顔一つせず、すぐにサインに応じてました。このファンの人、びっくりしたでしょうね。あの時のファンの顔は、非常に印象的でした。

ディナーは、色んなレストランを見比べてから、中華に決定。彼らは、何でも良く食べていました。ベルリンでは、イタリアン、フレンチ、中華、和食等、色々な国のレストランがあるので、料理は何でもOKみたいですね。Manuelは小食で、ビールばかり飲んでいました。

都内案内の二日目、8/30(水) :
16-18世紀の江戸の生活が判る、深川の江戸資料館に案内。彼らも非常に興味を持ってくれてImpressiveと言ってくれました。
館内を歩くManuelの姿は、端正な映画俳優みたいでした。
その後、土産物屋で、ちょんまげと半纏を着けて記念撮影。こういう変な格好になるのに、彼は意外と喜んでました。
この土産物屋で買ったお菓子(焼き八橋みたいな味)を、袋を抱えて街中を歩きながら食べる、彼の姿も印象的でした。

そしてこちらは、その2年後の再来日時、2008年8月、コンサート終了後の東京にて

ライヴが終わった後、Mr.Ashra夫妻は、都内のホテルに、一週間滞在して、次回の来日と、今後のCDリリース等の、準備とプロモーション、マスコミ各社のインタビューに忙殺されていました。
多忙な合間を見つけて、私との再会の時間を取ってくれました。たまたま、私が勤めていた外資のオフィスが、ホテルの向かい側にあった事もあり、毎日のように会ってお茶していました。
曲は、Liveという音楽ツールを使って作曲している事、E2-E4のライヴは、基本的にはリハーサルなしで、演奏を開始してから、サウンド・チェックも兼ねていたという事や、富士山山麓もそうでしたが屋外でのライヴが好きと言っていました。
彼の印象は、常に大人しい、もの静かな人で、威圧感とか、我侭な態度が全然無い人で、アテンドしやすい方でした。話し方も物静かに、ゆっくりと喋るし、歩くペースもかなりゆっくりしていました。
こちらまで心穏やかになる様な波動を持っている方でした。

2012年の来日では、千葉、幕張メッセでの深夜のライヴだったので、行けなかったのですが、夫妻が帰国する前に、わざわざ電話をかけてくれて挨拶してくれた事を記憶しています。これが、彼らと会話した最後になります。


Manuelさん、私の音楽人生にも、大きな影響を与えてくれて感謝しています。遅ればせながら、ご冥福をお祈り致します。

河原博文

Manuel Göttsching (Ashra)さんを偲んでもご覧ください。

Heretic biography:

From 1980 to 1982, Hiro Kawahara formed OSIRIS, Astral Tempel, Dr.Jekyll and Mr.Hyde, like Kraut Rock sound, and mainly released cassette tapes.
In 1980, released an independent LP, 'In The Mist Of Time' under name,OSIRIS, helped with Fools Mate magazine.
In 1984, Hiro Kawahara, Thoru Ohta, and Takurou Moriyama formed this Heretic and releases private 1st LP 'Interface'.
In 1988, Heretic 2nd LP,'Escape Sequence' was released as an LP by Belle Antique Label.
Also participating are my friends Yozox Yamamoto and Taiqui Tomiie from Ain Soph.
In 1994, the 1st and 2nd compilation CD were released from Belle Antique label.
After that, in the 1990s, we released works using MIDI, and various software in Hiro Kawahara's personal studio.
1996, Limited release called 'Past In Future', a pre-release demo for Belle Antique label.
1996, Released 'Yayoi Dream' with CD-ROM from Belle Antique label.
1997, Released 'Drugging For M' with CD-ROM from Belle Antique label.
1998, Recorded individual collaborations with German musicians Peter Frohmader and Steve Baltes (Ashra).
2000, Hiro Kawahara had exclusive audio parts for Eurock's CD-ROM, 'The Golden Age', which includes his final recording track as Heretic in 1999.
2010, Eurock (USA) released a Heretic and Pre-Heretic compilation called 'Requiem' as Eurock's final CD.
August 25, 2023, All Hiro Kawahara's past and unreleased works were digitally released from Cuneiform Records in the United States.

Discography;

1979 OSIRIS - Journey To New World (Cassette)
1979 OSIRIS - A Midsummer Night’s Dream (Cassette)
1979 OSIRIS - Osiris Mythology (Cassette)
1980 OSIRIS - Astral Tempel (Cassette)
1980 OSIRIS - Rhapsody For You (Cassette)
1980 OSIRIS - The Restration Of Soul (Cassette)
1980 OSIRIS - In and Out (Cassette)
1980 OSIRIS - In the Mist Of Time (LP Private Press & Fool's Mate JHWH-1001)
1981 OSIRIS - El Rayo De Luna I (Cassette)
1981 OSIRIS - El Rayo De Luna II (Cassette)
1981 Astral Tempel - Shadow Illusion (Cassette)
1981 Dr.Jekyll and Mr.Hyde - 1 (Cassette)(with Yozox Yamamoto from Ain Soph)
1982 OSIRIS - A Failed Play (Cassette)
1982 OSIRIS - Echo Troublant (Cassette)
1982 Dr.Jekyll and Mr.Hyde - 2 (Cassette)(with Yozox Yamamoto from Ain Soph)
1982 Astral Tempel - Vista Under Arc Light (Cassette)
1982 Astral Tempel - 100% Odd Lots Session (Cassette)
1982 Dr.Jekyll and Mr.Hyde - 3 (Cassette)(with Yozox Yamamoto from Ain Soph)
1982 Dr.Jekyll and Mr.Hyde - 4 (Cassette)(with Yozox Yamamoto from Ain Soph)
1994 Heretic - Interface (LP Private Press)(DL:Cuneiform Rune 3375)
1988 Heretic - Escape Sequence (LP:Belle Antique 8807)(DL:Cuneiform Rune 3378)
1994 Heretic - 1984-88 (CD:Belle Antique 9457)(DL:Cuneiform Rune 3373)
1996 Heretic - Past In Future(Demo-CDR) (DL:Cuneiform Rune 3377)
1996 Heretic - Yayoi Dream (CD + CD-ROM:Belle Antique BELLE 96302)(DL:Cuneiform Rune 3374)
1997 Heretic - Drugging For M (CD + CD-ROM:Belle Antique BELLE 97350)(DL:Cuneiform Rune 3376)
2000 Eurock  - The Golden Age (CD + CD-ROM) (Eurock ECD 3001)
2010 Heretic - Requiem (Zen Records ZCD 4001)(DL:Cuneiform Rune 3380)
2023 Heretic - Live-Kyoto 85 and Tokyo 88 (DL:Cuneiform Rune 3381)
2023 Hiro Kawahara and Peter Frohmader - Hiro Kawahara and Peter Frohmader (DL:Cuneiform Rune 3379)
2023 Heretic - Complete Works (DL:Cuneiform Rune 3382)

Heretic - Yayoi Dream Video Sample:
Heretic - Drugging For M Video Sample:
Hiro Kawahara and Peter Frohmader Video Sample:
Heretic - Complete Works Video Sample:


Heretic - Complete Works:
Heretic - Interface:
Heretic - Escape Sequence:
Heretic - 1984-88:
Heretic - Past In Future:
Heretic - Yayoi Dream:
Heretic - Drugging For M:
Heretic - Requiem:
Heretic - Live-Kyoto 85 and Tokyo 88:
Hiro Kawahara and Peter Frohmader:

今回のリミックスのご感想を是非、私に聞かせて下さい。又、Dr.Jekyll and Mr.Hyde - 3&4のカセットをお持ちの方も、ご連絡頂けると助かります。

 (Heretic.Cuneiform@gmail.com)

最後に、Hereticで長年愛用した私のギターを紹介します。ボディーに花柄の生地を巻きつけてコーティングした特注品で、世界にこの一台しかありません。

 

PS: 音作りにご興味のある方は、「音」とは? (B&W、マスタリング)もご覧下さい。

Psychedelic Baby Magazine(スロベニアのオンライン音楽雑誌) 2023年8月インタビュー 「禅-エレクロトロクス」 (拙訳)
2023年10月24日公開
https://www.psychedelicbabymag.com/2023/10/heretic-hiro-kawahara-interview.html

アメリカ・キュニフォーム・レコードから8月25日に、日本のエクスペリメンタル・ギタリスト、河原博文のプロジェクト、ヘレティック(Heretic)の全作品を公開しました。


河原は、『ヘレティック』以前から、『オシリス』、『アストラル・テンペル』、『ジキルとハイド』などのプロジェクトで活動していました。 
これらの過去作は、録音から物販まで一人で行っていたので、入手困難な作品となっています。
その後のHereticの音楽性はダーク・アンビエントな雰囲気に満ちた、奇妙な音楽で展開されています。 
今回キュニフォーム・レコードの協力により過去の全作品がデジタルリリースされました。 
河原の音楽は、彼が「禅-エレクロトロクス」と説明しているコンセプトに基づいています。 

「物理的なサウンドとして、禅-エレクロトロクスを目指していました。これは特定の周波数を強調させる事で、私の作った音が聴く人の深層意識に、響くような音作りを目指していました。言い換えると、自分の内面と向き合うきっかけ/媒介となる音楽を目ざしていました。New Age Musicと看做すリスナーも多いかと思いますが、より神経を集中して聴くと、もっと深いイメージが心の中から浮かび上がるはずです。」

 

「昨年(2022年)の夏から半年以上かけて全ての楽曲をリマスタリングしました」


Q: もともとの出身はどこですか? 生い立ちについて教えて頂けますか?

A: 私は、京都に生まれ育ちました。観光地として有名な嵐山が生まれ故郷です。
中学、高校、大学まで京都で生活し、大学卒業後は、ソフトウェア・エンジニアとして大阪で仕事をしていました。
1999年に転職を契機に、東京に引っ越した後は、半導体のコア・ソフトウェアの開発サポートをメインに最近まで働いていました。


Q: 最初に音楽に興味を持ったきっかけは何ですか?

A: 私は、もともと日本のポピュラー音楽に興味がありませんでした。
小学生から中学生の頃に、最初に熱中したのは、The Beatlesです。
特にLet It Beはリアルタイムで経験したので、Let It BeとAbbey Roadは今も好きです。
今回のHereticの全作品のリマスター作業をした前年(2021年)には、1969年1月のLet It Beセッション、所謂「Nagra Tape」全てのデータから会話とか不要なビープ音を取り除いた、音楽だけを取り出した編集を、私個人の楽しみとしてリマスターしました。
その時のテクニック/ノウハウが、今回のHereticのリマスター作業に生かされています。


Q: 日本の音楽シーンはどうでしたか?

A: 私がティーン・エージャーの頃の質問であれば、日本のポピュラー・ミュージックには興味がありませんでした。
しかし、カルメン・マキ & オズ、外道、フラワー・トラベリング・バンドといったハード・ハードロック・バンドは好きでした。
ティーン・エージャーの頃には、西洋のプログレッシヴ・ロックとしては、E,L&PとかYesは聴いていましたが、日本のプログレッシヴ・ロック・バンドは、当時は聴いていませんでした。


 

Q: あなたが参加していたごく初期のバンドやプロジェクト (ジキル & ハイド以前) は何ですか?

A: ひょっとして勘違いされていかも知れないので補足説明します。
Heretic以前に、私が音楽活動していたプロジェクト、グループは以下の通りです。
基本的に、作品はそれぞれカセットで自主販売していました。

OSIRIS:

Journey To New World(1979:Cassette)
A Midsummer Night's Dream(1979:Cassette)
Osiris Mythology(1979:Cassette)
Astral Temple(1980:Cassette)
Rhapsody For You(1980:Cassette)
The Restration Of Soul(1980:Cassette)
In and Out(1980:Cassette)
In The Mist Of Time(1980:LP)
El Rayo De Luna I(1981:Cassette)
El Rayo De Luna II(1981:Cassette)
A Failed Play(1982:Cassette)
Echo Troublant(1982:Cassette)

Astral Tempel:

Shadow Illusion(1981:Cassette)
Vista Under Arc Light(1982:Cassette)
100% Odd Lots Session(1982:Cassette)

Dr.Jekyll and Mr.Hyde (アインソフの山本要三氏とのデュオ):

Dr.Jekyll and Mr.Hyde 1(1981:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 2(1982:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 3(1982:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 4(1982:Cassette)


Q: ジキルとハイドについて詳しく教えて下さい。情報がほとんどありません。

A: 上記、ディスコグラフィーを参照して頂きたいのですが、OSIRISのLP, In THe Mist Of Timeが出る直前に、共通の知り合いの人の紹介で、Ain SophというJazz-Rockグループのリーダー、山本要三氏を紹介してもらい、その後意気投合して、Dr.Jekyll and Mr.Hyde名義で4作のカセット作品をリリースしました。

Dr.Jekyll and Mr.Hyde 1(1981:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 2(1982:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 3(1982:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 4(1982:Cassette)

山本さんとは、今でも仲の良い友人です。
私は、
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 1(1981:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 2(1982:Cassette)
のデジタル・データは持っていますが、3と4のデータが引越しの後、マスター・テープも含めて紛失しています.........(お持ちの方、ご連絡下さい。)
彼とのデュオ・サウンドは、違うタイプのギタリスト二人による、即興演奏が大半でした。
音楽的なクオリティーと、山本氏の経歴に傷がつく事を恐れて、私は、現時点では公開するつもりはありません。
但し、今後、彼と相談した上で、効果的なリミックスが出来たなら、公開する可能性はあると思います。


Q: このプレスは何枚でしたか?

A: どのアルバムのご質問でしょうか?
OSIRIS - In The Mist Of Time(1980:LP) : 500枚
その他のカセットは、日本国内でごく少数のコピーしか販売していないはずです。


Q: Heretic のルーツはOSIRISというバンドにあると思っています。 OSIRISについて詳しく教えて頂けますか?

A: このOSIRISというプロジェクトで、私は音楽デビューしました。
それ以前は、ハードロックが好きでしたが、FMでAshraのSunrainを聴いてから、ジャーマン・ロックが大好きになりました。特にAsh Ra Temple、Ashraですね。
後にManuel Gottschingが最初に来日した後、知人の伝手で、彼とコンタクトを取り、次第に友人関係を築きあげていき、2000年以降、彼が日本に来る度に、彼と彼の妻に会っていました。
中には、東京観光を案内した事もあります。
OSIRISの根底にあったのは、このManuel Gottschingへのオマージュがありました。
その為、昨年12月に彼が亡くなったのは、大変ショックでした....
今回のRequiemには、OSIRISとAstral Tempelの音楽を沢山追加していて、特にAstral TempelでのRitsumeikan Universityでのライヴは、Ash Ra Templeの1stをオマージュしていました。
よって、Requiemは、Manuel Gottschingへの追悼の意味が含まれています。



Q: あなたはテープでいくつかのアルバムをリリースし、レコードで「In The Mist Of Time」をリリースしましたよね?

A: はい、これまでの回答と併せて、「In The Mist Of Time」に関して説明すると、これが私にとって最初のLPでした。
そして運の良い事に、当時Fool's Mateというヨーロピアン・ロックを紹介していた雑誌社がバックアップしてました。


Q: Astral Tempelについては?

A: メンバーが途中で変わったので、二つの時期に分かれるバンドですが、基本的にトリオ編成のライヴバンドです。
RequiemComplete Worksのボーナス・トラックでそのサウンドが聴けます。
第一期は、Ash Ra Templeをオマージュしたサウンドで、第二期は、よりJazz寄りの音になっていたと思います。


Q: 1984 年に Hereticを結成した理由は?

A: 何故OSIRIS名義にしなかったのか、という質問だと思います。
答えは、シンプルで、太田亨と知り合い、彼がHereticの音楽制作の半分を担当してくれたからです。この後、長い期間、彼と共同で音楽を作り続ける事になります。

 

Q: それぞれのアルバムについてコメントしていただけますか?

A: では今回のデジタル・リリースした際の、各作品のキャッチコピーを紹介します。

Heretic - Interface (1985)
「エルドンに対する日本の京都。多様な音色のシンセサイザーとギターによるサウンド・トリップ。このファースト・アルバムは1985年に発表されました。」


Heretic - Escape Sequence (1985)
「1988年に多くのゲストが参加して発表したヘレティックのセカンド・アルバム。キング・クリムゾン、エルドンに対する日本の京都の答えです。このセカンド・アルバムには多くの友人や知人が参加し、ベル・アンティーク(マーキー)レーベルからLPとして発表する事が出来ました。」


Heretic - KYOTO '85 AND TOKYO '88 (2022)
「この作品は、ヘレティック の数少ないライブおよびリハーサルから抜粋されたもので、そのすべてが未発表のものです。ライブ作品は珍しい記録となっています。」


Heretic - 1984-88 (1994)
「エルドンに対する日本の京都。多様な音色のシンセサイザーとギターによるサウンド・トリップ。このコンピレーションには、1st アルバムと 2nd アルバムの楽曲 + 即興セッション、ボーナス・トラックが含まれています。」

 
Heretic - PAST IN FUTURE (1996)
「ここで聴かれる音楽はエレクトロニック・ロックとアンビエントの境界線をまたいでおり、時にはBiota のランダムなサウンドスケープ、時にはリシャール・ピナスの攻撃的なイメージ、時にはForrest Fangの Migrationでの浮遊感のあるアンビエント・ミュージックも感じさせますが、実際にはこれらのどれにも似ていません。完全にオリジナル作品となっています。」- Peter Thelen、Expose


Heretic - 弥生幻想 (1996)
「新しいテクノロジーは新たな展開をもたらしますが、それを最大限に活用する想像力を持ったミュージシャンはほとんどいません。河原博文は、それを最大限に活用している最先端にいる人の一人だと私は思います。」- Nigel Harris


Heretic - DRUGGING FOR M (1997)
複数のインタラクティブMIDIソフトウェアを使って世紀末感を描く。


Hiro Kawahara / Heretic - Requiem 2022 Extended Version (2010)
「友人のマヌエル・ゴッチング (Ashra)、そして2011年3月11日の大津波で被害を受けられた多くの日本の人々に捧げます。」


HIRO KAWAHARA & PETER FROHMADER  1998
「故ペーター・フローマーダーに捧げます。数曲で3D(立体音響)処理をしています。」


昨年夏から半年以上かけて全曲をリマスターしました。作業中は、音をより良く聴こえる事に集中していていましたが、特定のトラックでは当時の生活も含めた思い出が思い浮かびました。



Q: これらすべてのアルバムが Cuneiform Records からデジタルで入手できるのは素晴らしいことです。 レコードやCDの再発も計画していますか?

A: 私の理解では、Cuneiform RecordsからCD等のリリースはないはずです。
私自身も、物理的なメディアでのリリース、特にLPでのリリースは一切興味がありません。何故なら、過去のLP作品ではマスタリングは、勝手にレベルを下げられて音が悪かったのと、現在のリマスターの場合、超低音を強調させているので、LPだと針飛びを起こします。又、A面B面の物理的な切れ目があるのが、私は好きではありません。
結果的には、現時点ではデジタル・リリースが一番、私の好みにフィットしています。Bandcamp用のデータは、全て48kHz/32bitのデータです


Q: Heretic についての全体的なビジョンとコンセプトは何だと思いますか?

A: 根本にあるコンセプトは、大きくは時間芸術、音響的には、「禅-エレクロトロクス」を目指しています。
言い換えると、私の作る音が聴く人の深層意識に、響くような音作りをしていて、人によっては自分の内面と向き合うきっかけ/媒介となる音楽を目ざしていました。
New Age Musicと看做すリスナーも多いかと思いますが、より神経を集中して聴くと、もっと深いイメージが心の中から浮かび上がるはずです。
又、Hereticで表現したかったのは、少なくとも私が自分で気に入った作品を作りたい、という思いがずっとありました。


 

Q: 過去の使用機材について教えてください。
 

A: Keybords and Sound module; 

Korg DSS-1x2,DSM-1,M3R
Roland U-110,R-8M
Oberheim Matrix-1000,DPX-1
E-Mu Vintage Keys +
Yamaha RX-11
Roland TD-7 and Pads

Effector, outboard;

Roland DIMENTION D
Yamaha SPX90,SPX50D
Korg SDD-1000
BBE 462
Behringer EX-1,EX-3100
ZOOM 9150
Lexicon Jam Man

Recorder;

Fostex E-16(16tr) 
Victor XD-Z505(DAT)
TEAC A-6100 mkII(2tr/38)

Console;
TASCAM M-224
BOSS BX-16

Software;
Various MIDI software, 
enclufing intereactive software,
e.g. M, Jam Factory and Music Mouse......

 

 

Q: その頃は何かライヴをやっていましたか? ステージを共有したライヴハウスやバンドは何ですか?

A: いいえ、Hereticでのライヴは、非常に数少なかったです。理由は、私がライヴで神経を集中出来ないからです。

1985-03-03: Doushisya University, Kyoto
1985-11-04: Ritsumeikan University, Kyoto
1986-06-22: Ritsumeikan University, Kyoto
1987-09-14: Egg Plant, Osaka as backing band of DUPPI
1988-03-19: Meguro Live Station,Tokyo



Q: Heretic にいる間に起こった最もクレイジーな経験は何ですか?

 

A: 質問の回答にはなっていないと思いますが、弥生幻想とDrugging For Mは、それぞれCD-ROM付きのハイブリッドCDでした。
これは、当時のレコード会社にとっても初めての経験で、私にとっても初めての挑戦でした。各関係者の協力要請に奔走した記憶があります。
幸いに、私の熱意を感じてくれて、レコード会社も含めて、楽器メーカーやソフトウェア・メーカーが皆、協力してくれました。



Q: Hereticの傍らであなたの人生を占めていたものは何ですか? 現在、あなたの人生を占めているものは何ですか?

A: 1999年以降は東京に引っ越してから今年まで、半導体業界の中に没頭していました。
正直、昨年まで、私の過去の音楽活動をすっかり忘れていました。
つまりこの約20数年は、半導体業界の組込みソフトウェアの事だけを考えていた人生になります。
今年になって、体調が悪化してきたので、全ての仕事から隠退して、今は、出来るだけ静かな生活を送っています。体調の良い日は、毎日朝に、近くの植物園を散歩しています。
今回のプロモーション・ビデオのいくつかは、その植物園の風景です。ここで、私は癒され、インスピレーションを自然から受けています。
二つ目の質問に対して、現時点でのピンポイントの回答としては、Hereticの全作品を世界に公開し、ある意味での遺産としてCuneiform Recordsに託す事でした。全てのデータを彼らが保管してくれています。


Q: あなたが受けた影響などについて詳しく教えてください。

A: 本や音楽からの私への影響という質問なら、生きてきた全ての経験が、人生に影響している、という漠然とした答えになります。
今、過去を振り返ると、今回のリリースも含めて、人との縁だったと思います。
音楽を通じて仲が良かった人とは、いまだに交流があり、これが一番の財産・影響だと思います。
私は、基本的に好き嫌いの激しい人間なので、長年付き合いのある人の眼からは、多分エキセントリックな人物と写っているはずです。
家内が一番迷惑しているとは思いますが、子供も独立して今は、二人で静かに生活しています。


Q: あなたのプロジェクトで未発表となっている音楽はありますか?

A: 前の質問で回答しましたが、Heretic以前、特にDr.Jekyll and Mr.Hydeは全て未発表の状態です。
OSIRISとAstral Tempelに関しても、今回のデジタル・リリース以外にありますが、私としては音楽クオリティーに満足していないので、公開する予定はありません。




Q: このインタビューをあなたのお気に入りのアルバムのいくつかご紹介下さい。最近、読者に薦めたい新しい音楽を見つけましたか?

A: 私は、気に入ったバンドがあっても、全ての曲が好きにはなりません。特定の部分のみ気に入った場合、独自にリミックスして自分用の音楽として聴いています。

アーティストとして非常に気に入っているのは、HR/HMのジャンルですが、日本のLOVEBITESというバンドの特定の曲/特定のパートが大変気に入っています。特にEdge of the World
ここのドラムの女の子(Haruna)がツイン・キック・ドラムを連打していてびっくりしています。ツイン・ギターの3/5度のインターバル・ハーモニーと複雑なリズム展開も大好きです。

クラッシックのジャンルになりますが、オペラ/ソプラノ歌手の舟橋千尋も大変好きです。
彼女のソロCD等はありませんが、Anna Hardyという女性keybord奏者のソロ作品 (Lunatic Spells: 2020)にゲストで参加していました。ここでは、舟橋千尋が主役以上に目だっていました。

プログレッシヴ・ロックのジャンルではポーランドのRiversideが好みです。

しかし、基本的には、私は音楽より、読書が好きで、音楽は自らすすんで聴いていません。


Q: お時間を割いていただきありがとうございます。 最後にひとことお願いします。

A: 私は、仕事も音楽も全て隠退した人間です。今回、アメリカのCuneiform Recordsから、Hereticの全作品がリリース出来て、非常に感謝しています。
これらの音楽は、30~40年前の音楽ですが、現在でも通用すると信じています。
又、特定の音楽には、立体音響処理を施していますので、YouTuveのPVをヘッドフォンで聴いて下さい。中には、今まであなたが経験した事のない音の世界があると思います。


インタビュワー : Klemen Breznikar (Psychedelic Baby Magazine)

私(河原博文)は、Manuel Göttsching (Ashra)さんが昨年2022年12月4日にお亡くなりになられた事を、年明けてから友人に教えてもらいました。
私は、今回、Hereticの全作品をデジタル・リリースするまで、ほんとに世間の音楽情勢について知りませんでした。
本来は、亡くなられた後、すぐに表明すべきだったのですが、彼への追悼曲になる曲の公開をしたかったのと、今日が彼の誕生日という事で、遅ればせながら、彼に関わる私の思いをお伝えしたいと思います。
時系列に思い出して書き連ねていき、最後に彼が来日した時のエピソードも色々と紹介したいと思います。
(基本的には、CDとビデオのライナー原稿を加筆訂正しています。)


先日掲載した「私の愛聴盤」に書きましたが、確か1978年か79年頃にFMで聴いた「New Age Of Earth」からの「Sunrain」が彼の音楽を初めて聴いた曲となります。
当時は、LPの時代でしたが、Ash Ra TempelのLPなんて、廃盤でどこにも売っていませんでした。
たまたま「どらっぐすとあ」という不思議なお店に、複数枚のLPが置いてあり、そこで聴かせてもらって彼の音楽にのめり込んでいったのです。
OSIRISの音楽は、明らかに彼からの影響が大きかったです。マスター・データを紛失していますが、「Echoe Waves」のコピーのような曲も演奏・録音しました。


彼らとの最初の接点のきっかけは、1997年にAshraが初来日を果たした時、私はアメリカの雑誌、Exposeにその時のライヴ・レポートを書きました。

Ash Ra Tempel , Feb' 11th 1997, Club Quatro, Osaka

まさかのAsh Ra Tempelライヴが、日本で実現された。お気付きの様にグループ名がAshraでは無く、Ash Ra Tempelである。メンバーは、Manuel Gottsching(g,key),Harald Grosskopf(ds),Lutz Ulbrich(g,key),Steve Baltes(key)。このコンサートは Psychedelic Originators For Space Age シリーズの一環です。

今回の日本公演は、以下の様に4回行われ、内2回は他のアーティストとのクラブ・ギグというもの。前半2回での演奏は時間的に約1時間という事(収録曲はEcho Waves、Six Voices他2曲)と、踊るという要素が大きく、純粋に音楽を楽しむ為のライヴは後半2回の単独公演のみであった。

2/ 7 (金) Tokyo/Liquid Room : HANADENSHA, KEN ISHII(DJ), SYSTEM7
2/10 (月) Osaka/Bayside Jenny : HANADENSHA,HAYATO(DJ)SYSTEM7
2/11 (火) Osaka/Club Quatro
2/12 (水) Tokyo/On Air West

少なく共、私が観た大阪での単独ライヴでは演奏時間が2時間半に渡るもので、近年ヨーロッパで行われたライヴでも平均1時間の公演である事を考えると異例の長時間演奏と思える。


2/11 (火) 開演19:00の約1時間前に開場し、多分彼らが作ったと思われる音楽が流れる中、開演を待つ。その音楽は、基本的にテクノ路線だが、飽きさせない音楽だった。この大阪公演の客は大半が20才前半の若者ばかりで、客数は100名位来ていたのだろうか? 2/12の東京は250人位。
"ドイツから来た、Ash Ra Tempel!!"とアナウンスされると、まず若手のSteve Baldesが登場し、客席から見て真中右寄りのキーボード、MIDIラックのコーナーに入り、Inventions For Electric GuitarからサンプリングしたEcho Wavesを鳴らし出した。Echo Waves? 何年振りの演奏なんだろうか? Echo Wavesを演奏するからAsh Ra Tempelなの?と色んな疑問が頭の中を駆け巡る。
次にLutz Ulbrichが一番左側に位置し、ギターでリフを重ねていく。ほどなく、Haraldが登場し、客席に向かって写真を取る。彼はステージに上がる毎に写真を取ってコレクションしている様だ。彼のドラムがあのEcho Wavesに合わせて演奏し出すと、なるほど、現在のテクノの音になるな、と納得。いよいよMr.Ashraの登場だ。皆待っていた様に拍手をする。一番右側にセッティングされた場所で、オリジナルに近い内容で、ディレイ・ギターを弾いていく。Lutzと二人共同じGibsonのアーム付きSG(Manuelのトレード・マーク)を使い、同じ音質を出して、多重録音のニュアンスを出そうとしていた様に見受けられる。
大阪では以下の曲順で、たまにHaraldのMCをはさみながら演奏された。翌日の東京ライヴも曲順、時間共、同じ内容だったと思われる。判っている曲でも全て、独特のアレンジがしてあって、CDの内容とはかなり違っていた。一曲毎の時間が長く、Oasisですら、9分。又、この大阪公演は、音のバランスが悪かったのが残念。

1.Echo Waves (Inventions For Electric Guitar '74) 20min
2.Twelve Samples (Walkn' the Desert '89) 18min  Lutzが中近東風のスケールでギター・ソロ
3.Six Voices (Walkn' the Desert '89) 12min
4.Timbuktu (new title) 13min Lutzのギター・ソロがフィーチャー
5.Hausaufgabc (The Private Tapes) ~
6.Four Guitars (Walkn' the Desert '89) 17min
7.Sunrain (New Age of Earth '76) 10min
8. Niemandlacht ruckwarts (The Private Tapes) 20min Klaus Schlzeみたいなスペーシーな曲、途中ドラム・ソロあり、後半はManuelのギター弾きまくり
encore
9.Oasis (Correlations '79) 9min アンビエント・テクノ・バージョン
10.encore2 Move 9Up (new title)  10min かなりアヴァンギャルドな曲

Steveが基本的なシーケンス・パターンとSEを担当し、Manuel、Lutzが各々ソロを取るという演奏形態で、飛び抜けて巧かったのが、DsのHarald。シーケンサーにビッタリ合わせて長時間の演奏を、クリック無しで叩いており凄かった。又、Haraldの影響か、多分にエスニックな雰囲気になっている箇所も多々あった。

(3)や(9)のギター・アンサンブルではManuel、Lutz二人がFenderのTelecasterでLP/CDで聞かれる、クリーンな音を出していた。Manuelは、終始淡々とした、もの静かな表情で演奏していたが、Lutzは体で、カウントを取りながら演奏しており、対象的で面白かった。 アンコールでは、タバコを吸いながら出て来たManuel。あるインタビューでも報告されていたが、彼はヘビー・スモーカーらしい。

Steveは、MIDIの事を熟知している様で、リアル・タイムにMIDI MINI(MINI MOOGのラック・マウント版)のVCFをウニウニ動かしたり、サンプラー(ハード・ディスク・レコーディング・ユニット?)の音を複数スタンバイさせておいて、適宜音を入れ替えたりとライヴで、良くここまでやれるなという操作を行なっていた。Haraldと同じ町に住んでいて、2年前から、Haraldと色んなプロジェクトで行動を共にしているそうで、元々DJの人。Echo Wavesをリミックスして、"N-Tribe-Phreakwaves"という曲を昨年作ったとの事(Manuelより)。

ここ6年間、新作の出ていないAshraだが(91年発表のTropical Heat以来新作発表無し)、ライヴもまれにしかしないので(前回は91年5月11日Cologne)、ほとんど引退状態の中の来日公演。Manuelの演奏を見ていてつくづく思ったのが、バリバリの現役のミュージシャンだなという事。これだけのブランクがあってもキッチリした演奏と、ロックのスピリッツを感じさせてくれた。
Mr.Ashraに問い合わせたところ、今回のライヴ・レコーディングは、正式に出るそうで、現在、選曲中。1枚若しくは2枚組みになるかは未定。本人は、私が見た大阪公演がベストな演奏だと答えている。

上記初来日のレポートを作成するに当たり、Manuelさんと直接コンタクトを取ることが出来、以降段々と仲が良くなっていきました。
又、当時の問い合わせの際、Steve Baltesにも紹介してくれて、その後、Steveの2ndソロ、「Rhythm Of Life」(1998)に私はギターとSEで参加しています。ここでのギター・ソロは、Manuelさんを意識した演奏でした。今回のHeretic「Complete Works」のボーナス・トラックの一部でそのソロが聴けます。



こちらは、初来日時のライヴCDのライナー原稿です。

ASHRA / @shra

ASHRAが日本に来て公演しただけでも信じられなかったのに、その録音のCDが出るなんて、ほんと信じられません。
その事については、東京タワー内にある東京タワー蝋人形館のオーナーがManuelさん(以降Mr.Ashraと呼びます)の音楽を大変好きで、(事実、Mr.Ashraの蝋人形まで飾ってある)彼個人の夢から、ASHRAの日本公演と二枚のCDが出来た、と彼らのホーム・ページで紹介されています。以下はMr.Ashraの複数のインタビューで語った、日本公演に関するコメントの抜粋です。

『ライブは過去数年やっていなかったが、日本公演は大変素晴らしかった。今迄と違ったモダンなやり方で演奏したところ、観客も我々も楽しめた。4回公演のうち、2回がSteve Hillage / System 7との対バン形式。で、残り2回が単独公演だった。多くの観客が、我々の事を音楽も含めて良く知っていた。この点は驚いた。この日本公演以前には、Harald GrosskopfとLutz Ulbrichとの演奏が5年間もブランク状態だった。そして、Haraldが連れてきたSteve Baltesは26か27歳の新メンバーだったので、我々にとっては冒険だった。しかし、結果は素晴らしかった。Steveのお陰で、以前なら私が担当していたシーケンサーやリズム・マシン関係の操作を彼が担当し、私はギターやキーボードの演奏に専念出来る様になった。又、Haraldがドラムを叩く時に、同期が取り易い様にサポートしてくれた。過去のASHRAの数曲のベーシック・テーマを彼に渡したところ、サンプリングして色んなバリエーションを作ってくれた。素晴しい。
Ash Ra TempelとかASHRAのバンド名については、混乱させて申し訳ないが、別にどちらだろうが私自身は気にしていない。』

ライヴレポートは上記と同じなので割愛します。

以下追加・補足説明です。
Haraldさんの日本公演の時の滞在日記が、彼らのホーム・ページに英文で掲載されています。尚KLEM誌には、日本滞在中のスナップ写真も多数掲載されていました。で、この滞在記で印象的というかびっくりしたのが、公演初日のサウンド・チェック/リハーサル直後にMr.Ashraが本当に倒れて皆がビックリした事でしょうか。原因はこの日本公演に対するストレスからの睡眠不足/過労だったそうですが、やはり几帳面な性格が災いしたのでしょうね。その日の公演はご存知の通り問題なく行われましたが.......この日記にも書かれている通り、この日の演奏は嵐の様な拍手に迎えられて感動した事、それからメンバー全員がMr.Ashraが途中で倒れないかヒヤヒヤしながら演奏した事等、非常に興味深い内容となっています。私が観た2月11日公演が、Haraldさんも雰囲気が良くベスト・パフォーマンスだった、と書いています。Eurock /Golden Age(Arcangelo ARC-6001)にも、この英文記事とMr.Ashraのインタビューが含まれています。
次に、同時期のライヴ「Sauce Hollandaise」とこの「@shra」を比較してみると曲が3曲同じで、何故こんなに印象が違うのか、という点が興味深いと思います。「Sauce Hollandaise」のプロデュースはMr.Ashra、「@shra」はSteveさんです。オランダKLEMフェスティバルの方はより瞑想色が強く(メリハリが無く)、今一つピンとこない。Mr.Ashraの感性/感覚が前面に出たミックスとなったと思いますが、個人的にはSteveさんのテクノ/トランス色が色濃く出た「@shra」バージョンの方がメリハリがあって好きです。
(「ASHRA/@shra Vol.2」へ続く)
2002年、2月のライナー原稿より。


こちらはASHRA/@shra vol. 2のライナー原稿です。

(「ASHRA/@shra」から続く)
Steveさんの説明によると今回の「@shra Vol.2」リリースについては、「@shra」の時から懸案事項になっていた様ですが、日本公演の他のマテリアルを是非出して欲しいというファンの強い要望が一番にあり、特に日本のファンが一番望んだ事だったそうです。その要望に答えてMr.AshraとSteveさんがミックス・ダウンした結果、内容も非常に良く、リリースする価値がある、と判断してやっと陽の目を見たという事です。それから版権を正しく管理出来るレーベルを探していた、という経緯と元々の進捗がかなりスローな理由から、これだけ時間が空いてしまった様です。併せて運悪く、例の9/11 N.Y.同時多発テロ発生時にSteveさんがアメリカに滞在しており、約2週間足止めを食らったのもリリースが遅れた一因です。このテロでのSteveさんへの影響は直接的には無かったものの、ドイツ帰国後にミックスを完成させたという背景があります。
以下追加・補足説明です。
Steveさんとやり取りした当時のメールを読み返すと、Sunrainについては、録音がかなり悪く聴かせるものが無いと言っていました。実はこの曲のelc-pの音色のパートは、シーケンサーだと思っていたらMr.AshraとLutzさん二人の手弾きだったんですね。びっくりした記憶があります。でも今回の「@shra vol.2」で、ようやく陽の目を見る運びとなりました。とってもきれいに仕上がっています。
ジャケット写真がなんで新幹線かというと、Mr.Ashraが撮ったこの写真をメンバー全員が気に入ったのが最大の理由とか。併せて、新幹線に乗った時の印象も大変強く残っているそうです。

2002年、2月のライナー原稿より。


以降、AshraのCDとビデオのライナーも書いていたので、抜粋でご紹介していきます。
中には、Manuelさんからの直接のコメントもあったりするので、ご興味のある方は是非お読み下さい。


ASHRA / Burg Herzberg Open Air Festival,Germany 1997年7月19日

当初、リリース予定だったAsh Ra Tempel / London Royal Festival Hall (4/2/2000)のビデオがキャンセルされて、代わりにリリースされたのがこのビデオです。当然これがASHRAにとって最初のオフィシャル・ビデオとなります。

1997年は、ASHRAとしては新メンバーのSteve Baltesさんを迎え、日本公演(4回)、オランダ公演(KLEM festival)と、このOpen Air Burg Herzbergの計6回の公演と、Manuelさん(以降Mr.Ashraと呼びます)個人としてはthe Art & Music FestivalでMercedes Engelhardのインスターレーションに音楽で参加(別ビデオのDie Mulde)と、精力的にライブ活動を行った年でした。
演奏曲も日本公演並びにオランダ公演と同じで、特にこの"Herzberg Festival"での演奏はこのビデオに収められている4曲のみで、このビデオ通りの曲順で演奏されています。ビテオのエンディングのクレジット・ロールには、収録日が1997年7月12日となっていますが、ホーム・ページの情報から正しくは7月19日です。
ビデオの内容についてですが、まずトータル・ランニング・タイムが26分という非常に短い件についてですが、以下がASHRAのマネージャーからの答えです。「コンサート自体は全て収録しているんだけど、プロモーション・ビデオの位置付けから、各々の曲を短くカットした。」併せてSteveさんに同じ質問をしたところ、「僕もそう思うよ。でもこのビデオそのもののリリースを聞かされていなかたんだけど.....」という話でした。とはいえ、やはり余りにも短か過ぎる。もっと見たいと思うのは、ファン心理として当然でしょうね。オフィシャルのASHRAのビデオはこれしかないので、文句は言えないんですが.........
全曲共、過去の曲のアレンジです。新曲が無いのは残念ですが、まぁ、ライブが楽しめるだけでも贅沢な話ですから、文句は言えないですよね。

Steveさんの当時のメールから、このコンサートはとってもいい雰囲気で、コンサートを楽しめた、というコメントがあります。あと、細かい話ですがミス・ノートが結構目立つかな、その点は惜しいといえば惜しい。Sunrainを演奏していない点も惜しいですね。個人的には、時期も近かった日本公演の内容を思い出してしまいます。

以下はあくまでも参考情報ですが、私が見たASHRAの他のビデオ情報です。

・ASHRA / Musical Express Spain,Barcelona TV (5/19/1981) 17分
     Melange(9:30) Lutzが弾くストリングス-SYNが幻想的な雰囲気を醸し出す、静か   

  な曲。synは、Sequential/Prophet 10を使っていましたね。
     Jam Session with Neuronium 17分
     Berlinでの三人へのインタビュー(4/1981)8分

・Ash Ra Tempel / London Royal Festival Hall (4/2/2000) 63分
     コンサート内容はCDで確認出来ますが、このビデオには10分程度のリハーサル時  

  の風景が映っており、緊張しているのか非常に神経質なMr.Schulzeと、対照的に気

  のいいおじさん、といった感のMr.Ashraが好対象で非常に興味深いビデオです。

  やはり、Mr.Schulzeの圧倒的な数のラックマウント化されたシンセサイザー群がと  

  っても印象的です。

・ASHRA / Sunrainライヴ(5/11/1991)
     Bernd Kinstenmacher & Harald Grosskopf/Stadtgarten LiveのCD-ROM部に 

  三人編成によるSunrainライヴ(91年5月11日)が客席からのムービー・ショット

  が楽しめます。約3分弱。
 

2002年、2月のビデオ・ライナー用原稿

(追記、実は、初来日時の大阪と東京のライヴのフル・ステージが映像として記録されていました。もう出ないと思いますが....)


Blackouts / Manuel Gottsching (1977年9月録音、1977年発売)
1977年のアメリカ旅行での思い出を作品にした、ギターが流麗なソロをとる、ジーニアスなソロ作品。

[31年前に戻って]

今回のBlackoutsは、紙ジャケット+リマスターで、以前リリースされていたSpalax盤とはバージョンが異なります。特に、Spalax盤のLotus (Part 1-4) では、音程が不安定だった箇所が何箇所かありましたが、しっかり改善されています。
併せて、今回のリリースでは、Ashra名義ではなく、Manuel Gottsching (以下、Mr.Ashraとします。)ソロ名義でのリリースとなります。

本作、BlackoutsについてMr.Ashraが語ったエピソードをご紹介致します。

「1977年、Virginレーベルと契約をした直後に、私は、初めてアメリカ/ニューヨークにRosiと旅行に行きました。(彼女は現在、N.Y.に住んでいて、今でもいい友達です。)
N.Y.に着いて、びっくりしたのが、市内が真っ暗/停電状態(Blackout)でした。皆、騒いでいて、「この世の終わり」を絵に描いた有様でした。ほどなく、群集が静かになった時、理由が分かりました。この騒ぎは、有名なNewport Jazz Festivalのお祭りの一環だったのです。
N.Y.の街並みではサルサの音楽が演奏され、私には斬新/魅力的に感じました。:-)それから、当時のマービン・ゲイの新曲、"Got to give it up"を聞き、とても気に入りました。(今でも、好きなんですよ。)
N.Y.からベルリンに帰国してもこの旅行気分が抜けず、音楽もマービン・ゲイ、ラテン音楽、ソウル・ミュージック、ファンク・ミュージックを聴きまくっていました。
そんな中で、この作品を作りました。これらの音楽の要素が本作の中に入っていると私は信じています。作品タイトルは、私の人生で初めての停電という経験から、Blackoutsと付けたんです。:-)
それからこのN.Y.旅行中のハプニングとして、Houston StreetをRosiと歩いていたら、たまたまBernard Xolotlに声をかけられた思い出もあります。彼は、フランス生まれで、当時サンフランシスコに住んでいましたが、N.Y.を旅行中にたまたま私を見かけたので、声をかけたとの事です。(それまで面識がありませんでしたが、New Ageの写真で私だと判ったそうです。)」
(Mr.Ashraから、直接この話をライナー用に送ってくれました。感謝!)

1996年にリリースされたThe Private TapesのVol.2に、Shuttlecockの初期バージョン(ライヴ)が、Vol.5ではLotusの初期バージョン(ライヴ)が確認できます。
Blackouts録音直後の1977年10月18日 (Bruxells)での三人組Ashraのライヴでは、Blackoutsからの曲は演奏されませんでした。時は流れて1985年8月24日のU.K.Electronicaでのライヴでは、三人組AshraとしてBlackoutsを演奏していました。今年8月の来日の際、METAMORPHOSE 08において、本作のShuttlecockとMidnight on Marsがトリオで演奏されました。

2008年9月末のCDライナーより。

Die Mulde (41:44) ビデオ

1997年9月6日に開催されたthe International Festival for Arts & Musicの一環として、Manuelさん(以下Mr.Ashraと呼ぶ)と長年の親交があったMercedes Engelhardtさんからの依頼で彼女のミラー・パフォーマンスに作曲と音楽パフォーマンスで参加する事になったそうです。
曲名のDie Muldeは、単語の意味としては「渓谷」ですが、パフォーマンスの行われたライプツィッヒ(旧東ドイツ)近郊の村(Hofgen-Kaditzsch)の西側に流れるのがタイトルのムルデ川です。この村は、ここ数年芸術祭が行われる場所として有名な所だそうです。1997年のフェスティバルのテーマは “What do we hear?” だったそうです。
Mercedesさんはベルリンを拠点に活動するアーティストで、このパフォーマンスに34枚の大きな鏡を村と森に囲まれた牧場に設置し、その鏡の隣でMr.Ashraが数週間の作曲・準備をもってその場で音を出す、というパフォーマンスでした。当日、約1500人の人がこの牧場に訪れ、鏡の前を通り、見る角度により変わる風景とMr.Ashraの音楽を楽しんだそうです。かなり大きな音量だったみたいで、会場のみならず近くの村にまで音が届いていた様です。今回の音楽のアイデアとしては、自然の中を歩きながら音楽を聴く、という音の森林浴を目指したものだそうです。
以下Mercedesさんからの情報です。
副題になっているR.S.V.P.は、フランス語の "repondez s'il vous plait"の頭文字で、この表現はドイツ人もパーティーやディナーの招待に良く使います。「出欠の返事を下さいね」という意味で、少しオールド・ファションな、エレガントなニュアンスを含んでいます。
今回の彼女のパフォーマンスの意図についてですが、「見たもの、そのものを見る。つまり景色は景色と認識する。」という事だそうで、フランスの哲学者ルソーが、自然(nature)は人工(artificial)の対局に位置すると云っていますが、彼女にとっての自然とは、人間ではなく地球が作った美しいartificialなものなんではないか、という見方をしています。つまり、地球という自然が作った美しいアートを楽しみたい、という事だそうです。
日本での彼女のパフォーマンスはまだ行っていません。しかし彼女は、日本の石庭文化が大好きだそうです。例えば竜安寺の石庭などは、概念的な要素、天(sky)・地(earth)・人(human being)を庭の中に表現させているので、非常に興味深く思われているそうです。
Mr.Ashraとは30年来の付き合いの友人で、勿論彼の音楽は昔から好きだったそうです。Mr.Ashraが一緒にパフォーマンスしているのは彼女の依頼で、視覚と聴覚両面から今回のパフォーマンスを行いたかった為だそうです。機会があれば、再度Mr.Ashraとのコラボレーションを期待したい、との事です。
彼女は、この様な鏡を使ったパフォーマンスを屋外で度々行っています。鏡を池の中にセットしたり、森の中にセットしたりしました。又、鏡だけでなく、樹木を赤くしたパフォーマンスも行っています。これは複数の国でパフォーマンスを行っています。
話を当日のパフォーマンスに戻すと、ドイツのTV局が当日の模様の一部をニュースとして流した様です。
又、Mr.AshraはCDとしてのリリースも考えているそうですが、現時点ではこのビデオでしか聞けない音楽となっています。余談ながら当日朝に雨が降っていたそうで、Mr.AshraもMercedesさんも長靴をはいて会場に入ったとか。

さて、音そのものの分析ですがマルチ・トラックにDA88を使っているのと、Alesis社のリバーブを使っているのがビデオで判りますね。
導入部の印象は、Klaus SchulzeとかNew Age Of Earth期の70年代の感触を感じます。とはいえ新しいシンセサイザーを随所で使っているので、もっとモダンな印象があります。23分辺りから出てくるタブラ風のパーカッションやレゾナンスの効いたパーカッションの音など、凝った処理にしていますね。その後、シェーカーやハンドクラップの音も取り入れており、このあたりはASHRAの新メンパーのSteve Baltesさんの影響かなと思ってしまいます。いずれにしても、昔からハイハット、キック(バス・ドラム)の音を排除したリズム音源の組み合わせにするのがMr.Ashraの好みなんでしょうね。あと、ギターが聴けないのが残念なところでしょうか。

それから、THE WORKS(Mr.Ashraの詳細なバイオグラフィー)によると1982年10月に行われたファッション・ショーでMr.AshraとMercedesさんが初めてコラボレーションした様で、そのビデオもある模様です。
Manuel Gottsching (video technics) / Video YUNO,feature for fashion designer
Gudrun Mercedes Engelhadt (23:20)

2002年、2月ビデオのライナー原稿より



Correlations (complete), as 5 CD Box  / Ashra
[The making of "Correlations"から"Correlations"まで]

ASH RA TEMPEL名義でリリースした「New Age Of Earth」は、当初フランスのイサドラ・レーベルからのリリースでした。1977年春にイギリス、ヴァージン・レコードと契約した時を切っ掛けに、ASHRAという名前にして再出発したい、と考えました。ヴァージン・レコードは、「New Age Of Earth」を全世界に向けて、ASHRA名義でジャケットも変更してリリースしてくれました。その際プロモーションの為、ロンドンでコンサートを行う事を要請され、 "Berlin-school"時代からの友人Lutz Ulbrichを連れていく事にしました。彼は、 1974年~75年までのAsh Ra Tempelでの数多くのコンサートで一緒に演奏してくれていましたから。それからTarotや「Starring Rosi」、「Cosmic Couriersセッション」で共演したHarald Grosskopfにも参加を要請しました。
この3人で 1977年夏、ASHRAの新しいラインアップとしてロンドンRegents Park屋外劇場でデビュー・コンサートに臨みました。

契約上の理由から次のソロ作品をすぐに作成しないといけなかったので、「Blackouts」を77年9月に一人で制作しました。しかし8月のAshraのコンサートではトリオでの演奏を行っていたので、翌年制作のアルバムは当然このトリオでの録音が自然な成り行きとなっていました。その録音とリハーサルの場所として、ベルリンにあるUfaフィルム・スタジオが見つかったのです。私は、このリハーサル・ルームに機材をセットアップする際、事前に、二・三のフレーズだけを用意して、3週間のリハーサル(1978年5月)に挑みました。その間メンバー以外を立ち入らせず、ジャム・セッションを繰り返しました。そのセッションの大半が、「The making of "Correlations"」として残りました。このリハーサルの中から、曲を選び出し、同年6/7月に録音を予定していました。
しかしLutzが病気に罹り、録音を9月に延期せざるを得ませんでした。9月になると今度は、私が病気に罹ったので、録音は10月から開始されました。
そのセッションの大半を、私は自分のRevox A77テープ・レコーダーにモノラルで録音していたんです。目的は、後で作曲に利用しようと思っていたので。ガレージ・ライクなサウンドでしたが、パワーがみなぎり演奏するのが楽くて仕方が無い、という内容でした。
バックグラウンド・ノイズや歪等の音質をお詫びしなければいけませんが、音質そのもののより当時の演奏そのものを皆さんにお聴かせしたかった為、特別な編集をしていません。この最初のリハーサルから「Correlations」の完成迄1年がかりとなった、この制作の大変さを感じ取って頂けるのではないかと思います。
1997年の日本公演から参加したSteve Baltesが「@shra」のミックスを担当し、今回皆さんがお聴きのこのリハーサル・テープのマスタリングも行ってくれました。
Manuel Gottsching  2001年9月


「Correlations」の録音は、非常に楽しい経験でした。それ以前の3枚のレコードはManuelのソロ・プロジェクトでした。
1977年からHarald Grosskopfが参加してそれ以来数多くのコンサートをトリオで演奏していたので、次の作品は3人で録音しようと誰もが思っていました。我々はこの3週間のセッションを元に曲を完成しよう、と思っていました。何故ならこのセッションが非常に良かったからです。当時の問題はリハーサルを行う最適な場所を探す事でした。Tangerine Dream が当時借りていた古いUFAスタジオが、我々にとって最適のリハーサルを行う場所でした。で、彼らは幸いな事にその場所を提供してくれました。そのスタジオの周りの地域は、見捨てられた誰も働いていない所でした。以前は華やかだったであろう、今は寂れたビルの廻りを散歩すると、あたかもゴースト・タウンといった雰囲気だったので非常に寒気を感じたものです。そういった建物の一つにTangerine Dreamのリハーサル・ルームがあった訳です。そこは何かマジカルなインスピレーションを受ける雰囲気を醸し出していました。そのリハーサル・ルームに我々の機材をセットアップしました。一本のマイクを部屋の真中に設置し、録音しながら、昼も夜もジャム・セッションを繰り広げました。そこはさながら我々3人だけが住んでいる惑星、といった感がありました。或る晩、鍵をかけ忘れて帰宅した時がありましたが、何も盗まれていなかった、という事もありました。(ごめん、christoph franke)
当時のセッションは全編大変エネルギッシュな雰囲気でした。初めてこのテープを聞いたのが1978年で、昨年改めて聴き直しました。我々3人共、このパワフルで創造的な演奏を気に入っています。そしてこの雰囲気を皆さんに是非聴かせたい、と思いました。このリハーサル・テープを聴く事で、皆さんは後にリリースされた「Correlations」の完成までの過程を把握出来る事と思います。
Lutz Ulbrich, 2001年4月


1978年は、私にとってベルリンに滞在した初めての年でした。私達は、1978年夏に行われる「Correlations」のリハーサル場所を探していたんです。出来れば邪魔の入らない場所が良かった訳ですが、ベルリンのUFA映画スタジオがぴったりの場所でした。今でもあの陰気な場所を覚えています。あそこは、後に多くのオルタナティヴ・グループが結成された場所でもありました。50年前迄はあの場所で、偏狭・強圧的なナチズムの権化、Joseph Goebbelsの元に数多くの戦争賛美の映画が作られた場所でした。こういった歴史の流れという視点からも奇妙な感じがします。ここを見た人は皆、華やかな雰囲気には思わないでしょうが、私はこの老朽化した多くのビルを見ていると壮観さを感じました。昔はここで数多くのUFAの映画スターが動き廻っていた場所です。私達がリハーサル・ルームにした所は、もともとガラス張りの応接室だった所で、大きな曲がった階段もあり、かつてここで「ヒットラー万歳!」とシャンパンで乾杯でもしていたのでしょう。休憩の間さえ、私はこの結構大きな建物の隣接した部屋々々を見て廻りました。多くのドアは壊れ、多くのフィルム缶がそこら中にひっくり返っていました。なんだか、戦争の終わりは、こんな感じかという気がします。そういった部屋に私達の乏しい器材をセットアップしました。私たちの音楽がこの場所の悪魔払いをしてくれればと、願ったものです。マイク録音時のモニターで、ハウリングを起こさない様にテープレコーダーとマイクのセッテングに注意しました。このモノラル録音の音楽は、リリースを計画していなかった、ただ音楽を演奏するのが楽しかった当時の私達の純粋な演奏が聴けます。
Harald Grosskopf, 2001年4月

[CorrelationsとPhantasusについて]
三人組Ashraとしての初めての録音が、この「Correlations」になります。制作に結局、1978年丸々一年かかりました。
まず、1978年5月に3週間のリハーサルを行いました。その記録が、「The making of」として残りました。
このリハーサルの中から、曲を選び出し、同年6/7月に録音を予定していました。
しかしLutzが病気に罹り、録音を9月に延期せざるを得ませんでした。9月になると今度は、私が病気に罹ったので、録音は10月から開始されました。
録音スタジオとして私が選んだのは、ベルリンにあるERDスタジオです。そこのエンジニア、Udo Arndtは、高校からのバンド仲間で、なおかつ、前作の「Blackouts」のミックス・ダウンにも協力してくれました。この「Blackouts」での彼が作ってくれたギター・サウンドを、私はとても気に入っています。
「SPRINGTIME」以外の全てのトラックを、このERDスタジオで録音しました。
「SPRINGTIME」は、前年(1977年)にシングル・カット用として私のスタジオで既に録音してありました。
(シングルには、結局なりませんでしたが)
この「SPRINGTIME」もERDスタジオの8トラック・マルチ・レコーダーにダビングして、全ての曲をここでミックス・ダウン出来る様にしました。
丁度、その頃、Udo Arndtは、ベルリンのより大きなスタジオに移った為、我々が作ったマルチ・トラック・テープもその、Audio Studioに持っていき、そこでミックス・ダウンを行いました。これが、「Correlations」の1stミックス・テープになります。
この1stミックスでは、ギターの音がVirginから出たミックス・バージョンより前面に出ていて、ディレイ/リバーブがより多くミックスされた音空間になっています。(よりスペーシーな音作りになっています。)
私にとっては、この1stミックスの音は、more "electronic"バージョンという認識です。言い換えると、「ロックとブルースに影響されたエレクトロニクス・バンドの音」と看做しています。(以降、Manuel Mixと呼ぶ)
それから、このLP作品の最初のタイトルは、「PHANTASUS」としていました。
Virgin Recordsに、この1st Mixを聞かせたところ、気に入ってもらえなかった様で、数曲を別のプロデューサーの元で、再録音してくれと要請されました。しかも、そのプロデューサーは以前は、バン・モリソンを担当していた人でした。
我々は、仕方なく、Virgin Recordsの指示に従い、フランクフルトにあるPanne Paulsenスタジオに、マルチ・トラック・テープを持って行きました。
まず、この8トラックから16トラックへのマルチ・トラックのコピーをしてから、「ICE TRAIN」の録音をやり直しました。他の曲でも数多くのパートで、差し替えを行いましたし、全ての曲に、別トラックとして、ギターやドラム、パーカッション、メロトロンを、追加演奏しました。
Mick Glossopのミックス・バージョンは、1stミックスとはどこか反対の音作り(電子楽器/エフェクトを使った、より、荒っぽいロック・ミュージック)となりました。(以降、Virgin Mixと呼ぶ)
Virgin Recordsは、タイトルの「PHANTASUS」についても、発音しにくい、という理由からタイトル変更を要請しました。
それで、タイトルを「CORRELATIONS」に変えた訳です。
「PHANTASUS」の中の曲、「SPRINGTIME」についてですが、オリジナルのSPRINGTIMEのトラックに、Panne Paulsenスタジオで録った音を追加し、曲名を「OASIS」と変えました。
Manuel Gottsching  (2001 & 2008年)


[Correlations Box setについて] 
Correlations三昧の大変なCDが出ました。
Virgin Mixの正規版とManuel Gottsching Mixのバージョン、それから、1978年録音の「Correlations」の為のリハーサル・テープです。
今、約24年を経て、このリハーサル内容が世に出る事になります。今回リリースするに当って、オーバーダビング等の処理を一切加えていません。曲目を見ても判る通り、「The Private Tapes」等他のリリースとのダブリもありません。

Ashraのホーム・ページ上から、Manuelさん(以降Mr.Ashraと呼びます)のインタビューより、今回の「Correlations」に関連するコメントを抜粋で紹介します。

『「New Age of Earth」では、色んなキーボードとシンセサイザーを演奏しました。「Inventions」でギターのみの演奏を行っていたので、対照的な作品を作りたかったんです。Virginと契約した時、彼らはアーティスト名を短くする事と、ロンドンでのコンサートを要請しました。で、LutzとHaraldをASHRAの新メンバーとして一緒に演奏しました。「Blackouts」は、再びギターをフィーチャーした私のソロ作品となりました。そのプロモーション・ツアーには、この三人でヨーロッパで公演を行いました。こういった経緯から次の作品「Correlations」では、三人で制作しようと決めたのです。「Correlations」は、私が主導権をもって録音しました。しかし次の「Belle Alliance」では、三人全てが同等の立場で制作出来た作品となっています。
それから、私の音楽がトランス・ミュージックと呼ばれる事についてですが、それはリスナーやメディアの方がそう呼んでいるだけで、私はトランス・ミュージックと意識して作曲している訳ではありません。まして、この単語は最近使われている概念ですからね。』
マネージャーによると、Ashra名義でのリリース契約に関して、Virginが常にMr.Ashraがリーダーとしてメインの作曲を行う事を条件にしていた、という事です。

本作に限らずAshraの作り出す音は、リズミカルなシーケンサー・リズムの上にギター・リフを絡め、その上でソロ・プレイを繰り広げるというパターンなんですが、耳障りの良い音を好んでいる事と、さえずる様なギター・ソロや華麗な曲展開に特徴があり、他のエレクトロニクス(ポップ)・グループとは一線を画するインストゥルメンタル・グループとなっています。

このCDを聴いてもらって判る通り、正規版(Virgin Mix)とは、ギター・ソロ等、テイクが違いますし、ミックス処理が異なっています。こちらのテイク(Manuel Mix)を本来は、Mr.Ashraが出したかった、という事を何度も、私は聞きました。Virgin Mixと、是非聞き比べながら楽しんでもらえればと思います。

「Private Tapes vol.4,6」には1979年8月にベルリンで行ったコンサートの模様が5曲収録されていて、この音源も興味深いものがあります。”Club Cannibal”,”Sausalito”,”Ain't No Time For Tears”,”Ice Train”,”Phantasus”を基本的にトリオで、曲によっては別のベース奏者が加わって演奏しています。このライヴ・テイクも、出来れば、このセットの中に入れて欲しかったですね。
又、この時期のMr.AshraとLutzによるリハーサル・テープが「Private Tapes vol.6」のHausaufgabeに収録されています。

「New Age Of Earth」から「Belle Alliance」発表の年を年表にすると、以下の様になります。

1976年 「New Age Of Earth」フランス、イサドラ・レーベルよりリリース。
       7日間のフランス・ツアー。
1977年 「New Age Of Earth」ヴァージン・レーベルよりASHRA名義で世界規模でのリ

      リース。
       ラジオRIAS局の放送用に「Dream & Desire」録音。(90年にCDにて発表)
       Lutz Ulbrich、Harald Grosskopf(Ds : ex Wallenstein)と共にフランス、イギリ

       ス、スイス、ベルギーのツアー。(8月14日~11月18日迄の計20回公演)
       8月14日のイギリス・ロンドン・コンサートではレーザー・ショーもサポート。
       「Blackouts」録音(9月)。
1978年 「Blackouts」発表。
       10月29日Claudia Skodaのファッション・ショー用の音楽担当。
1979年 「Correlations」発表。
       ASHRAとして、ベルリンでコンサート(8月12日と8月19日の2回のみ)。
       Claudia Skoda/Big Birdsのファッション・ショー用の音楽担当(11月11日)。
       Manuel、初めて他人のグループ(GEILE TIERE)のプロデュース担当。
1980年 「Belle Alliance」発表。
       Manuel、The Dominas (Rosi & Claudia Skoda)のCDとビデオ・クリップをプロデュース担当。
       Manuel、ブリュッセルでのK.Schulzeのコンサートで共演(11月28日)。

今回のリハーサル・テープは1978年5月録音という事ですから、「Blackouts」リリース前後の時期という事になります。
ここで聴かれる音楽は、やはりジャム・セッションといった感を拭い切れません。メンバーのライナーにも書かれてある通り、当時の彼らはこのセッションを元に作曲するという過程を踏んでいた様です。とはいえ、曲作りの為のリハーサルを行っている部屋に一緒にいる様な錯覚に陥ります。やはりディープなファンとしては嬉しい音源です。トータルで211分もあります。曲によっては46分に渡って延々とセッションしています。自分達が楽しんで演奏している雰囲気が伝わってきます。編集を上手くすれば、LP一枚分の、裏「Correlations」が当時出せたのではないか、と思ってしまう程のいい部分が結構あります。
正規版の「Correlations」についてですが、邦題が国内盤LPでは「水平音響の誘導」となっていて、CDの時は「コーリレイションズ」となっていました。Correlationsそのものの日本語の意味としては、「相関」とか、「相互関係」といった意味です。やはり原題から察するに、3人のコラボレーションの結果生み出されたものだという事を強調したかったんだと思います。やはり今回のこのリハーサル・テープを聴く時は、「Correlations」も併せて聴きくと面白みが倍増するでしょうね。正規版になるとピアノやメロトロン、ゴング等の様々な楽器も使って、よりカラフルな音に仕上げ、8ビートを基調にした聴き易いアレンジに変わっています。あと、同時期に出ていたMike Oldfield の「Platinum」という作品が、個人的にはこの「Correlations」と同じテイストをもっていて、やはりギター中心という事もあり良く併せて聴いていた記憶があります。

このセッション内容は、当時のライヴの延長みたいな演奏内容かと想像していましたが、かなりロックっぽい内容になっています。というのも私は幸いにも1977年10月18日ブリュセル公演のテープを持っており、このライヴも聴きながらこの原稿を書いているのですが、ブリュセル公演ではトリオで6曲演奏しており、大半が「New Age of Earth」の”Sunrain”を除く曲とエスニックな曲等で、全体の印象は「Dream& Desire」のCDを聴いた時の印象となっています。「Blackouts」からの曲も演奏していないので、正直な話、メリハリのない演奏に私には聞こえます。

その他のライヴとしては、かなり後になりますが1985年8月24日にトリオでUK Electronica公演を行い、”Sunrain”や”Blackouts”、”Tropical Heat”の元曲を3曲演奏していました。かなりメリハリのあるいい演奏でした。又、「Private Tapes」には1979年8月にベルリンで行ったコンサートの模様が5曲収録されていて、この音源も興味深いものがあります。”Club Cannibal”,”Sausalito”,”Ain't No Time For Tears”,”Ice Train”,”Phantasus”を基本的にトリオで、曲によっては別のベース奏者が加わって演奏しています。
やはりASHRAのライブの完成度としては、Steveさん参加後の方がメリハリがあり、CDとしては「@shra」「@shra Vol.2」がお薦めかと思います。又、この時期のMr.AshraとLutzによるリハーサル・テープが「Private Tapes vol.6」のHausaufgabeに収録されています。

紹介が遅れましたが、私はASHRAの日本公演後、ASHRAのコンサート・レビューを書く為にSteve Baltesさんと何度もメールのやりとりをしている内に仲良くなり、一緒に曲を作っています。具体的には、彼の2ndソロ・アルバム「Rhythm of Life」の中の一曲、”Behind the Moon”でギターとエレクトロニクスを担当しています。一緒に演奏して思ったのが、非常にソロが取りやすいバッキング・トラックを用意してくれるアーティストだという事です。

[2008年の4度目の来日に因んで]

2008年8月23日、静岡・伊豆市修繕寺にある、自転車の国サイクルスポーツ・センターで開催される、METAMORPHOSE 08にManuel Gottsching & Ashraとして来日が予定されていますが、2年前(2006年)の8月、同じMETAMORPHOSEフェスティバルで、Mr.Ashraがソロ・ライヴを行いE2-E4を初めてソロとしてライヴ演奏しました。
今回は、11年振りの三人組Ashraとしての演奏ですので、非常に興味があります。(不幸にして、私はこの週はシンガホールにいますので、見る事が出来ません。とはいえ、コンサートの翌週に、東京で再会する予定です。)
尚、今回の来日の直前に、Mr.Ashraはアメリカでソロ・コンサートを行い、E2-E4を演奏しました。
8/15(金) : New York, Lincoln Center
8/16(土) : Philadelphia, The Gatherings
8/17(日) : New York, LOVE, August 17, 2008
この、一週間後に日本で、Ashraとしての演奏を行った、という事になります。以下が、今回の来日時の演奏曲目です。

Ice Train (Correlationsより)
Flying Turtles (Belle Alliance Plusより)
Kazoo (Belle Allianceより)
Deep Distance (New Age Of Earthより)
Morgana Da Capo (Correlationsより)
Club Cannibal (Correlationsより)
Shuttlecock (Blackoutsより)
Midnight On Mars (Blackoutsより)

Mr.Ashra (g,key)以外は、Steve Baltes (key), Harald Grosskopf (Ds)という三人編成でした。選曲自体は、正直、今回は地味目のものばかりでしたが、Steveさんのアレンジにより、それぞれの曲がオリジナルのテイストを残しつつ、やはり若い人にも受ける様な音作りになっていて、このバランス感は非常に良いのではないかと思います。Mr.Ashraのギターの音だけを、それぞれ聴いていると判るのですが、Ash Ra Tempel時代のWowwow + ディレーの音が、随所に聴かれていて、バックの音と、サイケデリックなギターの対比が摩訶不思議な感覚でした。個人的には、現代版Kraut Rockではないのか?という音の印象です。決してテクノ系の音ではないです。

後ほど、紹介したいと思いますが、私は、2008年の公演後、日を改めて、何回か都内で、Mr.Ashraと会っていました。
前後する様ですが、2年前(2006年)の8月、同じMETAMORPHOSEフェスティバルで、Mr.Ashraがソロ・ライヴを行いE2-E4を初めてソロとしてライヴ演奏しました。そのライヴの後、Mr.Ashraとマネージャーを兼ねた奥さんを二日間、東京観光に案内しました。その時の思い出や、その時にMr.Ashraが語った事をまずは紹介したいと思います。

2006年METAMORPHOSEフェスティバルでの演奏では、Macintoshコンピュータ上で、ループ・シーケンサーのLiveを動かし、音源も、Macintosh内のバーチャル・シンセサイザーをドライブさせて、E2-E4の演奏を行ったそうです。
なんと、サウンド・チェック無し、リハーサル無しで、本番に突入したそうな。曲の構成がご存知の通り、段々Fade Inしてきて、かつ、前半 30分はギターが無いので、サウンド・チェックを兼ねて本番に臨んだそうです。(確かに理にかなっています。)
そもそも、E2-E4はLP発表を意図して、録音したものではないマテリアルだったそうです。

同年(2006年)は4月にも来日していて、富士山・山麓でLiveを行っていました。これがCD 「Live at Mt.Fuji」となっています。Sunrainのバリエーションも演奏していますし、本作のShuttlecockも演奏しています。Mr.Ashraの最近のライヴは、屋外ばかりですが、周りの景色も表情が変わるので、本人は好きみたいです。

向こうの人は、Mr.Ashraの事をManuと呼んでいました。ギタリストのエリオット・シャープがMr.Ashraの友人だそうで、Steve Hillageも友人だそうです。
Mr.Ashraの作曲活動そのものは、ギターとかキーボードを使って、メロディーを考える、という方法ではなく、上記Liveのループ・シーケンサーを使って、色んなバッキング・リズム/パターンを試行錯誤しながら作っていく、というのが今の彼の作曲法です。その際は、煙草も吸わず集中してアレンジに没頭するそうです。
2000年の結婚以降、ワイン以外のアルコールは飲んでいないそう。(どうもワインとかビールは、彼らの意識では、アルコールに入らないみたい)煙草は、良く吸っていました。

都内案内の一日目、2006年8月29日(火) :
赤坂から末広町まで、地下鉄・銀座線に、彼らを乗せました。満員の車内に乗せてから、これはまずい事をしたかな、と思ったのですが、Mr.Ashraは電車が好きなので全然OKでした。奥さんが、スープが飲みたい、という事だったので、末広町下車後、ファミリー・レストランにて軽食。スープと味噌汁が気に入ったようです。Mr.Ashraは、その時、都合三度目の来日という事で、ネギトロ丼に醤油とワサビを上手くかけて、食べていました。箸の使い方も、二人とも上手でした。ドリンク・バーも色々と試させましたが、コーヒーが好きみたいで、喫茶の時は、いつもコーヒーでした。

軽食後、末広町から中央通りを秋葉原駅方面に南下。
初めての秋葉原だったので、Duty Freeの店とかMacintosh、MIDIの店で、それぞれ恐ろしく長い時間、見て廻りました。SONYの文庫本サイズのノートPCも非常に興味を示しましたが、Windowsなので、諦めた様です。バリバリのMacファンですね。あと、ワンセグ携帯にも夫妻共に興味深く、見入っていました。
楽器屋のギター売り場では、ギブソンのアーム付きSGとフェンダー・テレキャスターをしきりに見ていました。コンソールは、自身が持っているせいかマッキーのミキサーを長い時間、見ていましたね。

電車のミニチュア・ショップを発見すると入りたそうに、足が止まりましたが、時間の関係でパスしてもらいました。彼は、ミニチュアの電車が好きで、ジオラマとか一式のセットを自宅に持っているマニアです。(都電荒川線とか、江ノ電に乗せてあげると、非常に喜ぶ気がします。次回は是非、と考えています。)
CDショップでちょっとしたハプニング。ディナーをその上の階で取る為、たまたまCDショップのフロアーを横切っていると、急に、自分のコーナーを見たいと言い出したので、そこへ連れいくと、たまたま一人のファンがE2-E4のCDを手に取って、レジに行こうとしたところでした。で、その人が、私の隣のMr.Ashraに気づいて、私に「本人ですか?」の尋ねたので、「はい」と答えると、おもむろにサインペンを取り出して、サインの依頼を私にしました。Mr.Ashraは雰囲気を察して、嫌な顔一つせず、すぐにサインに応じてました。このファンの人、びっくりしたでしょうね。あの時の顔は、非常に印象的でした。

ディナーは、色んなレストランを見比べてから、中華に決定。彼らは、何でも良く食べていました。ベルリンでは、イタリアン、フレンチ、中華、和食等、色々な国のレストランがあるので、料理は何でもOKみたいですね。
私が以前に使っていたAUの携帯の中に、ダウンロードしていた、E2-E4、Echo Waves、Sueno Latinoを彼らに聞かせると、興味深く聞いていました。

都内案内の二日目、8/30(水) :
16-18世紀の江戸の生活が判る、深川の江戸資料館に案内。彼らも非常に興味を持ってくれてImpressiveと言ってくれました。
館内を歩く、夫妻の映像をビデオで録りましたが、Mr.Ashraがジャケットを着て歩く姿は、端正な映画俳優みたいでした。その後、土産物屋で、ちょんまげと半纏を着けて記念撮影。こういう変な格好になるのに、Mr.Ashraは意外と喜んでました。奥さんは最初、嫌がってましたが......
この土産物屋で買ったお菓子(焼き八橋みたいな味)を、袋を抱えて街中を歩きながら食べる、Mr.Ashraの姿も印象的でした。


こちらは、その2年後の再来日時、2008年8月、コンサート終了後の東京にて

ライヴが終わった後、Mr.Ashra夫妻は、都内のホテルに、一週間滞在して、次回の来日と、今後のCDリリース等の、準備とプロモーション、マスコミ各社のインタビューに忙殺されていました。
多忙な合間を見つけて、私との再会の時間を取ってくれました。たまたま、私が勤める外資のオフィスが、ホテルの向かい側にあった事もあり、今回も数回、会う機会がありました。
当初、都内・隅田川の船による観光(彼らの希望にもなっていたので)を予定していたのですが、突然の割り込みの用件が多く、時間的に案内出来ませんでした。ほんとに、今回は多忙な時間を過ごしていました。
とはいえ、何回か会った内容というのは、正にビジネス・ミーティングといった内容で、彼らの今後の日本に対する戦略とかマーケティングの相談を受けていました。
一番、大きな話題としては、今回彼らがリリースした二種類のDVD (Postcards from Japan,Live at the Open Air Festival Herzberg 1997)に、日本のファンの為に、日本語字幕をつけてくれたんですが、字幕の先頭の文字が欠けてしまう、という不具合が出る事を発見し、その問題解析説明と、今後の対応策の議論を行いました。
Mr.Ashraとマネージャーは私の事は信用してくれているのか、こういった相談を昔から、私の方に聞いてくれます。(会うと、いつも思うのですが、何か手伝ってあげたい、と思ってしまう雰囲気があります。)私の出来る範囲で、可能な限りサポートさせてもらっています。


今回、会った中で、記憶に残っている内容を挙げていきます。
- 今年、2008年のコンサートも、リハーサルは行っていない。事前にSteve Baltesからバッキング・トラックが送られたきたが事前確認しただけ、との事。
- Ashraのメンバーとしては、Lutz Ulbrichも入らないと、Ashraとは言わない。今回の日本公演では、残念ながらLutzが最近結婚した事で、参加出来なかったそうです。
- Sauce Hollandaiseは、サウンドボードからの音をそのままCDにした。
- 彼らの近所に、コンテンポラリー・ミュージックのArvo Part(アルボ・ペルト)が住んでいる。
- 今回の滞在中、京都の観光も予定していたが、Mr.Ashraの疲れがひどく中止になった。
- このCDが出ている時には、既に放送されていますが、CS放送の、Space Showerで、今回のMETAMORPHOSE 08が一時間番組で放送され、一部Ashraの演奏も含まれています。
- 昔のAsh Ra Tempelのコンサートを4公演分、CDにする事にした。(この日本滞在中に決定)これは全て未発表音源です。(Mr.Ashraは、全てのライヴをテープで保管しています!)
- 音源としては、残っていませんが、Mr.Ashraはドラムも演奏出来るマルチ・プレーヤーです。

Mr.Ashraの印象 :
Mr.Ashraは、常に大人しい、もの静かな人で、威圧感とか、我侭な態度が全然無い人で、アテンドしやすい方でした。話し方も物静かに、ゆっくりと喋るし、歩くペースもかなりゆっくりしています。私の場合、外資の会社を渡り歩いている関係から、色んな外人のアテンドをしてきましたが、性格的に彼らを嫌だと思った瞬間は無かったですね。(結構、外人って、なんや、この人は !? という側面があるのですが、こちらまで心穏やかになる様な波動を持っている方でした。)

直感的な所で、この人に音楽の質問をしても、なんか意味が無いな、という思いが私の中で、非常に強くあって、本来であれば、雑誌のインタビュー記事で数ページ位の分量の質問とかを投げかけるチャンスはいくらでもあったのですが、聞けませんでしたし、聞こうとも思いませんでした。彼を知れば知る程、音楽評論出来ない不思議な人です。

過去のドイツの音楽の系譜で、音楽性が云々とか、電子音楽の系列でどうのこうのとか、テクノ/トランスのムーブメントのゴッドファーザーだから云々、なんていう音楽解説は、不適切です。今だから、私は断言します。
「直感で作曲、演奏した結果がこれです。私はこれが気に入っています。」
彼にとって音楽とはそういうもので、それ以上でもそれ以下でも無いです。
数日間、同行した事と、過去10年間のFax/メールのやりとりで、こういう事を確信しました。これが、私のMr.Ashraの印象、思い出です。

一言で彼を評するなら、「天才」なんでしょうね。それぞれの曲を、皆さんが楽しんでもらえれば、それでいいのではないでしょうか?  Mr.Ashraの音楽に、難しい説明は不要です。

2008年9月のCDライナー原稿より

2012年の来日では、千葉、幕張メッセでの深夜のライヴだったので、行けなかったのですが、彼らが帰国する前に、わざわざ電話で挨拶してくれた事を記憶しています。これが、彼らと会話した最後になります。

最後になりますが、この8月に私のグループ、Hereticでデジタル・リリースした作品の中にManuelさんに捧げる曲があります。
最初は、無料でお聴き頂けるので、A.R.T.の1stがお好きな方は、是非お聴き下さい。


12.Live (Gate to infinity - Steppin' Roll - Shadow Illusion) : December 16th,1980. live at Ritsumeikan University, Kyoto 19:40 

 

 



42.AstralTempel - Live (December 16, 1980) 19:40 

 

 


Manuelさん、私の音楽人生にも、大きな影響を与えてくれて感謝しています。遅ればせながら、ご冥福をお祈り致します。

河原博文


ここでは、1988年、マーキームーンから出た「私の愛聴盤」とその他の雑誌に書いた、私のお気に入りの音楽を紹介します。
当時の文章をそのまま転載しますが、生意気な書き方をしている箇所は、ご容赦下さい。
末尾には、雑誌に書き切れなかった愛聴盤を色々と紹介します。
各作品のジャケット写真は著作権の関係から載せませんが、可能な限りリンク情報を埋め込んでいます。リンク先で各種情報をご参照下さい。

なすがままに、流れるままに(1988年マーキー特別企画号「私の愛聴盤」の依頼原稿より)

まず断わっておかねばならないのは、私はHereticの活動以外、ここ5・6年ほとんど自ら好んで音楽を聴いていないという事です。
何故か? 一番の理由はHereticの曲が自分にとって一番思い入れのある作品だからでしょう。つまり他の作品は或る意味では、Hereticの作曲に必要な参考資料という事になります。特に現在、音楽建築論というべき手法を取り始めているので、(マーキー28号参照) Ain Soph、Anonymous、Fromage、Golden Avantgarde、Noa等のメンバーに演奏してもらうという一般のリスナーには絶対味わえない立場にいる訳です。
そういう事から、これから書き挙げる作品群は、昔よく聴いたものとか、現在、Hereticにとって参考になる作品等であるという意味になります。

さて、まず一番始めに挙げねばならないのはAshra"New Age Of Earth"('76)でして、FM放送で流れた「Sunrain」を聴いて今迄のプログレのイメージ~YesとかE,L&Pといった難解な曲構成のイメージ~を打ち破り、シンセサイザー・ミュージック(エレクトロニクス・サウンド)への興味を持たせた私にとってのターニング・ポイントとなった作品です。
そういやManuel Göttschingの"E2-E4"('84)が今やNYのダンス・クラブでよくかかり、ダンス・レコード専門店の定番となってるの、知ってた?
初期のジャーマン・カオス・サウンドは案外、現在NYの最先端と言われる連中に引き継がれている様に思います。
そういったグループとしてMaterial、Jon Hassell、David Van Tieghem、Laurie Anderson、Controlled Bleeding等を挙げたい。

まずMaterialについては"One Down"('82)が好みで、ブラコン系で有名な連中がごっそり参加してエレクトロ・ファンクを展開しています。只、他のエレクトロ・ファンク系のバンドと一線を画しているのは、やはりフリー・ミュージック系の継がりが見え隠れした、非常に大胆なアレンジでしょう。又、あのFred FrithがここのBill Laswell(b)とFred Maher(ds)と共にMassacreを結成していたのは御存知と思います。MaterialMassacre等の作品だけを取ってみても、全て曲傾向が変わっており、或る意味では彼らの方向性に捉え所の無い部分があります。混乱されるかも知れませんがNYの他のグループに共通して云えるこのポスト・モダン感覚。猥雑感というか、無調感。これがいい。この次に何が起こるか解らない曲構成、突飛な発想による楽器演奏法、エフェクト処理等、学ぶべき点が多々あり、実は現在のHereticのアイディア源はほとんど、NY発なのです。
余談になりますが、以前、F.Frith、B.Laswellと一度会って、一緒に食事をしたのですが、Billは非常に寡黙な人でどこにあれ程、活動的な交流の広さがあるのだろうか?と疑問に思った事がありました。Frithは非常に礼儀正しいジェントル・マンでありましたが。

次にJon Hassellについては、エスニック・リズムと和声構造の点で興味深い点があり、新作のライヴ盤"The Surgeon Of The Nightsky Restores Dead Things By The Power Of Sound"('87)は音質的にも非常にクォリティが高く○。
David Van Tieghemは"These Thing Happen"('84)、"Safety In Numbers"('87)の二作を発表しているLaurie Anderson Bandの打楽器奏者。彼の作品がNYのスピード感を一番強く出していて、プロデュース面から見ても、Great! Wonderful!と絶句してしまいます。音の処理、曲の継ぎなどが巧みです。プライベート・ミュージックからの二作目より一作目の方がよりエキサイティングで、よりイマジネイティヴな感覚が強いようです。

L,Andersonについては、レコードというよりやはりステージの面白さで評価したいのでビデオ作品"Home Of The Brave"('86)を挙げたい。字幕付きなので、曲間の会話の面白さ等も理解出来、レコードでは絶対理解出来ない彼女の世界が体現出来ます。このビデオでも演奏しているD.V.TieghemやHereticのメンバーのRobbin Lloydもそうなのですが、難解な曲展開でもニコニコしながら演奏してしまうのが凄い。Robertとの録音を例に取るなら、彼との録音前の打ち合せ(コンセプト等も含めて)がほとんど必要なく、録音を始めると、ほぼワン・テイクでOKになっていました。彼らの持つハーモニー感覚やリズム感のボキャブラリーの豊富さは日本人がどう転んでも太刀打ち出来ない凄さがあります。彼らにとって当り前の演奏が、我々にとっては天才的であるというこのギャップ.........

次にNYからの最後の大物と云うべき、Controlled Bleedingについて。このグループは今後のエレクトロニクス・ミュージックの在り方を端的に示唆したグループとして、T.Dream、K.Crimson、Heldonファンに聴いてもらいたい!
Paul Lemos、Joe Papa、Chris Moriartyの三人組で、"Body Sampler"('85)、"Headcrack"('85)、"Curd"('86)、"Between Tides"('86)、"Halved"('86)、"Core"('87)、"Music From The Scourging Ground"('87)その他コンピレーションに多数参加しており、所謂ノイズ・ミュージック・ファンの方によく浸透しているバンドだと思われます。オペラチックなヴォーカル、神秘的・異教的なメロディー等、多作であり乍らもヴォルテージの下がらない彼らの環境ノイズ音群は後述するPeter Frohmaderと共にエレクトロニクス・ミュージック・シーンの最先端に私は位置付けたい。このバンドのノイズ処理や奥行きのある空間作りは初期ジャーマン・カオス・サウンドを現代流にアレンジした展開のように思います。

 

さて同傾向というか、同じくエレクトロニクス系でドイツ出身のPeter Frohmaderは、雑誌Wave6号でLovecraftとGigerが出会った様なメカニック・ホラー・ミュージックという禍々しいコピーで記事が特集されていましたが、ノイズでも、インダストリアルでもない暗黒エレクトロニック・サウンドを開拓した人であります。
"Nekropolis"('81)、"Nekropolis2"('82)、"2 Compositions"('83)、"Live"('84)、"Cultes Des Goules"('85)、"The Forgotten Enemy"('85)、"Ritual"('86)等コンスタントに発表。作品毎によりリズムが明確になってきて、"Ritual"では、デジタル・ビートの上に不気味な旋律が唸りを上げるという私が好きな音です。彼はH.P.Lovecraftのファンで、その影響は確かに濃厚。プログレ・ファンにはSFファンが多いと聞きますが、私はSFはダメ。
只、Lovecraftの所謂CTHULHU神話をモチーフにした、Colin Wilsonの「賢者の石」という小説は非常に気に入ってます。死の問題に取り憑かれた一青年が不老長寿の研究を初め、大脳生理学の研究へと発展した末、前頭前部葉の手術により、過去を透視する力を得るという筋で読者を強く惹付け、人類の起源にまつわる秘密のところで、CTHULHU神話とシンクロさせるという、人類進化、意識の拡大等の論点も素晴らしく、壮大で刺激的な小説です。

この意識が過去へ太古へと遡る感覚を音楽で表すと、HELDONRichard Pinhasの三枚目のソロ"Iceland"('79)の中の「Iceland組曲」を連想してしまいます。Pinhasも相当なSFフリークみたいで、"Chonolyse"('76)のB面のタイトルなんか"Dune"の主人公の名前だし、HELDONのネーミングもNorman Spinradから取られたものだし、この手の音楽をやっている連中は皆んな趣味が似てるんじゃないかと思ってしまう。そういや太田亨君もかなりのSFフリークみたいですが..........。
Pinhasのソロで気に入っているのはこの二枚で、HELDONでは、"Interface"('77)、"Stand By"('78)の二枚といったところ。狂熱の権化と化した様なシンセサイザーと極度にフリップナイズされたギターがPinhas云うところの「時間の金属化」という表現もあながち誇張ではないと思う。一部に無茶苦茶にギター・ソロを弾けばRobert Frippになると思っている輩がいる様ですが、とんでもない話でバックのリズム、音色等の聴感上のバランス感を上手くズラしてこそ、その効果が現れるわけで、バックの演奏を無視してギター・ソロだけでフリップナイズされたギター云々というのは間違い。故に今だにその評価が出来るのはこのHELDONと美狂乱だけではないでしょうか?
特にPinhasは音色の斬移変化というパラメーターも非常に気を配っていて、シンセサイザーの音色の選択だけで捉えても他のシンセサイザー奏者とは一線を画す独特の感性を持っています。
余談乍ら、'84年4月27日に行われた彼らのParisでのライヴでは「Iceland」「StandBy」等、次々とレコードに忠実に演奏し、彼らの実力の程も披露していました。それだけに尚更、現在の活動停止が惜しまれます。

さて、その本家King Crimsonについては、やはり後期Crimsonが好みでして、前述のフリップナイズされたギターとパーカッション的なドラムの対比はバンド・アンサンブルの一つの姿見を確立しています。で、当時のライヴでは必ず即興曲を演奏していたのは有名で、当然好きが蒿じて当時のライヴ・テープを収集してしまう羽目に陥いって

いますが、やはり'74年7月1のNY Central Parkの演奏がベストだと思います。「Starless」の比類ない美しさ、「Exile」のイントロやelc-pをバックにした即興演奏等の凄さは本当に感動的です。
又、'73年5月4日Boston同月6日のConneticut公演では珍しく即興演奏を二曲も披露しており、当時の彼らのヴォルテージの高さ、又、毎日の様にそれだけの緊張感を維持させた強靭な精神力の凄さ、人間がもつパワーの恐ろしい迄のコントロールを行ったFrippという人間の恐さみたいなものが伺い知れます。二・三枚のライヴ(海賊)盤だけで、彼らのライヴ・パフォーマンスは評価できないので、オフィシャルにもっと当時のライヴを発表してもらいたいものです。


この手の音楽とは違う好きな音楽として、Richard Vimal "Migrations"('78)、Laurent Thibault "Mais On Ne Peut Pas ReverTout Le Temps"('78)、Francoise Hardy "Message Personnel:私小説"、"Quelqu'un Quis'enVa:時の旅人たちへ"('82)があります。
不思議と全てフランスもので個々の作品に共通して透明感のあるメロディーが根底に流れている様です。

まず、Richard Vimalについてですが、三作発表している内の二作目"Migrations"('78)です。一番ドラマティックな展開になっているので、LP全面通しても飽きない構成になっていて、Fransis Lai風の美しいメロディー群と相俟って玉石混淆のヨーロピアン・ロックの中でもピカ一と評価してしまいたい。

Laurent Thibaultは、あのMagmaのプロデュースを担当していた人で、他にシャンソン系でもよく見かける名前である。で、"Mais On Ne Peut Pas ReverTout Le Temps"('78)にはAmanda Parsons、David Rose、Francis Moze等が参加した唯一のソロで、美しいメロディー・ラインやカオス・パートの効果的なアレンジ等、趣向を凝らした、正に贅を尽した趣味作品と云えるクォリティーを保っています。逆に日本でこれだけ趣味性の強い録音が果して物理的に可能なのだろうか?と懸念したりもします。も一つ話をそらして、L.Thibaultらが録音したStudio Hérouvilleは数多くのロック・ミュージシャンが利用している、大庭園とプール付きの城で、二つのスタジオがあり、幽霊が出るってんで一時話題になったスタジオです。

Francoise Hardyについては正にHardy's Eleganceという表現がぴったりくる、素敵な女性でアンニュイな囁く様な声に、素敵なメロディーが絡み、初めて私に歌詞の美しさを教えてくれた人。Vogueのデビュー盤から数えるともう20枚位出てるのかな?どのLPも好きですが、"私小説"が一番Hardyらしい美しさに満ち溢れていて、"時の旅人たちへ"はより、夜のイメージが強く、大人の雰囲気を楽しむには最高のBGMとなるでしょう。"私小説"のプロデューサーはFrance GallのダンナのMichel Bergerで後者はGabriel Yared。共に逸材で、M.BergerはやはりF.Gallのアルバムでさりげなく色々な仕掛を施しており、そのセンスの良さは日本のニューミュージック系のプロデューサーに見習わせたい。G.YaredはJean-Jacque-Beneaux監督の映画"La Lune Dans Le Caniveau:溝の中の月"を担当した人。
特にこの人はシンフォニーからノイズ迄手掛けられる超売れっ子のプロデューサー。日本でこれ程幅広く質の高いプロデュースの出来る人っていないんじゃないの? L.Thibault等にも云える、このプロデューサーの重要性というのは日本ではまだまだ認識が無いですね。やはりスタジオ録音の機会が少ないという点が一番大きいんでしょう。

そういったプロデュース面と日本の音楽の在り方を常に考えている方として最後に、京都を代表するツトム・ヤマシタを挙げたい。""('83)で見せた厳しさと比類の無い美しさ。武士道の世界を表現する様な雰囲気は、孤高の存在と断言しよう。その年6月のレコード発売記念のライヴは、今迄に私が数多く体験したコンサートの中でもベスト・ワンに挙げたい内容でした。ツトムさんの発する音は時流に捉われない独自のコンセプトから発せられるものだけに、私にとっての姿見でもあります。'87年3月京都で久々に行われたコンサートでは、オペラ導入で、良い意味で以前より世俗的になっていました。そのライヴもVHSビデオで発表されています"Pulse & Muse・天地の夢"(現在は廃盤で入手不可能です。)

ここからはプラス・アルファとして読んで下さい。所謂、インディー系で気に入っているアーティストの紹介です。G-Schmitt "Modern Gypsies"('85)、"Sin, Secret & Desire"('86)、"Icaros Descending"('87)、"Garnet"('88)、Syoko "Soil"('86)、Nana "Feerique"('87)、工藤順子 "茜色のカーニヴァル"('84)等々。
美人のSyoko率いるG-Schmittはプログレ・ファンよりニューウェイヴ・ファンの方が良く知っていると思いますが、"Sin,Secret~"の「Grand Circle」、"Icaros~"は是非聴いてもらいたい。シンフォニック・ファンなら感動の嵐ものでしょう。

Nanaは山口県出身で「インディー界の河合その子」と云われ、バックが打ち込みリズムというこれも、個人的に大好きな音です。


工藤順子さんは大分在住でフィリップスから出たアルバムで、彼女は山崎ハコらに曲を提供してた人。Andrew Cronshaw然とした、懐かしくも儚いメロディーが漂い、プログレ&トラッド・ファンは要チェックと思う。これ聴いた人、男女問わず10人が10人気に入ったから、これは絶対入手すべし。

最後になりますが、今後も音楽を通して色んな人と交流していくであろうし、そこにほんのすこしでも進歩的な事が出来れば幸せだと考えています。まずはこの7月20日発売のHereticの2ndLP"Escape Sequence"を是非聴いて下さい。好き嫌いは別にして我々の実存的な側面が伝われば、幸いです。

いずれ何処かで会う事を期待して。June21,1988

編集部脚注 (かわはら ひろふみ)セカンド・アルバム"Escape Sequence"が好評のHereticのリーダー。ユーロ・ロックの愛好家としても知られている。MARQUEE(1988年)

 

私の愛しの一枚(マーキー寄稿原稿1994年4月)  アル・ステュワート「追憶の館」

アル・ステュワートはマーキー誌で、今迄に紹介された事が無かった様に思う。
確かにAOR寄りのジャンルに属するアーティストではあるが、ブリティシュ・ロックをこよなく愛する人にとっては、必ずやお気に入りのアーティストとなるはずである。
オリジナルLPのジャケットが、内容を総て物語っていると云っても、過言ではないだろう。演奏者は、後にアル・ステュワート・バンドとなる人達や、アラン・パーソンズ・プロジェクト周辺の人達である。プロデュースは本作以降、アラン・パーソンズが担当。
憂いのあるヴォーカル、哀愁のメロディー、文学性の高い歌詞、さりげなく楽曲を盛り上げるアレンジ、プロデュース等々、硬質な音が好みの私でさえ、満点を出す作品である。
私の音楽コレクションの中で、気に入ったアルバムの中で、全曲が及第点以上という作品は皆無に等しいので、自信をもってこのアルバムを推薦したい。
本作のCDジャケットは、アル・ステュワートのポートレイト写真が使われているが、LPの場合、少なくとも3種類のジャケットが存在します。(私のようなマニアは全て買わされています.....)
Ain Sophの山本要三氏と、ここでギターを弾いているティム・レンウィック(元Quiver)のギターって、カッコイイよねっていう話が出た時、彼が教えて下さった事であるが、ティム・レンウィックのソロ・アルバムが少なくとも2枚はLPで出ていたという事実である。(もしライター諸氏の方で、このLPお持ちの方、機会があればレビュー紹介して下さい。)
ティム・レンウィックのギターを、一言で言い表すなら「泣きのギターの名手」となるであろうか。
フロイドのデイブ・ギルモア程、ブルージィーではなく、どちらかと云うとウィシュボーン・アッシュのアンディ・パウエルに近いテイストのソロを弾く様だ。
そういやマーキーではウィシュボーン・アッシュの紹介も、今迄大きく取り上げられた事が無かったと思う。
これも要ちゃんと話していた事だが、、ブリティシュ・ロックの本道と云われるグループをやはり紹介すべきなのではないかと思う。これだけユーロ・ロックのCDが再発されている状況下、玉石混合の作品のどれから買っていけばよいのか解らないのが、ビギナーの悩みだと思う。
ビートルズ、ツェッペリン、パープル、ベック等々プログレシッヴ・ロックの側から見たロックのルーツ解析というものが今、必要なのではないだろうか。
その後、クリムゾン、E,L&P、イエスといったブリティシュ・プログレシッヴ・ロックの紹介をすべきだと思う。

英国独特の陰りのある、美しいメロディーを聴きたい方は、本作と「Time Passages」を是非聴いてみて欲しい。


Jungle Life誌 「Infortecture#22」(2000年2月発行) 掲載より

今回は、1990年代に作られた音楽作品を振り返り、これらの作品は、いつか紹介したい、と思っていたCDを選んでみました。
ここ数年私は、音楽制作に関わるハード/ソフトウェアを色々と紹介してきましたが、音楽の内容そのものについては、あえて紹介しませんでした。でもやはり、曲そのものの完成度と併せて、音楽的・オーディオ的に素晴らしい作品は、やはり、音楽を作る者の姿身として、紹介しない訳にはいかないと思い、丁度良い機会なので、ここで紹介します。当然の事ながら全て私の愛聴盤です。

まずは、サラ・ブライトマン(SARAH BRIGHTMAN)の「エデン」(1999年)
'98年にスバル・レガシーのTVCMで使われた「Time To Say Goodbye」がやはり白眉の出来で、私の生涯で出会った女性ヴォーカルの中で、最高のアーティストと断言出来ます。
ある時は、Kate Bushみたいに、又ある時はJulia Downesみたいに歌い、ここぞ、という時は、オペラ/ソプラノになったり、と変化自在の歌唱力、それから、プロデュースが、Enigmaのプロデューサーという事もあってか、選曲/アレンジがクラシック/ポップスの垣根を取り払ったボーダーレス。選曲のセンスが非常に良いし、フランス語、イタリア語でも軽く歌う彼女は、天才?
優雅、華麗、ドラマチック、と、本物の音楽をまざまざと、聴かせてくれます。音楽表現での美の追求の結果が、彼女の作品にありありと、現れています。世の女性ヴォーカリストや、プロデューサーに是非聴いてもらいたい、アーティストですね。
元々彼女はポップス寄りの人だったのですが、'81年にミュージカル界で有名なアンドリュー・ロイド・ウェバーと出会い、彼の代表作と言える「キャッツ」のオリジナル・キャストとして参加後「オペラ座の怪人」、「エヴィータ」などで主役を務め、グラミー賞クラッシック部門の新人賞にノミネートされるまでになり、私生活では、彼と結婚するのですが、'90年代に入って離婚、クラシック/ポップスの垣根を取り払ったソロ活動を開始して現在に至る経歴の持ち主で、彼女の参加作品は、かなりの量です。1991,1992,1994,1997年に来日公演も行い、特に1991年には、NHK「紅白歌合戦」に出演し、抜群の歌唱力が話題になったそうな。
ここ10年来、私は音楽を聴いて背筋がゾクゾクするっていう事が無かったのですが、彼女の作品を聴く毎に、毎回鳥肌が立ちます。絶品の美声です。スバル「ランカスター」のCFで使われた、アンドレア・ボチェッリとのデュエット曲「タイム・トゥ・セイ・グッドバイ」の元曲は、ボチェッリの「君と旅立とう」です。
サラがレストランで食事している時に彼の曲を聴き、すぐにボチェッリにデュエットの申し込みをした、という話や、ドイツの国民的ボクサー、ヘンリー・マスケの引退試合にて、彼等二人がTime To Say Goodbyeを朗々と歌い上げ、結果ヒット・チャートにランキングされる等、面白いエピソードがあります。
Time To Say Googbyeとしては、そういう経緯もあり、少なく共、三つのバージョンがあり、ボチェッリのオリジナル、次に彼等二人のデュエット、最後にサラのソロと、マニア心をそそりますね。個人的には、サラのソロが一番好きですが......
タイム・トゥ・セイ・グッバイ」(1997年)
DIVE」(1993年)の二枚も大推薦盤です。

次は、ドイツのシンセサイザー奏者で、タンジェリン・ドリームに1971年から88年迄在籍していた、クリス・フランケの作品です。Christopher Franke / The London Concert(1992年)
1991年10月ロンドンでのライヴ盤なんですが、実際には、FrankeとRichard E. Roth二人が演奏した、彼のベスト・アルバム的なCDです。タンジェリン時代のCloudburst Flight、Dolphin Dance、Stratosfear、White Eagle等からの曲も演奏していて、アナログ、デジタル・シンセ、サンプラーはこういう風に使うとカッコイイゾ、という内容になっています。
たまたま、この時のライヴビデオを持っている為、私は、映像でも確認しているのですが、主要なフレーズは、全てコンピュータのシーケンサーにて自動演奏させています。実は、フランケ氏は、アナログ・シーケンサーの使い方が飛び抜けて上手いので、ライヴでその姿を期待したのですが、その点が唯一ガッカリした点ですね。MIDIの自動演奏を活用している、とはいえ、ライヴでこれだけの音数を二人でコントロール、演奏しているのはやはり凄いものがあります。で、16分に及ぶPurple Wavesが白眉の出来。とにかく、リズムとメロディー、ハーモニーの組み立て方が上手い。
複数の別々のシーケンス・フレーズが複雑に絡まりあい乍ら、かつリズムも変化自在に変化し、飽きさせない構成になっています。又非常に印象的かつ美しいメロディーがベースになっており、やはり長年に渡って音楽活動を行っていたのはダテじゃないな、という曲です。シンセサイザーで曲を作ろう、と思っている人も是非聴いてみて。

最後は、以前にこのジャングル・ライフ誌でも特集記事の時に紹介した事のある、ツトム・ヤマシタ氏を紹介します。
ツトム・ヤマシタ/サヌカイトの幻想」(1990年発表)
音楽を通して自己表現を行う、自分が日本人である事を和音階を使わずに表現する、そういった視点から、このツトムさんの音楽を聴くと、如何に芸術性が高いかが判ります。録音の良さもさる事ながら、世俗的な甘さが排除された、この音世界は、初めて聴いた時く人にとっては、何が良いのか判らないかも知れませんが(「恐い」イメージしかないかも知れませんね。)、ツトムさんの世界にはまってしまうと、宇宙とか、地球とかが奏でる音楽ってこういう音楽になるんじゃないのか、と思えてきます。
叙情的なパートは、本当にファンタジックになっています。この作品のお陰で、音楽

の聴き方が変るかも知れません。不思議な音楽を聴きたい、作りたい、と思っている方は是非聴いてほしいですね。

 

Jungle Life誌 寄稿原稿(1996年)


ツトム・ヤマシタ
88年、ミック・ジャガーの日本公演で、走り廻り乍ら打楽器を叩いていた日本人を憶えてますか?
じゃあ、デヴィド・ボウイ主演の映画、「地球に落ちた男」のサントラを担当した人といったら判りますか?
「空海」のサントラも彼の手によるものです。

ツトム・ヤマシタは、1964年18才で渡米、アメリカのジュリアード音楽院、インターローケン音楽院などに学び、ベルリン・フィルなどと共演。当時「打楽器のイメージを変えた人」として、タイム誌に取り上げられ、20歳過ぎで、打楽器の巨匠と評されました。
ロック界に於いては、スティービィー・ウィンウッド、アル・ディメオラ、マイケル・シュリープ、クラウス・シュルツェといった、有名人を集めて結成した、今でいうスーパー・グループ、「GOプロジェクト」を結成。ロック界に於いてもスーパー・スターとなりましたが、突如、全ての活動を停止して帰国。
「全てのジャンルに於いて、自分が最高であると思い込み、その結果他人の作品が全てつまらなく見えた。つまり感動を失ってしまったのだ。」(ツトム・ヤマシタ)
そして京都の東寺に数年籠り、新たな方向性を模索しました。
そして、仏教音楽に興味を持ち、いろはシリーズ「天地」、「」、「」を発表。遂には音による供養、「供音式」を総本山善通寺(香川県)にて行い、東寺、延暦寺根本中堂中庭、薬師寺、奈良大仏殿等でも音楽法要を営みました。
「一般的に音楽というものは、まず演奏者がいて、そこから出てくる音のことだと考えられている。だが、私はそうは思わない。例えば風が吹くと木が鳴り、葉が散る。水の流れが変わる。私はそういう事がより音楽的に感じられる。」(ツトム・ヤマシタ)
又、映画音楽に於いても、ケン・ラッセル、ロバート・アルトマン、ニコラス・ローグ、ポール・マザースキー等の監督作品に音楽監督として参加。芸術集団<レッド・ブッド・シアター>の欧米での舞台活動と相まって世界を駆ける特異な創作家として、名声を博しています。

ここ数年は、音響工学を駆使して、楽器としての生命を得た1350万年前の四国の石、サヌカイトを使った新しい響きの探求を行っています。
サヌカイトと出会って、数年は、来る日も来る日も、サヌカイトとの対話から、新しい音楽の制作を試みたそうです。サヌカイトは音階が出せる訳でも無く、二度と同じ音が出ない為、今までの西洋音楽の概念を捨てて作曲に取り組まなければならなかったそうです。それは、クラシックでもロックでもポップスでも無く、音に運ばれて、ミステリアスな精神宇宙を体験出来るものといえるでしょう。メロディアスなパートに於いても、天才が天才である証明を行うかの様に、聴くもの全てに真の感動を与えてくれます。
一つ一つの音を大事にしているツトム・ヤマシタの音は、やはり言葉では表現出来ないので、是非聴いてみて下さい。きっと聴き込む毎に新たな発見を見出す事でしょう。

尚、この特集の中で取り挙げられている、ロビン・ロイドもツトム・ヤマシタのライヴ・バフォーマンスに参加しており、イギリス・エジンバラ公演にも同行しました。その模様が一部民放TVで放送されましたし、衛星放送でもワン・ステージに当たる演奏が以前放送されました。

「ツトム・ヤマシタの音を聴く時、私はいつもそこにこの日本列島の悠久の闇にねむる太古の人間たちの声に触れる想いがする。それは縄文をはるかに遡る無限の過去の記憶のかけらの様なものであり、そのころ人々は大陸と続いたこの国にマンモスを狩り、魚貝を取るなどインターナショナルな生活の中にあった。その様な遠い時間を隔てて蘇る音の集積を音楽と呼ぶには、現代の音楽状況は、余りにも貧しくてその為、ツトム・ヤマシタの仕事が一際突出し前衛的に感じられるのも無理からぬ事だろう。彼の創り出す作品は、その意味で紛れもなく私たちの文化であると同時に又私たちのもつ時空を越えた世界の音であるという事がいえる。」(五木寛之)

サヌカイトとは、讃岐石とも呼ばれ、香川県坂出市内に分布する1350万年前に噴出した溶岩。古代人が、このサヌカイトを使って槍先や矢じりに使っていたそうです。その石が今、楽器として世界に響きます。この音を初めて聞いたある画家は、「これは、宇宙創世の響きだ。」と呟いたそうです。
普通、反響の無い無響室で音を鳴らすと音の響きが変わりますが、サヌカイトは音の響きが変わらない不思議な性質を持つそうです。

太陽の儀礼 Vol.1久遠之今 The Eternal Present」(KMYD-5100)
太陽の儀礼 Vol.2サヌカイトの幻想 Fantasy of Sanukit」(KMYD-5101)

芸能山城組
 

大友克洋のアニメ、「AKIRA」を担当したのが、この芸能山城組。
アニメ・ブームの影響からか、彼らの作品は意外と海外で知られています。
大阪で馴染み深いのは、1990年の花博の為に作られた、音楽でしょうか?
中央に位置していた、池の水を二つに分けたイベント、憶えていますか?

あの時の音楽が「翠星交響楽」です。
リーダーというか、プロデューサーである、山城祥二氏は民俗音楽の紹介シリーズである、「JVCワールドサウンズ」(旧CDエスニック・サウンド・シリーズ)の現地録音、監修をされており民俗音楽研究家として名高い方です。
その山城氏が、教え子達と作った合唱団が出発点となり、1976年に「恐山/銅之剣舞」で、LPデビュー。

以降、バリ島のケチャ、ブルガリアン・コーラス、ピグミーのコーラス等、世界各国の伝統音楽を再現する作品を発表。
特に86年以降に作られた以下の3作品は、立体音響を含む最新の音響テクノロジーを駆使し、オリジナル作品としても非常に素晴らしい内容となっています。
各国の伝統音楽と最新のテクノロジーが融合した、過去・現在・未来が融合した様は、真の意味での、ワールド・ミュージックと呼べるでしょう。
ロックのリズムが導入されている箇所もあるので、聴きやすいと思います。
尚、英題に使われているEcophonyとは、エスニック、エコロジカル、シンフォニックの三語をかけ合わせた造語で、彼らの音楽性を表している様です。
解説でNigel Harrisが書いている様に、芸能山城組を聴くという事は、21世紀の音楽を理解する事でしょう。

輪廻交響楽 Ecophony Rime」VICL-23091
交響組曲アキラ Symphonic Suite」AKIRAVICL-23092
翠星交響楽 Ecophony Gaia」VICL-23083

尚、「AKIRA」のサントラは別にあり、「交響組曲アキラ」がオリジナルで、この作品からの音源を元にサントラが作られています。





以下、それまでの雑誌に紹介していなかった、私が好んで聴いている音楽を紹介します。
但し、私は、どのアーティストもアルバム全曲を通して聴く、というのではなく、特定の曲、しかもその中のあるパートのみオーディオ編集して聴く、という変人としての楽しみ方をしています。
近年は、ライヴ等の映像作品の特定のパートのみ映像編集してmp4化しているものも多々あります。しかしこれがPCオーディオの醍醐味だと、私は思っています。

以下、順不同で紹介してきます。(大変申し訳ないのですが、以下、私のPCに入っているファイル名で紹介していきます。)

Steve Hillage_1979_Garden Of Paradice
Laraaji_1987_Essence
Philip Glass_1982_Opening-Closing 終わりのない風景1-2
Andrew Thomas Wilson_1984_Carnavon
Anthony Phillips_1977_The Geese The Ghost
Carole Laure_1979_Alibis
Daal_2012_Dodecahedron
Eddie Jobson_2013-1109_Four Decades Special Concert
Enid_2015_The Bridge Show_ Live At Union Chapel : 特にMocking Bird
Enid_2016_Live In Tokyo
Absolute Elsewhere_1976_Earthbound
Aldo Taliapietra_2012_Nella Pietra E Nel Vento

イタリア、元Le Ormeのベースの人ですが、この曲は特にお気に入り
Duncan Mackay_1977_Score
Fish On Friday_2012_Airborne

'09年結成されたベルギーのプロジェクト・ユニットで、A.P.P.路線かと思いますが、非常に気持ちの良い音です。
Madredeus_1993_海と旋律
Michael Brook_1992_Lakbossa
Mike Oldfield_1987_Northpoint
Mike Oldfield_1982-05-26_Tokyo Live

唯一の日本公演で、私も体験したので懐かしい音です。
Origa_1998_ポーリュシカ・ポーレ
OSE_L'Aube Jumelle (相輪の太陽)
Pluto_1982_Vacuum1
Procol Harum_1976_Blue Danube Treatment(Live)
Sally Oldfield_1978_Water Bearer

Sally Oldfield_1979_Easy

Sally Oldfield_1982_In Concert
Virginia Astley_1982_Loves Lonely Place To Be
Wapassou_1976_Messe En Re Mineur
Wapassou_1979_Ludwig (Un Roi Pour L'Eternite)
Alice_1986_不思議の国のALICE(草枕)

アリーチェはItalian Pops界を代表する一人。日本で比較出来る歌手はいないのではないかと思います。落ち着いた声で声量もあり、イタリア音楽の幅広さを感じます。
Terje Rypdal_1974-1205_Odyssey_Plus_Live
Terje Rypdal_1976_After The Rain
Terje Rypdal_1981_To Be Continued
Terje Rypdal_1989_The Singles Collection
Jean Michel Jarre_2017-04-29_Spain
Klaus Schulze_2010-03-20-21_Big In Japan

この人のライヴも体験したので懐かしいです。
Material_2005-08-20_Tokyo Jazz: Black Lotus
Mostly Autumn_2010_That Night In Leamington : 特にShrinking Violet

今回のライヴで脱退したリード・ヴォーカリストのHeather Findlayの圧倒的な歌唱力とバックコーラスとの3度のコーラス・ハーモニーは音程がぶれる事もなく、大変気持ちの良いアンサンブルで、ここに泣きのギターがこれでもかと入ってくる、ザ・プログレの王道のような音でしたが、脱退後のこのバンドの音は余りパッとしません。この2010年のライヴが最高の音だったと思います。
Within Temptation_2014_Hydra : And We Run

And We RunがHMとラップの組み合わせで、斬新。
Quidam_2009-04-18_Strong Together (Live at Oskard):

特にSanktuarium (Sanctuary)という曲 : ポーランドのブログレ・グループで、1stに入っていた曲を新メンバーの男性voとゲストの女性Vilが参加したライブ映像です。
1stは女性voでしたが、こちらの男性voも悪くもなく、更に感動的なのは、Vil奏者(ゲスト)の演奏です。フルート・ソロとギター・ソロの間の繋ぎの数分ですが、私にとっては繊細さと躍動感、巧みなテクニック、そして次のギター・ソロを盛り上げる繋ぎ以上の演奏を展開していて、毎回涙が出る位感動しています。彼女は、別に哲学者、ヨガの先生という別の顔を持っていて、その為か裸足で演奏しています。残念ながらこのライヴだけのゲスト参加でした。
Riverside_2015-10-18_Tilburg(Holland)
Satellite_2004_Evening Games
Turquoise_2001_Turquoise

Turquoise_2003_Po Drugiej Stronie

この7~8年は、これらポーランドのグループを主体に聴いています。
Francoise Hardy_2004_tant_de belles choses : このタイトル曲は絶品です。日本語訳だと「たくさんのすてきなこと」となりますが、ガンで死ぬことを覚悟して作った憂いに満ちた曲です。アルディ・エレガンス健在。
Tous pour la musique - Hommage a Michel BERGER avec France GALL 

2007年11月17日 ミッシェル・ベルジェの生誕60周年記念TV番組で、F.GalとFrancoise Hardyが一緒に喋っている部分があります。曲はMessage personnel。
Seven Reizh_2018_L'Albatros : 彼らの他の作品もそうですが、大変音作りに拘っていて、音楽的にもオーディオ的にも贅沢な作りとなっています。本付き。

吉村弘_1983_いつか見た水平線
深町純_1983_Seion
藤本恭子_1993_時の岸辺

美声なのと音程のふらつきがない素晴らしい方です。才能がある方なのに埋もれてしまっているのは残念です。映画監督と結婚された後は、全て自主で作品を何枚か出されているようですが、こういう人がNHKの紅白に出るべきです。
坂本真綾_Tune The Rainbow
坂本真綾_ヘミソフィア
坂本真綾_2015-0425_さいたまスーパーアリーナ_FOLLOW ME : 坂本真綾(さかもと まあやという本名です。)元々は声優ですが、美声でかつ音程が安定しています。
Mizuki Da Fantasia_2018_虹を追う人々
Mizuki DaF antasia_2019_去りゆく時代に
Anna Hardy_2020_Lunatic Spells : ゲストのソプラノ歌手、舟橋千尋さんの方に、

私は関心が行きました。今一番注目しているソプラノ歌手です。
舟橋千尋
Stomu Yamashta_1983_いろは_火
Stomu Yamashta_1987-0330_京都府立 Pulse Center Live
Stomu Yamashta_1989-0505_京都京北町 Live


陰陽座_2012-0422_絶界演舞
陰陽座_2013_式神謳舞
陰陽座_2015-0222_TokyoDomeCityHall(雷神雷舞)
陰陽座_2016-1223_パシフィコ横浜
陰陽座_2018-0929_TokyoDomeCityHall

HR/HMですが、録音が大変素晴らしく、特定の曲を気に入っています。


Lovebites_2018_Clockwork Immortality(DVD)
Lovebites_2019_Daughters Of The Dawn(LiveDVD)
Lovebites_2020-0221_Five Of A Kind Tokyo Live
こちらもHR/HMですが、ドラムのHarunaさんのドラムテクニックが信じられない演奏です。ヘッドフォンで確認して頂きたいのですが、ツイン・キック・ドラムの超高速連打をずっと同じ間隔・音量で出しています。スネア/タムではフィル・イン、シンコペーション等、手数の多い叩き方をしていますが、リズムが揺れる事もなく、彼女がライヴで全員をリードしています。しかも私は演奏中の苦労も分るので、ライヴでずっと笑顔でいるのが信じられません。最初演奏を聴いた時は、打ち込みでもこんなキックの連打はないだろうと信じられませんでした。本当の意味でプロです。
ギター二人が関西人ですが、私にとっては、ウィッシュボーン・アッシュを、もっと上手くした演奏だと思います。
特に Edge Of The World, Epilogueでの頻繁に変わるテンポと、ここぞという時の泣きのギター・フレーズが大変感動的です。バッキング・ギターのリフも気持ちの良い音なので、文句がないです。

 

 

文字数制限によりこれ以上の紹介が出来ません。リンクが貼れないアイテムもあります。ご容赦下さい。

これからお伝えするのは、あくまでも、私が考える「音」について語りたいと思います。「音楽」そのものの話ではなく、オーディオと音楽編集の話になります。
途中からのマスタリングの話では、私が今回、リマスター作品として使ったツールも説明しています。


まず、最初に、「音」に関しての記事で、良く目にする/耳にするのは、オーディオ・ファンの方々の「どこそこのスピーカーが云々」というコメントです。
これは、昔から凄く気になっていました。

果たして生のピアノ・トリオの音とか、生のオーケストラの音を良く聴かれている方なのか、とまず問い質したいです。
更に、ほとんどの方は、体験されていないので理解出来ないかも知れませんが、録音すると確実に「音」(質)は変わります。

具体的には、
(a) スタジオないしホールでの生音
(b) マイクないしライン経由で録音した音
(c) CD/DVD用にミックスダウン/マスタリングした音


(a)、(b)、(c)どれも「音」(質)が異なっています。

その為、オーディオ・ファンの方が理想とされる「音」というのは、(a)(b)(c)のどの「音」を想定されているのかという疑問です。

(b)の録音時には、例えばピアノ録音でもマイクの向き、設置場所によって大幅に「音」(質)が変わります。ドラムの皮系はマイクとの距離によっては極端にニュアンスが変わります。

そうなると、流通している音楽を聴く人には、(c)でのミキシングとマスタリングを担当された方が作った「音」しか、理想とする「音」はないはずです。

ここからは、特に私の持論になりますが、そのミックスされた音が「素直に再生される音」が、アーティスト側が希望している「音」(質)だと私は理解しています。
近年、xxxxリマスター・バージョンとして、過去作を再発するのも、アーティスト側としては、今回の「音」(質)で聴いて欲しいからです。私の場合も、そうです。

そうすると、原音を忠実に再生するスピーカー/ヘッドフォンとはどれ?
と疑問を持たれると思います。
そう思われた方は、続きを読んで下さい。オーディオ・ファンの方は、それぞれの楽しみ方があるので、ご自分でこれが理想の「音」だと思われるセットアップをされている方は、以降の私の考えは不要かと。





それで、この後お伝えしたいのは、オーディオ専門のスピーカー/ヘッドフォンではなく、「(スタジオ)モニター・スピーカー/ヘッドフォン」の話となります。
録音・編集スタジオで使われる、コンソールでミックスされた「音」を忠実に再現するスピーカー/ヘッドフォン、という事です。

私は、2010年に、アメリカのレコード会社がCDを出してくれた後、機会があり都内のオーディオ専門店で、ブックシェルフ・タイプのスピーカーの聴き比べを約2時間経験しました。
その際に、私が独自に用意した音源を再生してもらいました。この中には、自分の作品も含まれているので、確実にこういう「音」で再生すべし、という基準の曲も含まれていました。

JBLもKEFもタンノイもBoseも有名スピーカーはどれも固有の色(特定の周波数に特徴を持たせている)が付いているのに気づきました。
唯一、原音を忠実に再現したのが、イギリス製のB&Wのスピーカーでした。それからB&Wのファンになったのです。
ロンドンのアビーロード・スタジオでモニター・スピーカーに採用されているのも理解出来ます。
先日、ご紹介した現代音楽家の方も愛用されていました。特に自分で音を作り出している人にとっては、このメーカーしか選択支が無いのではないかと、私は思っています。

相当高額のラインナップばかりですが、昨年このB&Wのヘッドフォンを入手出来ました。
(当初は試し買いだけにして、気に入らなかったら返品するつもりでした。)
やはり、全帯域を鮮明に再生し、かつ低域が大きな音でも割れずに再生しているにびっくりしました。
録音の良いライヴを再生すると、所謂、部屋鳴りも再現してくれるので、再生音源によっては、ライヴ会場にいる感覚も再現してくれます。

このヘッドフォンが手に入った事が、私の作品をリマスターしよう、という大きな動機づけになった事は否定出来ません。
前後しますが、1990年代の京都の個人スタジオでは、当時はヤマハのモニター・スピーカーを使っていました。確かNS10M。

いずれにしても、半信半疑の方、ご興味のある方は、是非オーディオ専門店で、スピーカーとかヘッドフォンの聞き比べをされると良いと思います。
手間隙かけても、それだけの価値はあると思います。



閑話休題

そもそも「良い音」とはどういう「音」を指すのか?

これは、私の「Complete Works」のボーナス・トラックである「Heretic_1984-1998 Sequence」をPC上のVLCソフトウェアで再生した時のスペクトル表示のスクリーン・ショットです。


こちらは、同じ曲の同じ場所を、Audacity(オーディオ編集ソフト)で再生、スペクトラム表示をSPANというプラグイン・ソフトで表示させたスクリーン・ショットです。

高音から低音まで、各周波数の音がバランス良く出ている(=フラットな)音になっていて、ダイナミックレンジのある(或る程度大きな)音であると、客観的に判断できるかと思います。
この全周波数帯域がフラットな「音」というものを体(耳)の中で覚えると、「音」が変に低音寄りな音源とかは、すぐに気づくようになります。
言い換えると、低音から高音まで、周波数的にバランスの良い「音」が、オーディオ的にはまず「良い音」の条件の一つだと思います。

多分、私だけだと思うのですが、別に値段の安いスピーカーとかヘッドフォンを使っていても、VLCのイコライザーで音質補正したり、音源そのものを音質修正(EQ&コンプレッサー処理)して、PCオーディオとして聴くと、一番安上がりで聴きやすい(自分好みの)音を楽しめると思っています。
私の場合、音楽ライブラリは、全てハードディスクで保管していて、気になった音源は、全て手を加えて編集加工しています。

ここまででお分かりかと思いますが、私はPCオーディオ前提で、「音」を楽しみ、「音」を作っています。
再生ソフトは基本的にはVLC、オーディオ/マスタリング編集はAudacityというどちらも無料で使えるソフトウェアです。

それで、日々、スペクトラム表示を確認しながら色んな種類の音楽を楽しむと、「音」のバランスの良し悪しが分ってくると思います。

 

 



ここからは、昨年から始まった私の全作品のリマスターについて
そもそも「リマスター」とは何かという定義ですが、私が今回目指したのは、過去LPやCDで変にレベルを下げられたり、特定の周波数帯域を針飛び防止の観点から製造メーカーが加工していましたが、「私が、当時ミックスした時の音」を再現させるのが、今回の最低限の目標でした。
音源によっては、低域が足りないので、特殊な処理で低域の音を増強したり、左右の音のバランスを補正したり、特定のパートは、特に音の出力を大きくしたり等、見栄えをよくする処理をあちこちで処理しました。
合計9作品あったので、昨年8月から開始して、ほぼ終わったのが年末でした。

まず、元データは、基本的には各作品のCDデータ(44.1kHz/16bit)を48kHz/32bitに変換し、その上で、各種エフェクト処理を施していきました。
リマスター編集に使っていたオーディオ編集ソフトは、先のAudacityです。Pro Toolsとかではありません。プラグイン・ソフトも含めて、ほぼ無料のソフトを使っています。

まず、音の分析は、先に示した、スペクトラム表示により、周波数帯域のバランスをまず確認しています。

左右のバランスが悪いケースの調整は、一旦ステレオ・データをモノラルに分離してから、どちらかのchデータの音量を修正、再度ステレオ・データに戻しています。

左右の音の定位が中央寄りになっている場合、左右に広げる処理として、大きくは二つの処理を使い分けました。
(a) MSEDというプラグインを使ってMidとSideのバランスを整えるケース。これはMS処理といわれるもので、真ん中(Mid)の音の成分と両サイド(Side)の音の成分に分けて処理を行います。私の作品「Requiem」内のAstral Tempel/Liveで使いました。

 

 


(b) 別の有償プラグインを使って、左右に音を広げるケース(特に元ソースがモノラル音源には絶大な効果を発揮しました)
これらのエフェクトでは、いわゆるベクトルスコープで、ステレオ幅(音の広がり具合)を視覚的に確認しています。


スペクトラム表示とベクトルスコープは、オーディオ・ファンの方にも、是非使って頂きたいソフトウェアです。主観的ではなく、客観的に「音」の特性が把握出来ます。



以下、マスタリングする際には、一般的な以下のエフェクトも多用しています。

修復 : これは、途中の一部を削除して不要な部分を削除した時、繋ぎ目でノイズが発生するのを防いでくれます。

増幅 : L/R チャンネルの音量が異なる場合のレベル合せに使いました。


ノーマライズ : 音を全体的に上げたい時に利用しますが、全ての音が一律に音量が上がります。特定の音に対してだけ、より大きく聴こえるようにするという効果はありません。


コンプレッサー : ノーマライズでの音のレベルの上げ方とは異なり、全体的に、レベルを上げたい場合に使います。但し、この処理の意味通り、全体の音を圧縮するので、過度にかけると全ての音が前に出て、奥行き(遠近感)が無くなるので、ここはエンジニアのセンスに依存します。
私は、使用楽器とその音(残響音のあるなし)により、Audacity内蔵のコンプと無料のプラグイン、MJUCjrを使い分けています。
過去に、プラグイン・ソフトも色々試しましたが、私にとっては、MJUCjrが使いやすく、圧縮率を強くしても、不自然な音にならないので(特に低音)、愛用しています。
たた、やはり思うのは、コンプレッサーの使い方は、非常に難しいので、普通の人が敬遠するのは分ります。
使い方のヒントとしては、このコンプ処理前に、E/Qで低音部を下げてからコンプ処理すると、特にライヴ音源は、もっと聴き易い音になります。(但し試行錯誤と経験が要求されます。)



速度の変更 : 東京でのライヴを2tr/38cmのオープンリールで当時録音したのですが、レコーダーの電源が60Hz固定で、録音場所が50Hzの電源で録音していたので、ピッチと速度が正しく録音されていませんでした。ピッチと速度を本来の音に戻すのに使っています。1990年代には、当時のマスタリング・ツールが高価だったので、コンプも含めてこの処理が出来ませんでした。今はほんとに良い時代です。


ピッチの変更 : 低音が足りない、と思った時、別トラックに1オクターブ下げた音をここで用意してミックスしています。


東京でのライヴ音源のミックス時のスクリーン・ショットです。ピッチの変更も使っています。

 

 


Sweeper : 本来はベース用のオートワウ効果を狙った、特殊なエフェクトです。これを私の作品「Requiem」内のAstral Tempel/Liveで使いました。特にドラム・ソロ以降に、バックで誰かがシンセサイザーのSEを鳴らしているような効果を追加したくてミックスしました。大きい音でこの曲を聴くとサイケデリック感が増すはずです。

 


低域・高域 : 音質を変える処理です。


グラフィックEQ : こちらは、特定の周波数に対して個別に操作出来るのですが、デジタル・ノイズが乗るようなので、余り使っていません。


リバーブ : 残響音処理ですが、これはパラメーターが多いので、各設定の意味が分らないと使うのに苦労すると思います。


ディレイ : いわゆる、やまびこ音です。私の曲のVariationの一部のパートでこっそり使いました。


フェードイン
フェードアウト



クロスフェード-トラック : これは異なる曲をメドレーとして繋げるのに多用しました。「Complete Works」のボーナス・トラック二曲共に使っています。



こんな感じで、色んなエフェクトを使って昨年、過去の作品を時間をかけてリマスタリングしました。今回は、その記録も兼ねています。

 

音作りをされている方や、PCオーディオで、自分好みの「音」(質)にしたい方へのご参考になればと思います。慣れるまでには時間がかかりますが、音楽を作る/聴く時間がより楽しくなるはずです。

 

 

追記です。
2024年になって
The Beatles: 1967 - 1970 (2023 Edition UICY-16202/3)を聴きました。
明らかに音の分離と鮮明さが過去のリリースと違います。ベースの音も鮮明に聴こえます。


これは、CD1の一曲目、Strawberry Fields Forever (2015 Stereo Mix-2023 Dolby Atmos Mix)をAudacity上で再生しているスクリーンショットです。スペクトラム(周波数分布)の確認もしています。


この二枚組の何曲かはDolby Atmos処理が施されていて、音象の定位も、明らかに過去のリリースと違います。
CD二枚、全般を通しての印象はマイク近くで歌っている歌声がとても生々しく、あたかも、録音している最中のモニター(コンソール)・ルームにお邪魔しているように聴こえます。

但し今回の追加トラック、2-22 Now And Then
だけが異なったマスタリングをしています。


波形を見てお分かりかどうか判りませんが、一度、強いコンプレッサーをかけています。
その音量が大きすぎたので、音量だけ下げて、聴きやすい音量に調整しています。
(波形の最大値が幅一杯になっておらず、各ピークの領域がハサミで切りそろえたように見えるのがその証拠です。
更に、中心の薄い水色が、エネルギーの高い領域を示しているので、相当なコンプレッサーをかけた事を示しています。)


最近のマスタリングは、結構、この手法を使っていますが、私は、この処理が好きではありません。
注意深く聴くと判ると思うのですが、コンプレッサーを必要以上に強くかけているので、全ての音が全面に出て、奥行き感が無くなっています。
多分、最近の若者の音楽の聴き方として、ヘッドフォンではなく、イアフォン・タイプで聴いているので、音圧があり、全体の音が鮮明に聴こえる音が好まれるのかと想像しています。



Jungle Life誌(大阪発の隔月刊フリーペーパーで、現在も刊行中)の、1996年から2000年まで、私が連載を担当していた「Infortecture」というコーナーの中で、Hereticの録音に関係する部分のみを抽出しました。
(「Infortecture」の連載は、27回(2000年12月)まで続きましたが、記事の大半が、当時の最新MIDIソフトウェア/ハードウェアの紹介で、今となってはここに掲載しても意味がありません。)
又、末尾には、1997年の同誌でのインタビュー記事も紹介しています。
更に、このページの途中で、愛用していた「M」というソフトウェア・パッケージの日本語マニュアルの序文も紹介します。



えー、はじめまして。今回からMIDIに関係する情報を提供する事になりました、河原です。
さて、私自身はMacとPC-98の2台のパソコンを使って音楽製作を行っています。私の場合メインのシーケンサーは、長年使い馴れたカモン・ミュージックのレコンポーザ(PC98)で、Macは、作曲支援として使っています。(つまり、マウスをウリウリ動かして作曲するソフトです。)

さて、本題に入ります。イギリスのSSEYOが開発したKoan Music(製品名Koan Pro)を今回は紹介します。
コアン・ミュージックはアンビエント・ミュージック自動作成ソフトとして、最近日本でも紹介され出しました。Koanは禅用語で「神秘」或いは「答えのないパズル」というような意味を持つそうですが、コアン・ミュージックで作成された音楽は演奏する毎に変化します。逆に言えば同じ演奏は2度と再現されません。
ユーザーは音楽のガイドラインともいうべきルールによって曲の世界を構築し、実際に演奏する音を選ぶのはコンピューターが行います。このソフトはWindows版しかありません

(その後)Mac版Koan Proも発売されました。
Windows版が数年前に出て、私もそれ以来Mac版がいつ出るのか気になっていましたが、これでWindowsマシンや、エミュレーターを使わなくても、PowerMac+OMS+Koan Proの組み合わせで、環境音楽や、ミニマル系の音楽が、嘘みたいに簡単に出来てしまいます。
Koan Proを知らない方に改めて紹介しておくと、通常のMIDIデータをそのまま録音/再生する、というものではなく、このKoan Proというソフトを介して、同じデータでも、再生する毎に演奏内容が微妙に(又は大きく)変えられる、というパフォーミング・MIDI・ツールです。この発想が気に入ったのか、Brian Eno氏が、このKoanのデータを作品として発表しています。「Generative Music 1 」
プリ・リリース・バージョンで評価させてもらいましたが、Music For Airportみたいな音楽が延々流れる様は感動ものですね。

次に、Mac用MIDIソフトで魔化不思議なソフトを紹介します。
Macファンなら、一度は名前を聞いた事があると思いますが、Mというソフトです!!
天才プログラマー、デビッド・ジッカレリさん、最近ではMAXのプログラマーとして有名ですが、彼が昨年あたりからこのMやOval Tune(グラフィックとMIDIをリンクさせたマルチ・メディア志向のソフト),Up Beat(リズム・パターン・ジェネレータ)等をPower Mac対応に、プログラムを修正しており、今回の日本発売になったという次第です。実は、私自身もこの日本語マニュアルの序文を担当させてもらい、私が作成したデータもパッケージの中に収録されます。
このMというMIDIソフトについて、御存じ無い方の為に、簡単に紹介しておくと、Mはシーケンサー・ソフトではありません。マウスで色々と画面の中のパラメータを変更していくと、曲が出来ていくという、或る意味でユーザーとMac/Mが会話しながら(インタラクティヴな)即興演奏を繰り広げてくれるという作曲支援ソフトです。これにハマルともう止められません。御自分の曲の一部に、このMで作ったパートを用いても良し、自動演奏させて、パフォーマンス・ツールとするも良し。
私のグループの作品、"弥生幻想"と"Drugging For M"の随所でこのソフトを使っています。私はこのMが使いたくてMacを7年前に導入した程です。


尚、Up BeatとOval TuneもeYESさんの方で発売を予定しているとか。楽しみですね。
又、HERETIC/"Drugging For M"のCD-ROMパートには、68K用のMのデモ版が収録されています。 

 

 

以下、当時発売された「M」の日本語マニュアルの序文です。

MagicalなMへようこそ 河原博文(HERETIC)

私のグループ、HERETICの最近の二作品で、このMを作曲支援として取り入れており、それがきっかけの一つとして、今回の国内版の発売になったと聞いています。非常に嬉しい話です。

さて、Mに何を求めるか?
この問いが、つまるところ、その人のMに対する接し方、使い方に思えてなりません。
Mって何のM? Magic ? Music ?
御自分の曲の一部に、このMで作ったパートを用いても良し、自動演奏させて、パフォーマンス・ツールとするも良し。

今までのMの紹介記事では、通常の音楽をやっている人には向かない云々と、レビューされて、誤解を招いていたのではないかと思います。

元々、Mの最初のバージョンを発売したIntelligent Music社は、現代音楽の領域の人達が作った会社である事を考えると、当然音楽的並びにMIDIの知識があった方が良いのは言う迄もありません。
しかし、音楽の知識の無い人でも、Mを使って音楽の勉強、特にリズム感を勉強出来ると思います。
当然、MIDIの知識もあればある程、面白い事が実現出来る事に気付かれるでしょう。
その人の能力、アイディアに合った演奏をしてくれる、そんな姿見となるソフトウェアじゃないかなと私は思います。少なくとも私にとっては、使えば使う程、手放せない代物となり、気がつくとMそのものが、有能な秘書又は音楽の先生となってしまいました。

Mを作った、David Zicarelli氏は、M以外にも、4人の仮想的な演奏者がアドリブするJam Factory、リズム・パターン・ジェネレータのUp Beat、グラフィックとMIDIをリンクさせたマルチ・メディア志向のOval Tuneといった、普通のプログラマーでは発想出来ない様なソフトウェアを、かつて色々と開発・発売していましたが、この原稿執筆時(1997年5月22日)の現時点で、Power Mac用にUp BeatとOval Tuneのヴァージョン・アップ作業の最中と聞いています。
アナログ・シーケンサー的な使い方が出来る、Jam Factoryも大好きな筆者としては、今回のVersion Upの仲間に、Jam Factoryも是非入れて欲しいと願っています。皆さんの声が、David氏を動かします。
私見ですが、ミニマル・ミュージックやタンジェリン・ドリーム系のシーケンスを作るならJam Factoryの方が、Mよりはるかに簡単に出来ると思います。
Mは、Macが一人のミュージシャンとなりうるソフトウェアで、Mと対話すると、本当に、即興演奏が出来ます。つまりJam Factory程、予定調和ではないスリリングな音楽が作れると看做しています。

又、これらのソフトウェアはとにかく、軽い!! 実は、私は今だに、これらのソフトウェアをMac Plusで動かしていますが、全然ストレスを感じさせません!!!
最近は、インタラクティヴな受け答えが出来る、ホビー系のソフトウェアが数多く見受けられる様になりましたが、MIDI関連のソフトウェアで、このMほど、インタラクティヴな要素も含めて、完成度の高いプログラムがあったでしょうか?
私自身も、ソフトウェア・プログラマーなので、これだけの情報量のコントロールを上手くGUI化したプログラムでかつ、スピーディーに動作するソフトウェアは、かつて見た事が無いです。
素晴らしいプログラムを作り上げたDavid Zicarelli氏に乾杯!!

是非、時間をかけて色んなパラメータをいじくり廻して、Mと対話して下さい。


もうひとつ、ライヴパフォーマンス向けの楽器を紹介しましょう。テルミン(etherwave-theremin-J)というレッド・ツェッペリンの映画で、ジミー・ペイジがビャーンとやってた楽器ですが、
これでバイオリンみたいな音程/ニュアンスをとるのは至難の技です。が、ここぞという時に、これをライヴで使うとカッコイイと思います。設置場所によっては磁界の影響で音が出ない場合があります。キーボードとかパソコンに囲まれた中では鳴りませんでした。MIDI機能についてはサポートされていません。HERETICの「Drugging For M」の中で、私も使っています。


ハードディスク(デジタル)レコーディングに関する紹介を、何度も行っていますが、実は私の次作(ドイツのアーティスト、Peter Frohmaderとのコラボ作)の録音では、かなりの部分が16トラックのアナログ・テープレコーダーを活用しています(Fostex E-16)。
なんで?って思われるでしょうが、'70年代のウォームな録音を狙っているのが一番大きな理由ですが、今回は特に演奏そのものに集中したかったという事もあり、ハードディスクのクラッシュ等の心配をしたくなかった、という理由もあります。
私自身が元々がアナログ録音から入っているので、録音時のテープを廻し始めた時の緊張感、言い換えれば絶対にOKを出してやるぞ、という意気込みが攻を奏したのか、ほとんどが、1回か2回の録音テイクでOKが出ました。

 

 

アナログ・レコーディングのデメリットの一つにテープの巻き戻しに時間がかかる、という点がありますが、実際には、巻き戻し時間に一息入れるという別の次元の要素が含まれる為、実際の録音作業ではデメリットにはなりません。話が横にずれますが、この録音時の緊張感に関係して、実際の録音経験が無い、若しくは数少ない演奏者へのアドバイスがあります。録音テイクを重ねる毎に、演奏の質が落ちてくるという点を覚えておいて下さい。5テイク録音して駄目だったら、日を変えた方が良いです。(当然スタジオ代の費用が重みますが)
私の場合、自分専用のスタジオを持ったのも、この点が一因です。リラックスした状態で、録音に望む。録音というか、オーディオ的なクォリティを多少落としても、得られるメリットが甚大です。自宅スタジオの建設を考えると、大変な額になりますが、幸いな事に私が借りているマンションは、防音設備無しでも苦情の来ない、基礎工事/設計がガッシリした所です。そういう部屋を探すのも手だと思います。
話を戻して、アナログ・レコーディングを行って再発見したのが、テープのヒス・ノイズも聴感上感じられない点とダイナミック・レンジも悪くないという事。つまり、ハードディスク(デジタル)レコーディングだから、絶対にいい、という結論にはならない点を強調したいですね。いい例が、デジタル・シンセサイザーが出始めた頃、アナログ・シンセサイザーは駄目だ、っていう風潮がありましたが、現在はそれぞれに長所を認めて、共存する様な使われ方をしてますよね?
音楽に関しては、カタログ・スペックだけで判断出来ない、不思議な要素があります。よって、中古でアナログ・レコーダーを探して使う、というのも一つの手です。
MIDIの同期に関しては、SEMPTYのロケーターや、FSK信号による、制御が出来るので、MIDIに関しては、多少の知識があれば、MIDIシーケンサーと、アナログ・レコーダーの同期も問題無く、解決出来ます。但し、アナログ・レコーダーは、ヘッドの掃除等のメンテナンスの良し悪しが、音質に影響します。




さて、今回はギタリスト向けの内容です。
私は、'90年に入ってから、ギターの録音/ライヴに、アンプ・シミュレータを使う様になりました。ギター・アンプを使った録音時の煩わしさが嫌だったのと、実際にアンプ・シミュレータを使ってみて、その音質とか質感が充分満足出来るものだったからです。
因みに私が使っているのは、SansAmp PSA-1ZOOM 9150という共にIU(ラックマウント)型のものです。
個人的には、ZOOM 9150のウォームなディストーション+空間処理+ノイズ・ゲート処理が9150内部で全て完結している為、この9150を特にソロ用として、愛用しています。PSA-1は、ほんとに色んなアンプの音が一杯入っているのですが、エフェクト処理が内部にない為、以下の様な結線処理をしています。

お判りかどうか判りませんが、PSA-1側(Bのライン)は常にホールド・ディレイが二種類廻る様になっていて(当然リアル・タイムにメロディ変更可能)、そのループ音をバックに、9150でギター・ソロを取るというセッティングになっています。
録音時には、必要に応じて、Wow Wow、Roland DIMENTION D(コーラス機能)、Behringer EX-1(ステレオイメージャー機能),EX-3100(マルチバンドサウンドエンハンサー サラウンドプロセッサー)、Lexicon MPX-100(ディレイ、リバーブ)等を使って空間/音響処理を行い、多彩な音色にしています。


次に、いつか紹介しなくちゃと思っていたのが、MIDIプログラミング言語のMAXと、オーディオ版プログラミング言語のMSPです


MAX、MSP共にMac OS用上で、GUIを活用したプログラミング環境となっていて、色んなモジュール(オブジェクト/関数)を線で結ぶだけでプログラムが完成します。
要はチャート図みたいなのを繋いでいくだけで、プログラムが作れてしまいます。例えばC言語の様なポインター、構造体等の難しいプログラミング知識は不要です。
逆に、C言語を使ってモジュール(オブジェクト/関数)そのものの作成も可能です。画面上で、アナログ・モジュラー・シンセを操作する様な感覚で、MIDI/音声の制御が色々と出来ます。
具体的には、オシレータ&フィルタ、アナログ/ポリフォニック・シンセサイザー、サンプリング、プレイバック・サンプラー、ルーピング・サンプラー、ボコーダー、マルチトラック・レコーダ、Ring Modulation,FM synthesis,Waveshaping synthesis,Delay,Flange,Chorus etc etc.....
Digidesign AudioMediaIII,KORG 1212I/O,Lucid PCI-24,Sonorus STUDI/O用サウンドドライバーも付いています。
MAXだけなら、MIDI信号の加工が出来るので、MIDIイベント・プロセッサーとしてプログラムを作る事が出来ます。よってパフォーマンス・ツールとしては、最強のツールとなるでしょう。
MSP日本語版には、以下のアーティストのパッチも収録されている為、それらだけでも多彩な音声加工が出来ます。
赤松正行、アタウ・タナカ、大谷安宏、佐近田展康、白石ひとみ、平井重行、藤井孝一、松前公高、モーリー・ロバートソン、N.キデヒト、Yuko Nexus6、渡部祐也(敬称略)
やっぱり、パフォーマンス・アーティストとしては、必須のソフトですね。又、MAX/MSPの面白いところは、アプリケーション化して自由配布が可能な事です。その際は、コードというかパッチそのものが隠れるのと、MAX/MSPそのもののアプリケーションが不要となります。
それから、現時点では配給をストップしている様ですが、MAX/MSPパッチをVSTプラグインとして機能させるソフトを、開発元で開発しています。

 

 

 

Jungle Life誌(大阪のフリーペーパー) 1997年のインビュー
Jungle Life誌、自宅録音の特集記事内でのインビュー

1.何歳くらいから自宅録音を始めましたか?

4トラック・オープン・デッキとミキサー、そして、マスター・レコーダーとしての2トラック38cmのオープン・デッキを使い出したのは、18才の時。

2.ライブと録音とどっちが好きですか?

どちらもそんなに好きではありませんが、強いて言えば、録音です。ライブは余り好きではありません。

3.パソコンを所有していますか?(機種名も)

はい。
PC 9801 VM2 640KBRAM (ComeOn RCM シーケンサー用)
Apple Macintosh Plus 4MRAM 200MHD (M,Jam Factory,Music Mouse,MAX用)
Apple Macintosh Performa 588 40MRAM 2.5GHD(ビデオ・キャプチャー、CD-ROMオーサリング用)
EPSON VA516V Pentium 166MHz 48MRAM 2GHD (ビデオ、HTMLデバッグ用)


4.影響を受けたミュージシャンは?

ビートルズ、キング・クリムゾン、エルドン、アシュラ、クラウス・シュルツェ、ツトム・ヤマシタ

5.あなたにとって自宅録音のメリットとは

好きな時間に作曲、録音が出来る。スタジオ代や家族の事を考えなくて良い。
他の人とは違って1987年から、個人専用のスタジオを所有している事があります。
当然、いつでも気が向いた時に録音が出来るし、真夜中にピアノを弾いても苦情が来ない非常にいい環境であります。かつ結構交通の便の良い所に位置しているのでこのマンションは手放せません。


6.あなたにとって自宅録音のデメリット

自宅から離れた所にある。当然、部屋の維持費がかかる。

7.自宅録音を色にたとえると?

ほとんど、仕事と化しているので、黒色?????

8.楽譜の読み書きはできますか?

はい。でも、シーケンサーがあれば関係ないと思います。

9.自分にとってこだわりの機材は何ですか?

ソフトウェアを含めた機材は、あくまでもツールです。
肝心なのはアイデアとそのツールの使いこなしです。
強いて言えば、交友関係がこだわりのリソース?


10.何故、自宅録音なのですか?

私の場合、作品発表が即CD発表となるので、出来るだけ制作費を押さえたいという事と、今迄の実験等を含めた経験が、個人スタジオではそのまま有効活用出来るので。
あと、他人の事に気兼ね無く作品制作に没頭出来る事でしょうか。


11.おうちの方はあなたの宅録癖についてどうお考えですか?

宅録癖ですか.....んー、ほとんど、仕事なのでそんなものかなと思っているのでしょう。

12.あなたの代表作品は何ですか?

「1984-88/HERETIC」(Belle Antique9457)
「弥生幻想/HERETIC」(Belle Antique96302)
「Drugging For M/HERETIC」(Belle Antique97350)


13.この世に宅録がなかったら何をしていると思いますか?

消去法でライヴ活動かスタジオ・セッション。

14.現在使用機材を教えて下さい。

Keyboard & synth module:

Korg DSS-1 * 2

DSM-1,

 

M3R,

Roland U-110,

R-8M,

TD-7 & Pads,

Oberheim Matrix-1000,

DPX-1,

E-Mu Vintage Keys Plus,

Yamaha RX-11

 

Effector:

Roland DIMENTION D,Yamaha SPX90,SPX50D,Korg SDD-1000,BBE 462,ZOOM 9150,SansAmp PSA-1,Lexicon Jam Man,Behringer EX-1,EX-3100

Console (Mixer)

TASCAM M-224,

BOSS BX-16

Recorder:

Fostex E-16

ソフトウエアはCome On Music RCM-PC98並びに、M,MAX,Music Mouse,Jam Factory,Up Beat,Oval Tune,Hyper MIDI,HookUp!,Cybernetic Composer,Band In A Box,MiBAC,Master TrackPro5,Performer,Vision,Alchemy,Sound Designer等その時々によって使い分けています。
あと、各メーカーさんと代理店の方から、録音時には色々機材をお借りしています。

 


15.部屋の間取りを教えてください。

ワンルーム・マンション1室(8畳)が、専用スタジオとなっています。

16.愛聴盤、愛読書をあげてください。

愛聴盤:

ツトム・ヤマシタ/「火」
ツトム・ヤマシタ/「太陽の儀礼 Vol.2 サヌカイトの幻想」
アル・ステュワート/「追憶の館」
エルドン/「Stand By」
リシャール・ヴィマル/「Migrations」
フランソワーズ・アルディ/「私小説」
フランソワーズ・アルディ/「時の旅人たちへ」

愛読書:

コリン・ウィルソン「賢者の石」
ラヴクラフトの著作、色々。


17.主な休日の過ごし方を教えて下さい。

なるべく、子供と過ごす様にしています。

18.これから宅録を始めようと思う人に何かアドバイスを。

録音方法や機材の事は、専門誌を参照してもらうとして、自主テープ販売とかCDの制作を考えている方に限定したアドバイスとしては、何を作品の中に現したいのか、まず明確なヴィジョンを持ってもらいたいという事です。それはパッケージや流通も踏まえた事になると思います。
それ以外の、とにかく自宅録音がしたいんや、という方へは、結婚する迄に機材を揃えてね。とアドバイスしときます。
この間、編集部の中の雑談で出ていた事ですが、大学卒業と同時に音楽も卒業して止めたという話がありました。本当に音楽が好きなら音楽活動も止めないで欲しい。音楽は自己表現の一部です。卒業するという区切りはありません!!
それから、この雑誌に連載している、私の記事、INFORTECTUREも是非読んで下さい。何かの参考になると思います。


19.あなたにとってライバルはだれですか?

HELDONのリシャール・ピナスかな?

20.将来の夢を熱く語って下さい。

私のグループ、HERETIC(ヘレティック)は、最新の技術、コンセプトを一早く作品の中に取り入れる様にしたコンセプト・プロジェクトですが、通常の音楽CDだけの作品発表だけはしたく無いと思っています。例えば昨年と今年発表のCDには、CD-ROM付きで、映像やホーム・ページがパソコンから見れる様にしました。並びに音楽というか音響処理として、立体音響処理が施されています。
よって、将来については、最新の機材やインフラに依存する部分が多々あると思いますが、色々と新しい作品発表の形を模索したいと考えていきたいと考えています。
次の作品は多分、或るソフトウェアのコンピュータ・データという形でイギリスから出ると思います。それはあくまでも音楽のシード(種)であって、完成形ではありません。一種のサウンド・インスターレーションとなるでしょう。
こういった、コンセプチャルな打ち合わせをマネージャーのイギリス人や関連ソフト・ハウスの人達とe-mailで頻繁に行なっています。今迄なら、考えられなかった人との出会いも、インターネットのお陰で、実現し色々と面白いアイデアが出ています。
音楽に対する情熱も大事なんですが、こういった交流関係も私は大事にしていきたいと思っています。CDのライナーに書いた事ですが、粗造乱造するよりは、寡作でも良いから、クォリティーの高いものを出したい、と思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

私の住まいの近くに、「小石川植物園」があり、自然をそのまま保護している、広大な場所です。私は毎朝ここを散歩しています。
この三日間、この植物園で「Sounding Garden of Koishikawa~小さな音を聴く」というイベントがありました。
10名のアーティストがインスターレーションとして、音を出しているのですが、野口桃江(のぐちももえ)さんだけが、音の垂れ流しではなく、銀杏の木の前にオルガンを置いて、ご自由に弾いて下さい、という体験型のインスターレーションを展開していました。
初日は、気になっただけで、通り過ぎただけだったのですが、余りにも気になったので、二日目に、彼女に話しかけて、色々とお話を伺いました。
彼女のサイトの経歴と音を視聴して、びっくりしました。筋金入りの現代音楽家です。
https://www.momokonoguchi.com/CVによると、

桐朋学園大学音楽学部 作曲理論学科研究科修了
フランス リヨン国立高等音楽院 電子音響, エンジニアリング, オーケストレーションクラス修了

オランダ ハーグ王立音楽院/王立アカデミーオブアート ArtScience学科卒業 / 音楽修士

作品のテーマも、電子音楽の作曲、即興演奏、センサーを使ったパフォーマンス、光と霧のインスタレーションの制作などの創作と、多岐に渡っています。

そんな彼女の背景と音楽を知った上で、三日目の(9/3)に、彼女がこのオルガンで弾く即興演奏を、間近で楽しませてもらいました。
「鳥の声、蝉の声、風の音と一緒に演奏したい」という彼女の演奏を聴きながら思ったのは、

ホールでのピアノの即興演奏
教会でのパイプ・オルガンの即興演奏
今回の植物園でのの即興演奏


が一つになったCDがあったなら、

キース・ジャレットの「ソロ・コンサート」とか「ブレーメン・コンサート」の感動が蘇るのかな、と勝手に想像しました。
ECMレーベルから彼女の作品が出てもおかしくないと思います。

又、即興演奏の録音に関わり、尋常ではない音質へのこだわりを感じました。
彼女が使っているスピーカーがB&Wと知り、納得したのと同時に、より親近感が増しました。
(このイギリス製のB&Wの音については、「音」とは? (B&W、マスタリング)をご参照下さい。)
 

追記 : 森のオルガンができるまで 1ーグリーフの会

 

 

 

 

 

 

又、彼女や、今回の植物園のイベントとは関係ありませんが、私の作品のいくつかのトレーラー・ビデオには、この植物園で撮影しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

World DTM Extra (5) / コンピューターミュージックマガジン(電波新聞社)
1997年4月号のインタビュー記事です


世界中のコンピューターミュージックにまつわる面白そうなものを無責任にご紹介するこのコーナー。今回は日本を拠点に世界的にも活躍するプログレッシヴ・ロック・グループ「HERETIC」のCD-ROMアルバムを紹介しよう。これがまた実に要チェックな内容なのだ。

■弥生時代のコンピューターミュージック?


さて、HERETICとは京都在住の河原博文氏が主宰するプログレッシヴロックのユニットなのだが、昨年末に発表したアルバム「弥生幻想」はパソコン用のデータを併せて収録したエンハンスドCDとしても注目の作品だ。今さらこうしたデータ付きのCDは珍しくもなんともないのだが、このアルバムには様々なMIDI関連のソフトやデータが大量に収録されているのだ。
本誌読者にはおなじみのSinger Song WriterやKoan Pro等のデモ版に始まり、何とカモンミュージックがこのアルバムのために特別に制作したというMIDIプレイヤーまで入っているではないですか!更にあのカメオインタラクティブのホームページが全て(約100MB!!)入っているということで、我々コンピュータミュージックマニアとしては無視できない存在であることは間違いない。
もちろんHERETIC自身のホームページやビデオ画像、プロフィール等も入っているし、更にはMIDIデータ(半端な量じゃないョ)やシンセのパッチデータも収録しているというまさに我々が待ち望んだ形態でのCD-ROMであるといえる。肝心の音楽については、タイトルからイメージされるように日本的なイメージを持った作品で、とても聴きやすい。私は評論家ではないので、その辺は専門誌にまかせるとしよう。

その弥生幻想から半年も経たずにリリースされるアルバム「Drugging for M」もまた強烈だ。前作ではWindowsのみであったCD-ROM部がハイブリッドになり、Macでも楽しめるようになった(データ部分約350MB!!)。そしてMacintosh用の名作カルトソフトMやJam Factoryも駆使したというその作品はまさにコンピュータミュージシャン必聴の1枚だ。ちなみに「Drugging for M」は3月25日に発売予定なので、興味があれば前作と併せてレコード店に買いに行こう。多分パソコンショップでは売ってないぞ。
というわけで今回このHERETICのリーダーである河原氏にお話しを伺ったので、以下のインタビュー記事をご覧あれ。
                                 

-早速ですが、使用している主なソフトやコンピューターについて教えていただけますか?

K: 作曲には主にPC 9801 VM2とMacintosh Plusを使用しています。
またMacintoshPerforma 588やEPSON VA516Vをビデオ・キャプチャー、CD-ROMオーサリング、HTMLデバッグ等に使用しています。
ソフトウエアはCome On Music RCM-PC98並びに、M,MAX,Music Mouse,Jam Factory,Up Beat,Oval Tune,Hyper MIDI,HookUp!,Cybernetic Composer,Band In A Box,MiBAC,Master TrackPro5,Performer,Vision,Alchemy,Sound Designer等、その時々によって使い分けています。


-非常にたくさんのソフトを使っていますね。珍しいソフトも多いようですが?

K: 私は作曲支援のツールとして、MIDIソフトウェアの調査を行います。少なく共、Mac上に於いては、世の中に出たソフトウェアで入手可能なものは全てチェックする様にしています

-それはすごいですね。

K: ある程度使ってくると、そのソフトがどんな事が出来るかが判って来ます。で、私の頭の中で描くイメージのパートの実現にどのソフトが相応しいかを決めて行きます。やはり、最終的な作品の完成度が一番大事な訳で、その過程で、作業を迅速に手助けしてくれるソフトウェアを私は高く評価しています。具体的には、動作の軽いソフトウェア、MacだとMとかMaster Track Proなんかがその部類に入ると思います。

-Mのようなソフトはどのように使われるのですか?

K: 今回の「Drugging for M」全編で、M による、即興演奏を行なっています。 M の作者のDavid Zicarelli氏の御好意により、M のデモ版と今回使ったデータもCD-ROMに収録されています。
また彼の別のプログラム、JAM FACTORY を使った即興演奏も行っており、こちらはデータのみこのCD-ROMに収録しています。日本では、余りJAM FACTORY を使っている話を聞きませんが、このソフトは、アナログ・シーケンサー的な使い方が出来るので、ソフトウェアで、アナログ・シーケンサー的なコントロールを考えている人には、必需品になると思います。実は弥生幻想でもこれらのソフトをいたる所で、使っているんですよ


-今のお話しにもあったようにMIDIソフトのデモ版やMIDIデータ等が本当にたくさん収録されていますね。

K: 私のグループ、HERETIC(ヘレティック)は、最新の技術、コンセプトを一早く作品の中に取り入れる様にしたコンセプト・プロジェクトですが、通常の音楽CDだけの作品発表だけはしたく無いと思っています。例えば今度の二枚のCDには、CD-ROM付きで、映像やホーム・ページがパソコンから見れる様にしました。並びに音楽というか音響処理として、立体音響処理が施されています。テルミンも使っています。
CD-ROMには、HERETICのホーム・ページやライヴ の模様をコンピュータ・グラフィックの映像とシンクロさせて制作したQuick Time Movie等の他、Koarn Proのデモ版も収録していますし、100MB位あるカメオ・インタラクティヴさんのホーム・ページ を全て収録しました。
私が愛用している、カモン・レコンポーザ は、Windows用のデモ・ソフトが無かった為、特別にデータ再生ソフトを作ってもらいました。こんな感じで、プログレッシヴ・ロック、MIDIを主体とした仮想インターネット見本市になったかと思います。ムービーについては、TV信号の違う欧州でも見られるというメリットがありますね。


-確かにとても充実した内容だと思います。また使用している機材のパッチデータを収録しているのも面白いですね。

K: そうですね。SysExフォーマットで収録しました。私自身のデータ・バックアップの意味もあります。(笑) 私のシンセサイザーの音色データを聞いた時、多分このシンセサイザーがこんな(変な)音を出せるのかと、驚かれる事でしょう。特にKorg M3Rは私のお気に入りのシンセサイザーで、変な音が目一杯入っています。 世間では比較的、評価の低いシンセサイザーも結構使っていますが、結局他人の評価なんかどうでも良い訳で、自分がその装置を気に入って使っているかが大事な事でしょう。そういう意味では、私自身、新しいテクノロジーというか、製品に対しては、雑誌等の評価は信用していません。やはり、自分で全てチェックして自分で判断しています。そういう意味では、私の付き合いのある楽器屋さんには結構、迷惑を掛けています。仕入れるだけ仕入れさせて、購入をパスしたものが結構ありますから...。

-それでは最後に何かメッセージはありますか?

K: はい、そうですね。よく雑誌で、このシーケンサー・ソフトのバージョン・アップでこんな機能が付いたという記事を読むと、自分にとっても絶対に必要なものと錯覚してしまいますよね。
結局、自分が使いこなす訳だから、自分のやりたい事をしっかり把握して、色んなソフトのデモを評価して見極めていかないと、使いこなすんじゃなくてソフトウェアに使われてしまう様な気がします。これは、ソフトだけの話では無く、例えばシンセサイザー音源についても同様で、如何にその装置・技術・情報を活用するかだと思います。結果的に中古で売るような物の買い方は止めて欲しい。人の意見は参考であって決めるのは本人です。この考え方は、その人の音楽そのものにも反映すると思います。
人の話はどうだっていいんです。要は自分がどうなんだという事。まぁ、異論はあるでしょうが、これが私のテクノロジーに対する接し方・考え方です。
あと、色んな意味で日本だけでは無く、海外の動きを看ると何か面白いものが見える様に思います。折角、インターネットという便利なツールがあるんだから。


-このコーナーにピッタリの締めでまとめていただき、ありがとうございます。

......と、いうわけで大変興味深いお話しだったと思うのですが、いかがでしょうか?
ところでこのインタビューでは作品の音楽的な内容についてなにも聞いていないということにあとで気付き大変反省しております。河原さん、スイマセン!!

♪河原博文プロフィール:

京都のプログレッシヴ・ロック・グループ、HERETIC(ヘレティック)のリーダー。
1979年から、現在迄に、3枚のLPと3枚のCDを発表しています。元々は、ギタリストですが、約20年前のアナログ・シンセ黎明期から、数多くのシンセサイザーを経験、現在は、アナログ、デジタル、サンプラーを適宜使い分けています。
コンピュータは、長年使い馴れたカモン(PC98)がメインのシーケンサーで、Macは、作曲支援として使用。京都の桂に個人スタジオを所有。現在、Macを使ったハードディスク・レコーディングのセット・アップを計画中。

HERETICのCDはマーキー/ベル・アンティーク から出ています。

"1984-88/HERETIC "(Belle Antique9457)
"弥生幻想/HERETIC "(Belle Antique96302)
"Drugging For M/HERETIC "(Belle Antique97350)