https://powerofprog.com/heretic-hiro-kawahara-complete-works-cuneiform/
COMPLETE WORKS – CUNEIFORM by Kev Rowland (Power Of Prog)| Jan 14, 2024
 

河原博文は日本の実験的な音楽家で、30年以上に渡って個人名または「Heretic」名義で作品をリリースし続けています。 Hereticとしてのバンド構成の時もあれば、河原とゲストだったり、彼一人の作品だったりしますが、(特に)HeldonやTangerine Dreamなどから常に影響を受け、日本の「和」も感じさせる作風でした。和洋の対比を上手く消化させる努力が感じられます。
この全集はアルバム順にまとめられていますが、その多くにはボーナス・トラックが追加されて、全62曲あり、トータルの時間は13 時間 36 分もあります。私はレビューの為に、この全集とは何かを理解する為、2 回通して聴きました。

この全集の音楽は、集中せずに聴いたり、BGMとして聴くと、理解出来る音楽ではありません。集中して聴かない人には、理解出来ず、敬遠してしまう音楽となるでしょう。
しかし、彼の音楽を真剣に聴く為に、その為だけに時間をかける人のみが気付きますが、その人のみ、色んな事を発見し、楽しむことができるでしょう。 
つまり、河原の音楽は、リラックスさせる為の所謂「ニューエージ・ミュージック」ではなく、聴く人に、真剣に努力して働く事を要求しています。
全ての芸術が簡単に理解出来るわけではなく、時にはその人の理解しようとする努力により、最大の感動体験を得られる事もあるという事です。
彼の音楽は、良質のスピーカーかヘッドフォンで、(極力大きな音で)再生し、注意深く聴く必要がある音楽です。

サウンドは、総じてシャープなのと、不安感を感じさせる音なので、微妙な表現ニュアンスを聴き逃す可能性があります。
聴き所は沢山あるのですが、トータル時間が長いで、特定の曲だけをかいつまんで聴いていたなら、私は決して河原の作り出す世界に入り込むことは出来ず、彼の作品をこれほど高く評価することは出来なかったと確信しています。
リリース元のCuneiform Recordsから「全集」として購入することは可能ですが、個別のアルバムも同様に入手出来るようにしてくれたので、個別の作品から、河原の音楽を理解しやすくしてくれています。
しかし、全集がわずか$75であることを考えると、このスタイルの音楽に興味がある人なら、全集を入手すべきです。コストパフォーマンスが最高であるだけでなく、間違いなく河原博文の音楽を理解する最良の方法となるからです。

聴く人を選びますが、Cuneiform Recordsのブランド・カラーが好きな人には必聴の作品の一つです。

(訳注)Kev RowlandはThe Progressive Undergroundシリーズの単行本を執筆したイギリスの音楽評論家で、progarchives.com の特別協力者です。私の意図した事を正しく理解してくれています!

 


http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-hiro-kawahara-complete-works-3.html

Heretic / Hiro Kawahara - Complete Works
(Cuneiform Rune 3382, 2023, DL) by Peter Thelen (アメリカのExpose誌)

日本のプログレッシブ・ロック・シーンの中で、明らかになっていないグループ中に、オシリス、アストラル テンペル、ヘレティックといった河原博文のバンドやプロジェクトが含まれています。
タイミングの問題もあり、シンフォニック・プログレッシブ・ロックやアヴァン・プログレッシヴ・ロックなどといった特定のジャンルが定義される以前の活動であった事も災いしています。
河原のグループはどれも日本国内外で有名になったわけではありませんが、アーチー・パターソン(ユーロック・マガジン)が、彼の音楽を全世界に広めるべく尽力を尽くしました。しかしその努力にも関わらず、河原のプロジェクトの知名度が認知されるのは、更に後になってからです。

今回、44年間の音楽活動を経て、河原博文のこれまでの全作品が『Heretic / Hiro Kawahara - Complete Works』として全9作品を纏め、アメリカのレーベル、Cuneiform Recordsよりデジタル・リリースされました。
これをCDの9作品を纏めたデジタル版のボックス・セットと単純に考えないで下さい。数作品は過去に日本やアメリカからリリースされたLPやCDですが、今回のボリュームは、ボーナス・トラックも含めて、CDの物理メディアの容量制限をはるかに超える(13 時間半以上)音楽が用意されました。9つの作品はそれぞれ個別に購入することもできます。

このセットの最初のコンポーネントとして、ヘレティックの1stアルバム「インターフェイス」が収録されています。当初は数百枚の自主制作LPとしてリリースされました。メインのInterfaceは35分近くあり、LPではA面全てとB面の前半に跨っていましたが、ここでは2つのパートが一つに纏められています。
タイトルからHeldonを連想させるとしたら、それはおそらく意図的なものでしょう。エレクトロニクス、シンセサイザー、ギター、打楽器の音が全て溶け込んでいます。すべての演奏は太田亨と河原博文によって演奏され、チェロの森山卓郎とオルガンとシンセサイザーのゲスト奏者が要所要所で参加しています。
時折フランスのHeldonを想起させますが、時にはシンフォニックな雰囲気に景色が変わります。
大胆なメロディック表現と強い実験的傾向が組み合わさってアクセントとなっています。
この作品では、非常に異なるパートを適宜挿入して、それぞれが独自の雰囲気と音楽性をミックスさせています。
一部ではサンプリングされた珍しいサウンドが使用されており、荒々しい部分、美しい部分、完全に混沌とした部分、それらの情景が行き交う音楽性を有しています。
オリジナルLPでは、B面最後にあった約12分間の「月影」で締め括られており、メロディックなチェロと女性のささやき声(ゲストの幸亜希子)の音が漂うような音としてミックスされ、様々な点でより暗くダークな雰囲気を醸し出しています。
ボーナス・トラックには、「Interface」の 2 つのバージョンが含まれています。「シンフォニック・バージョン」(13分)と、1984年8月24日の「リハーサル・バージョン」(12分)です。
オリジナルのセピア調のジャケット・カバーは、今回、同じ画像で色味がピンクに変更されています。

1988年にリリースされた2nd LPは、元々は日本のBelle Antiqueレーベルからリリースされた「Escape Sequence」です。 ここにはメンバーが増えました。1stの太田、河原、森山に加えて、ロビン・ロイドがいくつかの曲でドラムとシンセ・ベースを演奏しており、浦沢美奈子(ヴォイス)が3つのトラックで参加しています。
さらに、数多くのゲストも参加していて、Ain SophからはYozoxが1曲でギター、富家大器が他の2曲でドラムとエレクトリック・パーカッションを担当しています。その他、名古屋のバンド、Anonymousから2人のメンバーが、「Anonymous」というタイトル曲で参加しており、他にも数名がゲスト参加しています。
「Escape Sequence」 の目玉は、何と言ってもLPのA面全体を占めていた、(22分近い)3部構成の大作「Do Heretick」です。 冒頭の「Create」パートでは、ギター、シンセサイザー、打楽器がメインですが、曲が進行するにつれて聴こえてくる様々な効果音をミックスした、相当実験的な要素が加味されています。 パート2の「Modify Structure」では、急速にテンポ・アップしていくシーケンス・サウンドが荒れ狂うパートで、最終的にはワイルドなギター・ソロによって彩られた別の実験的ファンタジーへと展開、ホルストの「火星」のようなスタイルの最後のパート「Quit」に繋がります。 Robert Frippのようなギターを中心に、ヴォイスや様々な電子音が入り混じり合った混沌とした状態の行進がイメージされます。
次の曲「Fail Safe Error」はリミックス・バージョンとなっていて、オリジナルよりも数分短い(1964年の冷戦スリラー映画『未知への飛行』、ヘンリー・フォンダ主演)の会話は含まれていませんが、迫力は損なわれておらず、激しく叫ぶようなギター・プレイにすべての要素が盛り込まれています。
わずか 4 分で切り替わる前述の「Anonymous」は、ダークでムーディーなKing Crimsonのような曲です。バックグラウンドで、神秘的な呟くような歌と、パンチの効いたギター・ソロを伴って次のジャンキーなエレクトロニック・リズム曲である「Tripping on Waves」に続きます。(Ain SophのYozoxがギター担当)。そして、美しく優しい「m-a-f-o-r-o-b-a」へと繋がります。
今回のリリースでは「Do Heretick」の 3 つの別バージョンがボーナス・トラックとして収録されています。1987年10月の「サウンド・アイデア」(5分)、その1週間後の富家大器との「Do Heretick Session」、そして1985年の約39分続く「Do Heretic」オリジナル・バージョンです。

次はライヴ・アルバムについて。この「Heretic - Live」は、これまで未発表だった(形式を問わず)ライブ録音が2時間以上収録されています! '85年・京都と'88年東京のライヴで、他のアルバム同様に2022年にリマスターされています。 
1曲目は1985年11月4日、京都の立命館大学でのライヴ。曲名は明記されていませんが、エレキ・ギター、エレクトリック・ヴァイオリン、ギター・シンセサイザー、シンセサイザーを使った発展途上の「Do Heretick」が即興演奏も交えて展開する66分間の演奏です。
エレキ・ギター、エレクトロニック・パーカッションを太田亨が、アコースティック・パーカッションをロビン・ロイドが担当。 この曲の元々の録音は、ビデオに記録されたモノラル音声だったそうですが、河原が最新のツールを使用してステレオ化およびリマスタリングしました。
'88東京ライヴでの2曲は、3月13日の42分間のリハーサルと、3月19日、目黒ライブステーションで収録された28分間のライヴの模様を記録しています。メンバーは河原、太田、ロビン・ロイド、ベースはChihiro S (Lacrymosa)です。 竹内一弥(Anonymous)がサンプラーとエレキギターで参加しています。
こちらもゆっくりと発展していく即興演奏であり、進行するにつれてさまざまな様相を呈し、次第に音楽の形が作られていく手法を取っています。

次に、最初のCDとなったのは、初期の二作品のLPからのコンピレーションCD「Heretic - 1984-88」です。 「Escape Sequence」の「Do Heretick」は別のリマスター・バージョン (サウンドはかなり異なります)となっています。「Fail Safe Error」も2ndとは違う音質になっていますが、緊張感が少し弱い印象を受けました。
その他の「Escape Sequence」の曲もリマスター・バージョンが異なるため、音質が異なります。 
「Interface」からは2 つの短い抜粋(パート1の6分半とパート2 からの8分)と、「月影」(7分)が収められています。これらも音質が全く異なるリマスター処理をしています。
「Resource」は、前述の1988年の東京公演の翌日の9分間のジャム・セッションです。トリオ編成が中心となり、ドラマーの竹迫一郎とベースのChihiro S.をフィーチャーしています。ツイン・ドラムが強力なフリーフォームなグルーヴ感を生み出しています。
我々Expose誌は、このHereticのコンピレーションCDを最初に注目した経緯があり、この素晴らしいCDのレビュー用に沢山の紙面を費やしました。当時の3件のレビューは、現在オンラインで読むことができます。
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-1984-88-7.html
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-1984-88-6.html
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-1984-88-3.html
今回のリリースでは、2曲のボーナス・トラックが追加されています。1つは「Interface Part 2」からの抜粋ですが、2008年のコンピレーション・アルバム用にマスタリングされた別バージョンです。もう1曲は河原一人の演奏による「変奏曲パート1-3」(8分)という未発表曲です。
オリジナルのジャケット・カバーは、アメリカの著作権保護法に抵触する可能性から、急遽、当時愛用していた、赤い特注のストラトキャスターと、各種アナログ・シンセサイザーの写真に変更されています。

1996年、河原は次の2つのHereticリリースとなる予定の2曲のデモ作品を関係者のみに限定リリースしました。「Past in Future」です。披露された曲は全て河原一人の演奏であり、Hereticというグループとしてはまだ具体化されてない興味深いデモ作品です。
ここでは、次に正式リリースされる2 つの作品「弥生幻想」と「Drugging For M」がどのように発展していくのか明確な違いが発見出来て、興味深い作品となっています。
アンビエント路線、もう 1 つはHeldonのような本格的なエレクトロニック・ロック路線で、どちらの作品もそれぞれ約35分で構成されています。
本作について、過去にExpose誌の印刷版第10号でレビューしました。
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-past-in-future-3.html
今回、更にボーナス・トラックが1曲追加され、16分に及ぶ「In The Mist of Time (For Peter Frohmader)」が追加されています。河原はフローマダーのベースとシンセサイザーの演奏をバックにオーバーダビングとリミックス加工をしています。

Hereticのメンバーが参加した完全版『弥生幻想』は 1996 年後半に、Bell Antiqueレーベルより発表されました。この一連の美しいアンビエントで実験的な音楽は、ある時には日本の伝統的な強い影響を特徴としていて、後半では尺八の音や不思議なコーラスの音が使われていたりと、変化に富んだ音のタペストリーとなっています。
1 つのテーマが提示されて展開していくと、すべてが突然変化して、まったく別のテーマが次に続きます。喩えるとドアを通過する度に唐草模様の装飾が異なっていて、以前の模様とは全く異なるデザインに気付かされるような展開でしょうか? 
各テーマはそれぞれ1~2分しか続きません。
この作品の最終段階で、Expose誌 は作業の進捗状況や、それ以前の他の作品や将来の予定について、当時アメリカ、西海岸のサンノゼでインタビューしました。
http://expose.org/index.php/articles/display/osiris-is-dead-long-live-heretic-the-heretic-interview-1997.html
CDにインデックス・データは打ち込まれていません。つまり一曲全て(36分半)を全体として聴くことを意図しています。おそらくこの全集コレクションの中で、Hereticの最も強力な楽曲だと思われます。
当時、CDがリリースされた直後に、弊社のヘンリー・シュナイダーがCDをレビューしました。
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-yayoi-dream-6.html
ここでのボーナス・トラックとしては、わずか1分ですが、河原のソロ演奏による「For Peter Frohmader」が収録されています。昨年突然死したドイツのPeter Frohmaderへの追悼と「弥生幻想」を引き立てるアンビエント作品として追加されています。

『弥生幻想』発表から1年も経たない内に『Drugging for M』が同じくBelle Antiqueレーベルよりリリースされました。前作同様、この作品も一曲で34分という長い作品ですが、脈動するエレクトロニクスとグルーヴを感じさせるドライブ感があり、前作とは、全く異なる音楽性を志向しています。
しかも、曲の進行に合わせて様々な変化を見せています。静謐な部分の多くはKing Crimson的な視点に非常に近いと思います。もう一つの違いはメンバーにあります。太田亨は参加していません。しかし、ロビン・ロイドがエレクトリック・パーカッションを担当し、河原がエレクトリック・ギター、シンセサイザー、テルミン、サンプラー、エレクトロニクスを担当しています。 更にチャップマン・スティックの石井氏とエレクトリック・ギターの野田氏がゲスト参加しています。
Expose誌14号の発売直後、本誌は、この作品に関して、三人でクロス・レビューを実施しました。この三つのレビューは、三者の異なる考えを知る事が出来るので、今でも読む価値があります。
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-drugging-for-m-1.html
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-drugging-for-m-2.html
http://expose.org/index.php/articles/display/heretic-drugging-for-m-3.html
尚、このリマスター・バージョンのボーナス・トラックとしては、「TD-7 with Robbin Lloyd」が含まれています。これは非常にビートの利いたHeldon風のエレクトロニックな作風です。わずか3分弱ですが、それでも聴く価値のある曲です。

1998年、河原はドイツの音楽家/画家であるPeter Frohmaderが用意した数曲を遠距離コラボレーションすることに着手しました。
当時河原は京都に住んでいて、Frohmaderから曲を受け取ると、京都の個人スタジオで自分のパートをオーバーダビングしていましたが、東京に引っ越した後、彼の仕事が忙しくなり、その後、結局実質的に引退することになりました。つまり1999年から2022年迄、河原は音業界から完全に離れていた事になります。
多重録音された録音データは長年、河原の手元に残されていましたが、昨年(2022年)Frohmaderの死を知り、これらの録音を公開すべく、彼はアメリカのCuneiform Recordsに連絡を取り、Frohmaderとの1998年のコラボレーション作品だけでなく、ヘレティック、オシリス、アストラル・テンペルの曲を網羅した河原博文のほぼ全ての楽曲公開に話が進みました。
Peterとのコラボレーション曲には、「The Earth」と「Sphinx Touch」という2つの長尺曲と、2つの短い曲「Virtual Nature」と「9-13」が含まれています。こちらはどちらも6~7分の曲です。
さらに、河原は自身のリミックス作品「In the Mist of Time」(Past in Futureにも収録されたリミックス曲で、Frohmaderのベース・パートが利用されています)を3D(立体音響)処理して収録しています。
全体を通して、Peter Frohmaderはベースとシンセサイザーを演奏し、河原はエレキ・ギター、シンセサイザー、サンプリングされた音(声など)、および3D処理を担当しました。 クレジットとしてはありませんが、メロトロン・サウンドが「Sphinx Touch」全体に聴けて、「Past In Future」、「Drugging For M」でも聞くことが出来ます。
サウンドは両アーティストを知っている人なら期待を裏切らない音楽となっていて、Frohmaderは暗く物思いに耽るイメージと躍動感のあるベース・サウンドを聴かせます。一方河原はエクスペリメンタルな雰囲気を醸し出すSEとギターを演奏しています。これらのサウンドが融合して、強力な化学反応を起こしています。
特に「The Earth」は広大なイメージを想起し、夢のような空間を創出しています。曲が進行するにつれて明確な区切りが存在します。 

「レクイエム」: 亡くなった人達を弔うミサです。
まず、死者とは誰かというと、Hereticの音楽そのものを意味しています。河原は2010年当時には、復帰する可能性があったとしても、すぐには復帰する事はないだろうと分っていました。
しかし、彼の音楽の遍歴の中で、これまで広く世間に公開されたことがありませんが、聴く価値が充分ある音楽がまだまだ沢山ありました。
このCDのプロデューサーであったArchie Patterson (Eurockレーベルの主催者であり、河原とは1980年から友人関係が今も続いています。)の提案で、基本コンセプトとしては、過去の多くの曲を集め、河原自身による選曲で「最後のCD」として発表することでした。
Eurockからリリースされた2010 年当時のCDでは、8曲しか収録されておらず、そのほとんどは以前にリリースされた曲の別バージョンまたは編集バージョンでした。
この中には、2000年にEurockからリリースされたCD-ROM、「The Golden Age」のオーディオ・パートに収録されていた曲も全曲再収録されています。
今回のリマスター・バージョンでは、曲数は22曲まで増え、追加トラックのほとんどが1980年代初頭のヘレティック以前の曲が追加されています。
オシリスは本質的には1980年からの河原のソロ、時にはゲストも参加しています。
アストラル・テンペルは、ドラム、ベース、河原(ギター)によるトリオ・プロジェクトであり、1980年末から82年まで存在しました。
オシリスのほとんどの曲は、オシリスのLP『In the Mist of Time』とカセット作品から採用され、アストラル・テンペルの曲は当時のカセット作品から収録されました。
2010年の『レクイエム』CDの曲順は、今回のデジタル・リリースとは大きく異なっており、1999年に河原がソロで録音した広大な20分間の「Spiral」で幕を開けます。Robert Fripp然とした飛翔するようなギター・サウンドと数多くの興味深い実験的なパートが聴ける強力なアンビエント・サウンドです。
続く「Drugging for M」と「弥生幻想」の各抜粋バージョンはそれぞれ5分と4分の短さで、おそらくラジオ局向けの編集にしたのだと思います。
「変奏曲パート3」は、1987 年の短くて明るくメロディックな河原のソロ演奏ですが、昨年亡くなったVangelisの作品を思い出させます。
さらにHereticの作品が2曲続きます。1984年の「Interface」編集バージョン(30分近い長さ)と 1984年の「月影」の別バージョンが続きます。
これに続くのはオシリスとアストラル・テンペルの16曲で、そのほとんどは1つのモチーフを提示した、時間的にかなり短い楽曲です。
曲によっては、美しくメロディアスで、時にはアンビエント、時にはより実験的で、どれもが河原の初期の作品の中で、今でも聴く価値のある抜粋として今回披露されています。
特筆すべきは、1980年12月の約20分展開したアストラル・テンペルのライブ「ゲート・トゥ・インフィニティ~ステッピン・ロール~シャドウ・イリュージョン」、それから22分に及ぶ河原一人での「月影」のオリジナル・バージョン、そして1982年に録音された9分間に及ぶインダストリアル・ミュージックのプロト・バージョンであろう「Echo Troublant(奇妙な音)」です。
これらは、追加された曲のハイライトとしては、ほんの一部に過ぎません。

更に「Complete Works」には個別の9作品を組み合わせただけではなく、2曲のボーナス・トラックが含まれています。
一つは1980年代初頭のプロジェクト、Astral Tempel の「Shadow Illusion」と 「Vista Under Light」(28分)のリミックス曲。
もう一曲が「Heretic - 1984-1988 Sequence」(22 分)というリミックス曲が追加されています。
「Complete Works」には、62曲収録されています。曲数としてはそれほど多くないように思えますが、その多くの音楽は、壮大な長さとなっています。
特に過去にリリースされた作品の多くを聴いていないリスナーにとっては、河原の音楽は発見の旅であり、最新のマスタリングによって、彼の作品はさらに強力に仕上がっています。




https://www.dimensions-in-sound-and-space.com/post/heretic-complete-works-1984-2023
Philip Jackson (フランスAcid Dragon誌)
HERETIC - COMPLETE WORKS (1984-2023)

『Complete Works』は全62曲、合計13時間36分27秒。 

Heretic(ヘレティック)は、京都で活動していたシンセサイザー/キーボード/ギター奏者、河原博文のグループです。1970年代にクラシック音楽の解釈で多くのレコードを売り上げた有名なシンセサイザー奏者の先駆者、富田勲(1932年~2016年)とは異なり、河原はより抽象的な手法を取り、独創的なエレクトリック・ギタリスト奏者の太田亨(彼はシンセサイザー、エレクトリック・パーカッションも担当)と森山卓郎(チェロ)の三人編成で活動を開始しました。

「Interface」1985年に、「テープエフェクト」と「サウンド・スケープ」を従来の作曲技法に組み合わせた34分以上の作品(「Interface Part1&2」)を収録したLPを自主リリースしました。
太田のギター・サウンドは非常にマイク・オールドフィールドに似ています。 河原のギターは1974年期のRobert Frippに似ています。
音楽は非常に独創的で、多くの点で魅力的ですが、唯一残念だったのは機械的なドラムマシンの音でした。
2番目の「月影」は、時間的にはかなり短く、チェロとギターがミニマルな雰囲気のシンセサイザーのバッキングでソロ・ラインを取っています。背景音には囁くような女性の声としずくの音が聴こえ、大変不気味に聴こえました。
ボーナス・トラックとしては、「Interface」のシンフォニック・バージョンとリハーサル・バージョンが含まれています。

「Escape Sequence」(1988) では、河原はエレクトリック・ギター、シンセサイザー、エレクトリック・ヴァイオリン、キーボードに加えて、「ノイズ」、「テープ」、「トリートメント」といったS.E.処理も担当しています。
メンバーは基本的には同じですが、他に数多くのゲストも参加しています。AIN SOPHとBELLAPHONのミュージシャンも参加しています。本物のドラムも曲によっては使われています。
「Do Heretick」では河原のコーラス+ディレイをかけたギター・サウンドのループ音をベースにした3部構成の作品で、外宇宙を非常に感じさせます。中盤は警戒感を感じさせ、最後にはオーケストラの華やかさが加わります。
「Fail Safe Error」は、核攻撃の脅威をテーマにした HOLST の「火星」を少し想起させました。この曲は、1964 年の映画「未知への飛行」の仮想サウンドトラックです。小刻みに唸るシンセサイザーのベース・ラインが使われています。ワイルドなチェロ/ヴァイオリンと、河原の荒れ狂うギター・ソロをフィチャーした、「スペース・インベーダー」タイプのシューティング・ゲームの音楽のようにエンディングは聞こえました。 河原は、一部の音楽は「キング・クリムゾンへの返答」であると述べています(フランスのプログレッシブ・エレクトロニクス・バンド、Heldonについても言及しています)。 
「Anonymous (吟遊詩人の歌)」は、名古屋のAnonymousメンバー参加し、Hereticが編曲したバージョンです。一息つける牧歌的な作品となっています。
「Tripping on Waves」はAin Sophのギタリスト、山本要三が作曲し、ギターでも参加した曲。
ボーナス・トラックとして「Do Heretick」のオリジナル・バージョンや、Ain Sophのドラマー、富家大器が参加したセッションも含まれています。

「1984-88」には1stLPからの抜粋と2nd LPの異なるリマスター・サウンドで収録されています。 

「Past In Future」(1996) はアルバムとしては2枚分の作品を収録した、当時限定リリースされたデモCD-Rです。
名曲「弥生幻想」のデモ演奏と「ドラッギング・フォー・M」のスタジオ・ライヴは大変興味深いです。
「弥生幻想」は、コンピューターから多数のMIDI音源、サンプラーを同期演奏させて、DATレコーダーに直接録音した注目すべき作品です。
(機械的ではなく有機的な音楽性に気をつかっています)、調律された打楽器、ゴング、ブズーキの音も聴けます。(特に「弥生幻想」終盤で聴けるシーケンス・サウンドは素晴らしい!)。
アメリカのExpose誌でPeter Thelenは、Richard Pinhas (Heldon)の音楽との比較について言及しています。(www.eurock.comでのインタビューで河原も同意しています)
「夢見るようなシーケンス(繰り返し)」、「潜在意識への領域」という表現をPeterは使っていましたが、この曲を聴いていると、数多くの扉を通過して旅をしているような気分になりました!
「ドラッギング・フォー・M」のスタジオ・ライヴも同様に、MIDI演奏をバックに、

当時ポピュラーだった数多くのシンセサイザー、ギター・エフェクトを使って、河原がエレキ・ギターを弾いています。
曲想としては統一した印象があり、中盤のシンセサイザーによる「風と波」をバックに、流れるようなギター・ソロが聴けます。終盤近くでシンセ・ベースが繰り返す「リフ」に移行しますが、このエンディングは少し曲想が異なっているように感じました! (完成版のDrugging For Mと比較して下さい。)
ボーナス・トラックとしては、故Peter Frohmaderがベースを弾いている16 分のリミックス曲が収録されています。(Hiro Kawahara and Peter Frohmaderに収録された同名曲と全く同じ曲です。)

Belle Antiqueよりリリースされた「弥生幻想」(1996)ではアルバム1枚分の長さの曲が一曲だけ収録されています。(CD-ROM付きでした)
ここではその「弥生幻想」の決定的なリマスター・サウンドが聴けます。河原はシンセサイザーを、太田亨はブズーキ、ロビン・ロイドはエレクトリック・パーカッションを担当したトリオ編成です。
音楽はとても美しく(一気に通して聴くと、ある意味、一連の変化に富んだインナー・トリップが出来る音楽です!)実験的であると同時に刺激的で、かつメロディックで、河原博文/Hereticの最高傑作の一つだと思います。

「Drugging For M」 (1997) では、Hereticとしてはロビン・ロイドとのデュオ録音で1曲分のみの収録でした。(当時はこちらもCD-ROM付き) 河原はテルミンを含めたトリッキーな楽器、デバイスをふんだんに使い、エレキ・ギターも弾いています。(メロトロンも!) 当時の流行合わせて、ゲストによるチャップマン・スティック演奏も取り入れています。
こちらは「弥生幻想」とは異なる音楽性を有しており、緊張感が維持された強力な楽曲です。

「Requiem」 (2022) は、ハイライトとして、Hereticとしては最後の録音になる20分の「Spiral 1999」、22分に及ぶOSIRIS期のオリジナル版「月影1-2」、「弥生幻想」と「Drugging for M」からの各抜粋バージョンを収録していますが、
Heretic以前の、河原の最初のワンマン・プロジェクトであったOSIRIS(1979年~1982年にカセット・テープで多数リリース)とAstral Tempelからの音楽(1981年~1982年)の曲も多数収録されています。
(ここには収録されていませんが、河原はプログレッシブ・ロック・バンドAin Sophの山本要三と結成した「Dr.Jekyll and Mr.Hyde」というバンドもありました)

OSIRIS:

Journey To New World(1979:Cassette)
A Midsummer Night's Dream(1979:Cassette)
Osiris Mythology(1979:Cassette)
Astral Temple(1980:Cassette)
Rhapsody For You(1980:Cassette)
The Restration Of Soul(1980:Cassette)
In and Out(1980:Cassette)
In The Mist Of Time(1980:LP)
El Rayo De Luna I(1981:Cassette)
El Rayo De Luna II(1981:Cassette)
A Failed Play(1982:Cassette)
Echo Troublant(1982:Cassette)

Astral Tempel:

Shadow Illusion(1981:Cassette)
Vista Under Arc Light(1982:Cassette)
100% Odd Lots Session(1982:Cassette)

Dr.Jekyll and Mr.Hyde (with Yozox Yamamoto from Ain Soph):

Dr.Jekyll and Mr.Hyde 1(1981:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 2(1982:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 3(1982:Cassette)
Dr.Jekyll and Mr.Hyde 4(1982:Cassette)

2010年にアメリカ、EurockからリリースされたCD版とは曲順が異なり、14曲が追加されています。このアルバムは3.11で被災された「失われた魂」に捧げられており、www.eurock.comではArchie Pattersonが「レクイエム」を「暗闇」から「光」が現れるための「音楽の祈り」であると適切に説明していました。

「Heretic Live」 (2023)については、未発表だったので、聴くのを楽しみにしていました。 最初のライヴは1985年11月4日に京都・立命館大学で行われたライヴです。ロビン・ロイドのアコースティック・パーカッションと尺八が順番に披露され「Do Heretick」が展開する66分の作品でした(基本的には途切れない即興演奏ですが、途中様々なインプロビゼーションが展開されていました!)
演奏が30分を超えたあたりから、太田亨がエレキギターで本格的に演奏し出しています。その後、河原はギター・シンセ、ヴァイオリン、エレキ・ギター、サンプル/ループで重要な役割を果たしています。
1988年3月19日の東京でのライブ録音は28分以上もあり、そのリハーサルもここに収録されています。(東京公演ではChihiro S.がベースを担当)

最後に、河原の長年の友人で www.eurock.comのオーナー、Archie Pattersonが河原博文について語っていますが、河原は「神秘的でスピリチュアルな影響を実験的な電子音楽と組み合わせた、新しいタイプの「禅-エレクトロニクス音楽」の初期の先駆者」だったと紹介しています。
Eurockでのインタビューでは、Jeff Beckが河原の初期のギター演奏に影響を与え、Manuel Gottsching (Ashra)、特に「Sunrain」という曲が、河原の音楽として、プログレッシヴ/エレクトロニック・ミュージックへの方向性に大きな影響を与えたことを明らかにしています。
 

https://www.dprp.net/reviews/2023/076#complete-works-01-heretic-1985
https://www.dprp.net/reviews/2023/077

Complete Works  - Martin Burns (ヨーロッパのDPRP 2023-11)

河原博文がDPRP.netに連絡してきて、再リリースされた彼の作品のレビューを依頼しました。
私、Martin Burnsが電子音楽と日本に興味があるので今回担当致しました。オリジナルのリリース年代順にアルバムをレビューしていきたいと思います。
まず、彼の簡単な略歴ですが、河原博文は、シンセサイザーの工場出荷時のプリセット・サウンドを嫌い、音の時間的変化に非常に興味を持ったギタリストです。彼はサンプリング・キーボードを研究し、デジタル・シンセサイザーや特殊なMIDIソフトウェアを使用して新しいサウンドを作成することに時間を費やしました。
しかし、彼がギターを弾いてリスナーに本当に伝えたかったのは、精神的世界への誘いでした。
彼の長年の友人で、過去Eurockレーベルを主催し、現在はDJ兼作家となっているArchie Pattersonが、「禅エレクトロニクス・ミュージック」と表現し全世界に紹介していました。
1979年から1982年まで、彼はOSIRIS名義と、平行してAstral Tempelとしても活動し、ジャーマン・ロック、特にAsh Ra Tempelとそのギタリストである(1990年代以降友人関係が続いた)Manuel Gottschingの影響を受けた音楽を制作していました。彼はまた、Jean-Michele JarreよりもMagma寄りのフランスの実験的エレクトロニック・プログレシッヴ・ロック・グループであるHeldonにも影響を受けていました。
Hereticの活動は、レコーディング期間としては15年間続き、仕事の都合(1999年に京都の嵐山の自宅から東京へ引っ越し)により、彼の音楽活動は停止しました。
そして2022年、ようやく過去の音楽作品をすべて見直す時間ができ、過去作を全て時間をかけてリマスタリングを行いました。これらの過去の全作品は今年8月に、アメリカ、ワシントンのCuneiform Recordsレーベルからデジタル配信されました。
過去作が個別に販売されていますが、全てを纏めたComplete Worksも一デジタル作品として販売されています。以下のレビューは個々のアルバムについて順番に行い、アルバム毎に評価を付けました。

Heretic - Interface
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

1980年代初頭、河原は太田亨という才能のあるギタリストと出会い、一緒に新しいグループ「Heretic」を結成した。 その後すぐに森山卓郎(チェロ)、そして2作目以降に参加するRobbin Lloyd(パーカッション)が加わり、約15年間Hereticの活動を続きました。1984年に録音された『Interface』が彼らの最初の作品となります。このリマスター版にはボーナス・トラックが2曲収録されています。
本作は、多彩な音色のシンセ、エレクトロニクス、ギターなどを集めたアルバムです。 
タイトル曲では長い曲の中に、様々なメロディーを盛り込んで展開させています。予期せぬ展開を見せる構成にしていますが、少なくとも 4 つのセクションが一曲の中で構成されています。
電子的なパルス音やSE音が圧倒的なシンセ音へと変化していき、ストリングス、エレクトリック・パーカッション、ギターがゆっくりとリズムを構築していきます。

喩えると、Zeit時代のTangerine Dreamに似た感じでしょうか。本格的なギターソロに突入する前に、爪弾かれて処理されたチェロとダーク・ウェーブシンセのアバン・セクションがあります。
このセクションの終わりは少しランダムで支離滅裂な感じがします。
アンビエントの最後のセクションは、穏やかな水滴、穏やかな雰囲気で優雅に展開するキーボードのメロディーに変わっていきます。
(アルバム・タイトルにあたる)Interfaceは、この後も続きますが、河原にはビジョンがあり、それを旧B面で追求しています。

2 曲目の「月影」は、ベース・シンセ、エフェクト処理されたギター、ロングトーンのストリングスをバックに、静謐で美しいメロディーのエレクトロニカです。その上にチェロのソロがゆっくりと雰囲気を盛り上げます。
鬱蒼とした森の中を、流れるようなギターソロが聞こえて、最後には光と流水と鳥のさえずりが現れます。 まさに気分を高揚させる「禅エレクトロニクス」です。

2 つのボーナス・トラックは聴く価値があり、アーティストが自分の作品を発表する際のバリエーションを色々ある事をここに示しています。
私はオリジナルトラックからの抜粋の方が好きです。Interface (Symphonic Version) はシンセサイザーの使用方法がシンフォニックです。
演奏中のメロディーをより力強く浮かび上がらせる光沢があり、オリジナルの第 2 セクションを素晴らしい結果で再加工しています。
Interface (Symphonic Version) はシンセサイザーの使用方法がシンフォニックの側面を強調しています。
演奏中のメロディーをより力強く浮かび上がらせるようなサウンドに仕上げていて、オリジナルでのパート2が素晴らしい効果になるようにリマスター処理しています。
1984年7月24日での『インターフェイス』リハーサル音源は、単に音源を公開しただけではありません。 
シンセサイザーのメロディー・ラインが全面に出てきて、ギターがそのメロディーを引き立たせています。
素晴らしい2曲のボーナストラックでした。
この1stは、Hereticと河原博文の作る音楽を知るには、最初に聴くべき作品です。


Heretic - Escape Sequence
4/10 : 評価として平均以下です。ある程度の価値はありますが、それほど多くの価値はありません

2ndアルバムである「Escape Sequence」にはボーナス・トラックが盛り沢山追加されていて、オリジナルLPでは43 分でしたが、さらに 1時間の音楽が追加されました。 ラインナップは1stからの三人に、ここからRobin Lloydがアコースティック・パーカッションとシンセ・ベースで参加しています。
本作の目玉は、実験的エレクトロニカである3部構成の「Do Heretick」なんですが、どの部分を取り出して聴いても、私はこの曲が好きになれませんでした。
一般論として音楽は人の心を魅了することもあれば、退屈させることもあり、気分を変えることもできます。しかしこの曲に関して、私は本能的に嫌悪感を感じたのです。これほど猛烈に嫌いになった音楽はありませんでした。 この曲を再度聴くのは厳しいです。
この曲には、Hereticの中心メンバーに加え、Ain Sophから富家大器(パーカッション)、Rose Bandの金井宏(ギター)、浦沢美奈子(ヴォイス)が参加しています。 しかし残念ながら、私にはこの広大で猥雑な音楽を理解する助けにはなりませんでした。
アバンギャルドなギターノイズ、奇妙なグルーヴ感、飛び交うテープ・コラージュ、沈黙から終盤向けての悲鳴と叫びが混ざり合った音を、時間軸で纏めている点は評価しますが、それ以上の感想はありません。(この感想は私だけの印象かもしれません。)
ボーナス曲として、「Do Heretick」の 3 つのわずかに異なるバージョンと、20分長いオリジナル・バージョンが収録されていますが、私にとっては、どれも再度聴きたい曲ではありません。
むしろ、短いトラックのほうが全体的に優れています。 「Fail Safe Error」にはきちんとしたメロディーがあり、シンセの波の音、シーケンスされたシンセ、チェロ、エレクトリック・バイオリン、そして絶妙なミックスで聴こえる池内みずゑのヴォイスと激しいギターソロでこの曲は終わります。
「Anonymous」は、素晴らしいシンセ・ソロをフィーチャーしたアコースティックな楽曲で、Hereticがシンフォニックなメロディーを演奏できることを示しています。
オリジナルLPでは、心地よいアコースティック・ピアノとコーラスによる「m-a-f-o-r-o-b-a」で終わります。
このHereticの2ndは、私にとっては二つに分けられるアルバムだと思います。LPの旧B面の方は、充分に楽しめるミニ・アルバムになると思いますが、旧A面のメイン曲を、あなたはどう評価されますか?

Heretic - 1984-88
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

Hereticの3枚目となりますが、1stと2ndとその他のいくつかのアルバムからのベスト盤として編集されています。これがHereticとしては、当時初のCDでした。
こちらのリマスター版では、全てのトラックがリマスタリングされています。 1stと2ndからの曲については、オリジナルとは微妙に異なったマスタリングとなっています。音の違いを見つけるには、よく聴き比べる必要がありますが、ここでは詳しく比較していません。総じて言うとこちらの音の印象は、よりダイナミックなサウンドとなっています。しかし、それでも私にとっては『Do Heretick』だけは魅力的にはなりませんでした。
私は、ボーナストラックと、最初の2枚のアルバムには収録されなかった1曲「Resource」をレビューしたいと思います。
「Resource」は、ジャジーなエレキギターとドラマーの竹迫一郎によるシンバル・クラッシュから始まり、すぐにドラムがシンコペーションのリズムを提供してソロ・ギターに呼応していきます。すぐにバッキング・ギターとChihiro S のベースも加わります。この奇妙なジャズ・フュージョン風セッションは、興味深く聴ける演奏です。
たとえギターが暴れまわっていても、9分という長さでも飽きさせません。
ボーナストラックの最初のトラックは2008年に出た「No SHIBUYA-Electro Dub & Breaks」に収録されていたトラックで、 1stのInterfaceを編集したものでしたが、今回のリマスター版では、2008年のオムニバス盤収録の音とは大幅に異なるバージョンで進行しますが、オリジナルの音が忠実に再現されています。私はこのバージョンが好きです。 河原の23 年以上のレコーディングとミキシングの経験が反映していると思います。
もう一曲のボーナス・トラックは、河原博文名義での17 分間の「Variation Part 1-3」が収録されています。非常に素晴らしいシンセ主体のシンフォニック・プログレ作品となっています。この曲は、VangelisとKlaus Sculzeをこよなく愛するティーンエージャーが、ディレイ加工されたピアノ、女性コーラス、ホーンのようなシンセ音などをうまく使って作曲したように聴こえます。リズムの取り方もバリエーション豊かで、小さな宝石のように輝いています。
私が思うには、Hereticを未聴の人にとって、アルバム単体として聴くなら、このコンピレーション作品を一番最初にお薦めします。
但し、「Do Heretick」 の常軌を逸した音楽には、注意を喚起したいと思います。

Heretic - Past In Future 
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

もともと本作は少数限定でリリースされたデモCD-Rだった為、Hereticのファンにとっては、今回の一連のリマスター作品の中で最も興味をそそる作品の一つに違いありません。ここに収められている3曲のリマスター版には、後に正式リリースされる予定のデモおよびスタジオでのライブ・バージョンと、ボーナス・トラックの三曲で構成されています。 これらの曲は、1990年代初頭に河原一人が全ての楽器を演奏していますが、それまでのMIDIとソフトウェアに関する彼の研究の成果が表れています。最初の2曲については、全ての音が、ミキサーからDATレコーダーに直接録音されてるので、オーバー・ダビングはありません。
作品のコンセプトとして、「過去」、「未来」、「現在」を順番に表現した作品となっています。
『弥生幻想』のデモ (1991) でアルバムが始まります。この曲は、時に耳障りに聴こえるアバンエレクトロニカで8つのパートで構成されています。一部のパート(メロディーと構成)は正式リリース版とは異なっています。各パートは比較的短いので、飽きることはありません。
大抵のコンテンポラリー・ミュージック(現代音楽)と同様、メロディーのテーマは一度使用されると、再び使用されることはありません。繰り返しがない分、このデモ曲は、かえって心地よい展開となっています。いくつかのパートでは、日本の古典的な音楽を想起させられます。
変化するテンポや折り重なったシンセの音が素晴らしいです。 (そのうちの 1 つのパートでは、シーケンサーを多用する前のTangerine Dreamを思い出させます。)
アンビエントな雰囲気が濃厚ですが、ビデオゲームのサウンドを想起させるパートの後、ブズーキの音が、晴れやかで開放感を感じるエンディングとなっています。デモとはいえ一聴の価値は十分にあります。

「Drugging for M」(1995年8月12日スタジオ・ライブ)は、河原単独でのスタジオ・ライブです。
変化するシンセサイザーのスイープ音とギター・ループをバックに、彼はギター・ソロを様々なエフェクトを使い分けて演奏し、音を変化させていきます。メロディー・ラインはゆっくりとしたペースで変化していきます。
このライヴでは、最後のパートが正式版よりも長く、より即興要素が多い演奏です。システムミュージックに見られる反復的なリズミカルがベースとなっていて、正式版と異なっています。
現時点での Hereticの最高の曲の一つと評価します。

今回、ボーナス・トラック、「In The Mist Of Time (Peter Frohmader:2022 3D Remix)」が追加されています。この音楽は、河原と競演したドイツのベーシストでマルチ楽器奏者のPeter Frohmaderに捧げられています。 残念な事に、Peterは2022年5月に逝去しており、「現在」という位置づけで、この3Dリミックス楽曲がボーナストラックとして追加されています。ここでPeter Frohmaderがベースを弾いた事で、このトラックを際立たせ、結果的にHereticとしてのサウンドに厚みが出ました。ここではシンセがフィチャーされ、メロディー・ラインが複雑に交差し、中間点までその緊張感が続きます。その後、穏やかなシンセとスローでファンキーなベース・サウンドが、大音量で変化した後、緩やかに変化していきギターのサウンドスケープをサポートしていきます。ここには、ファンが期待するすべてが詰め込まれています。

総じて、「Past In Future」では、彼らの音楽の成長振りが、洗練さ、メロディー、全体的な完成度の高さにおいて証明されています。

Heretic - 弥生幻想 
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

デモ・バージョンであった「Past In Future」に続き、Hereticの次の作品リリースは、この「弥生幻想 2022 Remaster」となり、正式版としてグループによる演奏です。 太田亨(シンセサイザーとブズーキ)とRobbin Lloyd(エレクトリック・パーカッション)、河原博文(シンセ、サンプラー、エレクトロニクス、デバイス、コンピューター・プログラミング)の三人編成により、更に完成度が高まったサウンドとなっています。 全体的な印象としてはデモと大きな違いは少なく、微妙な作り直しという印象です。
但し、デモバージョンと同様に、正式版も素晴らしい音楽に仕上がっています。音色の変化が楽しめ、カラフルな背景音も聴けて、各パートの構成も練られています。 雰囲気という点でも、デモより完成度が上がっています。

本作にもボーナス・トラックは追加されていますが、51秒という短いメランコリックなシンセサイザーによる演奏です。 パッド系シンセの音色ですが、音色を変化させていてメロディーも素晴らしい曲ですが、余りにも短すぎるのが難点。 この曲でも河原は亡き友人Peter Frohmaderを偲んでいます。

この「弥生幻想」は、40分間、聴くだけの価値が充分にあります。 是非聴いて頂きたい作品です。

Heretic - Drugging For M 
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

この『Drugging For M』のスタジオ・ライブ・バージョンが「Past In Future」として、限定リリースしていましたが、その後の正式版をリマスターしたのがこちらの作品です。
Hereticのメンバーとしては、Robbin Lloyd(エレクトリック・パーカッション)と河原(エレキギター、テルミン、シンセサイザー、サンプラー、エレクトロニクス、エフェクト、コンピュータープログラミング)だけで、石井孝治(チャップマンスティック)と野田真弘(エレキギター)の二人がゲストとして参加しています。
この四人で、複数のパートに分かれた34分の曲を制作しました。河原一人のスタジオ・ライヴに比べて、ゲストが色彩感と躍動感を加え、バンドらしい音となりました。パート構成もより有機的に感じられます。

結果的には、作品全体がこれまでのHeretic作品の中で最も興味深い音楽となっています。
ガムランのようなパーカッション、音色変化するカラフルなシンセ音、素晴らしいギターが聴けて、アンビエント、インダストリアル・ロック、エレクトロニカといった傾向の音楽が途切れる事なく演奏されていきます。
各パートのテンポは遅くも早くもなく、絶妙のリズム感が作品全体として感じられます。超強力な音楽です。

ボーナス・トラックとして追加された「TD-7」は、リズミカルなシーケンス・サウンドとオフビート(ランダムビート)のパーカッションが徐々に同期していき、突然停止してしまう短い曲です。 しかし正直なところ、余りにも素晴らしいタイトル曲のせいで、影が薄くなってしまいました。

本作は、ジャーマン・ロック・エレクトロニカが好きな人、またHereticの過去作の取っ掛かりを探している人には、特に聴く価値があります。


Hiro Kawahara and Heretic - Requiem (2022 Extended Version) 
(7/10 : とても良く、繰り返し聴きたい作品)

この『レクイエム 2022 Extended Version』は、Heretic作品というより河原博文一人の作品である(ように思えます)。 
彼のHeretic以前の2つのプロジェクト「OSIRIS」と「Astral Tempel」の再考という観点だけでなく、CDでリリースされた「レクイエム」が2011年3月11日の恐ろしい津波の少し前のリリースだった事から、今回のリリースでは津波の被害に合われた全ての方に捧げられています。 また、彼の友人で音楽家仲間のManuel Gottschingにも捧げられています。 2010年のオリジナルCD版から曲順を変更し、14曲が追加されています。
今回追加されたOSIRISとAstral Tempelの曲は、『In The Mist Of Time』(LP:1980) とAstral Tempelのライブ録音等から選ばれています。 つまり本作は河原の音楽スタイルがどのように変化していったのかを確認するタイムマシンとなっています。今回、時間を逆行する曲順となっていて、Hereticからそれ以前の1980年のOSIRISとライブ・バンド、Astral Tempelへと遡り、河原の音楽遍歴を追体験できます。

まず、河原博文名義の「Spiral 1999」は、キーボード主導のアンビエントとギターによるサウンドスケープおよびロングトーンのギター・ソロが聴けます。地響きのような低音のシンセ、飛び交うエレクトロニクスSE、ディストーション・ギターがうまく重なり合って、河原の演奏の中でも最高作の一つと評価出来ます。

2 番目の「Drugging For M: Edit Version 1997」は、34 分のオリジナル曲から巧みに編集されています。 本作の他の多くの曲についても同様に、巧みな編集が施されています。

それ以上に本作を聴くべき理由がHeretic以前の初期作品にあります。OSIRISからの曲はそれぞれ短いのですが、かなり優れた曲として編集されています。
唯一残念だったのは、実験的な『Echo Troublant』です。これだけがサウンド傾向が異なっています。シーケンス・パートは良いのですが、この曲全体としては今一つの印象です。
しかし1980年代のOSIRISの他の曲は聴く価値があります。ゲストの協力により雰囲気のあるメロディーがあちこちで聴かれます。特に注目すべきは幸亜紀子のヴォイスです。 どれも曲の展開はそれほどありませんが、非常に聴きやすいメロディーです。

Astral Tempelの曲としては二つの短い曲の後に、20分近くのジャーマン・ロックそのものといったライブが続きます。今回、河原はこのライヴ曲を、2022年12月に亡くなったドイツの友人Manuel Gottsching (Ash Ra Tempel)に捧げています。録音状態としては平均的な海賊盤の音質なのですが、バンド三人のパワーの凄さを証明しています。良い意味で、Ash Ra Templeの影響が色濃く出ています。

結論として本作は、ファンだけでなく好奇心旺盛な人にとっても魅力的な作品となっています。所謂編集された「ベスト物」と歴史を紐解くお宝音源がセットになった作品です。

Heretic - Live / Kyoto '85 And Tokyo '88 (2022 Remaster) 
(4/10 : 平均以下です。ある程度の価値しかありません)

Heretic は合計5回しかライブを行なっていなかったので、このリリースはファンにとっては一種の楽しみとなります。この二つのライヴは、河原の手元で眠っていた音源で、全て未公開の曲です。
立命館大学ライブ(1985年11月4日)でのラインナップは、太田亨(シンセ、エレキ・ギター、ギター・シンセサイザー、エレクトリック・パーカッション)、Robbin Lloyd(各種アコースティック・パーカッション、尺八)といういつもの顔ぶれと、河原博文(エレクトリック・ギター、エレクトリック・ヴァイオリン、ギター・シンセサイザー、シンセサイザー)です。
この 1時間強の音楽は「Do Heretick」のライブ・バージョンです。モノラルソースからステレオへの変換と音質修正を施しています。しかし少なくとも私にとっては残念ながら、長時間、ゆっくりと変化する即興演奏と、工業的なSE音、ギターのノイズとヴァイオリンの擦れる音の間で、私は次第に退屈になってしまいました。

次の2曲は東京ライヴのリハーサルと本番の模様です。これらのバージョンは両方とも、いくつかの魅力的なパートがあり、明確な展開とメロディーが聴けます。
リハーサル(1988年3月13日)と東京ライブ(1988年3月19日)両方には、Hereticのメンバー三人に竹内一弥(サンプラー、エレキ・ギター)が参加していて、更に東京ライブではChihiro S.がベースでボトムをしっかり支えています。
リハーサルでは、Robbin Lloydが日本の尺八を吹きます。 この音で冒頭部分に温かみのある有機的な感触が与えられ、より聴きやすくなるのではないかという期待が高まりました。しかしそのパートがその後、再度表れる事はありませんでした。
東京ライヴでは中東のハーモニーをうまく取り入れていますが、長すぎる感じで、よりメロディックなコーダが特徴となっていました。

総じて、この二つのライヴは、私にとっては二度と聴かない作品でした。熱心なファン向けだけの即興演奏の記録です。

Hiro Kawahara and Peter Frohmader (Remaster 2022) 
(8/10 : 素晴らしい、すべての人にお勧めする作品)

河原は1998年に、1970年代後半からドイツのエレクトロシーンで活動していた、ドイツのマルチ楽器奏者Peter Frohmaderとコラボレーションしました。Peterはダーク・エレクトロニック・ロック・グループ「Nekropolis」のリーダーとしても活躍していました。
ラインナップはPeter Frohmader(ベース、シンセサイザー)と河原博文(ギター、シンセサイザー、効果音、3D処理)、ドラムは不明です。
1998年当時はインターネットの黎明期であったので、このコラボレーションは航空便とファックスで行われ、Peterから河原に送られたCD-Rを元にしています。つまり、4 曲のうち3曲は、基本トラックに河原らしいギター・ソロとシンセ/キーボードの音をオーバーダビングしました。
河原が家族と京都から東京に引っ越し、仕事に時間を費やしていた為、事実上音楽活動から引退状態だったので、このプロジェクトは宙に浮いたままでした。しかし昨年Peterの訃報の知らせを知り、彼はこのコラボレーション作品を世に出したいと画策しました。

最初のトラック「In The Mist Of Time」は「Past In Future」にも収録されています。 Peterのベース・サウンドが、このトラックを際立たせ、サウンドに厚みが出ています。ここではシンセがフィチャーされ、メロディー・ラインが複雑に交差し、中間点までその緊張感が続きます。その後、穏やかなシンセとスローでファンキーなベース・サウンドが、大音量で変化した後、緩やかに変化していきギターのサウンドスケープをサポートしていきます。素晴らしい音楽となっています。
残りの4曲は全てPeterの作曲です。
「Sphinx Touch」では、ドイツのテレビ番組または映画から取られたサンプルで始まり、所々で聴こえます。この曲では重低音を利かせたベースとドラムがグルーヴ感を出し、その上で河原が素晴らしいギターソロを披露しています。その後メロトロンの音も追加され、特徴的な音色変化をするシンセの音(訳注:これはギターの特殊なエフェクト音です。)によって、ジャジーなグルーヴ感が生み出しています。こごては魅力的でスペーシーなジャーマン・ロック・サウンドを聴く事が出来ます。

プシュケー(訳注:息という意味ですが、鳥のさえずりを言い換えています。)が聴こえる「Virtual Nature」では、独特の仮想的空間を表現しています。こちらも静謐なジャーマン・ロックです。

『The Earth』は基本的には、Peterのソロ作品であり、ミドル・テンポのドラム、スペーシーなシンセ、ベースが素晴らしいメロディックな雰囲気を醸し出していて、この点を更に魅力的にする為、河原はリミックスとリマスターに注力しました。

最後のトラック「9-13」は、早いテンポでシーケンスされたシンセ音に、重ねられたキーボード群の音、Peter独特のベースをフィーチャーしていて、ラストに相応しい曲となっています。

このコラボレーション作品は、河原の一連の作品の中で最高のアルバムの一つです。大きな音で聴いて下さい!


Complete Works : Bonus Tracks : 
(8/10 : 素晴らしい、すべての人にお勧めする作品)

この「Complete Works」は、過去の全作品だけでなく、2曲のボーナス・トラックが追加されています。ゲスト・ミュージシャンのクレジットは名記されていません。

一つ目のボーナス・トラックは、1980年から82年にかけての「Astral Tempel」から編集されています。
ここで聴けるShadow Illusion ~ Vista Under Lightの編集テイクは、ジャーマン・ロックを感じさせる素晴らしい音楽です。
前半のShadow Illusionでは、ベースとドラムがベースの雰囲気を作り、シンセ(S.E.)が飛び交い、河原のギターがサックス風のサウンドで、スピーカーの左右を飛び交います。ギター・ソロが進むにつれてギター・サウンドが変化し、テンポが上がるにつれて、女性の声がフェードインしたりフェードアウトしたりします。 
入れ替わるように後半のVista Under Lightに切り替わっていき、ビートのテンポが上がるにつれて、メイン・メロディーはキーボードが聴かせます。 
繰り返しになりますが、Astral Tempel は素晴らしいジャーマン・ロック・サウンドでした。このバンドの音は河原の過去作の中でも私のお気に入りの作品の一部となりました。

二つ目のボーナス・トラックは、「Heretic 1984-1998 Sequence」です。
ここでは、シンセとギターの演奏に焦点を当て、Hereticの過去の各作品の一部をそれぞれ繋げた音楽となっています。(この時点で、私は少しHereticのファンになっていると思います。)
ジャーマン・ロックを感じさせるシンセ、各種ギター・ソロ、響きの良いアンビエント・サウンド、メロディー・ラインをうまく編集してまとめています。この編集トラックは聴く価値があります。

私にとっては、今迄聴いた事のないアーティストの過去作を全て聴くという、相当な冒険でした。
全62曲、総時間13時間36分の中には聴きごたえのある作品が数多くあり、気に入らない作品は数曲しかありませんでした。
読者の方にも、どういう感想を持たれるのか、是非聴いてもらいたいと思います。

 

Heretic / Hiro Kawahara COMPLETE WORKS (Cuneiform, via Bandcamp) DL 13:36:30

Schuyler Lewis (イギリスのAudion誌No76 2023-12-01) :

日本のバンド、Heretic とそのリーダー、河原博文の9枚の作品 (それぞれボーナス・トラックが多数収録)が纏まった作品です。
この作品がCuneiformからのダウンロード販売としてリリースされたことに非常に驚きました。
Hereticの音楽は、Anthony Phillips、Steve Hackett、Andy Latimerなどをどこか想起させるギターが入ったインストゥルメンタル・プログレ、更にメロディアスなものから実験的な側面を有し、時にはニューエイジ、またニューエイジ期のTangerine Dreamのようなシンセ・ミュージックのような幅広い音楽性を有しています。
しかも、時には、非常にクレイジー/ワイルドで、ラディカルな側面もあり、特に長尺の曲では、途中で、一本調子にならないように他の多くの音楽スタイルを取り込んでいます。
DLサイトの解説では「Heldonに対する日本からの回答」と書かれていますが、重厚なシンセとギターによる音の綴れ織りがサウンド・キャラクターですが、時折河原がRobert FrippやRichard Pinhasのようなギターソロを展開することを除けば、実際にはHeldonサウンドとはタイプが異なります。
とにかく、Hereticは河原一人から3人から5人(またはそれ以上)のフルバンドまでメンバーが柔軟に参加して活動できるという点で、少なくともHeldonと同じような柔軟性を持っていました。
今回、9作品全てを延々とレビューするのは紙面の都合上不可能なので、それぞれの作品で興味深い点をざっくりと紹介していきたいと思います。


1.「INTERFACE」は 1982年に遡り、当初、1985年に LPとしてリリースされました。
オリジナルでは34分に及び、LP の大部分を占めていたこの組曲は A面とB面2つのパートに分割されて、一部の重複部分が含まれていました。ここでは二つのパートを繋げて、元々の1つの作品となっています。
冒頭部分では、シンプルにプログラムされたリズムと牧歌的なメロディー、そしてAnthony Phillpsのようなギター・サウンドは驚くほどプロギーです。 
その後、途切れる事なく曲はいくつかのパートを経て進んでいきます。日本の伝統楽器を使用した静かなパート、クレイジーなリズムとワイルドなジャジーなギター・パート、エンディングでは1980年代のTangerine Dreamのようなサウンドを展開しています。
「月影」は、叙情的なロングトーンのギターをフィーチャーした、シンフォニックなニューエイジ・サウンドとして1曲目の後に続きます。
ボーナストラック: 
Interface (Symphonic Version) は、オリジナルのオープニング・パートを編集したよりストレートなバージョンです。
Interface (Rehearsal 1984-07-24) は、主に別のパートに焦点を当てており、やはり1980年代のTangerine Dreamサウンドです。


2.「ESCAPE SEQUENCE」は LPとして1988年に発売されていましたが、私はLPを見た記憶がありません。しかし「1984-88」のCD に全て収録されていました。
そのA面には「Do Heretick」というタイトルの22分近くの長い組曲が収録されており、非常に実験的なサウンドです。
前半は主にギターが主体となっていて、その後ガムラン風のシーケンサーの音に突入し、エンディングはLaibachのようなサウンドに変化してました。本当に異様な音楽です!
『Fail Safe Error』は、前半では変拍子を刻むリズム・マシンが特徴で、Peter Frohmaderの『RITUAL』に似たサウンドです。
後半、初期のNurse With Woundのインダストリアル・リズムのサウンドに狂気じみたギター・ソロがフィーチャーされたパートに突入しています。これは更に異様な音楽です!
雰囲気を完全に変えて、「Anonymous」では穏やかなシンフォニック・プログレが続きます。
「Tripping On Waves」はテクノ・ビートの上にDavid Torn のようなギターがミックスされています。
次に 「Maforaba」ではオルゴールのような音で、ホラー映画のテーマ曲を想起させます。
ボーナス・トラックだけでCD1枚分の未発表音源が追加されています。そのすべてが 「Do Heretick」に関わるアイデアとバリエーション・バージョンとなっています。


3.『1984-88』はアンソロジー(コンピレーション)作品で、過去二作とは異なるリマスター・サウンドで1stと2nd及び未発表作品が収録されています。CDとしては、1994年に発売されていました。
本作には、King Crimsonからの影響を裏付ける「Resource」というスタジオ・セッションも収録されています。
ボーナス・トラックとして、「INTERFACE」のアイデアに関する別の二曲が含まれています。


4.「PAST IN FUTURE」を私は今まで知りませんでした。1996年にCD-Rとして限定リリースした作品のようです。
これは基本的にこの後正式リリースされた二作品のデモ・バージョンです。


5.「弥生幻想」は1996年にCDで発売されました。一曲36分のみの音楽で、ほとんどがシンセとサンプリングによる音楽で、色んなタイプの音楽が次々と展開されています。東洋的な雰囲気が色濃いですが、10 年前のPeter Frohmaderと似ているように思えました。


6.「DRUGGING FOR M」は 1997年にCDで発売されていたものです。前作同様1曲のみの収録でしたが、よりシンフォニックで実験的な印象を受けました。素晴らしいギター・ワークも聴ける34分の作品です。
ちなみに、前作と今作の当時のCDには、別途Windows 95/Mac用のCD-ROMも収録されていて、当時はそれが楽しかったことを覚えていますが、25 年以上経った今、何が含まれていたのか正確には覚えていません。テクノロジーの進化により、当時のプログラムとデータは、今となっては意味を成さないので、今回のBandcampサイトではそのようなコンテンツは含まれていません。
(訳者注:映像データは、それぞれ以下の二つのYoutubeデータとして復活しています。
https://www.youtube.com/watch?v=daCbVLSxFCY
https://www.youtube.com/watch?v=N968LuL6uxE
DFMの映像には、見た人から「作曲家の視点から見ても非常に興味深い。Phillip Glassと映画が出会ったみたい。」とコメントを頂いています。)


7.「REQUIEM」はもともと新作と再録音の作品として存在していたようで、2010年にCDとして発売されていました。
(訳者注:レビュワーは誤解されていますが、当時のCDには、EurockからのGolden Ageからの再収録と、過去作の編集バージョン+未発表曲を80分に纏めたCDでした。)
ここでは、曲順がかなり変更されているようで、Manuel Gottschingへの追悼の意味から、「AstralTempel」による3曲と、Heretic以前のバンド、OSIRISによる多くの曲が追加されています。


8.「LIVE - KYOTO '85 AND TOKYO '88」は未発表のライブ録音を集めたものです。
最初は(訳注:これは二曲目です。)、「Rehearsal For Tokyo Live (1988年3月13日)」で、フル・メンバーによる演奏。シンセやギターなどに加えてパーカッションが数多く聴けます。「弥生幻想」と「DRUGGING FOR M」の10 年前の演奏ですが、しばしば「弥生幻想」と「DRUGGING FOR M」のおぼろげな姿と擬似シンフォニックなスタイルだったPeter Frohmader期のサウンド、更に東洋の音も入り混じった音楽に聴こえました。30分を過ぎた後半のセッションでは、ギターワークがかなりRichard Pinhasらしくなりますが、ここでは、近年のPinhasのギターワークに似ています。
「Tokyo Live (1988年3月19日)」は基本的には、先のリハーサルと同じテーマで演奏していて、ここでも「DRUGGING FOR M」で聴けるものと同様のボレロ・パートを演奏しています。(訳注:DFMにはボレロ・パートは無いのですが....????)


9.「HIRO KAWAHARA & PETER FROHMADER」
この2人のミュージシャンが1998年に一緒に作ったレコーディングで構成されています。私が調べた限り、これはファイル交換によって行われ、Peterが基本的な最初の曲を作成し、その後、河原が追加でギターとシンセサイザー、SE音を追加ダビングしました。
一曲目の『In The Mist Of Time』は、少なくとも最初は最もHereticぽいサウンドなのですが、後半からラスト・パートはよりFrohmader色が色濃くなってます。
「Sphinx Touch」はまさにNekropolisサウンドです、
一方、「Virtual Nature」は、ほとんどジャズ・ファンク・サウンドです。
「The Earth」は両者のサウンドがよりバランス良く混ざり合ったものであり、彼らの意識がいくつかのパートを通過しく中で、交じり合っていく様に聴こえます。
「9-13」は、一種の風変わりなエレクトロニック・ファンク・サウンドです。


最後に、「Complete Works」にはさらに2曲のボーナス トラックが追加されていて、それだけで50分程度追加されています。
しかし残念ながら、ここで紙面がなくなってしまいました!
「Complete Works」セットは、纏めての購入も可能ですし、9作品それぞれ個別も購入可能です。詳細については、https://cuneiformrecords.bandcamp.com/ をご確認ください。