今日の参議院本会議で代表質問に立ちました。
私の質問は以下の通りです。



 
 
 

維新の党の川田龍平です。

「持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律案」について、会派を代表し、質問いたします。

 

最初に医療費抑制策について伺います。1983年の「医療費亡国論」以来、政府は今までずっと、医療費を抑制しなければ国がもたないと主張してきました。ではその実態はどうだったでしょうか?あれから30年以上経ち、世界的に高齢化が進み、諸外国が医療費を増やしている中で比較しても、日本は医療の質を高く維持したまま、医療費を低くおさえています。確かに医療費は増えていますが、その最大の原因は、日本医師会の横倉会長もおっしゃっているように、高齢化よりむしろ医療技術の進歩と高額な新薬のせいである事が明らかになっています。私自身難病患者として、年々高額な新薬が発売されることを実感として知っています。医療技術の進歩と高額な新薬、今回の法案がこの二つを低くおさえるために適切な内容になっているかどうか、難病患者の1人としてもじっくり検証してみた上で、いくつか質問させて頂きます。

 

今回の法案をみると、患者の負担を増やす事で医療費抑制をする内容になっています。例えば難病患者の確定診断前の入院や、風邪などによる入院、難病指定されていない希少疾患患者の負担が重くなります。さらに一般患者も、紹介状なしで大病院を受診する場合、自己負担が重くなります。ですがこれは、先ほど申し上げました医療費が増えている主な原因を考えても、本末転倒ではないでしょうか?

 

政府は近年、「早期発見早期治療」という言葉をキーワードに企業のメタボ健診や鬱病予防の企業カウンセリングなどを呼びかけていますが、その流れから言っても、患者負担を増やせば受診が抑制され、重症化することでかえって国の医療費は増える事は明らかです。この点について、総理はどのようにお考えでしょうか?

 

世界の事例をみても明らかな様に、医療費抑制の最も重要な方策は、予防につきると思われます。政府は予防や健康づくりの取り組みとして被保険者にヘルスポイントを与えるとの事ですが、医療費抑制策としては不十分だと言わざるをえません。低い医療費と長寿という2つの実績を維持する長野県では、佐久総合病院の色平哲郎医師がその理由をこう説明しています。「特殊な高度医療よりも、健診などの予防医療や、訪問・在宅医療、介護予防、そして減塩・カロリー計算など食生活の改善を柱にした、地域医療と福祉、介護の組み合わせを実践しているからだ」と。患者の自己負担をあげて重症化させるより、長野県で医療費抑制と長寿の実績をあげている、医療と地域コミュニティを組み合わせた「共助」で支え合うしくみを整備することの方が、医療費抑制策としては現実的ではないでしょうか?今総理が掲げる「地方創生」とも重なるこのしくみを、行政が主導し全国に広げていくことこそ、今必要な政策ではないでしょうか。総理の見解をお聞かせ下さい、

 

医療費抑制を考える際、もう一つ繰り返し指摘される課題として、「薬の出し過ぎ」があります。認知症の高齢者に十数種類もの薬を処方し、飲み残しが出ている実態こそ、まさに医療費の無駄遣いです。政府の規制改革会議はかかりつけ薬局制度の導入を提言するようですが、薬の飲み残し問題を薬局薬剤師だけに丸投げするのではなく、不要な向精神薬の処方量を減らすべきだという指摘がされています。こちらの方の取り組みは、厚生労働大臣、いかがでしょうか?

 

国内の精神病入院患者は30万人、なんと世界全体の二割を占めるだけでなく、我が国の精神病入院患者は長期入院率も非自発的入院の割合も高く、しかも近年、身体拘束率も倍増している異常事態が明らかにされています。これらの事態は、病院内で司法や警察並の絶対的権限を持つ「精神保健指定医」が主導する形で、生み出されていますが、今回、聖マリアンナ大学において、20人もの医師が、虚偽申請で資格を取り、強制入院や隔離、身体拘束を指示していたことが明らかになりました。塩崎大臣は「重大な事案であり、厳正に対応する」としか答弁しませんが、様々な国際人権条約に違反する今回の事態について、我が国としてどのように対応するべきか、総理大臣の見解をお聞かせ下さい。

 

そうした医療現場での人権侵害を始め、医の倫理についても、昨今さまざまな課題が明るみに出ています。肝臓の腹腔鏡手術を受けた患者8人が死亡した事件で、群馬大学病院は特定機能病院指定を取り消されましたが、同大の調査報告書では、倫理審査を受けるべきだったと書かれています。倫理審査なしで実験的治療を行った事自体が「臨床研究に関する倫理指針」への重大な違反です。しかし厚労省は、医療法や健康保険法に基づく調査で幕引きしようとしています。医療法に基づく事後の立入調査と、未確立の治療技術の事前審査義務違反に対する調査は、全く異なります。世界医師会による「ヘルシンキ宣言」第37条は、実験的治療をいつまでも続けるべきでなく研究計画として倫理審査を受けるべきとしています。グローバルな医療外交を展開すると仰っている総理に伺います。ヘルシンキ宣言を無視した厚労省の姿勢は問題であり、国際的な立ち位置を考慮しても、指針違反を認め、しっかりした対応が求められるべきですが、総理の見解をお聞かせ下さい。

 

医療倫理そのものについては、皆さまご存知の様に、この国には歴史的に未解決の案件があります。関東軍731部隊の人体実験は、歴史的検証がされないまま、その研究データを米国に提供することとひきかえに、事実は隠蔽されました。医学者たちは罪を問われず、薬害エイズ事件のミドリ十字や、同意なき臨床試験をして裁判となった金沢大学医学部、さらにはディオバン事件を起こした京都府立医科大学に再就職するなど、何事も無かったかの様に、医学界の重要な地位に就いていきました。

 

しかしながら昨今ようやくこうした流れが変わり始めました。戦争末期、九州帝国大学医学部で行われた米国人捕虜に対する生体解剖事件の資料が、九州大学医学部「医学歴史館」に展示されました。世界の先進国がそうしているように、我が国でも戦時中の人体実験の史実が公式に認められたことを高く評価すべきです。我が国も70年の節目に過去をしっかり検証し、医の倫理と被験者保護を確立し、グローバルな国際社会に誇れる医療技術開発を行っていく、その決意を、総理大臣、お聞かせ下さい。

 

次に今回の国保法等改正の中の「患者申出療養」制度について伺います。

私は一月にもこの本会議で、この制度についての懸念を総理に伺ったところ、患者申出療養は保険収載に向けたしくみであって、国民皆保険制度は堅持するとの答弁でした。しかし、この制度にはいくつもの懸念事項があります。

 

未承認新薬を自己負担で使う事を希望する患者は、臨床研究中核病院もしくは特定機能病院で、その薬の安全性や有効性について説明を受け、納得した上で同意署名するとのことですが、臨床研究中核病院が法的にはこの4月に発足したばかりで、まだに一つも指定されていません。もう一つの特定機能病院の方は、つい二週間前に、東京女子医大と群馬大学病院の2つが指定を取り消され、残りの80余りについての安全管理体制検査を厚労大臣が指示したばかり、その検査スケジュールさえ決まっていない状態です。そもそも、治験も審査もされていない未承認薬の安全性・有効性に関する説明能力を持っている病院が、いったいこの国のどこにあるのでしょうか?病院が説明する際、最も懸念される製薬企業の不適切な関与を規制するルールさえまだありません。患者をどうやって守るのでしょうか?厚生労働大臣に伺います。

 

そして薬害被害者の一人として私が何よりも懸念することは、万一の健康被害、副作用などが発生したときの責任の取り方、補償のあり方です。当然、治験薬における補償と同じように、法的に担保されるべきですが、「患者申出療養」における補償のあり方についてはまだ何も決まっていません。これでは万一有害事象が起きた時、申し出た患者が責任をとらされるリスクが残ります。私自身身にしみて経験しましたが、保証が無い中で裁判をしなければならない時の本人や家族への精神的、経済的負担は非常に大きく、つらいものです。一番肝心な、患者への補償のあり方をはっきりと決めてから、法案の審議に入る事が現実的だと考えますが、厚労大臣の見解をお聞かせ下さい。

 

他にも短期間の審査で安全性をどう確保するか、情報の非対称性がある中で、医師や製薬会社が主導すべき研究を患者が希望したと責任転嫁することをいかにして防ぐのか、先進医療の大半が保険収載に入らない現状が改善されないままに、「保険収載を視野に入れる」と言いながら拙速に導入するリスクなど、患者申出療養にはまだまだ議論すべき点が山積みです。

 

「患者のため」といいますが、患者団体の願いは「安全性が担保された薬を公的保険で使う事です。この患者申出療養制度は「患者の為に」といいながら、そうした患者の声に全く耳を傾けず、強引に法案化を進めました。難病患者の一人としてそうしたやり方には非常に憤りを感じます。国民のいのちと健康をないがしろにする一方で、一体誰のための制度創設なのか、大いに疑念を持ちます。この後委員会でしっかり十二分に時間をとって質疑したいと思います。

 

最後に総理、先週私はアメリカのオレゴン州の大学で講演をした際、そこの教授にこんな風に言われました、「日本がアメリカから輸入すべきでない最大のものは、医療制度だ」と。日本は国際水準の研究管理体制を整備することで安全性と有効性を評価された医療技術を輸出し、世界的にも優秀な医療者を派遣できます。そしてWHOや諸外国が賞賛する国民皆保険制度を、高齢化社会のモデルケースとして紹介していくことで、立派な国際貢献ができると考えますが、総理、いかがでしょうか?見解をお聞かせ下さい。

 

今、この国の国民皆保険制度は、危機に瀕しています。持続可能なものとして維持してゆくために細かい改善は必要ですが、混合診療を全面解禁してしまえば、貧富の差によって受けられる医療に格差ができることになり、社会保障である日本の医療は崩れてしまいます。薬の安全性と社会保障としての皆保険制度は、この国が世界に誇るものとして、国を挙げて守るべきです。そしてまた、この二つの恩恵を直接受ける難病患者の1人として、いのちを守るために全力を尽くすことを改めて約束し、私の質問を終わります。ありがとうございました。