参議院議員川田龍平君提出
慢性骨髄性白血病治療薬の副作用・有害事象隠しに関する質問に対する答弁書


五月九日、製薬企業のノバルティスファーマ株式会社(以下「ノ社」という。)は、ノ社の営業部門が昨年四月から今年一月まで行った慢性骨髄性白血病治療薬「グリベック」と「タシグナ」(以下「二つの医薬品」という。)のQOLアンケート調査で収集した、重篤と判定される可能性がある副作用三十症例(以下「本件副作用症例」という。)について、安全性評価部門への報告が漏れていたと発表した。

本事案は、グラクソスミスクライン(GSK)社が抗うつ薬の副作用を報告せずニューヨーク市長などが告発し、罰金としては史上最高の三十億ドルの刑事罰が確定した事件にも匹敵する可能性がある。海外の医療関係者の間では、非常に深刻に捉えられており、ディオバン事件よりも敏感に反応しているとのことである。

他方、欧米のみならずアジア、アフリカ諸国でも医薬品臨床試験は日本のような承認申請目的のものに限らず法制化され、欧米では臨床試験の登録公開が義務化される中、日本だけが治験のみを法規制の対象とし、法的根拠のない臨床研究に関する倫理指針(以下「倫理指針」という。)で一定範囲の臨床研究の登録公開は義務付けられているものの、製薬企業の治験や製造販売後臨床試験は法的な登録義務がなく、業界指針があるのみである。

 国際共同臨床研究が政策的に推進される中で、このような制度上のギャップを放置したまま問題事例が起きていることを深く懸念する観点から、以下質問する。


一 厚生労働省は四月に、本件副作用症例の報告を受けたとのことだが、日本が臨床試験の制度において世界に著しく立ち遅れた状況にある中で、このような報告遅延が起こったことについて、政府の見解を明らかにされたい。

一について
厚生労働省としては、平成二十六年五月九日に、ノバルティスファーマ株式会社が、副作用名からみて重篤と判定される可能性のある副作用症例が約三十件あったことを発表したことを承知しているが、これらの副作用症例が、薬事法施行規則(昭和三十六年厚生省令第一号)第二百五十三条第一項に規定する期間内に報告されるべきものであったか等については、現在調査中である。


二 二つの医薬品は、在宅で重病を療養する画期的な薬ゆえに、副作用が相当数報告されているはずである。昨年四月から今年一月までの間に、二つの医薬品について重篤な副作用報告はそれぞれ何件あったのか。それぞれの医薬品について、企業報告と医療機関からの報告に分けて、件数を明らかにされたい。

二について
平成二十六年五月二十六日の時点で、御指摘の期間において、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号。以下「法」という。)第七十七条の四の二第一項の規定に基づき医薬品等の製造販売業者等から報告された副作用症例は、グリベックについては九十九件、タシグナについては八十四件であり、同条第二項の規定に基づき医師等の医薬関係者から報告された副作用症例は、グリベックについては三件、タシグナについては四件である。


三 前記二に係る報告の中に、本件副作用症例と同定できるものが含まれているのか、照合の結果を明らかにされたい。

四 ノ社の発表によれば、今年一月にアンケートで副作用の疾患名を知った営業部門が、安全性評価部門への連絡を四月まで怠っていたということだが、これだけでも三十日以内に報告を求めている薬事法施行規則に違反していると十分言えるのではないか、現時点での政府の見解を明らかにされたい。

九 報道によれば、ノ社は五月十九日にも、慢性骨髄性白血病治療薬に関する臨床研究で、SIGN研究以外の研究でも社員の不適切な関与があったと発表し、また、重篤と判定される可能性がある副作用二症例が判明したため、同日、厚生労働省に報告したとのことである。重篤と判定される可能性がある副作用二症例は、タシグナ関連の研究で見つかったとのことであるが、この二症例は、本件副作用症例と重なるものなのか、それともまだ未報告の症例なのか、明らかにされたい。

三、四及び九について
お尋ねの点については、現在調査中であり、現時点でお答えすることは困難である。



五 厚生労働省は、本件につき現在調査中とのことだが、実際には同省では何もせず、ノ社の社内調査をただ待っているだけではないのか。ノ社任せにせず、早急に薬事法第六十九条に基づく立入り検査を行うべきではないか。

十 ノ社は同社製品が関わる二〇一一年以降の医師主導臨床研究について第三者に調査を依頼しており、夏ごろに結果が出る見通しとのことだが、それをただ漫然と待つのでは、重篤な副作用・有害事象の把握を厚生労働省として怠っていることになるのではないか。ノ社の調査を待つことなく、慢性骨髄性白血病治療薬の他にも副作用・有害事象隠しや報告漏れがないか、厚生労働省から積極的に立入り調査を行うべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

五及び十について
法第六十九条の規定に基づく立入検査を行うかどうかについては、これを公にすることにより、正確な事実の把握を困難にするおそれがあること等から、お答えを差し控えたい。


六 ノ社が行ったような企業が企画して行うアンケート調査は、倫理指針に従って行うべきものか、それとも同指針の適用外か、根拠を明示の上明らかにされたい。

六について
お尋ねの企業が関与するアンケート調査については、臨床研究に関する倫理指針(平成二十年厚生労働省告示第四百十五号。以下「倫理指針」という。)において規定する「臨床研究」に該当する場合には、他の法令及び指針の適用範囲に含まれる研究並びに試料等のうち連結不可能匿名化された診療情報(死者に係るものを含む。)のみを用いる研究を除き、倫理指針に従って行われるべきものである。


七 同じタシグナを使った医師主導臨床研究であるSIGN研究において、倫理指針に基づく通知ないし報告について、①研究責任者が、研究機関の長に通知した重篤な有害事象及び不具合等の件数、②研究責任者が、毎年一回、研究機関の長に報告した有害事象及び不具合等の件数、③研究責任者が、共同研究機関の研究責任者に報告した重篤な有害事象及び不具合等の件数、④研究機関の長が厚生労働大臣に報告した予期しない重篤な有害事象及び不具合等の件数をそれぞれ明らかにされたい。

七について
お尋ねの「①研究責任者が、研究機関の長に通知した重篤な有害事象及び不具合等の件数、②研究責任者が、毎年一回、研究機関の長に報告した有害事象及び不具合等の件数、③研究責任者が、共同研究機関の研究責任者に報告した重篤な有害事象及び不具合等の件数」については、承知していない。また、「④研究機関の長が厚生労働大臣に報告した予期しない重篤な有害事象及び不具合等の件数」は、零件である。


八 現行の倫理指針施行以来、倫理指針に基づく厚生労働省への予期しない重篤な有害事象及び不具合等の報告件数について、年度ごとに明らかにされたい。

八について
倫理指針に規定する「予期しない重篤な有害事象及び不具合等」に該当し、臨床研究機関の長から厚生労働大臣への報告が行われた事象の件数は、平成二十一年度に零件、平成二十二年度に三件、平成二十三年度に四件、平成二十四年度に零件、平成二十五年度に零件である。