参議院議員川田龍平君提出
海産物のストロンチウム九十汚染に関する質問に対する答弁書


 福島県いわき市沖でシラウオ、コウナゴの試験操業が福島県漁連の決定によりこの三月から開始されている。しかし禁漁範囲は原発から二十キロメートルと限局されており、禁漁範囲以南のいわき市沖で獲れる魚の放射性物質汚染が心配されている。
 環境省の公開資料によれば、福島県いわき市沖で二○一一年度の冬季に採取したツガルウニからストロンチウム九十が十ベクレル毎キログラム(ウェットベース)検出されている。これは二○一一年三月十一日に発生した東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島原発」という。)事故以前四十年間の水産物六千六百六十一サンプルの最高値〇・八五ベクレル毎キログラムの十一・八倍も高い値である。また独立行政法人水産総合研究センターの報告では、原子力施設が近くにない宮城県七ヶ浜町で二○一三年十二月十九日に採取されたノリやワカメからもストロンチウム九十が検出されており、福島原発の汚染水による広範囲の影響が憂慮される。
土壌のカルシウムが少ない我が国において海藻や小魚は重要なカルシウム源であることを考えると、このような検出現況は食の安全への重大な脅威であり、ストロンチウム九十に係る十分な魚の実態調査をせず、食品摂取制限濃度も未制定なまま試験操業が開始され水産物が流通することは大きな問題だと考える。
 国は早急にこれらの問題に取り組み、汚染調査結果を公表して国民や漁民への説明責任を果たし、国民の食の安全を守りつつ漁業者対策を講じるべきではないかとの観点から、本年二月二十八日に被災地の市民団体とともに行った関係府省との意見交換の内容を踏まえ、以下質問する。


一 福島県や茨城県、宮城県の海域の魚類やその他水産物のストロンチウム九十の濃度の調査は、東京電力株式会社の資料や、環境省、水産庁の公開資料を見てもサンプルがあまりに少なく、対象水産物の種類が限られている。さらに、調査間隔が長くこれでは全く実態が分からない。汚染水が海洋へ流出している現在、国民の食の安全確保のため試験操業予定海域や周辺海域の水産物中のストロンチウム九十の濃度の詳細かつ継続的調査を実施し公開するべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

九 三月から試験操業が決定されたいわき市沖海域の漁獲予定種はイシカワシラウオとコウナゴ、シラスになっている。ストロンチウム九十は骨に濃縮するが、骨ごと食するこれらの魚種のストロンチウム九十の濃度が測定されないままで試験操業が認められても問題がないのか、政府の見解を明らかにされたい。

十 ストロンチウム九十に係る海洋調査を実施し、その結果を公表し、透明な審議を行った後に食品摂取限度値を設けた上で、パブリックコメントにより国民の納得を得るまでは、試験操業や魚の流通を中止することも検討されるべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

十一 前記十を行うに当たっては、その期間休漁を余儀なくされる漁業者や関連加工業者などへの十分な賠償や補償、生活支援を行うことが求められると考えるが、いかがか。

十二 試験操業の判断を福島県漁連に任せることは国の責任回避ではないか。このような専門性が求められる事項は国が責任を持って判断し、直接指導するべきではないか。国民の健康を犠牲にしてまで直接指導ができない法的根拠がある場合には示されたい。

十三 ストロンチウム九十が海水環境でどのように挙動し食物連鎖等で濃縮されていくのか、海藻やプランクトン、小魚、中大魚まで調査し、その結果を公開するべきではないか。

一及び九から十三までについて
水産物等中のストロンチウム九十に関する調査は、農林水産省及び環境省においてそれぞれ継続的に行っており、当該調査の結果については、農林水産省及び環境省のホームページにおいてそれぞれ公表している。また、水産物を始めとする食品中の放射性物質に関する検査(以下単に「検査」という。)は、「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」(平成二十三年四月四日原子力災害対策本部策定)に基づき関係地方自治体において実施されており、検査の結果については、厚生労働省及び農林水産省のホームページにおいて公表している。検査は、セシウム百三十四及びセシウム百三十七(以下「放射性セシウム」という。)、ストロンチウム九十、プルトニウム二百三十八、プルトニウム二百三十九、プルトニウム二百四十及びプルトニウム二百四十一並びにルテニウム百六を考慮に入れて設定した食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)第十一条第一項に規定する基準として定めた値(以下「放射性物質の基準値」という。)に従い実施されているものであり、また、放射性物質の基準値は、放射性セシウム以外の核種の測定に時間を要することを踏まえ、放射性セシウム以外の核種からの線量を含め、食品を摂取することによる被ばく線量が、年間一ミリシーベルトを超えないように放射性セシウムの濃度を設定したものである。お尋ねの「試験操業」は、検査の結果に基づき、原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)第二十条第二項の規定に基づく原子力災害対策本部長による出荷制限の指示(出荷を差し控えるよう関係事業者等に要請することを内容とする指示をいう。)がなされていない水産物を対象として福島県漁業協同組合連合会によって行われていると承知しており、政府としては、当該操業の検討の場に職員を派遣し、必要な助言を行っているところである。


二 二月二十八日の意見交換の席で、関係行政機関から「放射性セシウム濃度によりストロンチウム九十濃度も対比でき、放射性セシウム濃度規制値にストロンチウム九十のリスクが含まれた濃度規制をしている」との回答があったが、昨年八月に漏れ出た三百トンの汚染水と高濃度を示した敷地内井戸水について、放射性セシウムとストロンチウム九十の濃度をそれぞれ示されたい。

三 前記二に関連して、放射性セシウムとストロンチウム九十の割合は、土壌中を通過し海へ滲み出しても変化がないのか、政府の見解を示されたい。

二及び三について
お尋ねの東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)の福島第一原子力発電所において、平成二十五年八月に約三百トンの汚染水が漏えいしたH4タンクエリアのナンバー五タンク(以下単に「タンク」という。)から同月二十三日に採取した水の放射能濃度については、東京電力の計測によると、セシウム百三十四は一リットル当たり四万四千ベクレル、セシウム百三十七は一リットル当たり九万二千ベクレルであったと東京電力から報告を受けている。また、タンク付近の観測孔E―1及びE―2(以下単に「観測孔」という。)において同年九月八日に採取した水の放射能濃度については、東京電力の計測によると、セシウム百三十四は、それぞれ、一リットル当たり二・五ベクレル及び一リットル当たり〇・六四ベクレル、セシウム百三十七は、それぞれ、一リットル当たり五・一ベクレル及び一リットル当たり〇・七四ベクレルであったと東京電力から報告を受けている。なお、タンク及び観測孔から採取した水のいずれに関しても、ストロンチウム九十については、放射能濃度を計測していないと東京電力から報告を受けている。


四 「放射性セシウム摂取濃度限度でストロンチウム九十のリスクを含めた濃度規制ができる」とする科学的根拠を示されたい。放射性セシウムが一キログラム当たり百ベクレル含まれるとき、海生生物の場合、ストロンチウム九十も一キログラム当たり百ベクレル含まれる仮定でリスクを計算していると承知しているが、この場合の年間被ばく実効線量は何ミリシーベルトになるのか。その数値を導き出した計算式や前提条件、仮定などについても併せて明らかにされたい。

放射性物質の基準値は、食品の種類ごとに、土壌中の放射性物質の濃度、土壌から食品への移行のしやすさ等のデータを用いて放射性セシウムから受ける線量とその他の核種から受ける線量の比率を算出する等により、放射性セシウム、ストロンチウム九十、プルトニウム二百三十八、プルトニウム二百三十九、プルトニウム二百四十及びプルトニウム二百四十一並びにルテニウム百六を考慮に入れた上で、放射性セシウム以外の核種からの線量を含め、食品を摂取することによる被ばく線量が年間一ミリシーベルトを超えないように、放射性セシウムの濃度の値を設定したものである。なお、放射性物質の基準値の設定における当該比率の算出に当たっては、海産物についてはその算出が難しいことから、他の食品の種類に比べて厳しい前提として、放射性セシウムから受ける線量とその他の核種から受ける線量の比を一対一として設定しているものであり、御指摘のように「放射性セシウムが一キログラム当たり百ベクレル含まれるとき、海生生物の場合、ストロンチウム九十も一キログラム当たり百ベクレル含まれる仮定」を置いて設定しているものではないため、後段のお尋ねについてお答えすることは困難である。

五 「放射性セシウム摂取濃度限度でストロンチウム九十のリスクを含めた濃度規制ができる」との見解を決定した主体とその時期を示されたい。また、同見解を審議した委員会の名称、委員名、議事録及び関連資料を具体的に示されたい。

御指摘の「見解を決定した主体」及び「同見解を審議した委員会」の意味するところが必ずしも明らかではないが、放射性物質の基準値は、平成二十四年二月二十四日に開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会及び薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会放射性物質対策部会合同会議で意見を聴いた上で、厚生労働省が設定したものである。また、同合同会議の委員名、議事録及び会議資料は、厚生労働省のホームページで公開している。

六 ウクライナでは一九九七年、ストロンチウム九十の食品摂取の濃度限度を定めているが、このことについて、政府の見解を明らかにされたい。

御指摘のような事実があるということは承知しているが、お尋ねについては、ウクライナ国内法において食品中及び飲料水中に含まれていることが許容される放射性物質の濃度に係ることであり、政府として見解をお示しする立場にない。

七 厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課が二○○二年に公表した「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」は、農畜水産食品について「摂取における安全性評価の基礎としての放射能に関する測定について明確に示した。」と述べ、「第2章食品中の放射能の分析法」の項には「4放射性ストロンチウム分析法」、「4―1緊急時のためのSr―90迅速分析法」、「4―2発煙硝煙法による放射性ストロンチウムの分析法」が記載されている。また、「4」の前文に「放射性ストロンチウムは、「飲食物摂取制限に関する指標」として提案されている4核種には含まれないが、特にSr―90は物理的半減期が28・8年と長く、しかもβ線を放出する核種であるため食品摂取に伴う内部被ばく線量に影響を与える。」と記載されている。このマニュアルは、ストロンチウム九十を含む食品を摂取することは、内部被ばくの危険があるととの趣旨が記載されていると理解してよいか。

御指摘の「内部被ばくの危険があるとの趣旨が記載されている」の意味するところが必ずしも明らかではないが、平成十四年三月に厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課(当時)が作成した「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」については、ストロンチウム九十その他の放射性物質を含む食品を摂取することにより、内部被ばくにより健康に影響が生ずる可能性があるとの前提で、原子力施設に対するテロ、原子力施設の事故等の発生時に食品中の放射性物質の濃度を測定する場合に、当該測定が技術的に適切に行われるよう、放射能の分析方法について取りまとめたものである。

八 高濃度汚染水が海洋へ流出し、しかも原子力緊急事態宣言中の今、このマニュアルに基づいて分析や食品摂取の規制を行っていない理由を明らかにされたい。

御指摘の「このマニュアルに基づいて分析や食品摂取の規制を行っていない」の意味するところが必ずしも明らかではないが、検査については、ストロンチウム九十も考慮に入れて設定した放射性物質の基準値に従い、当該基準値の設定に伴い策定した「食品中の放射性セシウム検査法」(平成二十四年三月十五日付け食安発〇三一五第四号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知別添)等を用いて実施されているところである。