参議院議員川田龍平君提出
ストロンチウム九十等に関する質問に対する答弁書


 本年二月六日、昨年九月の段階で、東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「福島原発」という。)二号機の海側にある井戸水のストロンチウム九十を主とするベータ線を出す放射性物質の濃度が一リットル当たり五百万ベクレル(放出濃度限度の約十七万倍)であったとの報道があった。また、本年二月二十四日に、昨年八月に発生した汚染水三百トンの漏洩事故で、ストロンチウム九十等ベータ線を出す放射性物質の濃度が、当初発表の十倍の一リットル当たり八億ベクレルであった可能性もあるとの東京電力株式会社による訂正(以下「東京電力による訂正」という。)があった。これらの井戸水や周辺タンク群からの漏洩汚染水が海へと滲み出ていることは今や東京電力も認めているところである。
ストロンチウム九十は一旦体に入るとほとんど排出されず(体内半減期十八年)、また、セシウムと異なり土壌吸着が弱く、はるかに危険な物質だとされている。
ストロンチウム九十の汚染水を閉じ込め海に流出させないよう、府省間の縦割りを超えて国として取り組み、国民の食の不安を解消すべく行政の責任を果たすべきとの観点から、本年二月二十八日に被災地の市民団体とともに行った関係府省との意見交換の内容を踏まえ、以下質問する。


一 ストロンチウム九十が体内に入った場合の挙動や有害性について明らかにされたい。

二 ストロンチウム九十は歯や骨に蓄積するだけでなく、人間や生物体内のカルシウムに代替するとの指摘があるが、その点につき、政府の見解を明らかにされたい。

三 ストロンチウム九十の人体への有害性について、明確になっていない場合には、現状より慎重な規制方針を採るべきと考えるが、いかがか。

一から三までについて
御指摘の「ストロンチウム九十は歯や骨に蓄積するだけでなく、人間や生物体内のカルシウムに代替する」の意味するところが必ずしも明らかでないが、ストロンチウム九十はカルシウムと化学的な性質が類
似していることから、体内に取り込まれた後、一部は血液を通じて骨に沈着し、一部は尿等と共に体外に排出されるものと承知している。また、骨に沈着したストロンチウム九十が発する放射線は、内部被ばくをもたらすものと承知している。


四 ストロンチウム九十の有害性に関する研究体制はどのようになっているのか。

お尋ねについては、例えば、独立行政法人放射線医学総合研究所において、ストロンチウム九十を含む放射性物質による内部被ばく線量の評価に関する研究が行われている。

五 高濃度のストロンチウム九十を含む汚染水が、海洋へ流出していることを政府は認めるのか。

御指摘の「高濃度のストロンチウム九十を含む汚染水」の意味するところが必ずしも明らかでなく、お答えすることは困難である。なお、放射性物質により汚染された地下水の東京電力株式会社(以下「東京
電力」という。)福島第一原子力発電所の港湾内への流出が、東京電力により明らかにされており、政府としては、汚染水が海洋に漏えいしないよう、対策を講じているところである。

六 福島原発炉心冷却汚染水の海洋への流出の実態は判明しているのか。どこからどのように海洋へ流出しているのか、海洋へ流出した汚染水はどのように拡散しているのか示されたい。また、海底の土砂の汚染状況はどのようになっているのか示されたい。特にストロンチウム九十とプルトニウムについてはどのように海洋へ拡散しているのか、季節による違いも踏まえて示されたい。

七 海洋に流出した汚染水中にはストロンチウム九十以外に、どのような放射性物質が含まれていると認識しているのか、全て挙げられたい。また、そのうち、今後有害性が問題になる可能性があると考えている物質がある場合には、その物質名を挙げられたい。

六及び七について
東京電力福島第一原子力発電所においては、汚染水貯水タンクからの汚染水の漏えい等の個々の事象は発生しているが、同発電所の港湾外における海水の放射線モニタリングの結果によれば、放射性物質の濃度は検出できないほど低いか、基準濃度をはるかに下回っている状況にある。このため、汚染水による放射性物質の影響が見られるのは同発電所の港湾内の〇・三平方キロメートルに完全にブロックされており、全体として状況はコントロールされていると
考えている。


八 二○一二年六月に放射性物質も環境基本法により規制されることになり一年半が経過した。環境基本法改正前の第十三条に明文化されていた「放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁及び土壌の汚染の防止のための措置」は現時点では具体的にどのように講じられているのか。また、放射性物質の規制の要となる環境基本法第十六条の放射性物質の「環境基準」がいまだ定められていないことは行政の不作為ではないか。

御指摘の「措置」としては、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。以下「原子炉等規制法」という。)に基づく製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業
並びに原子炉の設置及び運転等に関する規制並びに放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(昭和三十二年法律第百六十七号)に基づく放射性同位元素の使用、販売、賃貸、廃棄その他の取扱い、放射線発生装置の使用及び放射性同位元素又は放射線発生装置から発生した放射線によって汚染された物の廃棄その他の取扱いに関する規制のほか、大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)に基づく放射性物質による大気汚染の状況の監視、水質汚濁防止法(昭和四十五年法律第百三十八号)に基づく放射性物質による公共用水域等の水質汚濁の状況の監視等の措置が講じられている。また、放射性物質に係る環境基準については、従来の環境汚染物質に対する環境基準の仕組みを放射性物質による環境汚染の防止のために活用できるかを含め、現在、諸外国の制度について情報収集を行いつつ、検討しているところである。



九 「世界で放射能の環境基準を制定している国はない」との見解が二月二十八日の意見交換の席で環境省から示されたが、世界最高の原子力規制をするという原子力規制委員会の姿勢から後退した考えではないか、政府の見解を示されたい。

御指摘の「二月二十八日の意見交換」における、諸外国の放射性物質に係る環境基準に関する環境省の職員の説明は、原子力規制委員会の規制に対する姿勢について述べたものではない。

十 原子力発電所再稼働の前に、放射性物質の環境規制(環境基準、同基準を達成する排出基準、ストロンチウム九十その他の食品の摂取基準など)に係る法整備を行うべきではないか。

原子炉の運転に関する規制については、原子炉等規制法により、既に必要な措置が講じられていることから、新たな法整備を行う必要はないと考えている。

十一 二○一三年八月二十一日に、福島原発で高濃度の放射能汚染水がタンクから漏れた問題について、原子力規制委員会は国際原子力事象評価尺度(INES)のレベル三(重大な異常事象)に相当すると発表した。ところが、東京電力による訂正も発生している。このような状況を踏まえても、まだレベル三としたままでよいのか。

平成二十五年八月十九日に発生した東京電力福島第一原子力発電所における汚染水貯留タンクから汚染水が漏えいするという事象(以下「漏えい事象」という。)に対する国際原子力・放射線事象評価尺度を用いた評価(以下「INES評価」という。)については、漏えい事象の発生初期の段階において、最終的なINES評価を適切に実施する上で必要な全ての情報を正確に把握することが困難であったことから、
暫定値として評価しているところである。原子力規制庁においては、東京電力に対し、漏えい事象について、詳細な調査や確認を行った上で、最終的なINES評価を適切に実施するために必要な情報も含めて報告するよう指示しており、当該報告を受け、その妥当性の確認等を行い、最終的なINES評価を適切に実施することを考えている。


十二 現在も福島原発事故による原子力緊急事態宣言が継続中であって、解除されていないことについて、国はウェブサイト等で国民に一目で分かるよう、周知を図るべきではないか。

御指摘の「原子力緊急事態宣言」において公示された原子力災害対策特別措置法(平成十一年法律第百五十六号)第十五条第二項各号に掲げる事項は、首相官邸のホームページにおいて公表している。また、同法第二十条第六項の規定に基づき、同法第十五条第二項第一号及び第三号に掲げる事項を変更した場合においても、当該ホームページにおいて、その都度公表している。