参議院議員川田龍平君提出
臨床研究における疑惑究明調査を当事者に委ねることに関する質問に対する答弁書


 高血圧症治療薬「ディオバン」(一般名バルサルタン)の臨床研究に大手製薬会社のノバルティスファーマ株式会社(以下「ノ社」という。)社員が関与していた問題(以下「ディオバン問題」という。)に続いて、同社社員が、慢性骨髄性白血病治療薬を用いた医師主導臨床研究(以下「SIGN研究」という。)においても不当な関与をしていたことが明らかになった。

そこで以下、質問するので、質問項目毎に丁寧に答弁されたい。答弁に当たっては「調査中」などとせず、現時点までに明らかになったことについて、誠実に答弁されたい。また、調査中であるために答弁ができない場合には、厚生労働省のどの部署の責任でいかなる調査を実施し、いつまでに調査結果を明らかにするのか示されたい。

一 SIGN研究の臨床研究実施計画書には、ノ社社員の関与は記載されていたのか。また、ノ社社員の実際の関与について、主たる実施機関の臨床研究を管理する部門及び臨床研究を審査した倫理委員会は把握していたのか。

厚生労働省医政局においては、御指摘の「SIGN研究」(以下「SIGN研究」という。)の研究代表者が所属する東京大学及びノバルティスファーマ株式会社(以下「ノ社」という。)に対する聞き取り調査の結果を踏まえ、同大学及びノ社に対し、できるだけ早く事実関係の詳細な調査(以下「本件調査」という。)を実施するよう依頼したところであり、本件調査の結果の最終的な報告を受けていない現時点
においては、お答えを差し控えたい。


二 厚生労働省はノ社と東京大学医学部付属病院(以下「東大病院」という。)に対して聞き取り調査を進めているとのことだが、その間に証拠を隠滅されぬよう、早急に実地調査や書類に基づく調査を行うべきであると考えるが、いかがか。証拠に基づく調査を行わずに、根拠のない証言を主張させる機会を与えることの問題は、「高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」の結果をみても明らかであるが、この点についての厚生労働省の見解を明らかにされたい。

四 報道によれば、SIGN研究に参加していた青梅市立総合病院の医師は、研究の事務局を務める東大病院の医師から、ディオバン問題を踏まえ、昨今の社会事情もあり、医師側で解析したことにする証拠を残しておくことが必要との趣旨の指示を受けたとのことである。このことは、ノ社一社を処分すれば済む話ではなく、東大病院に事実を隠ぺいする体質があり、他にも多くの不正を隠している可能性さえ疑うが、東大病院の研究倫理こそ厳しく問われるべきことについて、政府の見解を明らかにされたい。

六 SIGN研究において、製薬会社が自社の利益のために、他の薬剤が奏功している患者を、副作用に対するきちんとした評価がないまま、アンケートの副作用に関する情報を理由にタシグナに切り替えることを誘導する臨床研究に関与し、東大病院がそれを知りながら中立的であるかのように見せかけることに協力することで、製薬会社が保険診療の薬剤費による利益を得たということであれば、製薬会社と東大病院が共謀した悪質な詐欺事件として刑事告発するべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二、四及び六について
SIGN研究については、厚生労働省において、まずは本件調査を実施するよう依頼したところであり、
今後、本件調査の結果を踏まえ、必要な対応を検討してまいりたい。



三 SIGN研究が「臨床研究に関する倫理指針」の二〇〇八年改正後に倫理審査委員会に承認され開始された研究であれば、厚生労働省が調査する権限があると考えるが、田村厚生労働大臣は「抗議する」と述べている。また、薬事法に抵触する可能性のある場合にはさらに強い調査権限があると考える。
厚生労働省の役割は、調査を行いその結果に基づき行政指導や処分をすべきであると考えるが、こうした当局の行うべき行為と「抗議」はどのような関係にあるのか。
「抗議」は事実関係を把握しないままに社会情勢を鑑み感情的な憤りに基づき行えるものなのか、言葉による抗議のみなのか、具体的な処分もあり得るのか。あるいは、権限に基づく調査・指導・処分のことを「抗議」と表現したのか、当局による調査・指導・処分と「抗議」との関連性について明確に示されたい。

お尋ねの「抗議」がどの発言を指すのか必ずしも明らかではないが、平成二十六年二月十二日の閣議後記者会見における田村憲久厚生労働大臣の発言の中では、仮にノ社社員がSIGN研究のデータ解析に関わっていたことが事実であれば、ノ社が高血圧症治療薬の臨床研究事案を受けて自ら公表した再発防止策に違反することになることから、これに対し遺憾の意を表明するため「抗議」という言葉を使用したものである。なお、お尋ねの「調査・指導・処分」を含めた今後の対応については、本件調査の結果を踏まえて検討してまいりたい。

五 SIGN研究については、これまでいくらの国費(運営費交付金、科学研究費等)が投入されてきたのか。また、問題発覚を受けて研究が中断されているが、このまま研究成果が出ないまま終了した場合には、東大病院等の実施機関に対し、運営費交付金についての不当利得の返還請求や次年度交付金の削減、研究費等の返還命令などを断行するべきではないか。

お尋ねの「投入」の意味するところが必ずしも明らかではないが、SIGN研究の実施を直接の目的として交付された補助金等はない。なお、SIGN研究の実施機関に対して交付された運営費交付金につい
ては、使途を特定しないものであることから、SIGN研究に係る人件費その他の費用に充てられた経費を特定してお答えすることは困難である。


七 SIGN研究において、少なくとも、不正によって東大病院が公的保険から支払いを受けた分は返還すべきではないか。「保険医療機関及び保険医療養担当規則」との関連における厚生労働省の解釈について、明らかにされたい。

御指摘の「不正」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難である

八 SIGN研究においては、自分の受けたくない治療は受けないという患者の自己決定権、及び患者に最善の治療を提供する医師の責務が、製薬会社の利益誘導によって侵害された可能性があると考える。一般的に、個人の生命身体健康に関する利益は、最も尊重されるべき権利であると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

一般的に、御指摘の「個人の生命身体健康に関する利益」は、尊重されるべきであると考えている。