ひっそりと村を護る石狗
─石狗さがし記(石狗の話・4)
(湛江市廉江県安鋪鎮海珠村




    雷州半島から北上した内陸部は、広東方言の地域ですが、やはり石狗が多い地域です。湛江市(かんこうし)の管轄である廉江市(れんこうし)では、犬のカタチをそのまま誇張しないで彫り上げようとしたかに見える石狗が多いです。「ただの犬」系のタイプです。






    廉江市西部の安鋪鎮〈あんほちん〉に街並を見に行った折、村落で祭祀されている石狗を見たいと思い立ち、バスステーション前に客待ちをしているバイクタクシーの2人の方に、石狗について訊いてみました。若いお1人は、石狗は知っていましたが、見たことはありません。もう1人の中年の人は、どこかの村で見たけれどもといいますが、思い出せません。



    しばらく「日本にも狛犬っていう石狗の仲間がいるんですよ」などと話題を振って、雑談していると。首を突っ込んできたオート三輪タクシーの若い運転手が、「ああ、それ俺の村にあるよ」。というではありませんか。そこで、値切りもせず、30元(当日レート:1元=約17日本円)で往復してもらいました。



    その村は、珠盤村(じゅばんむら)といいました。街の西郊外3㎞くらいの平原にあります。




   村への道は、県道を曲がると、鬱蒼とした森の中を、舗装もしない畦道みたいな道が延々と続き、オート三輪はがたがたと上下左右に揺れるのでした。




   森を出ると、視界がパッと拓けて、村が現れました。村の広場が北端にあって、その池端の大きなガジュマルの樹の下を、運転手さんが指さします。



    ありました!!。木の根っこの前方に、オメガ形の枠をしたセメント祭壇があります。これは広東省の小祠の基本形です。祭壇は三段のひな壇状でした。




    石狗は、無数の線香を捧げられ、ほんとうに犬のように、ぽつねんとしゃがんでいます。香炉は見えず、積もり積もった線香の燃えさしが、線香の挿し台になっています。




    シルエットは犬そのものです。うっすらと前足と後足の線刻が簡単に刻まれて、それでも前から見ると、足はきちんと前に出して、八の字に踏んばっています。目は小さく控えめ、耳もうっすらと斜め線があるばかりです。口元も控えめに歯を見せていて、線刻が両脇にすっと伸びています。身長56㎝、幅は32㎝、風水説わずかにずらしていますが、ほぼ真北を向いています。村を護る石狗です。


    「もう百年はこうしてここにいるんだよ」と、運転手はぽつりと言いました。





    あまりに素朴で、木訥な風情の石狗ですが、廉江市では、村の入り口・田端・巷の入り口にお祀りされていて、いつでも身軽で、颯爽とした頼もしい護りの神様となっていることが、村人の日々捧げた無数の線香の束からは窺うことができました。