雲南ワ族の首狩り習俗─首籠と木鼓
 
 ワ族(漢字表記:佤族)は大陸東南アジアから雲南にかけて広く居住している南オーストロアジア語族・モン・クメール語派の民族です。:雲南省西南部瀾滄江・メコン河西側山岳地帯であるアワ山一帯に居住し、ミャンマー側では半独立国を作っています。
 
 中国のモン・クメール語派は、雲南省のみ居住し、ドアン族(漢字表記:徳昴族)・プーラン族(漢字表記:布朗族)・カム人(克木人・中国政府公認民族ではない。ラオスのカム族と同じ)(中国ではベトナム人であるキン族は、中国ではモン・クメール語派としない)。


ワ族の首籠と木鼓

 ワ族の伝統的習俗が濃厚に遺る西盟県のアワ山中では、1970年代までかつて首狩りの習俗がありました。かつては村寨は深い環濠(からぼり)と竹や茨の囲いが設けられており、村内と外界を結ぶのは、長さ10mに及ぶトンネル状の通路だけ今でも村の奥の森には村人が天神と交信するための木鼓(ワ族語:クロック)と竹製の首籠が立ってます。


岳宋村のご婦人。朗らかです。

  首狩りの理由は、天神と交信するための木鼓の霊力を高めるという理由と、陸稲など農作物の成長力を高めるという理由の二つの言い方がありますが、人魂を太鼓や作物に注入して霊力を高めるという点では共通した言い方であると思います。

 木鼓クロックは、山の大木を伐って卸して造る神聖な楽器です。災害・緊急時の信号伝達用でもありますが、宗教儀礼に使い、万物創造の主、モイックとの交信を行います。狩られた人頭はクロックが置かれた小屋に捧げられます。


ワ族の子供たち

  一方で陸稲の成長を促す首狩りの習俗の背景には、穀霊の観念があります。穀倉を空にしてはならないとか、穀倉を空にすると穀物の精霊が寄りつかなくなると言われていて、稲魂の信仰とも結びつきますが、「空飛ぶイネ」の伝承などが、雲南各民族にあることと通じます。
 
  首狩りはワ暦4月の播種前と収穫前の8月に首を狩るなどの時節があります。

 西盟県岳宋村は(87戸・328人・標高1215m)では、かつて首狩りが盛んな強い村で、負けたことがないそうです。「普通は4.5月の種播きのあとにします」といっていました。「首を狩らないと穀物が成長しない、それで首を狩るようになったのです」ともいっていました。


       アワ山の霧深い風景、向こうはミャンマー国境です

 中華民国期には、ビルマ側のワ族についての記録で、白人300ルピー、漢族で髭が生えていると200ルピー、髭が生えていないと90ルピー、タイ族・ラフ族は値段が付かないという言い方をみたことがあり、岳宋村では、首狩りは、周辺居住民族の漢族・タイ族・ラフ族の首は狩らないといっていました。マレビト的性格が高い白人の首が高いとか、髭が生えている首に価値があるというのは、注入する霊魂の質の問題があるのかなと思います。

 岳宋村では、髭が生えている首や髪が長い首は、価値が高いという。髪は頭に巻いてあるのて、たくさん髪が巻いている首がいいとのことでした。首を狩った本人が家でその髪を供物として先祖の霊を祀る棚に供える権利があるとのことです。
  
 ひょっとして観光化の意味もあるのかも知れませんが、今はやっていない首狩りですが、その風習として首籠や木鼓を敢えて村に遺していますし、水牛を生贄にして首を飾る習俗もあります。ワ族のアイデンティティーに今でもそれなりに大切な意味をもっているのではないかと思います。アワ山を訪問したある日本の人から、外部のテレビクルーが来たときに、村に良くないことばかり起きたことがあって、村人が、首を狩ってしまおうかというのを通訳が聞きつけて、慌てて撤収したなどという話も、最近あったとも聞きました。