1.はじめに─「淮陽泥泥狗」との出会い
1987年、大学2年の頃、当時日中友好会館にあった中華書店に、珍しい泥人形をみつけました。他の地方の白地や黄地に黄色や紅色に色づけした可愛らしい虎や兔、勇ましい『三国志演義』などの劇中人物を描く素朴な泥人形ではなく、黒地に派手な紅・黄・青・白5色の紋様、目を怒らせ歯を剥き出した怪獣やら、熊のような真っ黒い人形が、男性生殖器を突き出しどう猛に突っ立ち、猿のような人形の胸に、大きな一眼の女性生殖器が描かれ、まったく子供の遊ぶおもちゃに見えません。神秘的な人形の数々は、玩具より呪術の道具に近く、神話上の神人・妖怪に見え、毒々しい彩りは、中国よりメキシコの民芸品の印象を与え、奇怪面妖な泥人形が織りなす未知の世界に衝撃を受けました。
泥泥狗
それらは河南省東部周口市の淮陽県の泥人形で、「泥泥狗」(NiNiGou)と呼ばれ、意味は泥製の狗です。「陵狗」「霊狗」(いずれもLingGou)とも呼ばれ、神話上の皇帝・文化の創造者である伏羲の陵墓を守る神犬といわれ、墓中に埋める魔避けの狗像に由来とするようです。伏羲について、後秦・王嘉『拾遺記』(『漢魏叢書』本)巻一「春皇庖犠」は、「礼義(儀)文物はここに始て作り、巣穴の居を去り、腥(なまぐさ)の食を茹で変じ(熱を加え)、礼教を立て文を導き、干戈を造り武を飾る。桑を糸(絹糸を作って)して瑟(こと)を為り、土を均(灼)して塤をつくる。礼楽ここに興る。八風を調和し八卦を画き・・」とあり、礼儀・礼楽を創造し、住居・文字・料理・武器・楽器と八卦を創造したとします。
