[疏文]
他の神々に対する祭祀には、祈願内容を記した疏文、つまり上奏文があり、これを封筒に入れて、廟堂に行き、それぞれ神前で燃やすのです。黄紙に活字印刷。封筒も黄紙。これらの神は、魯史鎮の北面にある尖山の頂上にある東岳廟に小さな祠が再建されていて、そこで祈願することも多いといいます。封筒には「○○○(神の府堂の名)呈進疏文一函上詣 奉 仏地進香酬恩表願祈求 善信△△△(祈願者の名) 百拝謹封」と記しています。
「贖魂保命疏文」の全文(上下図併せて一枚です)
①「清吉疏文」─平安祈願に廟堂で燃やす。祈願対象の神号は「雲山有感諸仏菩薩」「救諸厄難観音菩薩」「南曹北院禄仙官」「敬香会上諸仏菩薩」
②「謝龍疏文」─家を新築する際に土地の龍神に祈願するもの。神号「家奉香火三聖諸真」(家神としての釈迦・孔子・老子)「龍神・土地有感之神」「水府諸司五湘龍王」「九堂八掛土地龍神」(土地の地脈を象徴した風水説上の龍神)
③「薬王表」─病気の治癒祈願に薬王に祈願。神号は「霊應薬王系真人闡行医道菩薩」。
④「求学・工作疏文」─進学・仕事を求める際の上奏文。「大成至聖先師孔子」「玉清上相七曲梓潼帝君」として、孔子聖人と文昌帝君を学問の神として祈願。
⑤「求婚疏文」─縁談成就。神号「東岳泰山天仙玉碧元君」(つまり泰山の女神である碧霞元君)、「月下老人」
⑥「解冤悔過疏文」─もめ事や罪を悔いて祓うもの。神号「儒釈道尊三教聖衆」「関聖帝君伏魔大帝」「解化凶星文昌帝君」「東岳天齋仁聖大帝」「救諸厄難観音菩薩」「三元三品三官大帝」(天・地・水三官。とくに水官は解厄の役割)「天地三界十方萬
霊」(天・地・水三界のあらゆる神)「解冤会上諸仏菩薩」
⑦「贖魂保命疏文」─子供などの魂が驚くなどして落ちると病気になるとされ、魂を呼びもどす叫魂(魂呼ばい)の儀式で使う。神に頼んで魂を贖い戻す意味。
神号「東岳邦(鄷)都焔魔十王六曹判官」「張温李鐵唐郭周将(いずれも祭壇の監壇神)・白衣黒衣財神(冥界の拘魂卒である白無常・黒無常)」
「本県城隍祀典神祇猛公尊神」(鳳慶県の行政区画の管轄神である城隍神であるが、明代のモン・クメール系の土司勐氏(猛公)が神となっている。魯史では鳳凰山の下に勐公廟があり、たびたび廟を壊されても再建され、いま小祠がある。財産繁栄祈願に訪れる者が多い)「本境山神・土地・水火・樹木・龍神・橋梁・道路・四竭帝神」「五方提魂撮魄替身甲馬郎君五方送魂還魄之神」(魂を探して身体に還す神)「虚空過往糾察善神・下炫兵馬血食等神」(天にあって地上の人々の行いを監視して報告する神・廟堂内に祭祀されるもろもろの小神)。
さて、鳳慶県より北の大理白族自治州の巍山や南澗などの県には、日常祭祀に使う神像版画に、もろもろの神像がありますが、これらのもとは、ここにあげられたような疏文の神と同一だったのでしょう。魯史では、かまど神(司命竈君)のみ、台所の壁上に貼る必要から、竈神の神像版画がありますが、他の神がないのは、疏文が祭祀の機能を大部分担っているからでしょう。
「贖魂保命疏文」に記された神名の「五方提魂撮魄替身甲馬郎君五方送魂還魄之神」は、巍山県では「送魂使者」、南澗県では「還魂大神」となり、神像版画となっていますが、同一の神です。こうした疏文に記され、道教系(巍山イ族回族自治県の巍宝山を本山とする全真教龍門派が、ここ魯史の道士の属する宗派です)の道士などが祭祀に使った神が、版画のかたちで、人々の日常祭祀に使うようになったのではないかと、考えることができるのです。
先祖の位牌
家堂に貼る諸神の位牌


