潮部の鬼(原題「潮部鬼」) 洪邁『夷堅甲志』第巻十四
「明州の兵士沈富は、父親が銭塘江で溺死したが当時わずか五、六歳で、母の手で育った。
父親が死んでから、彼は妖鬼の祟りで何度も病気をしたので、母は彼をつれて何人かの巫師を訪れた。巫師はみな、これは父親の所為であるというので、母親は酒を捧げて祈願した。「あなたは死んでから一人の子供だけしか残っていません。私の命の子ですのに、どうしてたびたびに祟るのです。何か求めがあるのならば、夢に出てきて話してください」。
当日の夜、果たして父が夢に出てきた。「私は死んでから江神に取り立てとれ、潮部の鬼卒となっている。毎日の仕事は潮を推すことで、本当に辛い労働なのだ。草鞋と杉板が是非とも必要で、多めに私のために燃やして送ってくれまいか。年限が来たら交代を求めて潮部を離れるから」
母親は夫の話にしたがって、頼まれた二つの物品を送った。それから沈富は病に罹ることはなくなった」。
銭塘江は旧暦八月に引力の関係で潮が逆流します。潮神は、潮を司る潮部が神界にあるということになっていて、溺死した鬼が、江神の元で働かされているという内容です。